白銀都市
黒金都市のVIPルームで、冬は目を覚ました
「昨晩はよく眠れたかね?」
「ええ、ありがとうございます」
実際には“眠っていた”というより、“停止していた”に近い このアバターは遠隔型だ 中身は別のところにある
だが、その違いをわざわざ説明する必要はないだろう
「では、これより白銀都市へと向かう 道すがら、私の知る情報を共有しよう」
「極夜さんも同行されるのですか?」
それは意外だった。
統主が都市を離れるのは、統治上のリスクが大きいはずだ。
「本日、白銀都市の統主と会談の予定が入っている 以前から決まっていたことだ 君だけの都合で動くわけではないよ」
冬はわずかに表情を曇らせる
「白夜と……お会いになるのですか?」
「分かっているとは思うが、人前で他所の統主を呼び捨てにするのは控えてくれたまえ。私の立場もある」
一拍置いて、極夜は続けた
「今、彼らはロハネの遺跡に興味を示している」
「ロハネの遺跡……」
その名を聞いた瞬間、冬は眉根を歪める
人類圏への悪意に満ちた、最悪の遺跡――そう呼ばれる場所だ
「あの遺跡は、黒金都市の近海に集中している。他都市が、別都市の影響圏にある遺跡を攻略する場合、事前の調整が必要になる――この程度は理解しているな?」
「ええ さすがに、その程度の常識は …ですが」
ロハネの遺跡に手を出す、ということが理解できない
あれは使うもの、使われるもの、その周りにいるすべての人を不幸にするというのが現代人の共通認識だ
「彼らは君を恐れているのだよ」
「は?」
「かつて己を滅ぼしたものがまだ生きているかもしれない… それは彼らの根源に刻みつけられた恐怖だ 白銀都市には下級区の住民には真白という名字、識別ナンバーが与えられていたが、今その区域は封鎖され、真白という名は禁止されている 話をするのも嫌がるほどね よほど君のことがトラウマになっているらしい」
それはつまり、復活した彼らは俺の記憶を覚えているということだ
「…だから、ロハネの遺物、何ですか?」
「ああ、単独で白銀ほどの武装都市を落とせるものを迎え撃つにはもう、ロハネのような危険な遺跡の力に頼るしかない、そういうことだ」
「それに、ロハネの遺跡には宇宙船があるのだ」
「…は? う、ちゅう、せん?」
「遺跡の中に宇宙空間のようなエリアが存在し、宇宙船が飛んでいる」
あまりにも荒唐無稽なことだが、ロハネの遺跡ならばありえないとは思えない
「宇宙船、この資源の枯渇した惑星に生きる我々にとっては是が非でも欲しいものだ それが例えロハネに由来するものであろうとな」
その考えは否定はできない この惑星の資源では現人類を全員乗せて飛べるほどの宇宙船は作れない 人数を絞っても難しい
「彼らは君との再戦も考えつつ、この惑星から逃げ出す算段もつけている、ということだ 彼らと君が再度ぶつかるのかは今は聞かないでおこう 私が知ることがすなわち君との交渉が決裂する恐れもあるからな それは避けたい ただ彼らとことを構えるにしても、我々との交渉が終わったあとにしてくれたまえ 以上だ これより白銀へ向かう 今の時期は白銀航路の海獣もおとなしい時期だ 道中も安心してむかえるだろう」
そのまま武装艦艇に乗り込み、白銀を目指した
極夜は検問前で歩を止め、担当官に向かって淡々と語った。
「我々は白銀都市と本日の会談のために来訪した
必要な書類と手続きはすべて揃えてある」
担当官は既に情報を戴いていたようで、スムーズに話は進んだ
書類に目を通し、問題がないことを確認し、頷く
「……確認しました 入場を許可いたします」
担当官からは冬は見えていない 存在を限りなく薄めており、感知できないのだ
冬は背後で空気のように潜める
都市の統治層との直接交渉を、極夜が一手に引き受けることで、自分の存在は完全に隠されたままだ
かつて自分が壊した都市に、再び足を踏み入れる
ゲートが開き、白銀都市の街並みが視界に入った
白い――いや、白いという表現ですら足りない
光を反射して淡く輝く建物の群れは、人知を超えた素材で形成されているようで、どこか潔癖で冷たく、冬には美しさよりも醜さを許さない潔癖さの現れのようで、息苦しさを与えた
「……相変わらず、好きにはなれそうにないな」
冬は小さく呟いた。
都市の通りを進むと、人々の生活の息遣いが聞こえてくる
この目で直接見るまで半信半疑だったが、もはや疑うまい 白銀の髪 ナツの純白の髪とはまた違う、薄い青みがかった仄かな輝きを放つ銀髪の人々が行き交う街は特区のみ、白銀金属に最も適正の高いものは髪の色が変質する 青味がかった銀髪へと ほかの住人はだいたい黒髪や茶髪、栗色の髪がほとんど 髪の色でもその住民がどの区域に住んでるかわかる事がある
白銀都市は特区、上級区、中級区、下級区、そして外区と呼ばれる5つのエリアで分けられており、内側に行くほどに市民の階級は上がる
市民の中でも労働階級である中級以下の者達は肌が焼けているが、上級以上の市民はシミ一つない白い肌をしている
「では、私は白銀白夜との会談があるが、君はどうする?」
「いきます 今の白銀白夜を知っておかなければならないですから」
「そうか では存在を消して、ついてきたまえ」
冬は言われた通り、己の存在を薄め、誰にも見咎められることなく、白銀の中枢へと足を踏み入れた
かつて、己が惨劇に染めた敷地を跨ぐ




