たとえ地獄に落ちようと
「冬 だい、じょう、ぶ…?」
ナツさんも決して無事な状態ではないのに、こちらを心配する
「平気ですよ このくらい」
「また、こんなに、無茶、して」
息も絶え絶えにこぼすナツさん
それはあなたでしょうとは言わなかった
「神の家か」
善神アフ・マズーラダの家 この世界には本当に神がいて、人の近くで暮らしていた その実在を証明する唯一の場所だ
「ここで少し休ませてもらおう」
「ええ 善神アフよ 失礼、いたします」
彼女は恭しくお辞儀をして中に入る
部屋の奥 奇しくも春やアフが最後を迎えた場所だ
少し、縁起が悪いが、それは今は気にしないことにした
背中を壁に預けて、息を吸い込む
体中にヒビが入りそうだ
存在維持ってのは息を止めてるのに等しい
だが苦しいからといって解除すれば俺の存在は砂上の楼閣のように崩れ去るだろう
「ナツ、さん ここへ」
冬は彼女を引き寄せる
彼女の胸元に手を当てる 彼女の身体に噛み付いてるうざったいロハネの遺物を解析する
「大丈夫 あと、少しで解除できる」
ちっ 気色悪いコード書きやがって
高度で複雑なのは確かだが、必要のないところでわざと不愉快で無意味な情報コードを組み込んでいる
作ったやつの性格の悪さがよくわかる
「冬… 冬?」
ナツさんの声が遠い
あと少し
あと少し
あと、少、し
カチャリと音を立てて、ロハネの遺物が地面に落ちる
「…! …ゆ! …!!!」
声が、遠、い
意識が薄れゆく
ああ、まだ、やること、あったんだけど、な
ナツさん ごめんな 無責任で
ここからは、まかせる…よ
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−
波の音が聞こえる 見覚えのある海岸だ
この空想世界に来たときに見た世界の果てにある海岸線
「冬」
振り返る
そこには、ナツさんが立っていた
「ナツさん?」
「冬 ありがとうね」
「は?」
「ずっと」
「ずっと、色のない、音のしない世界にいるって思ってた」
「復讐に身を焼かれて そのまま燃え尽きるんだって ゼンちゃんとまた出会って、衝突して、許しあって、愛しあって、でも、また離れ離れになった 最期まで救う気がないなら、最初から希望なんて与えないでほしいって、そう思った」
希望の先にはさらなる絶望が待ってた
でも
「あなたが現れた」
「あなたのおかげで、ここまでこれた 全部を憎しみで染め上げなくてすんだ 全部が全部、悪かったわけじゃないって 最後に、そう思えた」
「この世界に来てくれて、ありがとう 私を、私達を、見捨てないでくれてありがとう、救ってくれて、ありがとう そして、ごめんなさい」
ナツさんは笑う だが
俺は笑えなかった
「まっ!」
「善ちゃん ごめんね 浮気はだめだよって言ったの、私なのにな」
「行くな!」
「冬、 私は、あなたを ――――――」
ナツさんの笑顔が遠のく 俺の手は、届かなかった…
彼女の最後の言葉は
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−−−−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−
−−−
−
「ナツさん!」
手を突き出し、俺は目が覚める
身体を起こす はだけた服を吹き飛ばし、立ち上がる
周りを見渡す そこにナツさんの姿は見えなかった
頭上から、羽根が振ってくる
冬はそれを手に握りしめて、歯噛みした
冬は叫ぶ 言葉にならないものを、吐き出すように
◇
冬は意識を失った 身体が消えかかっている!
なんとかしないと!
でも、何を
どうやって!
その時
天から声が聞こえた、気がした
「え?」
そこには神の、遺骸があった
神の羽根
「アフよ これを、使えと言うのね」
言葉はなかった でも、私にはわかった
このときのために、とっておいてくれたのだと
私の聖寵は比翼連理 愛した者と番う時、その相手に聖寵とは異なる異能を授ける この聖寵で与えた異能は神に没収されない特性を持つため、悪用されればただでは済まない
戒律は、一度愛した者とは異なる者と番った場合、罰が降る そのものは天国の門をくぐれない
それでも
私は…!
ゼンちゃんのことを思い出す
大切な人 この想いを忘れたわけじゃない
大事じゃなくなったわけじゃない それでも…
激しい胸の痛みに襲われる
涙が、出るほどに
アニマの生態は通常の人間とメカニズムが異なる
人は性欲に振り回されて人間関係を失敗することがあるが、アニマは関係を構築してから愛が生まれ、愛したものとの絆の果てに性欲が発生する
愛がなければ子供は生まれない
愛されない子供は生まれてさえこない
アニマの愛は深く、長く、堅固だ
そのため片翼に先立たれても、生涯一人の相手だけを想うのは珍しくない
冬はそこに美しさを感じた
生まれてくる子供は愛されて生まれてくる
性に振り回されぬ人生
生まれてくる子供は愛の結果
倫理が種の前提として組み込まれた存在
しかしアニマもまた、"人"なのだ 機械ではない
人の感情には時として理屈を超える例外が起こる
関係から感情を構築するのなら、感情を超える関係の構築が愛を超えることがある
アニマ同士なら互いの機微を察して適切な距離を保つがそれ以外の種と関わると、極稀に事故は起こる
それ故に、例外は苦しむ
その苦しみを生涯背負うことになる
私はいつしか彼を見ていた
町のために寝る間も惜しんで、駆けずり回って
血反吐を吐きながら 弱さなんて誰にも見せずに
でも 誰よりも傷だらけの人だった
私は自然と支えたいと思っていた
彼は今もボロボロで
なのに最後まで私のことを心配していた…
何もできないことがもどかしかった
何も返せない自分が呪わしかった
わかってる この感情は"裏切り"だね
ナツの頬から伝う涙は止まらない
痛みを懸命に堪える
その痛みはただの人間には理解が及ばないだろう
ごめんね ゼンちゃん 私は、天国にはいけないみたい
それでも
私は
彼を
救いたいの!
「アフよ 感謝を」
私は、壊れるんだろうね
それでもいいと思った
冬を救って地獄に行きます
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−−−
−
彼女の白かった刀は黒く染まり、冬の傍らに寄り添うように落ちていた
刀を握る それが、どういうことかを冬は理解して
刀を強く握り締める
俺が…
俺のせいで!
こんな結末を望んでいたわけじゃない
ただ見守れればよかった、だけなのに…!
噛み締めた唇が血で赤く染まる
存在の劣化が止まっている
いや、正確には埋まっている
俺の存在の欠けた部分を補うように
それは
まさしく
奇跡、だった
でも…!
俺は
拳を握りしめ、地面に叩きつける
「クソ! クソ! クソ! クソ…が…」
唇を噛み締めて、溢れ出るものを抱きしめて必死に堪える
走って
走って
死に物狂いでここまでやってきた
呼吸が止まってることにすら気づかないほど
全力で生きてきた
それでも
まだ……届かない
拳を握る 血が滲む程に
冬は顔を上げた
まだ、やれることがある
まだ、終わってない!
だから
この町のこと
冬真のことも
そして、ナツさんのことも!
俺は後ろ髪を引かれる想いを断ち切って
黒刀を握りしめ、また走り出す
扉を開ける その先には
ヒカルがいた
「今、君の相手をしている暇はないんだけどな」
「この町を危険にさらす選択をした裏切り者の誅罰を、やめにした覚えはありませんよ」
「ああ、そうかい」
弁解する気もなかった
今は無性にむしゃくしゃしてて…
誰でも、いい気分なんだ…
世界をアップデートします
また一定以上のアップデートが完了したことにより、世界の解像度が上がります
在核生成 開始
これよりカウントダウンに入ります
3分後に完了を予定
空想世界中の解像度が上がる
空想世界の構築度が、50%に至ったことを告げる
そしてそれは晃にも在核が生成されるということ
「ふっ」
「なんです?」
「お前、運がないよ ほんと」
ぞわりとする晃
「殺しやしないから安心しろよ」
少しばかり
半殺しにするだけだ
「コードを実行する テーマ…」
「魅せる世界」
ザインクラフトは数学的、物理的側面よりも芸術面に優れる
にもかかわらず加える世界も、透ける世界も
どちらかというと数学的、物理的に寄っている
だが
こいつは正真正銘 ザインクラフトの本道
ギアを上げる
不変から天変
そして…
『自在』へ
晃は駆ける
光速に迫る速度で繰り出す拳が冬に突き刺さる、はずだった
ふわり
そんな音がしそうな程に自然に冬の手の掌に晃の拳は包まれる
――ぞっとした
そして
音すらせず、ゆったりとした掌底が私の顔に触れた
私は、避けられなかった
凄まじい勢いで吹き飛ぶ
何を、されたのか――わからない
そう、分からなかったのだ
「何者なんです? あなたは――」
何を、されたの!
わからない
そう
分からなかったのだ!
「全ての戒律を解禁する」
『第一戒律:神様の言う一人遊び』
『第二戒律:神様はサイコロを振らない』
そして
「第三戒律:神様の言う通り」
「宣告する お前の結末を」
冬の瞳が虹の色彩を放つ
冬から放たれる異彩を放つ色彩は瞳だけではない
全身を覆う
さぁ、神様の一人遊びを、始めよう
息を呑む
ゴルジラフとやったときでさえ感じなかった
いいえ、今までの人生でただの一度も感じた事のない
敗北の可能性が
背筋を走る
冬がゆったりと歩く
なのに
動きを捉えられない!
いつの間にか彼の掌底が晃に叩き込まれる
ビルを突き抜け、なお勢いが止まらない
冬はふわりと降り立つ
晃は光速で移動しながら冬を解析し続ける
しかし
わからない
わからない
わからない!
意味が遅れてやってくる
結果だけが先に存在している
動いた記憶がないのに吹き飛んでいる
晃の、そして晃の聖寵の解析能力を超えている
いつの間にかそばにいて
いつの間にか掌底を叩き込まれる
拳を 蹴りを ことごとく防がれる
攻略した数々の異能を打ち出す
水を、風を、土を、そして火を
どのような異能が効果あるのか、どれか通らないか
しかし全て通用しない
冬の周囲にある虹色の色彩に触れると
水は透け、風は解け、土は綻び、火は燃える意味を失う
逆に相手の攻撃は全てこちらに叩き込まれる
最初こそ、理解できてた部分もある
その動きを理解し、凌駕し、攻撃を撃ち込む
だかそれも通用しなかった
それ以上の表現で返される
こちらの成長度合いすら冬の想定の範囲を出られていない
次第に相手の拳の意味が理解できない
相手の蹴りの比喩が理解できない
そもそも物理的な打撃なのかさえ理解できない
身体に叩き込まれた一撃さえ、理解できない
一つわかるのは表現が変わったということ
あえて例えるなら感性で殴られているような衝撃
私の知る競争の原理とは異なる異質な何かを表現してる
そして冬は世界を縦横無尽に動く
拳が叩き込まれ、蹴りが放たれる
どれもが理解の外だ
物理法則は破られていない
だが――理解できなかった
今までは物理的な出力勝負の世界だったのが物理的な美しさで殴り合いをさせられているようだった
私の理解できる範疇を超えてるだけという最も難しく最も理に叶わない理不尽を体現している
冬は、自己の技術を進化させ続けてる
それはおそらく魅せる世界の力、ではない
それはあくまで表現の幅を広げてるだけ
そして魅せる世界の力は
「世界の観測構造が冬に偏重し続けてる?」
「ご明察」
戒律により運を捨て去り、自己だけでなく、他者すら既定する物語を紡ぐ
――理解した瞬間、背筋が冷えた
世界が観る観測帯を支配するということは…
それは存在を形作る色彩への衝撃
晃は存在そのものに影響を与えられている
――思考の主導権が、わずかにずれていく
――聖寵の力が空回っていく
――自分の存在が自分の都合で回らない
――呼吸のタイミングすら、自分のものじゃない
他者の存在まで、自己の表現の幅として広げられる
それは他者に己の存在を支配されるのに等しい
攻撃を受ければ受けるほどに冬にとって都合のいい世界に陥る
――抗うほど、敗北が完成していく
この町という狭い範囲の中で、冬は小さな世界の神様となった
「ほんとふざけてますわ」
冬の技は、表現の幅そのものが拡張されていた
観測が偏重し、世界が勝手に冬に寄り添う
世界が回るように冬を中心によれる
冬の拳が叩き込まれる
地面にではなく空に落ち、地を巡る
森羅万象さえ定かではない状況に晃は圧倒される
世界を書き換えてるわけじゃない
世界が冬の存在表現に魅せられて世界の表現が勝手に冬寄りになっている
もう叩き込まれた拳の軌跡さえ、わからなくなった
解析は続けてる 技 思考 癖
しかしそのことごとくが見透かされているかのように空転する
冬もまた、こちらを観ていた
こちら以上に 観えている
冬は今まで多くの枷をハメられていた
これが本当の冬という存在の力
表現できる狭いキャンパスから抜け出した冬はまさしく縦横無尽だった
光の柱を、光の球を撃ち出す
光の柱は出力を、光の球は質量を凌駕する
出力勝負でも質量勝負でも晃には勝てない
だが
冬の漆黒の光に触れた瞬間にヒカルの白い光は凍り、砕けて消えた
まるで対消滅するかのように
晃の扱う…否、晃の存在そのものに対抗するその力は
【反存在】
反存在とは、敵に一方的に急所を刺す攻撃のようなものではない
存在にはみな、超立体構造というものがある
人や物だけでなく、空間や時間、運のように形のないものも全て
それは精神や心、聖寵だろうと関係なく存在している
それに対して反対構造の超立体を組み上げることができる数少ない特質を持っている存在がいる
この世界のダエワの特質には反存在の特性がみな組み込まれている 対アニマ用に調整されたその存在特性は奇しくも冬と似たような存在構造をしていると言える
超立体構造はザインクラフトを扱えるものでも見える人間は少ない
晃の存在そのものに対抗する反存在物質構造を持った漆黒の光 それはアジン・ダーワに近いが、あれよりもさらにその特質は対存在構造をしていた
反存在超立体構造:【漆黒の光】構築
凌駕の異能は機能不全に陥る
光が減衰し、ヒカルの解析は空回りする
二人は町を駆ける
疑似光速の域で衝突しながら、町に巣食う敵を殲滅する
怪物同士の戦い 町の脅威すら今はただの玩具に落ちた
白と黒の光が町中を閃き、敵を殲滅する
冬の拳が叩き込まれ、蹴りが放たれ、全てが晃に襲いかかる
晃は必死に反応するが、追いつけない
存在科学の真髄 真白冬の真の実力
全快の存在状態でないと使えない上、観測領域帯を構築しないといけないが、夏さんのおかげで常にとはいかないまでも全力で戦える時間が確保できた
夏の力によって真白冬の存在強度は一次的に全盛期の力を取り戻した
その存在圧が町全土を覆う
!!!
震撼する
真白冬に
世界が震える
晃さえ、冬の存在に息を呑む
二人の怪物の前に、町の脅威は蹂躙される
それを見た青鉛都市の統主ヨヨは鼻血を出しながら歓喜した
存在科学の真髄を理解し、今度はこちらが饗すと囁いて消失した
異世界の者達は在核の生成を避けるように霞のように消えた
冬真が溶け始めてから無理矢理残ろうとしたマナツは気絶させられて連れて行かれる
残されたディラフトシュラッケンはその衝動に囚われた
目が離せなかった
ああ、これなんだ
これが本当の真白冬なんだ
私は本当の彼をまだ知らなかったんだ
彼は自分達との戦いの中でさえ全力ではなかった
世界が、みんなが、己が、魅せられる
その姿はまるで
そう、まるで
「神だ」
「ぶふっ」
晃はのちうちまわる 血を吐きながら 頭を回す
だがどんどん実力差は広がっている
冬はどんどん自分の表現力を広げていき、私はその領域に入り込めない 追いつけない
膝をついて立てなくなる
吹き飛ぶ傍ら、足が使え、バランスを崩す
しかし晃も剛の者 すかさず身体を捻り攻撃態勢を整え、回し蹴りを放つ
しかし
その一撃は空振りに終わる
冬は避けるのではなく、立ち止まっていた
そこにまた震えた
「まさか、予測できてたっていうのですか?」
たらりと汗が流れる
まさか ありえない!
私が瓦礫で足をすくうのを
バランスを崩してなお、反撃に転じることさえ、観測していたと?
「この町で戦う以上、俺には勝てない」
この町にはたくさんの刻紋を刻んでいる
それらは観測弾と同じ効果を持つ
晃にも戦闘中、拳を撃ち込むと同時に大量の観測弾を撃ち込んでいる
永続的なものではないが
「3分間」
その間、この町で起こる全ての事象を観測し、手中に収める
神様の一人遊びが自分の可能性を制限するものなら
神様の言う通りは自己の想定の及ぶ範囲のあらゆる事象の観測帯域を奪い、無効化する 観測防御の応用発展系
己の想定以上の事象が起これば、冬は全ての能力を解除され、無力化する
まさしく諸刃の剣だった
「馬鹿げてるますわ それは、そんなのは、もう…」
アンリマー・タルヤの存在が脳裏をよぎる
これがザインクラフトの真の力、ということらしいですよ あにさま
不思議と笑みがこぼれる
科学が神の領域に届くなら
神の聖寵を凌駕するというのなら!
なればこそ! 異能の頂点! 光家の最高傑作!
晃は冬を見上げ、吠える
「わたくしの名は光 晃! 天地両翼に咲く日輪! 光家不敗伝説の歴史、終わらせん者あらば、せば、とげよ!」
晃は最後まで真正面から受けて立つ!
晃のそばに冬が現れる 晃は動けなかった
「少し寝ていろ その間に 全て終わらせる 全部 救ってみせる」
「あなた、何、を…」
晃はそこで意識を失った
人生初の敗北を刻んで
規定の準備が整いました
アップデートを完了いたします
準備が整った… これで
「ディラフト 終わりだ」
「ふ、ゆ? なに、を」
それは自分に対する死の宣告、ではないと感じた
「俺には奥の手がある 魅せる世界だけではない もう一つ 秘中の秘がな」
「なにを、する気だい? やめろ… やめるんだ!」
なんとなく嫌な予感がした
やらせてはいけない そういう類のものだと!
「君は、わかっているのか! 自分の価値を! どれだけの光り輝く才能があるのかを!」
それだけのものを魅せられた
ディラフトシュラッケンは自分達の科学文明は進む方向性を間違えたのではないかとさえおもう程に!
「それは違う」
心を読んだように冬は予告をただゼンマイ仕掛けのように綴った
神様の一人遊びは宣告した行動をただ綴るだけ
だから もう 全てが遅い
全てが決まっていることなのだ
「存在科学の真の力を引き出すには虹の瞳と芸術脳が必要だ だが、その過程で生じた技術を手に入れるには数学脳や物理脳が必要になる 俺の場合は少し特殊だっただけで仮定が無駄になるわけじゃない 人に伝える、残す、共有するなら後者のほうがずっと効率はいい」
「存在科学がそうだったというだけで、一つの特殊事例を全体論にすげ変わることはない」
「冬! やめろ やめてくれ! 真白!」
「さよならだ ディラフトシュラッケン 俺が唯一、尊敬した、異星の旅人よ」
冬は黒い刀を自分の在核に突き刺す
「!!!」
こいつは賭けだ
うまくいく保証などない
だが、やらないという選択肢はない
ごめんね ナツさん
せっかく繋いでもらったのに
それでも 俺は
あなたをこそ、救いたいんだから…
たとえこの先が地獄だったとしても進むよ
冬は拳を握りしめる
その掌には、一枚の羽根が残っていた
それすらも
わずかに輪郭を失い始めていた
ナツさん…
あなたを、必ず…
天国に、導いてみせる!
冬の身体に複雑な紋様が浮かび上がり、発光する
それは複雑に動き続け、カチカチとまるで何かを組み上げるように行われように明滅を繰り返す
世界が、軋む
いや
軋むという現象の“意味”が壊れていく
「なんなんだ! それは」
「教えてやるよ これの名を」
冬の声が響く
だがその声もまた
“どこで鳴っているのか”が定まらない
「存在爆弾さ」
俺は指をおっ立てる
ディラフトが叫ぶ
黒い光が世界を飲み込む
空が黒く染まるのではない
黒以外の定義が
空間から剥がれ落ちる
落下という現象そのものが成立せず
結果だけが消えていく
音が意味をなくす
光が価値をなくす
距離が役目を終える
形がほどけ
事象が吹き飛ぶ
空も、大地も、そして町も飲み込まれていく
円柱世界を包み込む黒い光が全てを飲み込み
全てが、静かに
まるで
最初から存在しなかったかのように
おわった




