表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第2章 【最後の善意解放作戦】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/30

逆鱗

「あの、また、会えますか?」

彼女はそう聞いた


もう一度会いたい また話したい 母を見つめるあなたの瞳があまりにも優しくして 私は胸が苦しくなった

あなたの心が知りたい 


「私は、会いたい、です……迷惑、ですか?」

迷惑だと言われたくなかった けれど確かめずにはいられなかった


「俺はしばらくこの都市を離れます」


ずきりとする言葉だった もう会えないのだと そう絶望しかけていた だが


「でも、また会いに来るよ 必ず」


彼の言葉で顔を上げる 微笑んでこちらをみている彼の顔には慈愛があった 私をちゃんと、みてくれている顔だった


「ありがとう、ございます……」


「それじゃ…」


「はい……!」


私は胸の前で小さく手を振ってお別れを告げた




「それではこれより、存在劣化症の治療を始めます」

黒金の関係者とおぼしき人物が集められ、空想世界にて、治療が行われる

最初こそ懐疑的だったが、ディラフトでさえ、空想世界へのアクセス、アバター技術は持っていなかった

彼らのザインクラフトは文字通り、対虚無用の武装デバイスだ 表現法ミレアは使えない

その世界への体感と、実際に自己の存在劣化が目に見える形で消えていくことで、その疑念は解消されていった


「驚いたな 半信半疑だったとはいえ まさかここまでのものとは……」


それは存在劣化症の治療だけのことではないだろう

この空想世界には大地がある

汚染があるとはいえ、大地の上で人が生活してるのだ

海上都市で暮らす者なら、思うところはあるだろう


「わかっていることだとは思いますが、事は内密に頼みます」


「ああ、もちろんだ しかし治療はいつまで頼めるのか? そこは聞いておきたい」


「あなたがたがバレるまでは 治療者の数が増えればしゃべらなくても情報は漏れるでしょう あなたがたの関係者、程度ならまだいいですが ほかの都市のものまでとなったら応対できませんよ 俺は一人しかいないですから」


俺の特殊能力である以上、技術的な再現は現状では先ず無理だ 中途半端に希望を与えると人は暴走しかねない

ただでさえ、俺にはこの世界での問題をたくさん抱えている この世界が第一優先だ 


「……そうだな 気をつけよう」

黒金統主も頷くが、俺はそんなにはやくないうちに破綻すると思っている 上がしっかりしていても、下が暴走することはある それは、よく知ってる

ディラフトとのつながりがなければ、俺は協力しなかっただろう



「白銀でのお話ですが、ご協力します」

理由もできた 彼女達を放置はできない

戦果になる前に連れ出す そのタイミングを間違えてはいけないが


「……いいのかね?」


「彼らと事を構える段階になる前に、もう一度白銀に向かわせてください それが可能なら、協力します」


「ん いいだろう どのみち一度の会談で終わらせることはできないデリケートな事案だ」


「君にはディラフトと協力して兵器・武器の開発を頼みたい 対虚無用の武装もだが、白銀との戦いやロハネの遺跡での戦闘が予測される 準備はできる限りしておきたい」


「わかりました できる範囲でやらせていただきます」




「離せ!クソ、クソ、クソォ゙!」

監視・制圧分の刻紋が刻まれていても犯罪を犯すやつは出る

盗みを働くもの、乱暴を働くもの、組織的な犯罪も起こる


「外にでろ」


「! い、いやだ、イヤだイヤだイヤだイヤだ!」

男は抵抗しようとするが刻まれた刻紋に従って強制的に退去させられる 彼がこの町の敷居を跨ぐ事は二度とない


「ここ最近の犯罪率が高まっている」

一度落ち着いたかに思われたがまた増えている 良くないことが起こっているのは分かるのに、手が回らない

ひと心地つくこともできない 準備もまだ万全ではないのに、これでは……


「それにしても、冬真 少し逞しくなったな」

銃の腕が上がった まだまだ拙い部分もあるけれど、素人相手なら問題ないレベルだろう


「へへっ でしょ! そのうち、冬の背中も追い抜いちゃうかもね!」

流石に言い過ぎかなと思ったけれど


「そりゃ頼もし 俺が楽できる分には歓迎するよ 期待してるぜ」

冬は微笑んだ


「…ああ、期待しといてよ!」


期待……

そう言ってくれるのが少しだけ嬉しかった 今までの人生で誰かにそんなふうに言われたことがない

正直言って頑張れば頑張るほど冬の背中が遠いことを実感する

僕が一生を費やしても冬に追いつくことはないだろう 

でも冬一人で全部ができるわけじゃない 結局冬もまた一人の人間なのだ 周りが勝手に神格化してるだけで

できないことは、できない


そしてそれは僕の存在もまた、無意味じゃないと思えることだった こうして誰かの役に立てることが今は少しだけ、誇らしい気持ちもある それは彼女との出会いがあるからかもしれない 人生にハリができた、というか……


「俺はこのまま監査所に向かう」


「うん 僕はこのまま町の見回りを続けるよ」


「頼む」

そう言って冬は監査所に向かっていく



「あぁ゙〜っ! クッソ あいつマジムカつくわ」

彼らは監査所の裏で集まり、愚痴をこぼしあっていた


「なんとかあいつボコせねぇか?」


「いいね〜 ぜひやってほしい〜」


「人任せ乙(笑)」


彼らに具体的な案があるわけではない あの男が来てからというもののクラスの空気が悪い

今まで散々好き放題できていたせいで、その鬱屈がたまりだしていた


「そういや あいつ、妹だか何だかと暮らしてんだよな」


誰かがそう口にした


「いっそ拉致ってボコすべ? 無残な死体でもみせりゃあいつの泣きっ面が拝めるかもよ?」


「お!いいねぇ〜 ぜひやってくれ!」


「人任せ乙(笑)」


具体的な手段はなく、ゲスな思考を吐き出し続けるだけの生産性のない日常……


「いいね、それ、やってみようか?」


この時までは


「あ? だれ、だ?って……あ、あんた、その、顔、どこかで……」


彼らはその顔に違和感を覚える

よく見知ってるような、知らないような、その顔に…



ヒジリさんが倒れた

過労だ ここ最近の頻発する問題で頭を悩ませ、町中を彼女自身が駆けずり回っていた


これから黒金から追加で依頼された存在劣化症の人々の治療が行われるとの話が出た時にそんな話が出た 

彼女の下に駆けつけたが、私は平気だ、仕事をやらなければと言って起き上がろうとするので止めた 

彼女がこれで死にでもすればそれこそ仕事がまわらなくなる あなたが動くなら俺はここに張り付いてとめなくちゃならない そう言って、渋々ながらも彼女を休ませた 心配事だけが増えていく


俺は今からディラフト達と存在劣化症患者を診るために、聖都の中央区にある普段ヒジリさんが使う執務室に向かう途中だったが、そこであり得ないものをみた


「共生主義というものをご存知ですか? 人は皆生まれながらにして平等なのです あなたがたは家畜ではありません 人間です 決して虐げられていい存在ではないのです」


「上の方々に仰ごうじゃないですか! こんなに大変なんだと、アピールすればきっとわかってくれますよ! だいたいこういうときは蓄財があるものなんです!」


街頭演説を行う その人物は、すなおとせいぎ、といっただろうか 白銀都市で出会った彼女達がなぜかそこにいた

在核がある 間違いなく本人達だ 

存在IDもそれを証明していた


「な、にを、やっている? やめろ!」

まずい 俺はそれをとめにはいる


「きゃっ! な、何をっ、?あ、あなたは 冬さん!」


「な、なんですか? どうしたんですか?」

二人が困惑する


「なぜ君らがここにいる? これは何のマネだ!」

この町で、この状況下で、共生主義を流布する馬鹿がいるとは夢にも思わなんだ


「なんのって、この状況をみたらほっとけません 彼らは人です ひもじい思いをして、苦しんでる なのに、声を上げることすらできなくなってる…… 自分の価値を見失ってるんです だから少しでも……」


「やめろ」


「え?でも……」


「やめろ!」

今度は確実に辞めさせるように強めに釘を刺した

もう手遅れかもしれない 


「ちょ、ちょっと、待ってください すなおは…!」


「黙ってろ」


「!」

せいぎは息をのんで動きをとめる




「どうして、ですか?」

すなおはこちらに問いを投げる 納得がいかないのだろう


「今この街は大量の問題を抱えてる 無数にある導火線のついた火薬庫だ いつ爆発してもおかしくない 君はそれを刺激してるんだよ」


街の外は地獄だ 毒性の強い雨に汚染された水源

植物も毒性の胞子を出し、空気を汚染し続けている 

憑神を数体潰したおかげで汚染の拡大は止まったが浄化されたわけではない


敵性の強いモンスターもいる

この街が無事なのは最後の善意が空気や水を清浄化させてるからだ それでも手が回らない それどころか他所の街からここに希望を抱いて日々人が増え続けてる パンク寸前なんだ 人が増えても飯がない 水がない 土地がない ないないづくしだ 手が回りきってない

なのに人は増える 


そんな中で自分達は虐げられているのだ、だから飯をもらえないのだと問題をすり替える 

暴れる言い訳を与えてどうすると言うのだ?


共生主義など耳心地だけはよいが、そんな思想は金持ちの道楽にすぎない錆びた経典だ 

人類はそれをやろうとし、そして失敗した 

思想対立は厄介なのだ 食料や土地の問題、そこに住む人々の仕事や生活基盤を置き去りにして思想が先に立つ

その時には思想で争う余裕があったのかもしれないが、この町にそんな余力はない 

尊厳で腹は膨れないし、怒ったところでないものはない 

欲すりゃ空から食べ物が降ってくるわけでもない


実情を伴わない平等や公平、そんな甘い毒を垂らすものがいれば怒りもしよう


「だって、あんなに苦しそうです、弱ってます 黙って死ねと言うんですか?」


「黙って耐えて日々頑張ってる奴らが、暴れた奴らに殺されたらどうするんだ!」


ここの住民の問題は都市の行う杜撰な蓄財管理に伴う、財政整理で切り捨てられる市民とはわけが違う 

外の感覚をそのままこちらの世界で当てはめても上手くいくわけがない


「!!!そん、な……」


この町の住人は、我慢の限界がすぐそこまで来てる

住人の顔を見渡す 

その瞳には希望なんて、言葉ではくくれない怪しい光を宿してる

その顔をみて、俺はより一層不安を強くした 


彼女達はこの町の事情を理解してないから仕方ない、とは言えない 

勝手に入ってきた挙句、勝手なことをされたのだ 

この町の安全面に関わる問題だ



俺はショックを受けるすなおとせいぎを引きずって聖都の中央区にある執務室へと向かう 

問いたださねばならない


事態は刻一刻と悪化の一途を辿っている



執務室へと入った時に冬は一度立ち止まる 

目の前の光景に絶句したからだ


いつもヒジリさんがウンウン唸っている光景は見られない 

彼女は今、ベッドの上だ 

だがそこには見知らぬ男達が座っていた 

ヒジリさんのために用意したイスに勝手に


「……君達、そのイスはこの町の偉い人が座る場所なんだ どいてくれないか?」


冬の声は穏やかで、だからこそ知る人が聞けば震え上がったかもしれない だが…


「えぇ〜 なんでぇ? このイスめっちゃすわり心地いいしなぁ どいたらなんかくれんの?」


どデカい丸メガネの青髪長髪男はふてぶてしい要求をした 隣の優男もそれっぽく注意しているが、強く咎め立てする気もないらしく、やれやれと首を振っている始末 少なくともこちらの都合よりも自分達の都合を優先してるのだけは間違いなかった


「もちろんだよ〜♪ 君をぶち殺さないでおいてあげりゅ♡」


そのセリフにすなおやせいぎがぎょっとする間もなく冬は横から消える


次の瞬間、青髪メガネの背後に現れ、その髪をつかんで机のうえにたたきつける

凄まじい音が鳴り響き、隣にいた男が動こうとするが、その動きをとめる



男は動けなかった 

冬が動きを阻害しているわけではない 

馬鹿げた話だが、幻視したのだ

動いた瞬間自分がバラバラになる姿を


その光景はきっと幻覚ではない 

目の前の人さえ殺せてしまえるんじゃないかと思える殺気が、それを物語っていた 

ボタボタと顔中から大量の汗がこぼれ落ちた

呼吸すらまともにできない 

一挙手一投足、一つのミスが死に直結する恐怖を、男は味わっていた


冬はさらに丸メガネの男の顔を机に叩きつける 

何度も 何度も


その姿にすなおとせいぎは絶句し、震え上がる



丸メガネの男は反撃のために超能力で冬の心臓を潰そうとするが、いなされる


その感覚に、今まで感じたことのない旋律を覚えた

超能力を超能力で弾くことはあれど、いなされる、という体験をしたことがなかったからだ


この惑星の超能力者の持つ精神波動はピンキリで、低レベルのものならフォースフィールドで防げる フォースフィールドさえ透過、あるいは貫通できるほどの技量、強度を持つものは少なく、また白銀の開発された超能力者と野良の超能力者では天と地ほどの差がある 

フォースフィールドの技術革新は超能力者の存在を過去の遺物にしたとも言われるほど 

正面からやるなら超能力者の優位性はそこまで高くない 

少なくとも冬はこの程度の相手ならフォースエッジを使うまでもないと判断した 


何度繰り返しても力を相手にうまく伝えられない 

こいつも超能力者か? 

いや、違う こいつは同類じゃない! 

どうやって……


だめだ 意識が飛ぶ 白目を剥いたその瞬間に丸メガネの男は再度覚醒することになる


指を折られた

その激痛で目が覚めたのだ


「おいおい、執務室で居眠りか? ここは寝室じゃないぜ 重役出勤のお坊ちゃん気取り? いい塵分だ 万年平社員の分際で たるんでる証拠だな 俺が教育してやろう」


再度の激痛

!!!!


凄まじい激痛に悶絶する丸メガネの男

その髪を鷲掴みにして冬は語る


「このイスはな、ここで、この町で、ぶっ倒れるほど懸命に働いてくれた人に贈られた品だ 貴様のような薄汚いクズが尻を乗っけていい代物ではない 弁えろウジムシが」


冬と目が合う 恐怖で震え上がる丸メガネの男

上等な代物を扱うものにはそれ相応の格が求められる

それは家柄や金では買えない 


その道具を扱うに足る姿勢や行動だと冬は考える

尽くしてくれた者に対する敬意のないものはそこらの石ころにでも座っていろ


丸メガネの男は色んな意味で冬の逆鱗に触れた 

ただでさえ今はヒジリさんが心労で倒れている状況だ

その疲労を少しでも軽くしようと設計して贈ったイスに見知らぬ男が勝手に座っている しかも机に汚ねぇ脚まで乗せて


痛みを知らない人間が嫌いだ 想像力のない人間も嫌いだ だが最も嫌いな奴は無礼な人間だ



「お前らさ、他都市の人間だろ?」


黒金都市の人間っぽくは見えないが…… 

そうなると厄介な事案が首をもたげる

他所に来て、この態度 完全に喧嘩を売ってるとしか思えなかった 余程戦争がしたいと見える

存在劣化の治療で人をこの世界に入れることを許可はしていても、勝手に他所の都市の人間を入れることを許可した覚えはない 聞かされてもいない つまり勝手に入れたということだ


なにかを言おうとするが、男は言葉を紡ぎきれなかった


「聞こえねぇよ!!! もっとデケェコエでしゃべってクレる!!!?」

つんざくような声で、耳を引っ張り上げながら男に告げる


殺意のボルテージはそれを可視化する勢いで膨れ上がっていき、とどまるところを知らない

冬以外はもはや呼吸をすることすら危うく 

震えで意識が飛びそうだった

血の惨劇は目前まで迫っていた


その時


「そのくらいにしておきなよ そこの子たち、しんどそうだよ」


ディラフトがそこにはいた



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ