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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第四章

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真白病


とある遺跡の中腹


そこは、激しい光熱と地響きで馴らされた地獄だった。


空を覆う円盤から放たれる高出力の光学兵器が、大気を震わせ、視界を白く塗り潰す


「止めろォ!」


叫声とともに、防衛部隊の最前列がフォースフィールドを展開した。


白銀都市が誇る盾が、物理法則を拒絶するように前方を固める。


しかし、その絶対防衛は容易く貫かれた。


白銀鉱製の盾を飴細工のように融解させ、レーザー砲の雨が部隊を蹂躙する。


肉の焦げる臭いと絶望の悲鳴が混じるなか、主力部隊を死守した盾兵たちが地に伏す。


「……よくやった。撃てッ!」


後ろに控えた援護部隊が、不規則な軌道で宙を舞う円盤を光学兵器で迎撃する。


だが、敵のシールドは、こちらの火力など嘲笑うかのように硬い。


そこに、一条の閃光が飛び込んだ。


空を足場にして跳躍し、鋼鉄の円盤へと肉薄する大男。


「うららララァ!」


野獣の雄叫びとともに放たれたのは、ただの拳。


だがそれは、超高硬度の装甲を、未知の素材ごと粉砕した。



超人。


白銀都市の強化施術により、筋繊維から骨格、内臓に至るまでを再設計された【デザインソルジャー】の暴力が、次々と円盤を叩き落としていく。


「もういっちょ――ッ」


叫ぼうとした男の死角から、新手が飛び出す。


一瞬の硬直。


それは光学兵器が飛び交う戦場において「死」と同義だ。


だが。


――ドカン!


不可視の圧力が、敵機を一瞬で鉄屑へと圧縮した。


「シロートみたいなことしてんじゃねえよ、デカブツ」


冷ややかな声が響く。


超能力によるサイコキネシスだ。


「ウッシャッシャ! お前がいるって、わかってたからよぉ!」


軽口を叩き合っているが、余裕があるわけではない。


戦場には、銃器や刀剣では対処不可能な「虫型モンスター」の群れが殺到していた。


面で制圧できる超能力者達の支援がなければ、この我々は数分で全滅するだろう。


それほどの強敵。


だが。


彼らの目的はロハネの遺跡、そして――真白ましろの討伐。


この過酷な演習すら、本番前の「調整」に過ぎない。


「ああ、はやく出てきやがれ、真白! 生きてんのはわかってんだよ!」


「うるさい、筋肉ゴリラ。傷なんて残ってないでしょ」


「待ちきれねえんだよ……。あいつを殺るのは、俺だ」


「寝言をおっしゃいまする。アレを粉砕するのは、小生にございます」


もちろん、ここに真白はいない。


口々に強がりを吐き出す彼らだが、その声はどこか、震える指先を隠すための怒号に似ていた。


「やれやれ、またですか? 皆さん、そんなに怯えて……。たかが一人の人間に、ビビリすぎですよ」


ふと、新人のおかっぱメガネが、場違いに冷めた声を漏らした。


「都市内部で負けたと言っても、あれは防衛設備が制限された状況下での話。都市側が全力を出せなかっただけで、冷静に分析すれば、やりようによっては……」


瞬間、空気が凍りついた。


眼帯の女が、射殺さんばかりの視線を新人に突き刺す。


「なら、あんたはやれるわけ?」


「……え?」


「戦力を把握してれば、私たちを全員相手取って、あんたは勝てるって言いたいわけ?」


「それは……理屈で言えば……」


新人は口を噤んだ。


理屈。

そんなものは、あの怪物には通用しなかった。


かつて白銀都市を蹂躙した、不合理を体現する存在。


当時を知らぬ若者は「理解不能なもの」を「理屈」で片付けようとする。


だが、地獄を見た者たちにとって、真白が死んだなどという考えは、万に一つも存在しない。


根拠などない。


ただ、「あいつが死ぬはずがない」という、盲信にも似た確信がある。



「あんた、死ぬわね」


女が吐き捨てるように告げた。


「真白は舐められることを嫌うわ。」


ビクリと新人は震える


「あいつは無礼者や学習能力のないものを特にね。あんた、普通には死ねないわよ」


「ヒュ〜、経験者は言うことが違うねぇ〜」


ひょうきんなギザ歯の男が茶化すが、その隣に立つ男の表情は、もはや人のそれではない。


「真白……殺す……ッ!」


その瞳には殺意と愉悦。


そして狂信的な情愛が混濁していた。 


憎悪が極まり、一種の信仰へと昇華した感情。


その狂気に当てられ、新人は息を呑む。


「ひっ……」


我々は皆、等しく病んでいた。


嫉妬、嫌悪、恐怖、絶望、


あるいは…崇拝。



あの白い背中に刻み込まれた、拭い去れない敗北感。


「……これが、真白病ましろびょうってやつか」


新人が震える声でこぼした。


それはこの部隊の、いや、都市全ての生存者が抱える不治のトラウマだった。


「ずいぶんと、いつも通りじゃな」


凛烈な声が響き、隊列が割れる。


白夜びゃくや様!」


白銀都市の統主が、そこに立っていた。


「どうじゃ? 酒の一杯でも振る舞おうか?」


「ですが、統主。我らは……」


「いつも通りのパフォーマンスを発揮するためには、いつも通りにこなすしかない。そう言いたいのであろう?」


白夜は静かに、だが全員の魂に響く声で続けた。


「じゃがな。いつも通りにやって勝てるなら、我らはなぜあの日、負けたのだ?」


全兵士が息を呑んだ。


「あの日、あやつは限界を超えていた。ならば我らも、限界を超えねばならぬ。いつもと違うことをするのじゃ。我らはあの日とは異なる。敗北を知り、学んだのだ」


白夜の瞳に、鋭い意志の光が宿る。


「あやつにあって、我らになかったもの――それを知り、恐れ、超えるために今日まで準備してきた。今の我々は、あの日よりも強い!」


「はっ!」


一斉にかしずく兵士たち。


震えは止まった。


だが、それは恐怖が消えたからではない。恐怖を「燃料」へと変える覚悟が決まったのだ。


真白を殺らなければ、この病から解放されることはない。


「いきやよし、ってやつなのかな? 君等の言葉で言うのなら」


不意に、場違いなほど穏やかな声が混じった。


「誰じゃ!」


白夜の鋭い視線の先。


いつからそこにいたのか、一人の男が立っていた。


軍装でもなければ、強化服でもない。


どこにでもいるような、それでいて、背景に溶け込みすぎて認識を滑り落ちるような、不気味な男。


「私はあなたがたの言う『真白』を知る者ですよ。あなたがたの想像通り、彼は生きています」


「何者じゃ!」


白夜が剣を抜き放つ。


「彼の友人です」


「とぼけたことを。あやつに友人などおらん。あれの隣に立てるものなど、この世のどこにもな」


会話は成立している。


だが、違和感が消えない。


男が存在する空間だけが、まるで古い映像のようにノイズ混じりに、ズレて見える。


「ふふっ……そうですね。今まではそうだった。だが、これからは違いますよ」


男が、ゆっくりと微笑む。


「誰なんじゃ、お主は」


存在が、認識できない。


目の前にいるのに、記憶からこぼれ落ちていく。


その不可視の深淵のなかで、男は、ただ一言、己の名を告げた。


その名は――。


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