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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第四章

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前夜


「それじゃ、歓迎会含め、お別れ会を始めようか」

晴はウィンクしてグラスを掲げる。


「かんぱ〜い、なのよ〜」


アフは一生懸命、グラスを小さな両手で持ち上げる。

「? どうしたんだい、冬。そんな顔して」


晴は覗き込むように顔を近づける。

というか、近すぎだ。


「顔ちけーんだよ、晴。離れろよ」


「あうっ」

変な声出すな。


「お前らさ……図々しいよ。何が歓迎会だよ、何がお別れ会だよ! 人の食事時に乗り込んできやがって。おい、勝手に注文すんなや」


「いいじゃん、いいじゃん! 賑やかなほうが絶対いいよ。歓迎するよ〜。男二人じゃムサいだけだもんね。いやぁ、いいね!カワイイ女の子が揃ってて! あっ! 冬は出てってくれてかまわないよ?」


あ?


「ああ、そうだな。冬真、お前出てけよ。」


「いやいや、冬はこの二人と食べるのがいやそうみたいだし、僕かかわりにお話しとくから!」


「いやいや、んなことねぇから。確かにお前のマヌケ面見ながら食事するより彼女達と食事したほうが衛生的だわ」


「衛生的!? 僕の顔が便所並みにきたねぇって言いたいのか! 同じ顔だろが!」


「ここの払いは俺なんだから、当然テーブルに並べる品を選ぶ権利は俺にあんだろうが!」


「なら払いだけ済ませればイイじゃん!」


この野郎…!


「ふ〜ん、あ、そういうこと言う? 言っちゃうんだぁ、へぇ〜、ふ〜ん? いい度胸じゃん」


「ちょっと!冬!? それ何持ってんの?」


もちろん、ワサビだよ。


「ちょ!やめ!ぎゃ〜」


冬真の鼻にワサビをぶち込んだ。


「ケチくさいこと言うな、なのよ〜。そこのうるさいのも、食べさせてあげなさいなのよ〜」


「なんでお前が選択肢握ってんだよ」


「あっ! このアイスクリーム3つ、ほしいのよ〜」


聞いちゃいねぇ…


「……せめてアイスは食後にしろよ」


「陽菜みたいなこと言うな、なのよ〜。あの娘、いつもいつも、アフの食べるものに口出しするのよ〜」


「偏食が過ぎるからだろ。甘いモンばっか食ってたら心配もすらぁな」


「今日はお祝いだからいいのよ〜」


「だめですよ、アフ様。アイスは一日1つまで、です」


「げ! は、陽菜! なんでここにいるのよ〜?」


「僕が連絡した。アフがこっちで食事してんのに、陽菜さんだけ除け者じゃ、かわいそうじゃん」


「よ、余計なことなのよ……」


「アフ様?」


陽菜は怖い顔でアフを詰め寄る。


「ご、ごめんなさいなのよ〜……」


「陽菜さん、お疲れ様。こっち座りなよ」


「いいのですか? 私もご一緒しても?」


「今から帰って準備してもチビスケは食べられないだろう?」


「チビスケ言うな、なのよ!」

プンスカ怒るアフ


「陽菜さんも二度手間でしょうし、気にしなくていいよ」



「それじゃ、お言葉に甘えて、失礼します」


ニコリと微笑み、陽菜さんは席につく。


「ねぇねぇ、冬君は知ってるかい?」

晴は肩がくっつくほど顔を寄せて聞いてくる。ちけぇんだよ。


「何をだよ?」

鬱陶しそうにいう俺。


「イーリスカウンセルの手記について」


「なんだそれ?」

聞いたこともない名前だ。この世界由来の何かか?


「ふふっ。君も知らないことがあるんだね」


あたりまえだろ。


「イーリスカウンセルの手記だって!」


冬真が大袈裟に飛びつく


「なんだ?知ってるのか?」


「う、うん… イーリスカウンセルの手記ってのは、僕の故郷では知る人ぞ知る、大昔に異世界からやってきた亜人種が残した異世界渡航記録だって言われてる。」


異世界……か。


「詳しいね。冬真君、君もひょっとして読んだのかい?」 


「まさか。噂話程度だよ。偽物の写本さえ高く売買されるくらいでさ。余程の金持ちじゃないと手に入れることさえできないもん。それに、その手記は、触れたものしか読めない文字で書かれているらしいよ。複製自体できないんだって」


いかにも異世界らしいファンタジーだな。

異世界由来の遺物ってのは、それっぽい名前だったり肩書きだったりがあると値がつくからな。



「読めるなら、写本もできそうなものだが」


「読んでる間しか記憶できないらしいよ」


「へぇ〜 ちょっと興味が湧くな」


「なんだったら貸そうか?」


「え?いいの!すごく読みたい!」


冬真は前のめりになるほど食い入る


「…持ってるのか?」


「うん」


こともなげに言うな、こいつは。


最も異世界由来のものをこの世界で再現できうるかは微妙なとこだが、それでも興味は湧く。


あるかどうかも眉唾の、手の届かないものならいちいち探さないが、届く範囲にあるなら、覗いてみるくらいはする。 その程度の気持ちだが…


「でも条件があるよ」


「言うと思った。」


「あの塔の中に僕も連れて行ってほしいんだ。」


「はぁ、ダメだって… 遊びに行くんじゃないだ、あそこには」


「いいじゃない。連れて行ってあげれば?」


冬真も無責任なことをいう。


「あそこは危険なんだよ」


「わかってるさ」


「それに、あれは異世界由来のものじゃないよ」


「なぜそれがわかるんだい、冬?」


じーっと冬の目を見つめる晴。


「それは……内緒だ」


というか、説明がめんどくさい。


「ふ〜ん」

晴はからりとコップの氷を回して思索に耽っている。


「変なことを考えるなよ」


「変なことって?」


「あっち側に1人で行こうと考えてないかって話だ」

最も晴にはアバター技術はない。できるのならとっくに一人で行っているだろうしな。


「意地悪で言ってるわけじゃない。」


「向こう側には、危険なモンスターがいるんだ。人だってこっち側とはルールが違う。」


シンが出てきた以上、少なくとも【罪獣シン罰剣ジン】の世界があるのは確実だ。


あの世界は、特殊だ。というか、面倒だ。


「好奇心を持つなとは言わないけどさ。今は面倒を増やしてほしくないの。君が役立たずだとは思わないけど、俺もあちら側で十全に戦える状態じゃない。君を庇いながらでは、逃げるのすら難しくなる」


「……君は、それだけ危険な場所に赴くんだね」


「この世界を守りたい。その気持ちに嘘はないよ」


「そう……また少しだけ、君のことが知れてよかったよ」


晴は反対されるのがわかってて、この話をしていた。

ようは俺のことを知りたかったのだろう。

俺がどういうつもりで行動してるのか、その指針を。


「もっと色々教えてほしいな」


「別に話すようなことはない」


「別になんだっていいんだよ。独創的な寝相をかくとか、まばたきするときは三回まわってお尻を振るみたいなこだわりがあるとか」


「はっ倒すぞ。そんな奇行癖ねぇよ」


まるで天然記念物でも見るかのような目で、こちらを観察する晴。


「俺は別に、普通だよ」


「普通、か。僕らに限って普通なんて、ありえないでしょ。この眼じゃ、ね」


虹の瞳を持つものに、普通の人生は送れない。

御尤もではある。


「逆に言えば、この眼で説明できることのほうが少ないだろう」


「それもそうだね」


晴もまた、この眼で苦労をしたのだろう。気持ちはわかる。


「ギルティソーダー、うっめぇ〜! ふぅ〜、罪の味がするぜぇ」


人が話してる間に、人のモンをうまそうに飲んでる汚物が一人。


「驚いたよ。お前にも罪を感じる心があるとは」


一口もつけてなかったんですけど。


「へっ! 罪を抱いて、僕は強くなるのさ」


カッコつけて髪をかき上げるダサ坊が一人。


「ギルティ・コンフィスケイション。没収」


「ぎゃあああ! 僕の罪深き糖分があああ!」


「俺のね!」


何が僕のだ! 恐ろしいやつ……。


「なんだよ。ケチケチすんなよ。今日は最後なんだし」


「アホか。死刑前日じゃねんだぞ」


界顕体の撒き散らしたモンを回収して戻るだけだ。

そんなに時間をかけるつもりはない。


「でもさ、僕は居残りじゃん……」


「お前ね」


それですねてんのかよ。

俺は呆れて息を吐いた。


「お前をここに残すのは、保険だ。お前がここにいれば、いざという時に即座に俺がこっちに戻ってこれるからな」


それに、この世界にはアフや晴、アニマたちもいる。

安全性はこちらのほうが高い。


それに……


――凛のこともある。


彼女は未だに意識不明だ。

本音を言えば、片時も目を離していたくない。

刻紋こそ刻んでいるが、それでも手の届く範囲に置いておきたいのが本音だ。


「いいか冬真? お前はちゃんと強くなってる」


「うご!? ゲホゲホ……な、何急に?」


「みんなを、守ってやってくれ。俺がいない間は、お前に頼るしかない」


「冬……。ヘヘッ、わかったよ!」


冬真は機嫌よくして、その後も益体のないことを話していた。


ひとしきりくだらないことを喋ったあと、俺たちは喫茶店をあとにした。今日はもう遅い。支度をして、明日に備えよう。


その時――


視界の端に捉えた影。


「え? ちょっ! 冬!?」


冬真の制止を置き去りにし、俺は人混みへとダイブする。


網膜に焼き付いたその残像を追いかける。


どこだ?


喧騒をかき分け、ようやくその「影」の肩を掴む。


「おい!」


「え?」


振り返ったのは、見知らぬ通行人だった。


「……いや、悪い。人違いだった」


心臓がうるさい。脳が「ありえない」と「まさか」を交互に叩きつけてくる。


「冬、どうしたのさ。そんなに血相変えて」


「……いや、なんでもない」


背中に嫌な汗が伝う。


あいつは、もう死んだ。


俺が、殺したのだから。


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