終わりの始まり
人生というものは、どうにも性格が悪いらしい。
うまくいきそうになった途端に、必ず何かを壊しにくる。
まるでメンヘラ彼女みたいだ。
この日も俺はどこか、そんな空気を感じていた。
「真白、ゲームをしようか」
こいつはまた、唐突に。
「一人でやってくれる?」
付き合ってられない。
「アヴェスターゲームって名前のゲーム」
冷や汗出るかと思った。
「なんて言った? 今」
「アヴェスターゲームっていうゲーム、一緒にやろうぜ!」
「……なぜ?」
こいつ…いや…まさか知ってるわけない。
「……断る」
「何時からやる?」
「せめて対話をしろ。前後で話がつながってねぇんだよ、おめぇは」
気づいてる? 気づいてない?
「もう会えなくなるんでしょ?」
「だから?」
ほんとにだから?
「ザインクラフト」
頬がひくつく。
「なんだって?」
無駄な抵抗を続ける俺。
「このゲームの中にザインクラフトっていう、存在の力を操る超科学の力があるんだって!」
きらきらした目でこちらをみるディラフト。
「はぁ……わかったよ」
俺はようやく観念した。
「最後の日によりにもよって、このゲームをやることになるなんてね」
俺がザインクラフトを作るに至った理由が、このゲームにはあった。
◆アヴェスターゲーム
人類を滅ぼした神々が、亜人たちを使って代理戦争を繰り広げるRPG。
そして――
物語はバッドエンドを迎える。
「お? そろそろルート分岐かな? ちなみに真白はどの娘がタイプだい?」
「誰でもいいだろ別に」
うざ。いるよな。
相手の懐具合を探ってネタ集めしつつ、自己開示は絶対にしないからすぐ信頼なくすやつ。
親身になって話すと次の日に教室でプ〜クスクスって笑われてるやつ。
俺は絶対ああはなりたくないぜ。
当然ここは死守だ。
俺は友達を作るよりも大事なものがあるタイプだ。
むしろ一生友達なんていらないまである。
「大事なことだろ?」
「好みなんてねぇよ」
「私はね~」
「きいてねぇ」
「夏、って言ったら、どうする?」
「あ?」
ピキリそう……
「あ〜、夏ね、ウンウン、なるほどね〜、ふ〜ん、そっかそっか〜」
ガンッ!
「あっ こわ〜い。キャ♡あぐっ!イッタァ〜!!」
ディラフトが脛を抱えて転げ回る。
「ベンケイ、ちょ〜いたいんですけどぉ〜!?」
「足が滑った。許せ」
キャ♡じゃねえ〜よ。
♡つけんな、殺すぞ…
「せめて謝ってから主張して〜、謝る前に許せってなんだよ…おかしいでしょ〜?まったく」
当然無視した。
ディラフトははぁと溜息を吐いてから佇まいを正し、話を変える。
「真白はさ、ザインクラフトを使ってこのゲーム世界に入って、バッドエンドを救うぜって、風にはならなかったのかい?」
「マッチポンプだろ、それ。ひどい世界をわざわざ作って、そこに入って行って、自分で救う。人でなしの所業だ」
そんなもん、作るくらいなら、最初から救いのある世界にする。
己を守るためならまだしも。
自分の欲望を満たすために、わざわざ誰かを不幸にするつもりはない。
「さようで」
「ザインクラフト」
存在に干渉する科学技術の粋。
「アニマとダエワ、か」
種族レベルでの善良な民族と、種族レベルでの悪辣な民族。
「まるで君の創る天国、みたいだね。アニマの世界は」
「アニマは顔無しじゃ〜ないけどね」
真白は何も答えなかった。
「それで作っちゃったんだぁ……現実でw」
鼻で笑いやがった。鼻に何か詰めてやろうかな?
鼻で笑うやつは鼻で泣かすよ?
「は? 何か問題でも?」
問題でも? は? 問題でも?(圧)
「いぃ〜んやぁ?」
にやけ面が鼻につく。喧嘩するか?
「ねぇ?このゲーム、難しくない?敵強すぎでしょ?」
「お前が弱すぎなんだよ。ああ、そこアイテム隠れてるから。ほら、ちゃんと探索しろよ。ズボラ」
「うっさいな〜、探索は二周目からやる派なんだよ」
「どんな派閥の人間だよ。俺、もう帰っていいか?」
「だめだ。最後まで、付き合うんだ!」
「かぁ〜、勘弁しろよ……」
RPGは一人でやるもんだろ、普通。かまってちゃんはホント、ウザイな……
なんやかんやそうやって夜もフケていった。
「ラストシーンだね。このマシロってキャラさ」
「……」
「名前が同じだと思うとこあったりする? イケメンだし」
マシロ、という名前にも関わらず、マシロは黒髪褐色の美少年だった。
「性格ブスは嫌いなんだ」
いわゆる裏切りキャラだ。
主人公を裏切ったのに、敵に捕まり、挙句の果てには……。
長時間やっているので、こくりこくりとしながら舟をこぎだすと。
「真白」
ディラフトが唐突に俺の名前を呼ぶ。
「ん?」
「ありがとね。いろいろ付き合ってくれて」
「……何急に?」
「いや、いつもいやそうにしながら、それでもかまってくれてさ。ほんとはうれしかったんだ」
「いままでいろんな星を渡ってきたんだけど、こんなに話せる相手ってなかなかいなかった。ザインクラフト、いい作品だよ。本当に。いいものを見せてもらった」
「大げさだな」
「ははは、大げさかなぁ~?」
ディラフトは何が面白いのか、笑っている。
「私はね、異世界に行きたいんだ」
「それは、いい夢だな」
「ほんとにそう思ってる?」
「思ってるよ。叶いそうにないのが残念だ」
「ほら、やっぱりそう思ってる。皮肉屋」
「真白は異世界に、行ってみたいとは思わない?」
「う~ん、興味ないわけじゃないけど、純粋な気持ちで夢をみるには、そこそこ歳を重ねすぎた」
他の惑星だろうが、異世界だろうが、同じこと。
俺はどこに行っても結局なじめないだろう。
それが根底にある。暴力にあふれた世界は現実だけで充分だ。
それに……。
「ほしいものがあれば、自分で創るさ」
ディラフトがこちらを見て、すこし微笑む。
「俺は、自分が欲しいものは自分で創る」
他人の手は借りたくないし、口をはさんでもほしくない。ほっといてほしい。
自分の望むものを、自分の望む世界を、自分のために築く。
今も昔も、そしてこれからも変わることのない、俺の願いであり、生き方だ。
「そっか」
さびしそうに、ディラフトはこぼす。
「かなうといいな」
「え?」
「異世界、見つけられるといいな」
ディラフトは少し意外そうな顔をして、うれしそうに笑う。
「異世界に興味があるなら、一つ、俺から贈り物をしようか」
「え?」
「竜の遺骸、やるよ」
「竜の、遺骸?」
「俺が産まれるより前の話だけど、ある日、突然空から“ソレ”は落ちてきた。そいつはいつもの遺物や遺跡のように宙から落ちてきたわけじゃなかった」
それならレーダーに引っかかる。
でも竜の遺骸は突然空に出現し、白銀都市に落ちてきたらしい。
当時は大騒ぎだったとか。
それからいろいろ調査があったらしいが。
結論は。
何もわからなかった。
「何でできてるのか、どこから来たのか、判明しているものは何もない。少なくとも、この惑星の技術で解析できなかった特級(EX)の遺物だ」
「なにそれ……ほんとうに?」
半信半疑という感じだ。そりゃそうだろうな。
「そいつは今、ここにはないけれど、明日場所を教える。興味があるなら、取りに行くといい」
本来は白銀管理のもと厳重に保管されていたものだが、その都市はもうない。
誰も保管できる奴もいないから、俺が回収して白銀都市にある俺の保有する地下ロッジに隠した。
「めちゃくちゃ興味あるよ! なにそれ! なにそれ!!」
しかし。
興奮は止み。
君は?
問うようにこちらをみやる。
「俺は、明日には旅立つ」
「もうここには帰ってこない」
ディラフトは悲しそうな顔をするが。
「異世界の遺物は、異世界に興味があるやつが持つといい。価値を理解できる者が持ったほうがいい」
俺は成金の骨董品収集が嫌いな人間だ。
作られたものに宿る熱意や技巧。
それをただの飾りとして貶める行為だ。
道具とは、持つ人間にもそれなりの姿勢を持ってほしいところだな。
金さえ積めば、いい物が手に入る。
使うに足る人間、調査するに足る熱意、持つべき覚悟。
見世物小屋の珍品をそろえるがごとく並べられる貴重品を。
俺にはいい気分で見られなかった。
竜の遺骸ほどのものは、白銀都市はもちろん、俺が持っていても宝の持ち腐れだ。
ディラフトが持つなら、決して粗雑には扱わないだろう。
ぷるぷると震え始めたディラフトに、何か嫌な予感を覚えてその場から離れようとしたが。
「ありがとう!!!!」
そう言って抱きつかれたので殴り飛ばした。
「うぜぇよ」
その後は物語も終盤で嫌な場面だというのに、どこか物語そっちのけで別の話に移行していった。
「真白はさ、今まで一番好きな作品はなんだった?」
「『緋色の軌跡』」
「いい脊髄反射だ」
「私はね、『罪獣と罰剣』だ」
「え? 本気で言ってるの?」
「え? 喧嘩する?」
「君って、この星の作品もちゃんと抑えてるんだね」
「そうじゃないとわからないでしょ? ちなみにほかの惑星も含めると、私が一番好きなのは『終末物語』だよ」
「知らね」
「だろうね」
「ほかには何が好き? 最近読んだやつでもいいよ」
「最近だと、トリニヒード・シャッハルの『グリムガーデン』シリーズかな。『赤ずきん』も面白かった」
「ははっ、あれ純愛過激派御用達じゃん」
「別に純愛過激派じゃないけどね。独特の世界観で、変に癖になるんだ」
「私は『愛の賞味期限』と『恋は消耗品』かな」
「それ、どっちもトリニヒード・シャッハルの作品だよ」
二人で笑った。
久しく笑っていなかった気がする。
くだらない話で盛り上がって、少しずつ終わりの時間を感じていたのかもしれない。
眠気が襲い、体がまどろみ始める。
「真白……私は必ず見つけるよ、異世界を」
その言葉を聞きながら、意識はゆっくり途切れて。
まどろむように眠りに落ちていった。
多分、笑えていたと思う。
――――
目が覚める。
ノイズのようなものが走った気がした。
眠っているにもかかわらず、俺には予感が働いた。
虫の知らせのように。
危険が。
やってくると。
体が臨戦態勢に入る。
何か、来る……!
周囲を見渡すが、ディラフトはいない。
あかりは消え、ゲームのモニターだけがついている。
ゲームのエンディング画面で止まっていた。
手持ちを確認する。
ザインクラフトは首にかかっている。
刻紋武装も起動する。
体に異常はない。
準備は完璧だ。
しかし、周囲には何もない。
いや、正確には「何もない空間」が動き回っている。
なんなんだこれは?
未知の脅威に警戒を引き上げる。
「刻紋起動:無頼」
左腕の紋様をなぞると、剣が実体化した。
敵が襲い掛かる。
かわすと、地面がえぐれる。
「消滅……してる?」
ひとたまりもない一撃だった。
存在値を確認。無頼の存在値が削れている。
自然消費ではありえない減り方だ。
「試してみるか」
目にも止まらぬ速度で敵に接近する。
無頼に存在エネルギーを流し込み、叩きつけた。
ジリジリとノイズが走る。
敵の姿が少しだけ実体化した。
「お前、なんだ?……宇宙からの侵略兵器か何かか?」
世界そのものに穴を空けてるかのようだ。
二度、三度の直撃で沈黙。
手ごたえはあった。
だが、安心はできない。
周囲の観測不可能領域が増え、敵が一斉に襲い掛かってきた。
存在エネルギーはどんどん消耗する。
一体一体は大した強さじゃない。
このままではじり貧になる。
逃げることもできない。
出口もない。
根気の勝負ってか。
――――
「はぁ……はぁ……」
どんだけいんだよ……!
存在エネルギーはほぼ尽きかけている。
敵の数は減った気がしない。
突然、声が聞こえた。
「冬!」
振り向くと、見知らぬ少年が立っていた。
ディラフトではない。見たこともない人物だ。
その少年は俺を『冬』と呼んだ。
なぜ……。
「よけろ!」
咄嗟に叫ぶが、少年は敵に襲われ、胴体から裂かれた。
他の連中とは異なる出で立ちのそれは、赤く発光してるような異形の人型。
そして……。
顔がなかった。
ゾクリとするような虚空の穴を見つめる。
それはフッと消えた。
俺は立ち上がる。
武器を振るおうとしたその時。
左腕が消失した。
咄嗟に飛びのくが、右腕も消え、胸に穴が開く。
ジリジリと頭が痛む。
怪我じゃない。
いつもの“やつ”が来た。
だが今は、それを考えている余裕はない。
全身黒い影の人物、全身真っ白な少女、灰色の髑髏、そして透明な人型。
「誰だ……お前ら?」
頭に理解不能な情報が流れ込む。
「n,ewprk320-wfkaw]vk]p@vskv:;l,l m]a@sv,ov」
「oiji0emjvai@nmevoiwernv9wvm3lmvm;:,erl」
痛みと混乱で、思考がほとんどできない。
中央の全身透明な長髪の男がにやりと笑い、こちらに近づいてくる。
「○✕#▼接続者?」
「お前が我々の探し物か?」
最後の一言だけが、理解可能だった。
透明な男は、俺に手を伸ばす。
口元が裂け、そして。
俺の頭部を――。
!!!
次の瞬間、意識が反転し、そして……。
無に落ちた。




