白銀白夜
白銀都市の会議室へ通された かつても何度か足を運んだ場所だったが
そこに入った冬は、思わず息を飲んだ 白銀白夜――かつて自分が殺した恩人が、あの時と変わらぬ姿で目の前に立っている
極夜統主と白夜統主がテーブルを挟み、両者が向かい合う
冬は存在を消し、部屋の隅で影のように潜む
白夜統主には冬の姿は見えない
「カッカッカ、よく来たよく来た、極夜坊! 久しいのぉ」
白夜統主は豪快に笑い、椅子にどっしりと腰を下ろす。白髪が光に透け、年齢を感じさせぬ力強さが全身から滲む その存在だけで空気を支配するカリスマ性があった 出会った頃から変わらない 不思議と人の視線を引きつけるカリスマ
「坊はやめてください、白夜統主 私は都市の責任者として来ておりますので」
極夜統主は背筋を伸ばし、若さをにじませつつも、都市トップとしての威厳と慎重さを保つ
「つれないことを言うな、誰も口出しなどせんし、させんよ」
さすがというべきか 傲慢にも聞こえかねないその言葉には、白銀都市の頂点に立つ者の余裕と説得力があった
「なぜ性急にことを進めようとするのです ロハネの遺跡攻略などと 世迷い言を あれは手を付けたが最後、すべてを不幸にする」
極夜統主は都市のトップとしての立場で、その危険性を告げる
「わかっておる しかしじゃ、あれは儂らが攻略せねばならんのじゃ」
白夜統主は目を細め、力強く応じる 深くは語らずとも、その意思は微動だにしない
「引く気はないと? 本当に都市としての意向なのですか? 赤錆都市――いや、緋紋天が黙ってはいないでしょう?」
極夜統主は都市間のリスクを理知的に指摘する
「緋紋天なぞに口は出させんよ」
白夜統主はにこやかに笑う
威圧ではなく、自然と人を従わせるカリスマ性があった
「この都市は一度滅んだ 誰のいたずらかは知らんが、儂らは生き返った しかしそれが奇跡なのか呪いなのか、判然とはせん」
「奇跡や呪いですか …科学全盛の時代に、妙な表現をなさりますね」
極夜統主は少し眉をひそめる
「そうとでも言わねば、説明もつかん じゃがな、なぜかこのことにはあの者の――真白が関わっておる気がしてならんのじゃ、わしゃ」
白夜統主は肩を揺らし、笑う
その言葉には確信が混ざる一方、どこか過去への複雑な思いも滲む。信頼か、それとも
「15年、その間あやつは姿を現さなんだ じゃが、それでもいずれあやつはわしらの前に立ちはだかる、そんな予感がするのじゃ じゃから、準備をせねばならん」
あやつとわしらはすでに袂をわかっておる 一度切れた縁は二度と戻らん わしらは殺し合うしかない
「それに、奇跡が起きたのは、今回が初めてではない」
「では、あの噂は誠なのですか?」
「四季 儂らとあやつがぶつかった原因じゃ」
「蘇ったのは彼の仕業だと?」
「それはないじゃろう 儂らを蘇生させて放置する意味がない」
「彼のことを、憎んでますか?」
「あやつは儂のせがれを殺した 許すわけにはいくまいよ」
そう言いながら、彼の瞳には憎しみだけではなかった
「あやつは生まれからして恵まれとらん
異形の面貌で生まれ、親に教団へ売られ、人体実験のモルモット そこから命からがら逃げ出しても、戸籍のない子供が、この都市で生きていけるわけがなかった 必然流れ着くのは、外区 あそこでもまともな子供は生き残れない じゃがあやつは生き残った
わしの目に留まるほどの存在になってな」
「外区でまともな精神は育たん 都市からすら見捨てられたものの吹き溜まり あそこで育った奴はみな一様にどす黒い、濁った瞳をしてる あやつは少々特殊じゃったがな」
「あやつは憎しみを必死にうちへうちへと抑え込んだ
社会のなかで、なんとか適応して生きようとしたのじゃ じゃがそれを環境が許さなかった どれだけ努力しても認められぬ、結果を出しても僻まれる そういうのはな、膿むんじゃよ」
儂らがあやつを追い込んだ
追い込んで追い込んで追い込んで 破裂するまでな
そう言って白夜は手のひらを握り拳から開いて見せた
「話を戻そう 儂はあやつと決着をつける 今度は、負けんよ」
そのための遺跡攻略
極夜統主は短く息を吐き、慎重に頷く
「……承知しました 準備段階での行動は控え、安全を最優先に進めましょう ただし、行動に移す際は都市への被害を最小限に、慎重に計画を練ります いいですね?」
その声には若さはあれども、都市への不利益は感化できぬ、白夜統主相手であろうと、その姿勢は崩さない
白夜統主はにこやかに手を振る
「うむ、焦りは禁物じゃ 失敗を恐れて前に進まぬのは臆病者じゃが、ここぞという時に踏み込めるものだけが英雄になる 極夜坊も覚悟しておけ」
白夜統主と極夜統主
調整のための会談は続く
白夜統主の溢れる豪胆さと、極夜統主の慎重さの緊張
感の間で、冬は静かにその場を見守った
短めです
切りのいいとこで一旦切りました
なので、続きを15時30分にもう一度投稿します




