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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第1章 

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観測不可能領域

最初に感じたのは、感覚そのものが消えているという違和感だった。


視界はない。音もない。触れているものもない。


落ちているのか、浮いているのかすら判断できない。


ただ、「自分だけが在る」という事実だけが、そこにあった。


そして、それを理解した瞬間、恐怖が遅れてやってきた。


そう思った瞬間から、すべて塗りつぶされていく。


怖い。怖い。怖い。


何もないはずなのに、逃げ場だけが確かにある。


助けて、と言おうとして、声が出ないことに気づく。


叫びも、涙も、反射すらない。


あるのは、意識だけだった。


時間の感覚が崩れていく。


一秒なのか、数時間なのか、それとも永遠なのかもわからない。


「すぐ終わる」と言われていたはずだ。


なのに、終わらない。


嘘だったのか?


最初から何もなかったのか?


そう思った瞬間、意識が裂けるように暴れ出した。


騙された。


騙された。騙された!


それだけが思考の中心に固定される。


何かを信じた記憶だけが残り、それ以外が全部壊れていく。


今は信じるしかない。


この地獄が一秒でも早く終わってくれることを。


心が折れかけた、その次の瞬間。


何かが“引き上げられる”ような感覚があった。


深い水の底から、一気に空気のある場所へ戻されるように。


肺がないはずなのに、息を吸った気がした。


「おかえり。」


その声で、世界が戻った。


『遅いじゃないか! 何をしていたんだ! あんなに、あんなに待たされるなんて聞いてない!』


「あんなに? 何を言ってるんだ? 時間にしてみれば、大体2~3秒だったぞ?」


『え? うそ。だって……』


「気をしっかり持てといったろ。観測不可能領域には、時間の概念も存在しないんだ。」


「対処法は教えたろ? 心を静めて、時間は数えない。そうすれば、取り乱さずに済むと。」


『あ、そうだったね。気が動転しちゃって。』


「でも、よく頑張ったよ。おかげでこうして、お目当てのものが手に入った。」


『あ!』


彼の黒い左手には、雪の結晶のような造形のものが握られていた。


「こいつがあれば……」


そう言って、ザインクラフトと呼ばれたそれがほのかに光ると、かちゃりと、両手足についていた鎖の鍵が外れる。


『え? 何、今の?』


「鍵にハッキングして、開錠した。」


『鍵に、ハッキングしたって……それ、鉄の鎖。ははっ、むちゃくちゃだな。』


物理的だろうが、電子的だろうが、情報的だろうが。この世に存在しているのなら、干渉できる。


『もう、帰れるの?』


「そのことで、君に謝らなければならないことができた。結論から言うと、今すぐに帰ることができない、ということがわかったよ。」


『え? なんで?』


「空想世界から現実に介入するだけの、情報強度と存在構造が足りてないんだ。」


このまま帰れば、途中で崩壊するだろう。


『そんな……』


ぼくたちは帰れるのか? そんな思考が漏れ聞こえたのだろう。


「安い慰めはしない。追い打ちをかけるようで申し訳ないけど、この世界はかなり危険な状態だ。」


『ど、どういうこと? これ以上、事態が悪くなるの?』


「この世界はゲームの世界だ。」


「バッドエンドで終わる、救いのない世界。」


「そして、“今”は、そのエンディング後の世界だ。」


話し合いの通じない奴ら同士で、殺し合いをしてる世界だ。ヘタは打てない。


『それ、大丈夫なの?』


「時系列はある程度、前後するはず。少なくとも、俺らは牢屋の中にまだいる。なら、まだ“事”は起きていないかもしれない。それを確認したい。」


『ちょっとちょっと! まさか現場に行く気? 正気じゃないよ。絶対にフラグだって!』


「覚悟を決めてくれ。悩んでる暇は、お互いない。」


『ううっ……胃が痛い……』


外に出るぞ。


そう思った瞬間、頭痛が走る。


! っ、クソ……このタイミングで。


『え? え? なになに? どうしたの?』


「——静かに。少しすれば、収まるので。」


『う、うん……』


痛みが引いた。ゆっくりと立ち上がる。その時。


『え? そ、その瞳……』


「気にするな。」


『でも……』


これは持病のようなもので、どうにもできない。


まったく、体が変わっても、この体質は消えやしないな。


鏡に映る、冬の瞳。


最初は透けるような青い瞳だったのに…

今はそれが、極彩色の万華鏡のように輝いていた。


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― 新着の感想 ―
本来、バッドエンドって、バッドでエンドしてるからバッドエンドなので、酷い状態で終われているところ、そこに他人事ではなく悪くなった事後にいるって悪夢ですね。語感的にも、確かに悪すぎる状態だなぁと腑に落ち…
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