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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第2章 【最後の善意解放作戦】

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29/32

これでいい

凛たちはその後、治安部隊に連絡を取り、真黒の残党を引き渡した また真黒と関わっていた同級生の身軽も無事確保された 彼女達はまず間違いなく都市から追い出される 都市から追い出された人間の末路は悲惨だ 

外区での生活が待っている 二度と壁の内側では暮らせないし、まず一週間生き残れるかすら怪しい 内から落ちてきたやつは特に 

真黒組という名前もあとで調べた どうやら真黒は黒金から縁を切られているようだ 過去の事件より完全に切り離され、孤立無援の状態で白銀に残った 白銀からも勿論相手にされないが故に、ヤクザ落ちしたということらしい クソの小便みたいな奴らだ 


彼女(凛)のことを考えればこの都市に来てよかったと心の底から思った 

もう二度と、あんな思いはごめんだ 麗にも、自分の娘が自分と同じ思いをしたなんて、そんな結末にならなくて本当に良かった



階段をあがる


自分の足音がひどく大きく響いて聞こえる


彼女が以前住んでいた場所とは異なる 


今の彼女の在り処


歩く足取りは重い


昔話ができるような相手ではない 

傷を思い出すだけで苦しいだけだ 


凛が何かを話している。

何を話しているのか、あまり頭には入ってこなかった


彼女がいま、何を考えているのか、何を感じているのか


忘れているならそれでもいい 全部忘れて今を生きているのなら


だが俺が会って、思い起こさせることで苦しみにつながるなら……


あるいは俺とのことで彼女が白銀との間に確執を抱え、ひどい境遇にあり、俺を恨んでいるのなら


結局のところ、いろいろ考えたところで会わなければわからない、そこに戻ってくる


もし俺に罪があるとすれば、それは彼女の下にある

彼女の裁きなら受け入れる 

今すぐには無理だが 

俺にも始めてしまったものとしての責任がある 

ナツさんたちは何も悪くない

全て終わったあとなら……俺は彼女の意思を汲む



凛には俺のことは学徒の資格を取るための学園生として紹介してほしいと言っておいた

今の時代、見た目で実年齢がバレることは少ない

肉体の若さを保つ手段はいくつかあるからだ



扉の前につく


玄関を開けると、温かい匂いがした

油のはぜる音と、包丁がまな板を叩く規則正しい音。

生活の音だ。

今の時代でも料理を自分でするものは一定数いる

奥から、少し弾んだ声が飛んでくる

「凛? もう帰ったの?」

俺は、その声にひどく動揺した


足音が近づく。

エプロン姿の彼女が顔を出し――そして、俺を見る

一瞬、きょとんとした顔

彼女と、目がある


次いで、にこりと笑う

「……あら?」

もう一度凛を見る。

「もしかして……彼氏さん?」

凛が慌てて首を振る。

「ち、ちがっ……彼は私と同じ学園生だよ!」

その様子が可笑しかったのか、彼女はくすっと笑った

「なぁに、そんなに慌てなくてもいいじゃない」

そして、凛の耳元に口を寄せて、ひそひそと囁く

「……かっこいい人、連れてきたね」

「っ!? お母さん!!」

頬を赤くする凛

それを見て、彼女は楽しそうに笑う

――よく、笑う

記憶の中の彼女は、もっと静かで、

言葉を選ぶように話す人だった

今は違う

声に張りがあり、表情が柔らかい

誰かを迎えることに慣れた顔

母親の顔

「立ち話もなんだから、どうぞ上がって もうすぐご飯できるから」

そう言って、何の躊躇もなく背を向け、台所へ戻っていく。

……俺を、まったく知らない

胸の奥が、ひどく静かになった

「お邪魔します」


「さ、手、洗ってきなさい。もうすぐできるから」

麗はそう言って、鍋の火を弱めた

凛が「はーい」と返事をして、俺の袖を軽く引く

「こっちです」

促されるまま、洗面所へ向かう

その背中越しにも、台所から漂う匂いが追いかけてくる

……上級民の住む家としては普通の家だ 


どこにでもある、誰かの生活

手を洗いながら、鏡越しに自分の顔を見る

変わった顔

過去を知る者でなければ、決して結びつかない顔

「冬さん……」


凛が、蛇口を止めた俺を見上げる

彼女の顔は心配そうだった


「緊張、してますか?」

「……そう見える?」

「……はい、ごめんなさい」

「謝らなくていいよ 俺の、気持ちの問題だから」


居間に戻ると、食卓にはすでに料理が並び始めていた

湯気の立つ皿

彩りのいい副菜

「たいしたものじゃないけど」

そう言いながらも、手際はいい。

料理を置く動きに無駄がない


「いただきます」

凛が先に言い、俺もそれに倣う。

「はい、どうぞ」


麗は、俺の前に皿を置いてから、一瞬だけ俺の顔を見た。

「……量、足りるかしら」


「え?」


「男の人にしては、少なめだったかもって思って」


その言葉に、胸の奥がざわつく

――昔も、そうだった

必要以上に、相手を気にするところ

自分のことより、先に他人の腹具合を考えるところ

「大丈夫です」

短く答える

「そう? ならいいけど」

彼女は少し安心したように笑い、自分の席についた

食事が始まる。

凛が学校の話をして、麗が相槌を打つ。

その合間に、時折、俺に話題が振られる。

「学園生って言ってたわよね。同じ専攻?」


「……俺は、学徒の資格を取るため研究室に行くつもりですので、凛さんのような企業管理職とは、専攻が異なりますね」


「そうなの?どちらの研究室に入るのかしら?もう決まってる?


「……いえ、まだ考え中です 優柔不断でお恥ずかしいですが……」


「ううん、そんなことないよ 一生のことだもの」

彼女は否定しなかった


「凛ちゃんは楽器類の遺物の修理士になりたいのよね」

麗もまた、音楽が好きだった 

楽器の類は教養の一環として習わされたらしいが、彼女はそれを気に入っていた

この部屋にもいくつか楽器が置かれている



「…うん まだ、全然勉強中だけど…いつか、きっと」

親子の軽いやり取り


それを見ているだけで、胸が締めつけられる。

「……サルベージャー志向は心配ね 当たれば稼ぎも大きい職業だけど、危険も大きい 大切な人と会えなくなるのは、辛いものよ…」

そう言って 彼女は少し悲しそうに遠くを見る


箸を置き、麗は少し首を傾げた。

「不思議ね」


「何がですか?」


「あなた……」

言いかけて、言葉を探す。

「……こうして話してると、初対面な気がしないの」


凛が、ぴくりと反応する。

「お母さん?」


「ええ、変よね」


笑ってはいるが、その目は真剣だった


「昔、似たような人と会ったことがある気がして……」

喉が、ひくりと鳴る


「でも、思い出せないの 顔も、名前も 白夜さんも思い出せないなら思い出さなくていいって言うの……そうなのかな?」


白銀都市には俺のことを覚えてる人と覚えてない人がいるらしい 無理に思い出させようとすると、意識を失い、また記憶を失う そのことから白銀では昔の話をするのは禁止されていると黒金極夜さんから聞かされている 彼女も そうなのだろう……


俺は視線を落とし、箸を動かした。

「……いいと思います」


「え?」


「今、幸福ですか?」

一番聞きたいことは俺のことを覚えてるかじゃない

彼女の気持ちだ 

そう聞かれて、彼女は娘のほうをみて微笑む


「ええ とても、幸せよ」

その言葉だけで充分だった 

それだけで救われた気がする


とても穏やかな時間 とても幸福な空間

彼女はいま、笑えている


凛が、俺をちらりと見る。

期待と、不安が入り混じった視線


俺は彼女に微笑みかけた 

多分、笑えてたと思う


思い出せないなら、思い出さなくていい


俺は彼女達と食卓を囲んでしばし憩いの時間を過ごした 

俺は彼女たちに歌を披露する 歌は得意だった 

ナギが寝付けない時なんかはよく子守唄を聴かせる

逆に子守唄がないと寝付けない日が増えたけれど…

聴き入るように彼女達はその歌を聴き、麗はそれをどこか、もどかしような懐かしいような、けれど穏やかな顔で聴いていた

彼女達も楽器を取り、演奏する 

そんな穏やかな時間だけが、流れた



その後、重要な情報は徹底的に調べた

真黒冬始と以下関係者

ミハイルと以下教団関係者

俺の両親と以下関係者

白銀銀、白銀白と以下関係者

以上の死亡が確定 蘇生はなし 関連性は不明


俺が直接殺したやつらは俺のことを覚えているようだ 逆に俺が殺していないものは俺のことを覚えていなかった この違いに何か法則性があるのか?

単なる偶然か?それは分からなかったが、虚無がこの白銀都市を使って何か実験をしているように感じた 

麗や凛をおいていくのは気が引けたが、今この段階で連れ去れば確実に白銀と黒金の軋轢につながる そこまでの不義理はできないし、彼女達は俺を知らない 知らない奴にいきなりついてこいと言われても困惑するだけだ 

後ろ髪を引かれる思いだが、俺は白銀都市をあとにする


その後、黒金とは協議のもと、数名を空想世界に招くことになった

存在劣化症の治療が行われる事となった





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