天国
「空想小説っていいよね どんなに荒唐無稽でも許容する ほんの少し現実を忘れられる」
目が覚める 最近は特に彼女の夢をみる
思考を振り払い、作業に没頭する
「ねぇ この漫画の続き、ないの?」
人の部屋に勝手に上がり、人の漫画を勝手に読むカスの声がする
「それより先はないよ 未完だもの それ」
作者が完結間際で失踪し、その後音沙汰もない いまでも続きを待つファンは多い
「ええええ!? ショック〜」
「知らねぇよ」
「俺はこれから作業するから邪魔するなよ 大事な作業だ フリじゃないから」
「OKOK」
ほんとにわかってるのだろうか
「お?君には似合わないキレイなデザインだね? これの名前は?」
黒い雪の結晶を意識したコンパクトな携帯端末デバイス
「...ザインクラフトだ」
「ほうほう で?これは何のデバイスなの?」
「空想を現実にするデバイス」
「またまた〜 真白くんは面白いな〜 10点」
人に点数をつけるなと思う 嘘は言ってないけどね
信じてもらえないのは昔から慣れてる
「邪魔はしないでね」
「お!見せてくれんの?」
地面に紙を広げる 描かれたものは紋様が幾重にも重ねられた剣のような絵だ
俺はそれに左手をかざす 手に持ったザインクラフトがほのかに光る
そしてそのまま俺は左手を絵の中に沈めた ずぶずぶと絵の中に手は吸い込まれていき、自分の中のあるエネルギーが置換されていき、それを引っこ抜く
「おお?」
ディラフトの声が聞こえた
取り出された剣はこの世のものとは思えない造形をしていたが ブンっと振り回すと近くにあった的を音もなく切り裂いた ちゃんと実在化している
あとは
そう考えていると近くにディラフトが来ていた そしてぱっとこちらの手を取る
「おい!」
ディラフトは真剣な目でザインクラフトを見つめている
「邪魔するなと、言ったよ?」
今度は強くそういった
「それ、どうなってんの? セプテントリチウムでも使ってる?」
ディラフトは真顔でそう聞いた どことなく神妙にさえ見える
「あんな人体に有害なもの、使わない だいたい君に関係もない」
ディラフトはそのあと、不思議と静かにこちらを見ていたが、邪魔はしてこなかった
不気味だったが、邪魔してこないなら別に構わないと思って放置した
いろいろと試すべきことは試したが、すべて問題なく機能している いける やれる
確かな実感があった こいつなら
全ての作業が終わり、戻って食事でもとるかと思ったら、いつの間にかディラフトがいなくなっていた 飽きたのか? まぁどうでもいいか
そう思い、自分の家に戻ると
パンッパンッパン と大きな音がして何事かと思うと
「おめでと~!」
ディラフトがパーティグッズでお出迎えした
「何事?」
ゴミを散らかして ひとさまの部屋を汚さないでほしい
「お祝いだよ お祝い」
「はぁ」
短くそう切った 何がそんなにうれしいのかわからない 君には関係ないだろうに
「さぁ 座って座って! 主役がいないと盛り上がらないからね」
「盛り上がってるのは君だけだよ ディラフト君」
「しんらつぅ~! そして他人行儀はやめてね 私は人と距離ができると死んじゃう病なんだ」
「めんどくさ」
てかなんでこいつまだここにいるんだろう 帰らないかな?
「冷たいこと言うなよ 私と君の仲じゃないか」
「誤解されるようなこと言わないでくれる? たとえ勘違いでも他人に君との関係を疑われるのは舌を噛んでしまいそうだ」
「敬語を使うな!傷つくだろ!」
嫌われてる自覚がないのだろうか? 一度として好感のある対話などなかったはずだけど どれだけ心臓強いんだろう
俺は明日のこともあるから、早めに切り上げたかった
心ははやる気持ちを抑えきれなかった その日は中々寝付けなかった
「ねぇねぇねぇ」
次の日、ディラフトが話しかけてくるが、当然無視する
カタカタとデバイスを弄る
「ふぅ」
耳元に息を引きかけられる ばきりと拳がディラフトの顔面にめり込む
「殺すぞ」
「いてて、ごめんて」
「殺すぞ!!」
こぶしを握りこみ、にらんだだけで人を殺せそうな形相をする
「ご、ごめんて いやほんとに」
マジ切れすんなよといわんばかりだ こいつは今、どれだけ罪深いことをしたのか
わからないらしい 殺すか?
「いや耳元が弱点とは知らなくてさ 次からは... いやごめんごめん もういじんないから! それひっこめて!」
「なんのようだ!」
腹の底に響くようなドスの効いた声でそう告げる 次舐めたこと言ったら容赦はしない
「仲間外れにしないで 次何するのか教えてよ」
「死ね」
「死ね言わない ほんとに死んだら悲しいだろう?」
「ねぇそれ本気で言ってる?(真顔)」
まじで言ってるの? ねぇまじで?
「真白 私はね 君の敵じゃないよ」
「あ?」
何言い出してんのこいつは お前は最初に出会ったころから今に至るまで、まごうことなく俺の敵だよ?
「すごいな君 どういう精神構造してたらそんなふうに解釈できるんだ?」
「ありがとう!」
「ああ!、そういうとこがむかつくんだよ!?」
ほめてねぇよ
とりあえず一回ばらすか? へんてこな防御フィールドが使えようが体ばらしてそれぞれのパーツを別のとこに縫い付けとけばしばらく邪魔はできないだろう
「邪魔する気はないんだ」
「存在自体が邪魔だって言ってんの!」
わかれ! いいかげん!!
「頼むから、邪魔をしないでくれ」
「もちろんだよ 君の邪魔をしたことは一度もないだろう」
邪魔しかしてねぇっつってんだよ いや、もうなにもいうまい
「ついてきて」
そういってディラフトを目的の部屋に案内する
そこにはゲームデバイスとモニタが置いてあるが、ダイブ機能のあるような高度な技術が使われているものではなく、ひと昔の据え置き型のゲームだった
「わくわくするね」
能天気にそんなことをいうディラフト
「期待してるとこあれだけど これは、君の好みじゃないと思うよ」
最初に忠告した
ゲームを起動する ちなみにこのゲームは自作だ
映る画面はなんの変哲もないゲーム画面 いまの時代の技術力を考えれば古い部類に入るだろう その画面で
「先に言っておく 飽きたらさっさと帰っていい」
そう告げて ザインを起動する
「空想園 起動 コード:『天国』 マテリアル・リンケージ・リリュージョン 存在情報をコンバージョンします アバターを生成します」
ディラフトはワクワクした面持ちでいる
俺はディラフトに顎でついてこいと指示する
俺はそのままモニタに手を突っ込む
身体もモニタの中に入り込んでいく
少し歩くと、暗闇が晴れていき、人々の喧騒が聞こえ始める
地面に手を当てて、すりすりとさする 本物の大地というものを知らない俺にとってはこれが本物の大地の解像度といえるのか、自信がないが 不思議と頬が緩む
街並みは現代技術よりも古いが、悪くない
だかディラフトには不満があるらしい
「これが君のやりたいことなの?」
後ろから声が聞こえた その声はなんだか興ざめだなという感情をはらんでいた
「君が絵にかいた剣を現実に物質化させたときは驚いた その延長にあるものを想像して、私は久方ぶりに胸が高鳴って8時間しか眠れなかったほどだ」
周りを見渡す 街を歩く人達は決して多くはないが、活気がある 街並みは高層ビルは少なく、理路整然とならんでいる建物 高度な技術は使われていない
だが重要なのは、人だ ここの人は、あまりにも…
周囲の人々が真白やディラフトをみて、小首をかしげるも、そのまま去っていく
「やるのがこんなこと? がっかりさせないでほしい」
真白のやりたいことはなんとなくわかった この世界の住人を見ればいやがおうにも
「君、まだいたの?」
「来たばかりですが?」
ねぇそんなに私が嫌いかい?
「いったでしょ 期待外れに終わるって」
「君の言う期待外れが面白くなかったことはないけどね」
これを評価することはできそうにない
「どうせなら剣と魔法の世界にしてほしかったな~ わざわざこれほどの技術でやることじゃない」
周りには人々がなんのことはない日常を過ごしている 争いや差別とは無縁のように見える
「…ディラフト 君は目の前で子供が轢かれそうになったらどうする?」
「急に語りだすね う~ん 状況にもよるけど、助けるんじゃないかな?」
「それは、自分の命を懸けても?」
「とっさの判断でそこまで計算できるかはわからないけれど、考える余裕があるなら、普通躊躇するよ 自分の命だもの ただやっぱりその時になってみないとわかんないかな」
「俺はね、助けなかった」
「...」
ディラフトは押し黙り、沈黙で次を促す
「俺には考える余裕があった そして考える判断材料もあった その子供は近所じゃ有名なクソガキで 年中近場の公園なんかで同年の子供をいじめてた とても楽しそうに 叱る大人もいたのだろうけど、行動に改善は見られなかった 俺が叱ることも考えたがやめた 逆効果になると思ったから この手の輩は罪の反省なんてしない 叱られたら次はもっとうまくやる、うまく隠れていじめる ある種、そういう意味では反省してるといえるのかもしれないけれど 根本的解決にはつながらない
俺は自分の命を高く評価したことはない 今日明日死んでもああ、こんなもんかって思うだけ だから命が惜しかったわけじゃない ただ、俺は自分に価値を見出せなかったけれど、自分以外の人間にはそれ以上に価値をみいだせなかった 自分がかわりに死んでも生き残るのが、これだぜ?って」
白銀との戦争もそんな感じだ とどのつまり 俺は他人を愛せなかった 人間を好きになれなかった
「その子供、死んじゃったの?」
「いいや、俺の隣にいた男が飛び込んで行って、子供は助かった 代わりにその男が死んだけど」
「なんだか忍びないね」
「その後、助かった男の子はなんのこともないように別の子供をいじめていましたとさ めでたくなし めでたくなし」
「...救われないね」
ほんと世の中、くそったれだとおもいました まる
「俺はその後、その代わりに死んだ男がどうしても気になって、調べた 愛されてたんだろうな いつも誰かのために頑張って 葬儀では多くの人が彼のために涙を流していたよ 恋人もいて、その日は初デートだったそうだ とんだ最後さ」
ディラフトは黙って続きを待っていた
「俺はこの時思った こんな死に方だけはしたくないって」
「うわぁ」
至った結論がそれなんだ ドン引きするディラフト
「死ぬのはいい どうせ人はいつか死ぬ だがあの結末は俺に最後に残るものとは何か? それを考えさせた」
一拍おいて吐き出す
「ある奴に言われ事がある 君はまだ真の意味で生きていないんだよ もし君の人生、自分以外に価値を見出だした時、君の本当の人生が始まるんじゃないかって」
そのセリフの意味を今も考えてる
「欲が出た 見てみたくなったんだ 俺の本当に欲しいものがどんなものなのか、俺の本当の人生ってなんなのかって だから俺は 俺が愛せそうなものを創ることにしたんだ」
この世にはとんと俺の愛せそうなものがなかったから ないのなら、創ればいい
「…はぁ、言いたいことは、わかんなくもないけど、それでやることがこれってのはね」
現実世界に愛せるものがないから愛せるような世界を創ろう、なんて そこまでやる普通?
「それにしても、天国、ね...」
「いったろ、この世界は君にとって無価値だと 君だけじゃない、俺以外にはね」
町の人々を見て、ディラフトは一人ごちる
「かわいそうにね」
だれが、とは言わなかった
町並みに特別なものはない
特別なものなど求めていない ただ平穏が欲しい
その心の現れか だが悲しいかな本当に
その町を歩く人々には顔がなかった
真白は言った 欲が出たと それは本当だろうか?
私の知る限り、彼は他者を求めるタイプではない
その言葉は本当に祝福だったのだろうか?
私には呪いのように思える 彼は他者を知ろうとしてる だかその隣人には顔がない とても虚ろに感じる
その奥底には誰かに対する負い目か、引け目か、罪悪感か 私にはわからなかった
「天国、か」
真白の心の闇に、想いを馳せる
天国計画、私には最初から破綻しているようにしか思えなかった




