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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第2章 

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黒金都市


背景に夜景を背負うようにして、オフィスビルの最上階で男が待ち構えていた。


床から天井まで届く一枚ガラスの向こうには、光の海のような都市が広がっている。男は金髪に黒のメッシュを入れている。


年の頃は三十代から四十代に見えるが、もっと歳を重ねている可能性も否定できない。


この都市では技術の進歩があまりに進みすぎていて、外見だけで年齢を判断すること自体が微塵も意味をなさない。


──あの髪の色、ハルを思い出して、あまりいい感情は湧いてこないな。


黒金くろがねがどこまでこの件に噛んでいるのかは分からない。春自身は「どうやって入り込んだのか分からない」と言っていたが、それが真実かどうかは判断できない。


だが、黒金都市の関係者である可能性は高いだろう。ディラフトは否定していたが、俺がここに来た理由は、その真偽を直接確かめるためでもあった。


オフィスの内装は、過剰さを抑えた洗練でまとめられている。


黒を基調とした床材は光を吸い、壁面には無駄な装飾が一切ない。微細な光のラインが一定のリズムで走り、空間全体に静かな秩序を与えていた。


中央には重厚なデスクが置かれているが、素材は人工金属木材の複合型高密度合成素材だろう。

表面には一切の端末が見当たらない。


必要なものはすべて、空中投影か、神経接続で呼び出せるということだ。


視界の端では、半透明のホログラムが無音で情報を更新し続けている。


株価、物流、都市内エネルギー配分──企業都市の鼓動そのものが、この部屋に集約されているようだった。下品な誇示はない。


だが、これだけはわかる。この場所が、都市の頂点に属する人間のための空間だということが。 


そして、その中心にいる男が、どれほどのものを握っているのかも。


「はじめまして、ふゆといいます。ご拝命にあずかれたこと、感謝いたします」


とりあえず杓子定規の挨拶を済ませ、会釈する。

真白ましろの名前は伏せた。


ディラフトから聞いてはいるだろうが、あまり良くない印象を与える可能性が高い。

ディラフトにも、俺のことは冬と呼ぶように言ってある。


「面を上げたまえ。こちらの都合で呼んでいる以上、無礼講とさせていただこう」


「ありがとうございます」


「遠路はるばる、と世間話は辞めておこうか。単刀直入に聞こう。君が、ザインクラフトの開発者、でよろしいか?」


「ええ、そうです」


「そうか」

極夜きょくやは口元を少しだけ綻ばせてみせる。


「ディラフトから先に聞いているが、改めて聞かせていただこう。ヴォイドと呼ばれるもの、君が虚無と呼ぶものについて」


「彼らは存在を消滅させる力がある、というのは、もうわかりますよね。俺から言えることはさしてありませんが、何をお聞きしたいので?」


「結論から。彼らに対抗する手段はあるかね?」


「私だけの話ならば、あります」


「それは、本当かね?」


目を細め、こちらの真意を探るように見据える。


「ええ。とはいえ、量産はできませんが」


反存在アンチヴォイドは俺固有の力だ。

技術的な転用はできない。


「そうか。あれらを殲滅することは可能かね?」


「俺が把握してるだけの話になりますが、奴らの王と思しき存在を現在4人確認済です。そのうちの1人を討伐完了しました。残りも潰せば、あるいは」


「……にわかには、信じがたいな。すまない、自分で聞いておいてなんだが」


あまりに都合が良すぎると思っているのか、思案顔をしている。

一企業の頂点が、目の前のよくわからんニンジンに即座に飛びつくことはない。


「仕方がないかと。私が逆の立場でも疑うと思いますので」


逆に言えば、これ以上の説明もできない。実際、奴らの王を討伐することが全ての虚無の討滅になりうるか、と聞かれて絶対性を証明することは難しい。


だが、個人的な感覚では確信がある。あいつの領域を俺が占有している以上、もうあいつの領域から虚無が発生することはないのは確認済だ。


「彼らは倒しても一時的に退くだけで、また復活する。それはご存知か?」


「ええ。ただ、俺はあいつらの領域そのものを占有することができますので」


「うむ……」


極夜も「信じる」とは言えなかった。

当然だ。彼らにとってあれらはあまりにも未知、解析すら不可能な存在だ。


「ははっ、私は信じるよ。君がこの手の話で盛ることはない。それにしても、君はいつも何か、やらかすね」

ディラフトが横から口を挟む。


「うるせぇよ」

極夜が再び、重々しく口を開いた。


「現在、我々は原因不明の病気を患っている。それを我々は『存在劣化症』と呼んでいる。君には、これに対する治療法について心当たりはあるかね?」


期待はしていなかった。


黒金都市の選りすぐりの医療関係者が匙を投げた案件だ。極夜は自分の左腕を見せる。


そこには存在劣化の跡が見られた。


黒い影ができて、バグのようなノイズが走っている。


「ええ、一応は」


「「できるのか!?」」

これには極夜だけでなく、ディラフトも驚いた。


「これも俺特有の能力で、量産できる技術ではありませんが」


「それには、かなりの設備が必要なのかね?」


「そういったものは必要ありません。俺の特殊能力、とでも思ってもらえればわかりやすいかと」


「今、ここでそれは可能か?」


「ここでは無理ですね。俺が今使っているアバターは遠隔型なので、俺自身がここにいるわけではないのです。俺本体と対面していないと無理です」


反存在アンチヴォイドは遠隔型のアバターでは扱えない。今の状態で虚無に襲われれば、このアバターはロストするだろう。


「なら、今ここに来てもらうことはできないのか? それか、私自ら赴くことも考える」


企業主としての顔になっている。


傾聴に値する、いや、己自ら向かう価値があると、その価値を推し量ろうとする眼だ。下品とは思わない。


一都市の統主は己の利益だけでなく、都市全体の利益を考えないといけない。


もはや一国一城の主のように。 


「いや、それは……」

正直に言うなら、あちらの世界にこちらの人間を入れたくはない。


だからといって、俺が直接ここには来られない。


アバターは、俺と冬真がいざという時に逃げ込める用の予備を数体作っている。


それを一時的に使えば問題はない。


心情を脇に置いておけば、だが。


しかし、こちらも白銀のことが知りたくてここにいる。ある程度は譲歩するべきかと思った。

白銀の復活に虚無が関わっているのなら、それが意図的なのか、結果的になのか。


その違いによっては、虚無が白銀を使って何かをしようとしているとも取れる。


虚無が関わっているのなら、あいつらは当たり前のように空想世界へ乗り込んでくる。全容は知っておくべきだ。


「大量には無理ですが、数人程度なら考えましょう。俺にも俺の事情があるので、最優先とはいきませんが」


「ないよりはいいさ。少し希望が出てきた」


「では、こちらも白銀について、お聞きしても良いですか?」


「ああ、白銀が復活した件だな」


「本当なのですか、それは」


「実際に行ってみるかい? 白銀に」


「いけるのですか?」

現状の手持ちで白銀までの渡航が可能なものを持ち合わせていない自分としては、渡りに船だ。


「最近の白銀は、少しだけ警戒が薄くなっている。やはりいくら高い技術力があるからといっても、都市が何年も単独で経済を維持するのは難しい。どうしても交流は必要になる。今なら多少は融通がきく」


願ってもない話だ。


「頼みます」


「では、明日はどうかな? 急な話だが」


「助かります。俺としても急いで確認したいことなので」


今までにないくらいスムーズに事が進む。


「では、今日は我々の用意するホテルに泊まりたまえ。VIPルームを用意しよう」


「そこまでしていただくわけには……いえ、お言葉に甘えさせていただきます」


相手にも相手の立場があるだろう。

安宿に泊めたとあっては、悪い噂が立つこともある。


上の連中はそういう建前を大事にするものだ。


VIPルームと呼ばれる場所に案内される。


驚くほど柔らかいベッドに、温かいシャワー。

正直、居心地が悪かった。


このアバターは消耗品だ。別に風呂に入る必要はない。

手入れくらいだ。そもそも俺の本体はあちらにあるのだから、ここで「休む」というのはかなりズレている。


それでも、自分一人だけが良い生活をしているのが、どこか心苦しかった。


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