第三十話 解決の時
──崩れゆく学園都市を背に、ベルセリールは剣を握りしめていた。
地響きを立てて進む魔導ゴーレム。その中心で脈動する破局石のコアが、光を吸い込み、都市を押し潰さんと膨張している。
「……まだ……届かない……!」
ベルセリールの視界に、敵の巨体が迫る。上空から飛竜による接近を試みたが、幾度も展開される防壁と魔力波に阻まれ、打つ手がない。
地上ではクレセルイやルーナリア、その他の人物たちがクレセルイの呼びかけであつまりゴーレムの注意を引いてくれている。
「ベールちゃん、聞こえる? なんとか、こっちでゴーレムの注意をひくから!その隙に、コアにクリスフェリオンを突き立てて!」
小型通信魔石を通して、ベルセリールの耳元に声が届く。
「まさか、君の魔力量を正確に計るために作った《クリスフェリオン》が、こんな形で使われるなんて……でも、今はそれが希望なんだ!」
ベルセリールは、無言で頷いた。言葉など要らない。クレセルイの声だけで、十分だった。
けれど──その直後。
「──っ!?」
ゴーレムの腕が振り上げられ、迂回しようとした瞬間、振動が全身を襲った。防壁から弾き出された衝撃で、飛竜は吹き飛ばされ!
それによりベルセリールは身体は空中に投げ出され、遠くの監視塔の屋根へ叩きつけれた。
瓦礫が崩れ、視界が暗転する。
どこかでクレセルイが名を呼んでいた。だがその声も、遠い。
(……動けない……)
身体が鉛のように重い。指一本、剣すら握れない。ぼやける視界に、あのときの笑顔が浮かぶ。
研究室で笑い合った時間。名前を呼んでくれた、あの日。料理を褒めてくれた、小さな食卓。
それを……終わらせたくなかった。
「……ぅ……ぁ……!」
ベルセリールの手が、ゆっくりと瓦礫の中の剣を探る。指先が《クリスフェリオン》の柄に触れた。
「……まだ……終わってないよ……!」
よろめく身体を引きずり、崩れかけた塔の縁に立つ。下には、巨大なコアが唸りを上げている。位置的に飛び乗れそうな絶好のチャンスだった!
覚悟を決め、息を吸い込む。
「クーちゃん!……見ていて……!」
そして、ベルセリールは跳んだ。
重力に引かれながら、まっすぐに──まるで星が堕ちるように。
彼女は、剣を構え、破局石の中心へと《クリスフェリオン》を突き立てた。
瞬間、ベルセリールは自身のファリアをクリスフェリオンを通しゴーレムコアに流し込む。
あの青く輝くエネルギーが、コア全体を満たし、紫の禍々しい光を侵食していく。
「……あれは……」
「お姉様のファリアで、コアを形成しているデスファリアが……浄化されている……」
──破局石が砕けた。
中心から、音もなく崩れてゆく。まるで鎖がほどけるように、浄化されて元のファリアに一部のファリアが戻ったために、デスファリアの魔力配列が断ち切られ、デスファリアにより形成されていたコアとなっていた魔石の構造は崩壊を始めた。
全身を構成していた物質たちは、コアからの魔力の支えを失って崩れ落ち、やがてガラクタの山と化す。
そして──
アルベルム学園都市の中央塔から、鐘の音が鳴り響いた。
透き通った音色が、廃墟と化しかけた都市に静けさを戻す。
──
「ベールちゃん!」
コアの中に倒れ込んだ彼女の元へ、クレセルイが駆け寄った。
剣を握ったまま、ベルセリールは気を失っている。
「……大丈夫……もう、大丈夫だから……!」
彼女の胸元はかすかに上下していた。
剣は砕けていない。彼女の心も、折れていなかった。
こうして、レグリス・クシュル・ルジエールにより引き起こされたこの事件は後に。
デスファリアゴーレム事件として……その名をルジエール公国の歴史に刻まれることとなる。
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