地獄へようこそ
最初に抱いた感覚は え? だった 何もない 何も見えない 何も感じない
落ちてるのか 浮いてるのか そんな感覚さえない それがわかると今度はそれが恐怖に変わった
怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい こわい
恐怖の感情が心を埋め尽くす 何もないのに自分だけがあるという恐怖と絶望
たすけて たすけ、
涙すらでそうなのに 出せる涙も 叫ぶ声も出せない ただ意識だけが虚空に存在してる
何秒たった いや何時間? 何日? まだなのか? すぐに見つかるようなことを言っていたのに! もしかして う、そ ?
そう思った途端に ぼくは発狂した 騙された! 騙された 騙された 騙された だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた だまされた!!
いや、おちつけ おちつけ おちつけ! 助けてくれるって言ったんだ だから 頼む
頼むよ 助けて、くれ
藁にもすがるような想いで祈り続ける
今は信じるしかない この地獄が一秒でも早く終わってくれることを
心が折れかけた その時
ざぱっとまるで深海から引き揚げられたように 大きくぼくは息を吸い込んだ、気がした
「おかえり」
そういう彼に ぼくは
『遅いじゃないか!何をしていたんだ! あんなに、あんなに待たされるなんて聞いてない!』
あまりの言葉にぼくは怒りを彼に伝えた
「あんなに? 何を言ってるんだ? 時間にしてみれば大体2~3秒だったぞ?」
『え?うそ だって』
「気をしっかり持てといったろ 観測不可能領域には時間の概念も存在しない」
「対処法は教えたはずだ 心を静めて、時間は数えない そうすれば取り乱さずに済むと」
『あ、そう、だったね 気が動転しちゃって』
「でも、よく頑張ったよ おかげでこうして、お目当てのものが手に入った」
『あ!』
彼の黒い左手には雪の結晶?のような造形のものが握られていた
「こいつがあれば」
そう言ってザインクラフトと呼ばれたそれがほのかに光るとかちゃりと両手足についていた鎖の鍵が外れる
『え? 何今の?』
「鍵にハッキングして、開錠した」
『鍵に、ハッキングしたって それ、鉄の鎖 ははっ むちゃくちゃだな』
物理的だろうが、電子的だろうが、情報的だろうが この世に存在しているのなら、干渉できる
存在に干渉する(ザイハック)とは、そういうことだ
『もう、帰れるの?』
「そのことで、君に謝らなければならないことができた 結論から言うと、今すぐに帰ることができない、ということがわかった」
『え?なんで?』
「俺と君の存在構造が想像以上にぼろぼろだったことが原因です このまま現実に無理矢理帰ると、強度が足りなくて、現実に到達する前に空中分解します 現実から空想におろすのは割と簡単ですが、その逆をするにはそれだけの規格、エネルギー、強度がいります 現在我々はその全てが足りてない こうして我々が存在していることから楽観的に考えていましたが、ザインクラフトで自分達の存在構造を確認したら、絶句した ここまでひどいとは思っていなかった 奇跡だといいましたが、本当に言葉通り、我々は奇跡の上に成り立っている ここが空想世界でよかった 現実にいたら、俺も君も、今頃生きてはいないでしょう」
『そんな』
ぼくたちは、帰れるのか? そんな思考が漏れ聞こえたのだろう
「安い慰めはしません 追い打ちをかけるようで申し訳ないが、ここでおとなしくしているわけにもいかない この世界はかなり危険な世界です そして俺の予想がただしければ今は我々の安全はかなりの危険域に達している」
『ど、どういうこと? これ以上、事態が悪くなるの?』
一難去ってまた一難、状況は何一つ改善していないのか
「ザインクラフトで空想世界に行く際に、ゲートとなる入り口はあまり重要ではないですが、安定させたいのなら、ある程度、形から入るのがいい」
『???どゆこと?』
「ゲーム、小説、漫画、その他もろもろ 手元に実物があったほうが空想世界にはいきやすいって話です」
『う、うん よくわかんないけど、わかった それで?』
もう彼のむちゃくちゃに口をはさんでいたら、話が進まないことだけはわかった
「俺はザインクラフトの実証を何度も行い、調整がついに終わったその日の夜、ディラフトと、とあるゲームをしながらお祝いをしていました アヴェスターゲームという同人ゲームです そして俺はそのゲームが終わる前に寝てしまった 起きたときに、俺が虚無と呼んでいる謎の反存在兵器に襲われ、気づいたらこの世界にいました 俺が瀕死になる前の状況から推察して近場にあった逃げ出せる環境にあったものを考えれば、必然、ここはアヴェスターゲーム世界だと考えたほうが自然です」
『なるほど?』
言っている内容はぶっとんでるけど、一応理解はできる
彼の話を順序立てていけば、確かにそう考えるのが自然のような気がする
「この世界はかなり悪質かつ危険の多い世界観です 普通こんな世界には来ません ですが、ディラフトがゲームをつけっぱなしにしていなければ、俺も君も死んでいたでしょう、責めることはできません、もっとも安心できる話でもない ザインでゲーム世界に入る場合、スタート地点はどうなるのか? この場合、スタート地点はゲーム画面の進行状況に準拠します」
そして、俺が覚えている限り、ゲームの画面はヒロインであるナツがマシロをめった刺しにするシーン、つまりラストエンディングで終わっていた そして俺らの今の姿は....
『それ、やばくない?』
「かなり、やばいね」
同じアバター内にいるので、できないが 気持ち的には互いの顔を見合わせたような神妙さだった
『ど、どどどどっどどっどどどどうするの?』
「スタート画面に準拠するとはいったものの、ある程度前後はするはず 少なくとも俺らは牢屋の中にまだいる ならまだことは起きていないかもしれない それを確認したい」
起きていた場合、ナツは絶対にマシロを許さないだろう なんせ恋人を殺されたのだから 中身が違うとはいえ、まだ生きているかもしれない恋人の体をおしゃかにした マシロを許すわけがない やってもいない殺人で彼女に殺されるというのは絶対にごめんだ シャレにならない
『ちょっとちょっと!まさか現場に行く気? 正気じゃないよ 絶対にフラグだって!』
「この要塞のボスである醜男をどうにかしないと、そもそも逃げることもできないよ フラグは回収しないと先に進めないものでしょ? 覚悟決めなよ そもそも避けて通れない関門だ もし止められるなら止めたほうがいい 俺なら善から醜男を引きはがす手段もある 助けることができたのなら、今後この世界でもやりやすくなる やっておいたほうがいい 俺らにはこの世界での頼りがない 主人公陣営は敵に回したくない この姿ならなおさら」
『ううっ おなかもないのに、おなかいたくなってきたよぉ~』
よし、外にでるぞ そう考えていたその時に 頭痛に見舞われる
!っクソ このタイミングで
『え?え?なになに? どうしたの?』
「---静かに 少しすれば 収まるので」
『う、うん...』
痛みが引いた ゆっくりと立ち上がる その時
『え? そ、その瞳』
「気にするな」
『でも』
こいつは持病のようなもので、どうにもできない まったく体が変わったというのに、この体質は消えやしないな
(また変な電波でも受信したか ) と心の中でごちる冬
心配そうにする冬真だった それもそのはず
鏡に映る冬の瞳は、最初は薄いきれいな青い瞳だったのに、いまは極彩色の万華鏡のように神々しい色彩を放ちながら、爛々と輝いていたのだから
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武器がほとんどない
切実な悩みだった
仮称:虚無との戦闘時に、存在を削られすぎた、その時に無頼も失った
腕とか心臓とか頭とかも食われたのに、なぜか生きている あれらの生態?機能?生物なのか、兵器なのかすらわからない未知の脅威によって、己の存在に刻まれ、保存されていた複数の存在兵装、刻紋を大幅に失った
失くしたことは痛いが、あれらが俺の代わりに喰らわれてくれたおかげで生き残ったところもあると思う だから九死に一生を得たと思って、受け入れるがそれで今の状況が楽になるわけではない 武器がない以上、できることも少ない
今は敵から隠れながら、要塞の通路を渡っている ザインがあるのが唯一の救いだ
こいつがあれば、存在感を薄くして、相手から見えにくくすることも可能だ 迷彩機能のある兵装があればなおよかったけれど、ぜいたくは言っていられない
要塞内を行き来する敵はほとんど、存在変質したアエーシュマがうろついている
アエーシュマというのはダエワの兵器、憑神のうちの一機である【アンラ・マンユ】によって存在を改竄され、奴隷のように作り替えられたノルマやアニマの成れの果てだ ダエワ動揺、正常な環境下では生きられない 汚染された空気、汚染された水、汚染された作物や汚染された鉱物 その他もろもろ 要約すると通常の人間が食べるものは食べられず、毒物の類ならそれがたとえ鉱物や貴金属であろうと食べられる
人間も食べるが、アニマは食べられない 腹を下すから 決して相いれない存在としてこの世に存在している
ダエワの憑神7機とアニマの護神像7柱を用いた戦い それがアヴェスターゲーム
一連の話を俺は冬真にした
『人間を、食べ うっ』
吐き出しそうになる冬真 実際には冬真はこの体の使用兼がないので、えずいているだけだけど、つらそうなのは伝わってくる
「ダエワは殺す、ノルマも場合によっては殺す」
そう告げると人を殺すなんてと猛反発しだした冬真にこの世界の状況を俺は説明した
「君の倫理意識を否定するつもりはありません ですがあえてここはきつい言い方をします 君のわがままに付き合っている余裕はない 殺さなければ殺される この世界で種族間の問題というのは話し合いでどうにかなるものではない 精神構造から、生存手段に至るまで、あらゆる面で分かり合えない存在というものがこの世界では出てくる」
きれいごとがまかり通るような世界ではない 法や倫理なんて飾りにもならない
より原始的な欲求のままに、奪い、殺し、犯す この世界は今、世界そのものが終わりに向かっている 草木は枯れ、水も空気も腐り、食べるものがほとんどない だがダエワにとっては最高の環境下だといえるだろう
「ダエワは繁殖能力も非常に高い 人間相手でなくとも子供は作れるし、生まれてきたやつらは全員ダエワになる 生まれた赤ん坊のころから邪悪で、戦闘能力も高い」
『この世界観作ったやつ、イカれてる』
「俺はアニマを守る もう手遅れに近い、いやはっきりと言って、終わってしまった世界だが、ここにきてしまった以上、見て見ぬふりをするつもりはありません」
『だけど...』
「君を帰すと約束した手前、危険を冒すな、といいたいのでしょうが、それは聞けません この世界を作ったのは俺じゃないですが、この世界に入ってしまえる技術を作ったのは紛れもなく俺です この世界の住人がダエワ達にいいようにされるのを見て見ぬふりするつもりはありません」
もとより俺の目指した世界の雛型がアニマだ 見殺しにはできない
「人殺しに関しては、当然ですが君に責任はありません もとより現状の珍妙な状態である君を裁ける法律も存在しない そもそも殺すのは俺で、君じゃない それでも許せないと思うのなら俺を恨めばいい 謝りはしないが 恨むのも憎むのも自由だ そのことで報復したりはしない 君が俺に何かしらの悪意をもって行動を起こしさせしなければ、ですが」
『そ、そんなこと、しないよ!』
「見て見ぬふりをしろ、映画の中の映像だとでも思いこめ」
『そんな、簡単に割り切れないよ』
「君らの惑星は、ずいぶん治安がよいのですね」
『冬の惑星では治安は、よくないの?』
「外を歩いていたら、腕を切り落とされることはざらにある 道に死体や手足が落ちてることもあるし、女性が一人で歩いていようもんなら犯してくれと言っているようなものだ、ってのが今の時代の人間だって、いったら信じますか?」
『...せ、世紀末じゃないか...』
絶句する
「俺らの惑星は海しかない場所で 住める場所が限られている 資源も乏しい 資源の奪い合いは各都市間でも常に熾烈な争いをしてる 生きようとする気持ちの前では善悪という箍は意味をなさない 都市内部でも住める場所が限られている以上、子供も簡単には産めない 産むにはかなり厳格に審査され、その子供の将来設計、どこに住み、何を仕事にし、どこの誰と結婚し、子供は何人産むのかも産まれる前から決められる 都市にとっては人間もまた、資源なのさ」
『そ、それ、冗談だよね?』
冗談であってほしいという願望が漏れた
「冗談だったら、よかったな」
言葉が出なかった そんなの、って ディストピア 言葉の定義をあまり詳しくはないが、きっとこういう社会のことを、いうんだろうなって思った
「そんな環境だ 市民の生活水準はさらに格差が広がった 富める者は土地や教育、仕事を独占するし、貧しい奴らはどんどん外に追いやられる そうすると犯罪も増える 都市内部と外側では治安の差が激しい 一応惑星移民してくる前の旧時代の純血民族のひとりだけど 俺は上級市民ではない 上級市民ではない純血民族の末裔は面倒ごとが多い 住む場所によっては待遇も変わる 俺は棄民で、都市の外で暮らしていた この惑星において最悪の治安環境だったといえるだろう
「壁の内でも外でも攻撃を受けた だから君とは価値観が合わないのはわかる だからこれ以上、君とこの手の話で議論する気はない」
血筋の問題は現代においてかなりナーバスな話だ 旧世代の血筋や民族 純潔派という危険思想のものや、教団という異常な宗教団体が跋扈して、滅びた都市も少なくない 遺物や遺跡に関しても必ずしも人類に対して益をもたらすものではなく、侵略目的、あるいは純粋に文明圏への悪意をばらまく攻撃性を有したものも含まれている
もちろん、問題はそれだけではないが、人類は外にも内にもたくさんの滅びの要因を抱えすぎている
俺がいうのもなんだけど、まだ人類は生き残っているな、と思う
『...ごめん』
「謝らなくていい 多分、君みたいなのが本来あるべき人の形、だったんだろうな でも俺はそうはなれないし、なりたいとも思えない いざというときに戦えない人間に、俺はあこがれないから なんでも暴力で片付けるべき、というほど横暴ではないつもりだけど いざというときに、戦えない人間を評価しない」
善意、というもので社会規範を推し進めた結果、民族間の問題で俺たちの祖先は失敗した
そして、その問題は現代において更に悪化している 歴史は何度か転換点があったようだが、それらは全て失敗し、同じことを繰り返している そのことから学んだことは人は、変われない DNAに刻まれた本能に従って人はデザインされる DNAそのものを弄りでもしない限り、同じことを繰り返すだろう 教育は大事なのだろうが、同時に限界も見受けられる 人類は今、自分たちの生物的構造の限界に行きあたっているのかもしれない 人もまた生物だ 環境によって左右される 現環境は俺たちの欠陥をむき出しにした 一度深まった溝はもう埋まらないだろう
もっとも俺自身、人類が滅んだところで、特段悲しくもないが
そんな話をしていると、ダエワの二人組が廊下を歩きながら話している
肌が墨でもぶっかぶったかのように真っ黒 金色の瞳 髪は生えていない 顔がいかにもな悪党面をしている
「おい、おまえ最近イキのいいやつ捕まえたんだろ?俺も一緒に楽しませろよ」
「はぁ?ふざけんな 俺が使い古したお古で我慢しろ」
「ざけんな お前が遊び終わったおもちゃ、全部まともに動かねぇだろ」
下品な話をしている二人のダエワ
その話にでてくるおもちゃが、何を指すのか、想像にかたくはなかった
冬真が止めるまもなくすっと彼らの背後に降り立ち、二人の首の可動域を超えて回す
音もなく崩れ去った 決してはやいわけでないが、その動きには無駄がなかった
息をのむほど見事な隠形だった 何をしたのかはわからないが、素人ですらわからなくともすごいことをしているとは、わかるほどに それが殺しの技術でなければ感嘆の声を上げていたと思う
『うっ... えっと、その、冬、さんは...』
「ぷっ ビビりすぎ 別に取って喰いはしないよ」
冬はダエワ二人を引きずっていき、服を脱がせ、自分が着る 黒い腕や白い腕も手工具で完全に隠す この腕は目立ちすぎる 多少の武器が手に入ったのも大きい 欲を言うならフルフェイス型の仮面もほしいところだが、見当たらないので断念する
『いや、あの、その、そういうわけじゃ...ごめんなさい』
「さっきも言ったけど、君のことは元通りにして返すつもりだ 俺らの存在状態を確認した今でもその意見は変わっていない ただ今すぐとはいかないってだけでいろいろ準備さえ整えばできる 少なくとも1年以上かかるような話ではない、とだけ言っておく もっとも俺らの危機的状況を無事に乗り越えられれば、という点を置いておけばだけど」
話をしながらもあたりをしっかり見渡す 長い廊下だが、もうそろそろ目的の場所につく 敵の索敵からも無事逃れられている
『...』
沈黙しているが、聞きたいことがありますって、だんまりの仕方
「いいたいことがあるのなら、いったらどうです? 俺自身おしゃべりは好きじゃないけど、しばらくはこういう状況です ストレスたまりますよ」
別に彼のことをそこまで気にかけているわけではないが、帰すといった言葉を反故にする気はない 巻き込んだ俺の不備だ 悪いと思っていれば反省もする 一言でいうなら、義務 善意とか好意は一切ない 完全に自分の都合だった
『え?いや、あの、別にそんなんじゃ ...いえ、少しだけ、あります』
しどろもどろ、だが最後のほうで観念したように言葉を絞り出す
「なに?」
『冬、さんはどういう人、なんですか?』
あまりに戦闘慣れしすぎている さきほどの手並みも普通じゃない
「テロリスト」
『え? じょ、冗談、ですよね?』
「冗談ならよかったな」
急に緊張感と焦燥感で満たされた彼の感情が伝わってくる
「俺らの世界でテロ行為はさほど、めずらしくはない 都市と個人で喧嘩する奴なんてざらだ なんせ自分の命を狙われることなんて、年がら年中だからな」
『都市に狙われるっていうのがよく、わかんないんですけど』
「一つの例を挙げると、とある遺跡を攻略して、遺物を持ち帰り、都市と交渉して売買する これがオーソドックスなサルベージャーの仕事だ でも交渉がうまくいかなかった場合 いい遺物を手に入れたのにも関わらず、それを安く買いたたこうとしたときに取引を打ち切って、別の都市に持ち込むことがある でも都市ってのは自分の縄張りで手に入る遺物が、よその都市に流れるのを嫌うんだ だから武力的な脅しをかけることがある それでサルベージャー側も応戦する、でもたいてい殲滅戦にはならない どこかでどちらかが引く だが、そうなったときにお互いの関係が良好のまま、次もその都市で依頼をこなすってこと、すると思う?」
『ずい、ぶん やばんなんだね』
ドン引きだった 言葉すら選べないほどに
「自分の過ごす都市に愛着を持つものもいる だから多少の理不尽なら、仕方ないって受け入れる奴もいるんだ だが、そうじゃない奴もいる そしてそういう奴ってのはどこの都市ともだいたい問題を起こして、都市内部での行動を制限される 厄介な都市ってのは別の都市と連携して、そのサルベージャーの取引をさせないような経済制裁、つまりいやがらせをするんだ 力ある分、そういうことができてしまうんだよね」
『ひどいね』
遺跡に潜るってのもただじゃない 調査費、武装費、食費、回復薬、人件費 その他もろもろ 遺跡の難度によってその費用はピンキリだが、決して安くはない 人だって死ぬ 保険適用外だしね
都市側は基本野良のサルベージャーに対して保証をほとんどしない すごい遺物を安値で買いたたく、そういう横暴が続けば、人心も離れていく 最終的にはいやがらせの応酬でブチ切れて、抗争に発展する
『そういうのって、なんで、その、企業?ってのが自分の部下使って行わないの?』
「いやな思考は苦手? 自分が手塩にかけて育てたうん十億、あるいはうん百億以上かかった人材を、ぽこぽこ死ぬようなとこに行かせたいと思う? 人も資源の時代だ、それだけで大損だよ」
『うっ ほんとに、いやな話』
「下は下で低賃金労働、それも治安の最悪なとこで、家族の面倒なんて見られない 一攫千金を夢見て、遺跡へ なんてことは往々にしてあることなんだよ」
『そう、なんだ』
「そういう環境下だから、とある企業の支配権では指名手配されているサルベージャーってのは、いくらでもいる テロリストと言っても、常に世界をわが物にしようとする悪の秘密結社っていうのとも違う 別の都市でもめても、別の都市じゃ英雄扱いってのは珍しくない」
倫理基準が各都市の裁量によりすぎてしまったがゆえに、犯罪者というものの定義もだいぶ曖昧なものになってしまった
『そ、そうなんですね』
「しっかりした大企業の元だと、そういうのも少ないけど、遺物の種類によってはやはりもめる その都市にとって益はないけど、別の都市だとウケがいい、けれどほかの都市に流れる、ってのが技術流出の観点から許容できない でもこの程度の技術に大金は出したくない ようするに、都市側の都合」
都市ってのはもはや、一国一城の主のようなものだ 都市間のパワーバランスは偏っており、二大都市とさえ呼ばれていた時期もあるほど、一部の都市が技術的にも経済的にも圧倒的に突出しやすい構造になっている 回国主義の人間からすれば、国を分裂させるような思想は許容できないため、お偉いさんなんかはあくまで国家の支柱を崩すような思想が漏れ聞こえてくれば、遺憾の言葉を発してくるが、都市単体で自己の経済を回せてしまうほどの力を持っている都市からすれば、参考にさせていただきます、くらいで流される
国家の転覆や乗っ取りを考えている都市が今のところ出ていないだけで、時間の問題だと思う 厄介な野心家はどこにでもいる それでもそういう方向に舵を切らないのは 今の時代、国というのは重くなりすぎるから 都市くらい小さな範囲のほうが人間は管理しやすい 人間を統制しきれるという意味ではなく、問題が発生した場合に、発覚しやすく、おかみに相談する前に自分たちの都合で対処しやすい、という意味で、都合がいい
『うへぇ』
「都市には都市の都合がある、ってのは理屈としては理解できる だがサルベージャーになるような奴ってのは生活困窮者がほとんどだ そんな奴に死に物狂いで稼いできた貴重な遺物を二束三文で買い取られれば、反感を買う」
『世知辛いな~ 聞いてるだけで気分わるくなっちゃった... その話を聞くと、冬、さんもサルベージャーって奴だったんですか?』
「元、がつくけどね それと呼び捨てでいいよ 呼びづらそうだし、別に俺は上下関係 気にしない」
敬意に値すると判断すれば年下だろうと勝手に敬語で話すしね 礼儀だからで形式的なやり取りってのはどうにも理解に苦しむ
『そお? でも助かる、かな ぼくもこういうかたっくるしいの、得意じゃないから でもいろいろ苦労、されてるんですね? テロリストなんていうから、正直やばい人なのかっておもっちゃって』
「実際君が思うよりもヤバイ奴だよ 危ない橋も渡ってきた 都市ともいろいろもめたし、もめてる ろくな死に方はしないだろうね ただ、自分からした約束したことは守るよ できる限りね」
『それは、どうしてですか?』
「自分で自分を裏切るわけにはいかないから この世で信じられる唯一の存在は、自分だけだ 自分を裏切るってのは自分を殺すようなものだよ」
ぼくはこの人のことを知らない、たぶん悪い人なんだと思う でもぼくにそれを隠し立てしないのは彼なりの誠実さなんだと思った 冬真はそこに冬の持つ、狂気にも等しい、ある種の美学を見た気がした ただ、なぜかわからないけど、信用はできる、不思議とそう思わせる人だった
「目的の場所についた ここからは静かに頼む 君の声は外には聞こえないが、俺の集中を乱したくない」
『はい』
そういっておとなしく引っ込む 引っ込むとはいっても精神的に、だが
ぼくはこの瞬間までなんとかなるような、楽観的な気持ちでいた
だが、扉を開けたその瞬間に、そんな考えは一瞬で吹き飛んだんだ...
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血の匂い 血が飛び散り、血が噴き出し、血を纏う
怒り狂い、狂気を振りかざすように、男は何かを刺していた
いや、何か、などとそんなごまかしは意味がなかった 人だ 目の前の彼は人を、刺し殺していた 刺し殺している最中だった
冬が即座に止めに入る 男の包丁を持った手をつかみ、投げ飛ばす
男が立ち上がる そのいでたちにおぞけが走った なんで?
その姿は いまの自分達の姿と瓜二つだった ただ違うところもある 真っ白だ 髪も肌も 真っ白で 瞳は血のように赤く、それに負けないほどの殺意をまき散らしていた
右目の下には二つの泣き黒子 こちらは左目の下に二つの泣き黒子 女性のように美しい容姿だが、その形相は人でも殺しそうな顔に見える いやすでに刺してるけど
こちらのいでたちとはまるで鏡移しのように反転している 黒と白 まるで格ゲーの2Pカラーみたいだ なんてこんな異常事態にそんな馬鹿なことを考えていた いや異常事態だからこそ、なのかもしれない 落ち着いているのは、冬だけだった 冷や汗どころか、表情一つ変えていない 心臓も至って一定の音を刻んでいる こんなことは珍しいことでもない、というような自然体だった
ふぅ ふぅ と息を吐き散らしている男は
「てめぇは だれだああああああああああああああああ!!!!!」
そうとうご立腹のようだ でも自分と同じ顔した奴にいきなり投げ飛ばされたらそういう感想になるのかもしれない
(もう無理だな)
『え?』
(あの状態まで損壊させられては、今の俺の手持ちじゃ、蘇生させられない)
苦虫をかみつぶしたような声色でいう
『余裕ですね! この状況で!!』
(余裕ではない 状況は最悪だ とりあえずさっさと制圧する)
ゲームのシナリオのエンディングは変更しきれなかった
圧倒的アドバンテージを生かせなかったということだ
だからと言って、これ以上の事態の悪化もごめんだ
そこで行動に移ろうとしたその瞬間に 事態は急変した
本物?のマシロの後ろから虚無が出現する あいつには見えていない
「なにを!?」
虚無はあっさりとマシロを頭からバクリっ 一飲みにする
『え?え?え?』
冬真は困惑する
「おいおい マジかよ」
虚無がこちらを向く こちらが臨戦態勢をとるが、しかし襲い掛かってはこない
それどころかこちらの様子を窺うようにしたのちに、まるでこちらをあざ笑うように姿を霞のように消した なんだったのだと息をつかせる暇は与えてくれなかった
「マシロ?」
先ほどの光景にすら動揺しなかった冬の心臓がドクンと高鳴る
女の声だ この場面 この光景 幾度と見た 幾度と繰り返した 決して変えることのできない、逃れられない結末
「ぜん、ちゃん...」
ひたひたと歩いてきて、こちらの横を通り過ぎる ぼろぼろの服装で、めった刺しにされた、恋人に向かって
ふるふると震えながら 死体を抱きしめる 嗚咽が聞こえる
(まずい まずい まずい まずい!!!)
『ちょっ 冬、どうすんのこれ?』
(決まってる!)
俺はゆっくりと ひっそりと 後ろに後退する そして
全力でその場を後にした
後ろから絶叫とともに、こう聞こえた
ぜったいにころしてやる!!!! マシロ!!!!
失敗した! 失敗した! 失敗した! 失敗した!
悔恨が胸の中を満たす 血が出るほど歯を噛みしめ、爪が食い込むほどに握りしめる 俺の人生で素晴らしい成功体験など存在しない だが、そんなうだつの上がらない人生の中でも、史上最低最悪の失敗を 俺は犯した
後ろからすさまじい殺意をまき散らしながら追いかけてくる少女から逃げる
ここから始まる物語は 天国を目指した少年の 巡り巡る 地獄巡りの 物語
天国の門はいまだ遠く 地獄の坂はいまだ続く




