ドラゴン
最初から、わかっていたことではあった
こいつは特別な存在なんだって ほかの三人も興味の方向性は違えど、特別な眼でこいつを見てた 稀有な存在なのはわかる 特殊な体質なのも認める
だが、こいつは特別な存在なんかじゃない そう、証明したかったんだ
「いいよ、たしかにこんなおもちゃじゃ、勝てない 君の土俵で戦えば、そりゃそっちが勝つさ 当然だよ 当然さ! だ~か~ら!! 今度は、ぼくの土俵で遊んでもらうね♪」
冬は身構える アジン・ダーワの塗装が黒く変色していき、全身を覆う 三つあった頭が一つになる 体もより人型に近くなり、コンパクトになっていく だが、間違いなく先ほどよりも脅威度は上がった
空間を削り始める 先ほどの強さとは異質 本来の虚無としての、力
周囲に観測不能領域が広がる 手下どもも呼んだか だが、今は不思議だ 確かに視界に捕らえられている 適応し始めていた
「始めよう!君の持つ反存在の力 どの程度のものかさ!!!」
おいおい こちらは時間の帳尻合わせでしばらく動けないってのに
約束守る気はゼロなわけね わかりきってたけど
地面が消失する
こんなのどうしろってんだよ
すっ、と 冬の胸に抵抗なく黒くなったダーワの腕が刺さる そしてそのまま薙ぎ払われた
「ふっ 結局みんな期待しすぎなんだよ こいつなんて、こんなもんさ」
ああ、でもむかつきが収まらないな どうしようもなく八つ当たりしたい気分だ
ケイオスはさきほどの二人を思い出す そうだ、あいつらで憂さ晴らしをしよう
たいした感慨はない ただやりたいからやる それだけだ
ケイオスは二人を探し始めた
◇
「はぁ はぁ」
冬真はナギを抱えて空間の迷路を歩いていた 歩くだけでもかなりのしんどさだ
それでも最初のころよりは体もスムーズに動くようになってきた 今なら多少は走ることもできるだろう
手に伝わるぬくもりを何度も確認する 確かに自分の腕の中にナギがいる すぅ すぅと息をしている 生きてる もう二度と離したりしない
「ナギ もうすぐだからな」
実際はただの気休めだった 冬真は冬に渡された案内を頼りにしているが、すでに道に迷っていた
つくづく自分の不器用さを呪う
「みぃ~つけた」
ぞっとした 後ろを振り向くと 真っ黒な一匹のトカゲ人間がいたから
こいつ、形状は変わっているが、まさか
「冬ならこないよ」
凪を抱きなおして、なんとかつたない形で走り始める
かなりの鈍足だ
「ちょっとムカついててさ 君らと遊ぼうと思ったんだ だから、鬼ごっこをしよう もちろんぼくが鬼で じゃ、スタートね」
一方的に遊び始める クソ野郎め
冬真の逃走劇が始まる
(こっちだよ)
? 冬真は何かの声を聞いた気がした
(ここにいるよ)
間違いなく、自分に話しかけてる なんでもいい 今の状況を打破するならなんでも
その声のするほうに冬真は走った
「ここは...」
冬が初めてドラゴンを見せてくれた場所 つまり元の場所に戻った? 騙された?
そう思った 声はまだ聞こえる そこに進む
「君が、俺を読んでいたのか?」
いまだに動き出す様子はない ぼくの妄想、幻聴でないことを祈りたい
「もう終わりかい? 鬼ごっこ?」
後ろを振り向く前にナギを投げた 衝撃が走り、地面を転がる
体の損傷が激しい 動かない もう、ダメなのか?
いつもだめになる いつも大事なときに、全部だめにする
どうして、自分はこうなんだろう どうして、ぼくは
うまれてきてしまったんだろう
冬のことを考える あんな風に生きてみたいと どこかで憧れる自分がいる
自分の芯があって、自分の道を切り開く力を持ってる 敵も多いだろう
嫌われることのほうが多いと思う なのになんであんなに人の視線を惹きつけてしまうのだろう ヤンキーがモテるってやつ 嫌だな はは
拳を握る 最後の最後まで 誰かに期待してる自分が嫌いだ
(力が、ほしいですか?)
ほしい 力が あいつをぶっ飛ばす力が
(覚悟がありますか?)
覚悟?
(私を受け入れれば、あなたはあなたが見ないようにしているものを直視することになる 今はわからなくても 必ず後悔するときがくる それでも 私を受け入れますか?)
...頼む 力を貸してほしい
(わかりました 私を うけいれてください)
まるで時間が止まったような緩やかな時間の中でかわした約束事を かわした
「灰銀竜の息吹」
ケイオスはその場を即座に離脱して、支柱に張り付く 階下がすさまじい勢いで吹き飛ぶ 本来の性能は発揮できないはず なら大きく減衰してこの威力
特殊な性能もここでは表現できないだろうが、単純な火力だけみてもすさまじいな
「おいおい それはちょいと領界侵犯もんだろ? ドラゴンさんよぉ?」
冬真が立ち上がる 冬真の体に紋様が浮かび上がる まるで刻紋のように全身を灰銀色のタトゥーのように絡みつき、それが竜の鎧のように冬真を構成し始める
ばきりと、冬真の頭部にあった角に当たる紋様が砕ける
全力は出せないどころか、時間制限付き
冬真は支柱に張り付いたトカゲ野郎に向かって跳躍する
異世界の力と無の力が今ここに衝突する
冬真とケイオスの拳がぶつかる
激震とともに、ケイオスが吹き飛ぶ 地面を抉りながら、地面に爪を突き立てなんとか体制を整える
竜の銀爪を受け止めるケイオス 地面がひしゃげ、膝が折れそうになる
ケイオスの表情に焦りのようなものが発生し始める 無の力がうまく機能していない
互いに身を置く領域が異なるゆえのイレギュラー
しかし、単純な膂力は圧倒的にあちらが上!!! このままでは!!!
だが 爪に欠けが発生し、ケイオスはそこに勝機を見出す
爪を弾き飛ばして、蹴りを叩き込む
「もうぼろぼろじゃ~ん しかたないよねぇ ここは君らの生活圏じゃないんだから!」
海の中で生活してるものが、途端に陸に上がっても適応できるわけがない
幻想領域展開
ケイオスの顔が歪む
一帯の空間を幻想が侵食する
観測未納領域より、世界観測減退特異粒子、魔素生成
自己の生存領域に一帯を書き換え始める
灰銀竜の息吹とケイオスの黒い虚砲がぶつかり合う
竜の息吹がケイオスの咆哮を押し返す
「クソが!」
死ぬほどのケガではない というより、これで死ぬことはない それだけははっきりしてる 見かけの傷など何の意味もない
世界が違う以上、互いの理屈を共有しあえない
幾度となく衝突をし、壁を地面を抉りながら戦う
支柱を使って軌道をかえ、蹴りを放つ ケイオスも空を蹴りながらそれをかわす
宙器の輪郭も維持が難しくなっており、虚無の配下達も干渉力が低下し始めている
怪獣決戦のようだ だが少しずつ形勢はケイオスに傾く どんどん冬真の戦力が落ち始めた
ケイオスの爪が冬真を貫く そのまま壁にたたきつけられた
その勢いで、冬真とドラゴンが分離する ドラゴンはまた物言わぬ置物と化す
「ふぅ とんだ異種格闘技だったけど、割と楽しめたよ」
嘘だ ドラゴンのほうが先に限界にきただけで、押し勝ったわけではない
死ぬことは絶対にないとわかっていてなお、負けるのは嫌だったのだ
負けなかったということに、安堵さえしていた
「ははっ」
初期型のアバターであるため、血はでないが、ほとんど損傷していて、動かすのは無理だろう にも拘わらず冬真は余裕そうだった なぜなら自分と彼のリンクはまだ切れてない まだその存在を感じているから
「なにが、おかしいの?」
ムカつくな それ
「時間稼ぎは充分果たしたよ 冬」
「虚空閃」
ケイオスめがけて走る黒い閃光ケイオスの右腕を切り飛ばす
ケイオスが慌てて振り返る
そこには黒い影が 立っていた
◇
気づいたら黒い場所にいた
またここ(無)か
よくよく縁がある 冬真は無事か?
冬真の存在はまだ感じる となると俺は死んだわけではないらしい
それも時間の問題かもしれないけれど
「いいのかい? それで」
そこには、透明な男が立っていた この領域だとさらに見えづらいが
「ほんの、一歩だ ほんの少し、歩み寄れば道は開ける」
やればできる子みたいな言い方やめてくれる?
その代わり、面倒ごとが増えるだろ
「でも、それをしないと現状は打破できない」
そうだろ?
「お前らは、何がしたい? 俺に何をさせたいんだ?」
ただ敵対したい、ってわけではないのはわかる
「まだ言ってもわからないだろう 私の目的が君の代で完結するのかはわからない だが、君がいればそれは早まるかもしれない ちょっとした投資だ 君ら風に言うなら」
「あの子を頼む かわいそうな子なんだ 私たちはそれぞれ自業自得な面がそれなりにあるが、あのこは完全に巻き込まれたようなものだ 結果的に、という奴だね」
意味わかんねぇよ
「君ならできるさ 君にしかできない」
左手がうずく 俺はきっと わかる
顔を両手で覆う
「見ないようにしようとしたって 見えてしまう 難儀だね」
でも 進まないと
「わかってるさ」
ほしいものはいつだって 面倒なことの先にある
「あんた 結局誰なんだ?」
「クリア いまはそう呼んでくれ クリア・ヴォイドと」
「そう」
それだけ言って
真っ黒な左手を前に突き出す
「解析を、開始する」
◇
第四観測不可能領域 接続完了
第四永久機関・駆動
俺の血色が変色する
冬が目を開く その瞳は虹色の輝きを放っていた
先ほどの損傷が回復を始めている 消耗した存在エネルギーを補填してるのではない
こいつ、ぼくに削られて、消滅した存在エネルギーを修復して再利用してやがる! 化け物が!
「ふはっ ハハハハハハッ マジかよ ハハハッ クソが!!!」
こんな早く僕の領域を解析しきったというのか? そこはぼくの玉座だ!
「ああ、だから寄越せ そのイス」
まるで心を読んだかのように、冬は返答をした
冬に向かってケイオスは黒い虚砲を放つ
冬はかわすでもなく、左手を前に突き出す ケイオスの攻撃は冬を透過した
否、同化してるのか 同色は汚染しあわない ほんの少し色彩が違うだけで汚染は始まる 薄くもなく濃くもなく 完璧な表現をした
「クソが! クソクソクソクソ、クソが!!!」
冬が走る ケイオスも走る
拳をぶつけ合う ケイオスの拳にひびが入る
そのまま冬はケイオスをつかんで壁にたたきつけ走る
柱も壁も地も天上も破壊して縦横無尽に走りまわる
空に投げ出されるケイオス 上から降ってくる冬の左手にはフォースエッジの刃が形成されており、それがケイオスに突き刺さる フォースエッジは本来虚無のケイオスには意味をなさない だが、それが刺さるということは、反存在の力を付与してるということ フォースエッジの力場が下に向かって推進力を発揮する 反存在はザインのように存在エネルギーを流し込んで虚無を触れるように実体化させるようなものとは異なる
本当に無に触れているのだ 無を観測し、無に触れる 無の色彩を表現する
正真正銘、世界のバグ!!!
本来冬の持っていた性質である反存在が虚無に触れたことで変質したのだろうが、それにしてもこの世界にあるまじき性能だ
今だかつて現れなかったぼくらの天敵が、こいつなんて!!!
天地がひっくり返るような衝撃が全身を駆け巡る
左腕1本 たった左腕1本分取り戻した程度でこの強さ!
内臓物を吐き出すように黒い何かを吐き出す それがぽつぽつと黒い結晶になる
冬を見る その目が怖かった その目で見るな
こわい こわい こわい!!!
久しぶりに全身を駆け巡る死の恐怖
冬が左腕を構える その左腕には真っ黒な大鎌が形成される 大鎌と大鎌が柄の部分でくっついたような異形の双鎌が
我想刻紋 形而変転
対虚無兵装:無鎌
こいつは、まずい!!
「アルヴァ・ルフ! 来い!!!」
虚無を差し向ける 雑魚でも時間稼ぎはできる!
四方八方から囲め!!
無鎌 それはまるで影のように見えるそれは冬の影に溶け込むように冬の稼働を邪魔しない
冬は虚無に近づくすれ違いざまに影から出てきた大鎌が虚無を刻む
左手を相手のほうに差し向けるだけで、影が伸びて 虚無を抉る
冬がしゃがんで後ろからくる虚無の攻撃を回避する 回避しながら後ろに伸びた影が虚無を返す刃で切り裂く 閃くのは一瞬でいい
『ははっ 冬 嫌味な奴』
鎌は実践向きじゃないとか言ってたのに 実は気に入ってたな
俺ならこう使う 俺ならもっと実践的な武器に落とし込むってか?
冬は近接戦闘を好むのか 爪にしろ、剣にしろ、銃にしろ 人体の延長でしか使わない 必要な時に必要な長さ、形状、強度で顕現させ、隙をコンパクトにしていく
それでいながら、動きは派手で 絵になる まるでアーティストのようだ
刻紋とはもとより人体に刻んでる 人体の能力を延長させるものとして扱っている節がある
人体こそ最強の武器であるべきだと 人剣一体とはいうが、刻紋の在り方は冬の思想の体現のようだった
回転する双鎌が虚無を駆逐しまくる
削られた虚無達は二度と復活しなかった 完全に沈黙する 顕現した観測不可能領域そのものが縮小しているから数もじきに消える
冬の手刀が虚無を切り裂き、冬の足刀が鎌のように敵を薙ぎ払う
瞬く間に虚無は消えていった 黒い結晶だけを残して
死にたくない 死にたくない 死にたくない
せっかくここにでてきたんだ まだやりたいことがたくさんあるんだ まだたくさんやりたいことをつくるんだ
こんな、こんなところで
「彼に無為なちょっかいをかけてはいけないよ ほっておいても彼とはいずれぶつかり合うのだから」
クリアの言っていたことを思い起こす
「彼は、この惑星の頂点だ」
まともにやりあって勝てる相手ではない その言葉の意味がようやく理解できた
まともにやりあえる土俵に立ってはいけない
これが、一つの惑星の頂点にたった生き物の強さ、その一端なのだと
目の前で手刀を作る影が蠢き、フォースエッジのように鎌の形を成していく その姿はまさしく
「しにがみ」
ケイオスの首がはねられる
首が落ちて、地面に転がる 消失が始まる
「最後に聞きたいことがあるんだけど、質問答える気、ある?」
「ふふっ あるわけないじゃん べっ」
「だろうな」
見受ける印象から負けたら負けたで、言い訳とかし始めるタイプに見えた
だから首も容赦なく跳ねた
それが最後の言葉となり、消失した




