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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第4章

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運命の日

身体が重い。


真っ黒な空間を歩きながらも、冬は体調が悪そうだ。


『冬、大丈夫なの?』


「病み上がりだぜ。当然平気じゃない…けど」


『少し休も?』


「…いいや、だめだ」


『なんで?』


「存在爆弾による事象の吹き飛ばしはまだ未完成なんだ。それに爆心地である俺の存在もまた不安定になってるはず。今のうちに戻っておかないと、世界が俺を排除した状態で進む可能性がある。そうなったら、戻れないかもしれない。世界の認知が緩んでいる間に戻らないと」


難しいことはよくわかんないけど、はやく戻らないと還れなくなる可能性があるってことはわかった。


真っ黒な空間が少しずつ変化しだす。薄く外の景色と重なりだす。建物や道が見える。


次第に人の喧騒が聞こえてくる。


いつの間にか僕らは聖都の中にいた。雑踏の声が大きくなっていく。


『うわぁ』


少し大げさに声が漏れる想いだった。でも仕方ないと思う。だってそこは、あまりにもたくさんの人が楽しそうに行き来していたのだから。


僕の知る聖都はいくつも壊れた場所があって、寂れた雰囲気と人々の暗い顔ばかりがあった。


でも、ここには活気がある。人々の笑顔がある。往来を歩く人々には、恐怖や疑心のようなものは見受けられなかった。そして、上空を見上げる僕ら。


宙に浮く複数の御神像。


半信半疑だった。けれどこれをみれば!


『冬! やったんだね! 本当に!』


存在爆弾による事象の吹き飛ばし。時間を超えて、僕らはまだ平和な時代の聖都にやってきた。アニマやダエワ、ノルマに分かれきる前の人類。オリジナルが生き残っている時代まで。


ここには夏さんのオリジナルもいる。もちろん敵側も。神達は互いの戦いによって、人類を滅ぼしてしまった。


オリジナルの壊れた存在をもとにしてレプリカを作った。別人のようにも思われるかもしれないが、存在のノード元、オリジナルノードはピラミッド型だ。


オリジナルを頂点に分岐する可能性のようなもので、全てはオリジナルに統合されている。


幾度と行われる試行により、神々はオリジナル人類の壊れた部分を修復しようと試みた。


これは補完体も根本は同じ仕様になっている。


オリジナルを上書きはできない。


同一存在は存在できない。


だがオリジナルから派生した可能性として、補完体のように枝を伸ばすことは可能だ。俺がアバターを複数操るのと似たようなものだ。


オリジナル元の存在情報処理能力の許す限り、ノードは増やせる。神々はそうやって人類を補完した。


オリジナルの人類とはいえ、善神との接触はすでに行われている。


人類の変革の始まり。


つまりアニマへの進化が行われている。


そして、それに嫉妬し、嫌悪し、迫害と軋轢の時代が始まる。いや、すでに始まっているのだ。真アニマと真ダエワに分かれて、この町は二分されている。


「まだ喜べる段階じゃないさ。問題はこれからだ」


まず夏さんを助けること。善神との接触。そして真ダエワ側の主要人物の暗殺。最後は朱禪院晴…。憑神とザインクラフトを作った天才科学者を、殺す!


朱禪院晴。人類史に名を残す偉大な科学者。地球脱出計画を実現させた英雄だが、当然この空想世界の晴とは別人だ。


有名税、というものだろう。創作には時折、晴の名が使われる。他作品によって性格はまちまちで、敵だったり味方だったりする。


あの青鉛都市でさえ、晴の名は崇敬の対象になっている。彼女の像にラクガキしたものを都市全体で探して、犯人を八つ裂きにした事があるほどだ。


この作品での晴は正直よくわからない性格だ。敵に利するようなムーブをしてたにも関わらず、ザインクラフトを主人公に残しているのだから。


あってみないことには何とも言えないが、十中八九、敵対することになるだろう。


どの程度の実力があるかは分からない。だがディラフトクラスだと、今の俺だと…、クソ!


その時、冬はよろけ、地面に手をつく。


クソ、まだ本調子じゃない。


存在の規格が縮んでしまっているせいで、身体の制御すら覚束ない。無理すれば短時間ならどうってことないが、その後がしばらく動けなくなるだろう。


真アニマ達の町で弱っている子供なんかがいれば、大騒ぎになる。すぐに捕まってみんなで病院に運び込まれるだろう。もっとも存在の劣化をこの町の技術力ではどうにもならないし、今は病院なんて言ってる暇はない。


今は人通りを避けつつ移動してるのと、存在を薄めているので気づかれにくいのが功を奏してる。


立てと自分に言い聞かせるのに、中々言うことを聞かない身体に歯噛みする。


こんなんで大丈夫なのかと思わずにはいられなかった。身体に激を入れて無理矢理動かそうとした。その時に。


「あの…、大丈夫ですか?」


そう、話しかけてくる小さい女の子の声がした。


まったく、見えづらくなってるだろうに、それでも見つけちまうやつはいるもんだな…。


顔を上げる。アニマの女の子だ。


どこかで、会った、ような、気がする。


頭にノイズが走る。


「ああ、大丈夫だよ…。寝不足気味でね。少しふらついてただけなんだ」


そう言うと彼女は、


「そうですか…。なら私も少しここで休みます!」


そう言ってにっこり笑い、隣に腰掛ける。


優しく、心配そうで、それでいて、ひまわりのような、人を元気にしてくれそうな声で。


「迷惑をかけるのは望まないな」


「大丈夫です! お母さんも妹も、こっちに向かってるので。近くに来たら分かりますから!」


チリチリと頭が痛い。


何か、大切なことを忘れているような気がする。何だったのか、今の俺には思い出せなかった。


「あの! これ使ってください!」


小さな女の子は小さな手をつきだして、ハンカチと水を差し出す。


「…受け取れないよ。それは君のものだろう?」


自分よりもさらに歳下に見える子からもらえるものではない。


「いいんです! こういうときのために使わないと! だからあげます!」


「いや、でも…」


「もう! これ以上、わがままいうと、家まで連れて行ってご飯を食べさせますよ!」


それは、何の脅しなのだろうか? 少し、あきれて、大きく、感心した。


「それでね! うちの妹もね! すっごくかわいいんだよ! 毎日毎日おねえちゃ!って、私の後ろトコトコついてきて、守ってあげなくちゃって!」


「それでねそれでね! 一緒にお歌うたったり、踊ったりするの!」


その女の子はその後もよく喋り、よく笑い、よく踊った。


「あ! おねえちゃ! おかあちゃ! おねえちゃ! いた!」


「あ、妹が来たみたい! お母さんも一緒だ! ねぇお兄さん、大丈夫? 一人で立てる?」


彼女は俺の前に来る。心配そうにこちらが立ち上がるのを待っていた。


「ああ、大丈夫だよ。少し休めた。ハンカチと水をありがとう。助かったよ」


チリチリとまだ頭が痛む。


思い出さないといけない。何かを。俺は…。


ああ、そうだ。


「マフラーを、ありがとう」


小さな声で俺はそういった。


「え?何か言いましたか?」


冬は少しだけ笑って、


「いいや。もういきな、君を待つ人達の下へ」


「? うん! じゃあねお兄さん!」


俺は彼女達の後ろ姿を見送った。楽しそうに、幸せそうに歩く、三人の親子の姿を。


俺は結局、会わせてあげられなかった。幻想を見るように、目に焼き付けた。


もう会うことはないだろう。そしてそれでいいと思った。その後ろ姿を俺は忘れないように心に刻んで、二度と彼女達が、悪意の魔手に囚われないように、俺はそっとその場を離れた。


「やっと、一つ」


やることを、やるために、俺は歩き出す。


「冬、これからどこに向かうの?」


「2つ、やることがある。そのためにはまず正確な日付を知りたい。だから、日付をみられるものを…、あれは」


近くの店の中にあるカレンダーの日付をみる!


マジか! クソ! 今日じゃねぇか!


急がないと!


「ふ、冬? 何? そんなに急いで」


「今日は、夏さんと善が醜男と会う最初の日なんだよ! だから!」


「え、えええ!」


俺は急いで公園に向かった! 間に合ってくれ!


そう思い、走り出そうとすると後ろから呼びかけられる。


「真白、こんなところで何してるの?」


後ろから聞き慣れない声がして振り返る。


ああ、そういえばいたな、こんなやつも。復活してるのは当然と言えば当然か。そこにはこの世界のクロイ、もといマシロの実母がいた。


「人違いです」


「は? 何をふざけているの? 私、そういうおふざけ好きじゃないって、知ってるよね?」


「ふざけてませんが…」


「そういう態度がふざけてるっていうのよ! お母さんをあまり怒らせないで!」


「シランガナ。お前が勝手にキレ散らかしてるだけだし…」


「こんなところで油を売って…、お勉強はどうしたの? お母さんにそんなに恥をかかせたいの?」


「悪いけど、今あんたに構ってる暇ないんだ」


「…なんですって! お母さんに対して、なんて口の利き方するの!」


キッと眼を吊り上げる。


『ちょ、ちょっと!冬!?』


「私はあなたのためを思って言ってるのよ? それを、あんた? かまってる暇はない? 何様のつもり!」


はぁ、うんざり…。


「うるせぇよババア」


「なん、ですって…?」


「恥ずかしいのはお前自身の問題だ。興味ねぇ。恥をかきたくなければ自分を磨け。俺はお前の装飾品ではない」


「なっ!なっ!なっ! なんてことを! 親に対してなんて口を聞くの!」


「親なんて思ってねぇよ」


「!!! あなたなんて…産むんじゃなかったわ!」


「おお、光栄だね。ならいっそこのまま親子の縁も切ってくれ。いやぁ、くだらねぇ縁が切れてむしろせいせいしたよ」


もとからねぇけどな。


「なんですって!」


「それじゃ」


「まちなさい! 学園はどうするつもり!」


「さぁ? 退学でいいんじゃない?」


「そんなことできますか! そんな、みっともない」


「お前の意見なんて聞いてねぇよ。俺が行く気ないんだから、行くわけないだろ」


「そんな態度で、どうやって立派な大人になるの! どうやってお金を稼ぐつもり! ヤクザにでもなるつもり? お母さん、許しませんよ!」


「ご心配どうも。そこは気にしなくていいよ。食い扶持は自分で稼ぐ。あんたもコブ付きじゃなくなったんだ。新しく男でも探せ。まぁ、あんたみたいなのに捕まる男がかわいそうだけどな」


ギリギリと顔を赤くする女。今にも茹で上がり噴火しそうだ。


「あ〜、あと、今後俺を町で見かけても話しかけるな。お前に構ってるほど暇じゃない。俺は忙しいんだ。無駄な時間を使わせるな」


そう言って俺はその場をあとにする。バカの相手などしてる暇はない。


後ろから人とは思えない金切り声が上げ、追いかけてくるが、冬の心には波風一つ立たなかった。


『冬…、君って…、はぁ』


「なんだそのため息は」


『お母さんは大切にしなさい!』


「うるせぇマザコンが」


『カカカッ!』


歯を鳴らすかのように威嚇する冬真。どうやら怒ったらしい。


はぁ、うるさ。世の中マザコンが多くて困るねほんと。


俺は無駄な時間を使ったことを悔い、走る速度を上げる。少しずつ、身体の調子も戻ってきた。



怖い夢をみた、気がする。


内容は覚えていないのに、すごく怖い夢。みんないなくなって、私だけが残る。死んでしまいたい、そんな時に現れて、私を助けてれた。そんな人が、いたような気がする、そんな、夢を。


「う〜ん、変な夢」


「なっちゃ〜ん、朝よ〜、起きて〜」


下からお母さんの声が聞こえる。優しく柔和な声が心地よく響く。


「うん! 今行く〜!」


寝ぼけ眼をこすって、私は身体を起こし、階下に向かう。


今日は善ちゃんと公園で待ち合わせをしてるんだ。支度をしたら向かわないと、そう考えてベッドから降りた。


今日も、いい一日になりますように。善神アフに感謝を捧げて、お母さんのおはようをいい、朝食を食べて、出掛ける準備をし、私は家を出た。


「う〜ん! いい天気」


今日もお日様が優しく私達を照らしてくれている。


最近は町の人々が分裂を始めて諍いが絶えなくなった、あまりいいニュースを聞かない。それでもこうして平和な日常を送れるのは、隣境付近で警備をしてくれている人達がいるから。


戦争…ならないといいな。みんな明るく振る舞っているけど、どことなく憂えているのがわかる。


善神アフがこの地に降り立ち、もう結構経つらしい。私が小さな頃から町にいて、よく遊ぶのであまり偉い人だって印象はない。アフの存在を快く思わない人達が増え始めてる。それが、私は嫌だった。


嫌いなら、関わらなければいいだけなのに。嫌がらせをしてまで、突っかかってくるのは関心の裏返しだと思う。アフを利用したいのだろう。


それでも今日はえらい人達が集まって、相手方とお話をするんだそう。なので反対側の町の人達がこの町に来ている。私達は邪魔にならないように、反対側で遊んでなさいと言われていた。


「おっせぇよ!夏!」


声が聞こえた。いつも聞いている幼馴染の男の子。黒いツンツンとした髪が特徴的。元気で、みんなの中心にいて、でもホントはちょっと臆病な、どこにでもいる男の子だった。


まだ、公園までは少しある。


「善ちゃん! 迎えに来てくれたの! やっさしぃ〜んだ!」


ぽかりと頭をはたかれた。


「いったぁ〜い! なんで叩くの?」


善ちゃんはいつも暴力的だ。怒る場面でなくても、恥ずかしがると人を叩く癖がある。良くないと思う。


「うるせぇ! うるせぇやつの刑だ、バカたれ!」


「もう! そんなんじゃ、女の子にモテないんだから!」


「へっ! 女なんてやかましいやつに好かれたくないね! 俺は女が嫌いなんだ! 母ちゃんも妹も、うるさくて仕方ねぇや!」


そう言って小石を蹴飛ばした。


もう、いつもそうやって強がっていろんな人と喧嘩するんだから。


そうこうしてる間に公園に着いた。けれどいつもと違い、公園では剣呑な空気が漂っていた。


そう、私たちの、運命の日が知れず近づいていた。



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