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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第3章

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第二物理法則


「やれやれ、随分と派手にやったな。君等は友達ではないのかね?」


は?と、も、だ、ち?なにそれおいしいの?


ディラフトを友達と思ったことなどない。


リスペクトはするが、人としての好感は一切ない。


正直ウザいという印象しかない男だ。


人の話は聞かないし、人の邪魔はするし、碌な奴じゃない。無神経で無配慮。


我が道を行くなら俺も他人のことは言えないけど、他人の人生の邪魔までしだしたら終わりだろ。


「俺に友達なんていないよ?」

冬とノインツェンの目が合う。

曇りなき眼に嘘はなかった。残酷なほどに。


「…彼がかわいそうになってきたな。まぁいい。ようやく……ようやくこのときが来たようだ、冬」


「……人の殺し合いに横入り……。つくづく目障りだな。何何?あんた?」


「かつて語った通りだよ。私は、この星の外から来たものだ」


「んなこと聞いてねぇよ……。わざわざ他所の星からやってきて、俺にちょっかいかける理由を聞いてんだけど……読解力がないのか?」


こいつは異世界とも繋がりがあるようだった。


ナニモンなんだよ。


聞いたところで答えは返ってこないだろう。


ボコしてから問い詰める。


つまり、いつもと同じだ。


「四季を渡せ。そう言ったはずだがね。物覚えが存外悪いのかね?」


「ああ、物覚えはかなり悪い。あんたは理解力が足りない。つまり五分五分だな。だからそうイキりちらかさずにもう一回、バカにもわかるように丁寧に頼むわ、バカ。四季を、なんで狙う?」


俺が聞いている「目的」とは中身の話だ。


手段のことは聞いてねぇよカス、と暗に込めて聞いた。

四季を狙うということは、四季を使って何かをしたいと考えるのが自然だ。


こいつはパンダ見たさに動物園に来た来場客ではなく、密猟者の類だ。要するにろくな奴じゃない。


まぁ、パンダなんて見たことないけど。てかパンダってなんだ?


「ハハハッ、意外と面白いことをいうやつだ」


「ハハハッ」

お互い、目が笑ってなかった……。


「ノインツェン伯爵、私は……」


「ディラフト君、私は君が一人で戦うのを止めなかった。だから君も、私を止めてくれるなよ?君は、負けたんだ」


「!!!……」

ディラフトはそれ以上を語らなかった。


冬はディラフトにもう目をやらなかった。


自分から喧嘩売っておいて、負けても、のうのうと生きてられるやつの神経なんて俺には理解できん。


仮に助けられようと、恥があるなら腹でも切ってさっさと自決でもしてくれんかね?


もっとも虚無の力で斬り裂いた。


通常の技術での再生は不可能。


ほっといてもロストするだろうが。


「冬、私の本来の目的、それを知りたいかね?」


「もったいぶるほどのもんじゃないならさっさと話しなよ。あんた、モテないだろ?」


「君もモテないだろう?」


ぐぅの音もでなかった……。


「そもそも異性にモテることを人生の指針にしていないよ、私は」


過去の自分からの罵倒を受けているような気分だ。冬真とも確かこんな話したな。


思いつきでテキトーなこと言うんじゃなかったよ……。


「それにしても君はチグハグだな」


「あ?」


「本来、君の使っている存在科学は物理科学、生命科学、精神科学、次元科学、これらを高次に極め、ようやく入り口に立てるシロモノだ。辺境の惑星のサルが、創り上げられるものではない。いかに自分が歪なのか、自覚はあるかね?」


「別におかしくはないだろ。単にオタクよりも優れたサルがいるってだけだ。シェイクスピアを書き上げる可能性があるなら、サルはサルでもあんたより優秀なサルだよ」


宇宙は広いんだぜ。


劣等猿が思いもよらない進化を遂げる。


そういうこともある。


あんたが思うほど、この宇宙の神秘は浅くないってだけの話。


ノインツェンの冷笑が深みを増す。


「……ああ、なるほど。確かに、そのとおりだな。今のは、なかなか……ふむ、後学の為に聞くのだが、もしや私はバカにされたのかね?」


「素直にムカついたって言えよ、おっさん。少しは他人の可能性ってものを許容したらどうかね?」


「貴様には、目上の者に対する態度がなっていないな。自分がどれだけ下劣な存在か、わきまえているのかね?」


「は?」

こいつ……何言ってんだ?


「人類の歴史は知の歴史。積み上げによって築かれてきた。その積み上げてきたものを貴様は踏みにじっているのだよ。科学とは再現性だ。失敗と成功を繰り返し、真理へと近づく。再現できないということは、見えていない法則があり、それを把握できていないということだ。一度この世に生まれ落ちたものなら、再現できなければおかしい」


「はぁ」


「私は再現性のないものを科学とは認めないし、再現できないものを実力とは認めない」


それは極端すぎだろ……。あっそ……って感じ。この手の輩にはまともに応対しないほうがいい。


「うっわ……。聞いてねぇオレ様理論並べ始めちゃったよ……。どのくらい長くなりそ?終わったら教えて」


「聞け!」


命令に近い恫喝が飛んでくるが、俺は早くも帰りたくなってきた。かまってちゃんは嫌いだ。


「そのチンピラのような喋り方も不快だよ。私と同じ人類種の末裔とは思えない。品性の欠片もない。なぜ貴様なのだ」


はぁ、くだらねぇ。


「品がなければ生きる資格がないとでも言うつもり?病気だな、あんた思想強すぎ」


「私はね、知性とは天からの贈り物だと思っている。いや、信じている。それを貴様のようなサルが、ザインクラフトを……四季を……あれほどのものを生み出せた?なぜ貴様でなければならなかった!なぜ?なぜ!なぜ……なぜだ……!」


嫉妬と憎悪の炎が彼の瞳で燃えている。


「なんだそりゃ……」

呆れ果てるとはこのことだ。


やんややんや言ってるが、科学とかどうとか、そんなのは飾り。こいつは結局のところ、俺の存在が許せないだけ。低レベルすぎる。だから……。


「あんたにとっては科学ってのは、賢く見せるための道具か?本質を見失ってるよ、あんた」


「なに?」

理解できないものなんて、世中心配するほどたくさんある。


知らないことのほうが人類は多い。


それは一生涯に渡る。


わからないことより知っているふりをしたり、知りたいという欲望を、さも崇高なことでもしているかのように振る舞って、お高く止まるようになっては知性というよりも衝動の獣だ。


「そんなに理解できないことが許せないなら、幼児向けの本だけ読んでウホウホ言ってろ。そのほうがいくぶんか、健全だぜ」


言葉に変えた刃で切り返す。


どうやらこいつは知識を手に入れるかわりに、恥を忘れてしまったらしい。


他所の星まで来て「君等おっくれてるぅ〜ぷ〜クスクス」って……俺から見れば、そっちのほうが下品だよ。 


「知性は学べても品性は学べない惑星らしいな、オタクの星は」


俺は知りたいことがあればその都度学ぶ。


必要な時に必要な分、学べば充分だ。


全部知ってなければ生きられないなんて、わざわざ自分に鎖をつけて縛ってどうすんだか。


「くくくっ、オウムよりは賢いようだな」


ノインツェンの空気が変わる。


貴族のような見栄えから品性を取り払った、獰猛な獣がそこにはいた。


「世の中、お前のオツムの都合に合わせて作られてねぇよ。納得いかないからなんだ?理解できないからなんだ?知らねぇよ、俺に当たんな。お前が理解できないのはお前の責任だ」


他所の星までやってきてやることが知識ヒケらかしマンのマウント取りとか……やばすぎ太郎っす。


ついていけまてん。


他人がそんなに気に食わないなら関わらなければいい。俺みたいに自分の殻に閉じこもればよかろう。


わざわざ自分が嫌ってる相手を探してまで、説教持論押し付けマウント野郎に成り下がる。


見下げ果てた奴だ。


俺はできるだけ、ノインツェンを煽ることにした。

こいつとは、相容れないタイプだ。


まじほっとけよ、俺のことなんて……。いや、マジで。ディラフトとは異なるタイプのかまってちゃんだ。


「……そうだな。文明を知らんサルに品性を理解しろと言うのは無理な話だ。話が逸れてしまった。本題に戻そう。教育がゆき届かないものが文明を語る。私がそれを正そう。お勉強の時間だ、ひきこもり君」


額にたくさん青筋立ってるけど……だいじょうび?


目とかも心なしか充血してるし……血とか出そうだよ。


言い過ぎたかなぁ?


二人の視線がぶつかり合うが、そこに相手への敬意や配慮などなかった。そこに込められた感情は、ただ一つ。


「冬……貴様はこの世のバグだ。私が粛清し、消去してやる」


「あまり粋がんなよ。ポエム脳で遺言状を書くと恥かくぞ?」


「ふぅ〜、いいねぇ〜。温まってきた。何が言いたいかというと――ぶ、ち、こ、ろ、す!!!」


「ぶっ殺す!!!」


互いに睨み合う。合意は取れた。あとは、殺るのみ。

冬は駆け出す。先手必勝。即座に首を掻っ切るが如く、喉元に手を伸ばす。


――異音とともに弾かれる。


「気が短いやつだ。野良犬め」


「話す前からキレ散らかしてる癇癪野郎が抜かしてんじゃねぇよ。早漏野郎」


ノインツェンの前に、二機の飛翔体が何もない空間から突然出現する。全身セプテントリチウム製のフルオートメード。セプテントリチウムの持つ巨大量子の特性を使った、存在確率を弄っているのだろう。


「紹介しよう。トリム・マライ。精神拡張ユニット『真冬』。ルート・ピット。生体拡張ユニット『真夏』だ」


あ?ま、ふゆ?


最近聞いたような名前だな?


それにしてもこいつ……!


存在を解析し始めるが……なんだこの構造……!?


「少しばかり予習と行こう。宙へと上がるもの達の技術に触れる機会だ。第二物理法則を、教授してやろう」

ルート・ピットが光る。冬の相対光速調整器によって、飛んでくる光学兵器を回避する。


しかし……!こいつ、追ってくる!


直角に曲がり、こちらを追尾してくる。


一切の減速なく、つかず離れずこちらを追ってくる!仕方ない、ギアを上げる!


不変から天変へ。

存在エネルギーの運用形態を変える。

存在維持から存在流転へ移行。


「コードを実行する。テーマ:『加える世界』」


コードの書き換えにより存在を改竄する。極悪な光学兵器を、迎え撃つ!


「加える世界」は速度の前借りだけではない。攻撃軸も加えることが可能!


「一撃三連、加重力挟撃!」


一度の攻撃に三度の力点を重ね合わせる。ギアを上げることで存在エネルギーの消耗を加速させ、存在強度を跳ね上げる!一空間の存在密度が膨れ上がり、パンパンに空間を圧迫する。爆発的なまでに強度を高め、


これで!


世界が一瞬、息を止めた。次の瞬間――。


冬の存在強度が跳ね上がり、瞬間火力が高まる。冬の一撃が空間を砕きながら、光学兵器を迎え撃つ!


ドカン!大きな破裂音が鳴り響き、辺りに土埃が舞う。

一度斬っただけのはずなのに、時間軸に三度の「斬撃履歴」が残る。過去・現在・未来を同時に一点に集約する。衝撃が時間差で逆流する。


冬は即座にその場を跳ね上がる。

先程までいた場所に光学兵器が襲いかかった。


マジかよ、こいつ!こちらが攻撃を仕掛けた直後、映写図鑑で見たトンボという虫みたいに止まりやがった!


グネグネ動いたり、止まりたり、まるで生き物みたいだ!ただの光学兵器じゃない。生命の息吹すら感じる。

おいおい……追いかけてくるのはまだわかる。


曲がったりするのもまだわかる。


だが、止まるのは無しだろ、おい……。


「ゆき過ぎた科学は魔法と見分けがつかない。第二物理法則は、科学をもって魔法に挑むもの。少しは理解したかね?自分の常識知らずな恥を。君はこの領域を踏まずに存在科学へと至った」


再度鬼ごっこが開始する。相対光速調整器で追いつかれることはまだないが、無限に逃げることはできない。本体のほうを、先に叩く!


本体に向かって、光学兵器を引き連れて向かう。そのまま巻き込んでやるよ!


ゆらりとトリム・マライが前に出てくる。空間が歪み、精神波動が迎える。フォースエッジで逆位相に波長を合わせ、切り裂く!


ガガッ!


想定外の引っ掛かりに驚く。

硬っ!!衝撃が返ってくる。


触れた瞬間、フォースエッジが撓む。衝撃の波が「戻ってくる」。精神波が人体に浸透する!精神情報が、物質を質量を持って襲いかかる。従来の物質との感触とは異なる触感。


精神拡張された精神波動は硬く、こちらの人体や精神に影響を与える。


身体が骨や関節を無視して、空気の抜けた風船みたいに緩み、元の形に戻らない!波動が身体中を波打ち、残留している。


存在強度で負けたのはわかる。

だが、フォースエッジの力場の刃まで軟く、緩んでいる!?


通常の精神波動とは異なる事象。


物理的な衝撃さえもいつもの衝撃とは異なる。


今まで味わったことのない感触を受けていた。


虚無化した両手には一切影響がないのに、ほかの部位はふにゃふにゃになっている。


身動きすらとれない。


それだけではない。精神に重みを感じる。粘りつくような、沈みこむような、それでいて、憎悪と嫉妬の業火で焼かれているような陰鬱な感情。 


身体もそれに連動し、焼け始めている。精神が肉体に影響を与えることはあるが、これはそれよりも強い。


他人の感情でこちらの精神を汚染し、肉体にも波及している。


通常の物理法則とは異なる側面から殴られている。


「精神を三次元の外に押し広げて、そこから現実を押してやがるのか……!」


まずい!これはまともに喰らってはいけない攻撃だ。


「驚いたね。万全ならまだしも、今の君が今の一撃を耐えきるとは。どんな精神強度をしてるのだ貴様は?本当に人間か?まぁいい、次はない」


レーザー砲の攻撃がこちらに迫る!


このままでは直撃する!


「終わりだ」

ノインツェンの言葉とともに光が炸裂する。

仕方ない……。


凄まじい閃光が俺を飲み込む前に、漆黒がレーザー砲を斬り裂く。身体は依然まともに動かない。


腕の力だけで黒鎌を振るい、生体息吹を斬り裂いた。音もなく、衝撃もなく、無に沈み込むように飲み込まれていく。


ただし、反動はあった。ッ!!


無の力は存在の力と相反する力。この世界に存在してるものがこれを使えば、あちら側に引っ張られる。


強い存在を消せば消すほどに、俺もその反動であちら側に引っ張られる。虚無化が進む。

そう何度も切れない切り札。


俺は黒鎌を自分にも刺す!ふにゃふにゃになっていた体へ影響を及ぼす情報だけを選んで消すことで、身体は元通りになる。


「やはり、それは無の力か。ディラフトのディメンションフィールドを容易く貫いたのはそれだな。貴様は虚無の力まで使えるのか?ザインクラフトだけでは飽き足らず、そのような力まで……。どこまで貴様は神に愛されているというのだ」


ノインツェンのこちらを見る眼は憎悪に塗れていた。

愛されてたら、そもそもこんな目にあってねぇよ。どんだけサディスティックなんだお前の神は。


追撃が来る!身体を捻り、後ろから来る光学兵器をかわす。二つの攻撃に挟み込まれるように追い詰められる。


今まで戦ってきた超能力者の精神波動とは次元が違う。


これが第二物理法則へ踏み込んだ文明の力。


第二物理法則とは、本来「思考」や「生命力」にすぎないものから、物理的に干渉する力を持たせる技術ということか。


対応を誤れば……死ぬ!


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