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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第2章 【最後の善意解放作戦】

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春の木漏れ日


「ねぇ、春ちゃんはお母さんのこと、捨てないよね?」


泣かないで、怒らないで、憎まないで、許して、謝罪は一切なかった

母はそう言ってよく私を殴った

およそ何かを背負う、ということができる人ではなかった


母は元々、黒金一族の一人の愛人だった

子供ができれば囲ってもらえる 

だがなかなか黒金(父)の間に子供ができなかったそうだ 

種無し、ではないらしい ほかの愛人との間には子供ができていたそうだから

母に問題があったのか、それとも単に相性か、運がなかったのだろう

自分よりも若い愛人が子供を作る それに焦りを感じた母はいつか捨てられると思った そしてやってはいけない事をした


物心つく頃まではいい生活ができていたと思う けれどある日、黒金の統主交代時期に、黒金関係者の血縁確認が行われた 次代が決まる前に統主が倒れられたことで急遽、代理の統主を立てる あくまで次が決まるまでの代役だ


黒金都市の統主は実力制なので、血縁はあまり関係ないとされるが、それでも黒金都市の名前を冠するからには一族から統主を、というのは人の感情だろう

実際黒金都市では黒金以外の人間がトップに立ってもあまりいい成果が出たことがないこともあり、そのほとんどの歴史で黒金関係者がその座に就いていた 

黒金一族も血を重んじる者は存在する

そこで、私が黒金の血を引いていないことが露見した


母は、見知らぬ者と関係を結び、私を作ったのだ

黒金(父)は、愛人という立場だが、母のことを大事に思っていたのだろう それだけにショックが大きかったようだ

母も、私も、特区から追い出された


その後の人生は悲惨だった 母は男を作っては失敗して、私をなじるようになる


お前のせいだ お前のせいで 

それが母の口癖だった

ろくでなしの性はさらに落ちるところまで堕ちていった


ある日、母は悪い宗教にはまった


子供のためには頑張れなかったのに、神のためなら金をいくらでも貢げる女


弱い人間が嫌いだ 自分で背負う事が出来ない奴はすぐに神とやらにすがりつき、自分の荷物を投げ捨てる

自分の人生を自分で背負えない生き物だった


とある女性が私を連れ出した 環境からの脱却

私は初めて希望を感じたのかもしれない


女がいなくなった なぜかは知らない

私に飽きたのか 面倒を見切れないと判断したのか


最後まで関わる気がないのなら、手など差し出すな…!


幾度となく私を責める母との暮らしは私の中で特異な変化を起こした


私は憎しみや苦痛、恐怖などの負の感情をアウトプットできなくなった 度重なる虐待の結果だろうと医者は語った


医者は私をこの世界である種、最も幸福な人間なのかもしれないと本でも読むかのように、詩的に表現する始末 それで慰めてるつもりなのだろうか? あるいは特異な状況のモルモットでも観るような気持ちだったのかもしれない



医者は私に創作を勧めた 創造が私の中の感情を整理するツールになると、彼は言った


私の中から生まれ出てきたものは、ただの不出来の模造品デッドコピーだった

自分の中で持て余したものが形を成しただけ

くだらないお遊びだ


それから女性とは付き合っても長続きしなかった

いつも手ひどく傷つけてふる

その繰り返しだ


そんな中で一人の女性と出会う 町の小さな教会のシスターだ 今の時代、宗教は白い目で見られることが多い

教団の存在も大きいだろう 

私自身、宗教が嫌いだった


その女はいつも呑気そうに微笑んで、不愉快だった どう傷つけてやろうか、そんなことばかり考えていたような気がする


「春さん! 助けてください!」

彼女はたくさんの買い物をして、持ちきれずに転んでしまう ドジなやつだ


「春さん! 聞いてください! 泣きそうです〜」


しょうもない童話の、しょうもない結末で泣き崩れるブチャイクな顔だ


春さん

春さん…

春さん!!

同じセリフなのに、ころころとよく変わる表情

彼女はよく問題事を持ち込んだ

ドジで、マヌケで、それでいておっちょこちょいのお人好し


何故かは知らない けれど彼女とは長く付き合えた 

他の女性にはない何かがあるのか 私には分からなかった 趣味も合わなければ、思想も合わない 

なのに、なぜ…


彼女に聞いたことがある なぜ、神に祈るのか?

なんの見返りを求めるために、君は祈るのか?

母は救いを求めた 救われていたのか、私にはわからない 祈ることで救われるのか 


「神様に祈るのは、欲しがるためじゃないです 神様に捧げるのは、感謝、ですから」


ああ、この子はきっと、この世の全てに感謝を捧げているのだろうなと思った


ある日彼女が私に彼女の父を紹介した

空気が凍ったかと思った 

相手も私に気づいていたのか…


彼女は、私の腹違いの妹に当たる存在だった


彼女とは別れた 手ひどく振った 

理由はもう飽きたとか、前から嫌いだったとか そんなセリフだったと思う 

彼女はその後も何度か私を訪ねてきたが会わなかった 

彼女は姿を消した

その後、事故に遭ったことを知った 彼女のお腹には子供がいたとの話だ 流れた、とも噂に聞いた それを苦にして命を絶ったとも… ほんとのところはわからない 

どちらでも、どうでもよかった どちらだろうと、私の心はその時に一緒に死んだ

それから先のことは、ほとんど覚えていない なぜまだ生きてるのかさえ…


ただ死んでないだけの人生を何年、何十年? 

覚えていない…


そんな折に私はとある存在から接触を受けた 

失ったものを取り戻したいなら、私の啓示を受けろと


そしてこの世界にやってきた 

最初はよく分からなかった 意識がはっきりして、状況を理解しだすと、驚愕した 

そして私は出会う 彼女ハルナ

死んだはずの、彼女に…


私は指示者から啓示を受けることを決めた


指示者の啓示の下、神の遺骸を手に入れ彼女に与えた

原作者である私の特性がこの世界に少なからず影響を与えることがわかった


その後も指示者から啓示は降りた 地下へと行け


この世界に地下世界などない なのに、そこには現実世界に劣らぬ技術力で作られた地下水路があった 指示者の啓示に従い、私は地下の奥へと渡った


そこには誰かの隠しアジトのようなものが存在した

すべてを調べることはできなかった ロックがかけられており、入れなかった だが指示者からはここで待つように啓示を受けた 彼が来る と

そして入ってきた人物は私の知る者だった 見た目だけは その人物は当たり前のように来て、当たり前のようにロックのかかったアジトに入っていく 私はその姿をみて、不気味だと感じた 姿が似てるだけの、偽物だと瞬時に判断した その後も妙な行動を繰り返し、しまいには2人に増える 不気味さを超えて気色悪さがあった


私は彼に仕掛けた 何者なのかなど、捕らえたあとで調べればよい 死んだらそれまでだと


しかし彼は迷彩機能を使った背後からの攻撃をやすやすと避けた

信じられなかった

その後も数回打ち合うが、すぐに分かった 私よりも数段、いやもしかしたらそれ以上の実力差があると

力量が違いすぎる

まともに打ち合えば勝てないことは明白

なので奥の手を使った


指示者は彼への攻撃を大変激怒した

どうやら指示者にとって、冬は重要な存在らしい


その後に突然の乱入者によって私達は壊滅した

だがその後にまたしても冬の存在だ 

彼はあろうことか、ハルナやほかの者達も蘇生させた

回復薬も効かず、まともな傷でないことだけは確かなそれが、彼の手にかかればあっという間に治ってしまった


あれが厳密な蘇生なのかどうかは知らぬが私には冬の存在はあまりにも異質な存在として映った このようなものが存在してよいのか?


この惑星で、いや、宇宙で あまりにも一人だけルールを大きく逸脱した存在のように感じたのだ


私は胸のうちから湧き上がる衝動に従い行動し、そして後悔した


彼に捕まったあとも指示者からの啓示は続いた

時期を待て と

そして指示者は同時にこうも、漏らしていた なぜ、……は、お隠しになられたのか……

その意味するところはわからなかったが、疎通できなかったことだけは伝わってきた


冬の存在は私には不可解な部分が多かった

およそ人と関わりを持つことに価値を見出す存在には見えなかった 

一人で完結してる人間性 他者を必要としない強さ 

仮にこの世界が滅んでも冬は生き残るだろう 

そう思えるくらい


彼のことを虚無的に思う人間もいるだろうが、私には謎の原動力を持つ人間に見えた

それが私には気になった 


特にナツを気にかける理由がわからない 彼のような人間が善良なだけの少女に価値を見出すとも思えなかった


彼女のモデルは私だ 性格や見た目の話ではない

最もそれは出来上がったあとに振り返ってそうだと気づいた程度の話だが 無意識だったのだろう


ただ単に、善悪によらず、人は大きなうねりに翻弄される事がある そこに個人の選択の余地はない それを描きたかった ナツは善良でなくてはいけなかった

不幸な奴の不幸話など、だから?で終わる



日々真面目に生きてる善良な少女が、ある日、突然横禍な時に出くわす それは因果ではなく、不条理で理不尽で、無慈悲でなければならなかった 意味のある苦しみではない ただ運が悪かった 意味のない絶望 無価値な結末



そして私は私のために行動し、今に至る いまとなっては すべてが無意味なことだった

もはや 彼女は失われたのだから


私の裁定はまもなく、降るだろう あの者が私を許すはずもない だが、それもどうでもよかった 

ようやく終わる 死神の登場だ




「笑いたければ笑え」

私はそういった あの冷酷な瞳が私を見抜く


「笑わねぇよ…」


「……なぜ?」

それは、私にとってはあまりにも意外な返答だった


「泣いてる奴は殴れないよ」


そう言われて、私は初めて自分が泣いてることに気づいた

もう、とっくに壊れて、私の中から失われたと思っていたものだ


冬の目を見る そこには蔑みも、憐れみもなく、ただ疲れたような、そんな焦燥があった 

怒りをぶつけるべき相手なのに、その相手すら大きなうねりに抗えず、飲み込まれた そんな様をみているようなやるせなさが垣間見えた

私は視線を落とす


「…私にも、大切なものがあった 少なくとも、今、それがよくわかったよ」


腹を巡る不可思議な鈍痛の正体がようやくわかった


「結局、私は今の今まで、何一つ、選ぶこともできなかった」


なにかを選ぶ、そんな贅沢、私の人生にはなかった…

ここまで大きなうねりに流されてここまでたどり着いただけ

無価値な人生だ


「ならお前に最後の選択を迫ろう」


冬はそう言って虚無の黒い大鎌を私の首にかける


「ハルナさんを、助けたいか?」


私は顔を上げた


「お前はクソ野郎だ このままなんの価値もなく切り捨てても問題はない だが、救えるのならハルナさんを救っておくのは悪くない 今後のことにも関わる できるかどうかはバクチだが、試すか?」


それは同時にこう聞いていた 

かけられるか? お前の存在かち

どこまで救えるか そこは未知数だが、試す価値はある


是非もなかった

私は喜んで首を差し出した


「お前はクソ野郎だが、お前のその選択だけは、誇りに思うよ 見つけられたんだな、自分以外の、大切なものを」


冬は少しだけ微笑んだ 眩しいような 羨むようなそんな顔だった


その言葉でようやく彼がナツを気にかける理由がわかった

彼もまた私と同じだったのだと 大きなうねりに流されてここまでやってきた 自分で何かを選び取ったことがないのだろう それでも彼はあがいた 今も、あがいているのだ


「ナツを、頼む…」


私はそういった 

あの救われない少女を、助けてやってくれ


「ああ 言われなくてもな …最後に言い残すことはあるか?」



「私の人生はクソのようなものだったが、最後の最後にやっと選べた …悪くなかったよ 私は神には祈らない 祈らないが… 君に感謝を」


祈りとは、感謝を捧げることだと彼女はいった 私にも、その意味が少しだけわかった気がした


選べる選択など端からなかった 最後にようやく、私は私の人生に署名した 初めてこの世に生まれ落ちて、そして死ぬ(選んだ) 短くとも満足な生だ


窓から覗く日差しを見上げる いい日差しだ 久しく感じていなかった感動が私の胸をうつ


世界をこんなに美しいものだと思ったことはなかった


冬を見る 私たちは水と油だ 交わることなどない 


でも


…ほんの少しだけ、似ていた



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