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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第4章

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真の無 Ver.1


「正存在か……君が教えたのかな、真白?」


研究所の一室。世界ごと格納された冬達はしかし小さな世界アフの中にいた。


静謐な空間に響くことはない虚無の木霊。


それでも、その声は冬の耳へと届いた。



クリアの声には焦りも驚きもなかった。


問いかけているようでいて、その実、ただ事実を確認しているだけだった。


「ふむ……この時代にも、神は出現するのだな。不思議なものだね、真白。時代は変わり、宇宙すら移ろいゆくというのに……」


クリアは顎に手を当て、指で頬を軽く叩きながら思索する。


「独り言をぺちゃくちゃと……」


「異世界の戦力を確認しておきたかったのだが……あれではこれ以上の観測も無意味か」


クリアはアフを見る。


「仕方がない。君がいる時代の神がどのような完成に至るのか、観てみたい気持ちもあるが…」


その声音に失望も焦燥もない。

あるのは、実験を一区切りつけた研究者のような淡々とした納得だけだった。


「テメェ……」

冬の喉から低い声が漏れる。


「何をするつもりだ?」


返答はない。

クリアはゆっくりと右手を持ち上げる。


ただ、それだけ。


それだけの動作で。

冬の全身から血の気が引いた。


違う…あれは攻撃だ!


考えるより先に、身体が叫ぶ。


「アフ!! 避けろ!!」


Rings。


光速すら超えて情報だけを送り込む。

危険、攻撃、座標、軌道、規模、回避…!


言葉ではない、理解そのものをアフへと叩きつけるように送る。


しかし――


アフの右腕は呆気なく消失した。


直前の変化は観られなかった。

光も、音も、衝撃も、風圧すら存在しない。


それなのに……!




アフの右腕が、肩口から先だけ、最初からそこには存在しなかったかのように、静かに途切れていた。


血は吹き出さない。肉も裂けない。切断面すら存在しない。


ただーー


右腕という概念だけが、この世界から削除されていた。



ありえない。


【球界防御】

完成さえしてしまえばこの世界のそんざいがアフを傷をつけることなど本来不可能。


今、この世界の理はアフの掌の中にあるのだ。


なのにーー


あまりにも容易く、その絶対を貫いた。


「球界防御……本来なら無類の強さを誇るだろう」


クリアは淡々と語る。


「だが、座標すら没収したことが仇になったな」


「この無の世界では、我々の独壇場だ」


「回避すらできないよ」


地の利を与えてしまった。

座標が失われれば、避けるという概念そのものが曖昧になる。


それだけじゃない。


「アフの存在強度を……」


冬は歯を食いしばる。


「こんなにも容易くに貫くなんて……」


押し合いすら起きていない。


これは一体…!?


「私の力は、虚無の中でも特別だ。私の力の前に"強度"は意味を為さない」


クリアは笑わない。無機質な眼でアフを見ている。


「フザケやがって、チート野郎が!」


なんてデタラメな奴だ。前提条件から崩して来やがった!


「さて……いつまで避けきれるかな?」


「クソ……!」


冬は攻撃を察知し続け、アフへ回避指示を送り続ける。


アフも存在の力を用いて、即席の座標概念を編み上げ、仮初めの座標を飛ぶ。


それでも、限界は近い。


いずれ捕まる。


「冬真の奴……何をしてやがる!」


たらたらしやがって!状況を理解しているのか?


「俺の方から……」

行くか?とまでは言い切れなかった。

この仮のアバターを停止させ、大元に帰還する。

戻るのは一瞬だ。

しかしその場合…


「わかっていると思うがね。君がこの場を離れるのなら、私はこの少年、もしくはその女性を消すよ?」


唇を噛み、クリアを睨み返す。

相変わらず無機質な表情だった。


地面に倒れ伏す善。そしてジャ・イーを食い止めている晴を、クリアは人質に取っている。

そうは簡単にいかない。あちらもこちらの弱みを理解している。



クリアが告げる。


「そろそろ終わりかな?」


「アフ!」


次の攻撃はきっと、避けきれない。




アフは事態の把握が出来ていなかった。己の右腕が消失しているということすら自覚できない。

だが、冬から伝わる焦燥と危険シグナルからその指示に従い、回避行動を続ける。


その中で


「何が起きているか、わかりませんが……」


ジークもまた、事態の把握はできなかった。光さえない環境でそれでも観ることができるのは彼の魔力特性に由来した。そしてそのために、この不可思議の輪郭を、いまの環境下であるがゆえに感じ取っていた。


ジークはアフへ向けられた無の力を、観る。


理解はできない。


形もない。 性質も読めない。


だが。


「まだ、こちらにツキはあるようですね」


「モエミ!シェヴァラ!」


「了解だ、大将!」


「は〜い!ジーク様」


モエミの糸でジークを捕らえ、シェヴァラがその糸を掴んで振り回し、ジークを遠心力で射出する。


「なにを?」

クリアが目を細める。


次の瞬間。


無の力がジークを包み込んだ。


――消える。


そう思われた。


しかし。


「……闇よ、喰らえ!」

黒い魔力が噴き出す。

闇が無へ絡みつき…そして、貪る!


「これは……」

クリアが初めて興味を示した。


「吸収している…のか?」


「おいおい…マジかよ、異世界」


アレは冬の理解を超えていた。


「ふふ……これは、いい。よく馴染む。相性が抜群ですね」

ジークの闇が膨れ上がる。


「面白い」

クリアはそうとだけ呟いた。

初めて、クリアの瞳に知的好奇心が宿った。


ジークの右手がアフへと向ける。


アフは白ノ盾を展開する。

しかし、座標の存在しない領域では、その権能は本来の形を発揮し得ない。


……いや。


仮に展開できたとしても――


『アフ!』


音もなく、アフの左腕が白ノ盾ごと消失した。


「これで、流れが変わりましたね…!」


ジークの顔に余裕が戻り始める。


ジークの右腕がアフへと向けられる。


その仕草はその後の末路を、容易く想起させた。


アフの体中に開く穴…


「やめろぉぉぉ!!」


俺は、届くはずのない叫びを上げていた。



クソ。


クソ、クソ、クソ……!


何かないのか。


何か――


時間が引き延ばされたような感覚。


思考だけが加速する。


その中で。


冬は確かに声を聞いた。


「ア〜シが助けてあげよっか?」


悪魔の囁き。


声だけが、耳元で笑う。


「……アリン」


「そんな怖い顔しないでよ〜」


アリンは楽しそうに笑う。


「ア〜シは助けてあげよっかって、提案してるだけなんだから✩」


冬は答えない。


いや。


答えられない。


こいつの提案を受けるわけにはいかない。


物語の軛を超えた今、この悪神が何を目的としているのか、冬には分からない。


だが。


この状況で動いたということは――


思考が巡る。その都度、選択肢が削れていく。


時間が…ない。


「望みは……何だ?」

冷や汗はでていない。だが、俺の表情はきっと…


「イヒヒ」


アリンは笑う。


「ア〜シは君と契約を結びたいの」


「契約……」


「そ!」


楽しそうな声。


「もちろん、一度結んだ契約は解除できないけどね〜?」


冬は理解する。


もし契約すれば。


自分はアリンを殺せなくなる。


アリンを止められる可能性を持つ自分が、アリンに不利益な行動を取れなくなる。


それは、この世界にとって致命的だ。


だが――


他に手段は…


答えは一つ。


正解も不正解も、一つしか残っていない。


進むしかないのか。


この地獄の一本道を。


『冬…!』


冬真の悲痛な声が届く。


迷っている暇は、ない!


俺は、悪魔の手を取った。


「ニヒ!契約は、成立♡」


悪神は俺の手を取り、そして顔を引き寄せるように、唇を重ねた。


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