第十六話 輝ける星のファリアと輝けない星のファリア?
続きです!
例の魔石調査、ベルセリールの身体調査、スライム核の解析と、大忙しのクレセルイ。そんな慌ただしい日々の中で、ルーナリアは短い滞在を終え、本家へ帰ることになった。
ルーナリアの帰る日、三人で最後の昼食を囲んだ後、屋敷の玄関先で別れを告げることになった。
「そっかー、ルーナちゃんって今は学園がお休み期間だからこっちに来てくれてたんだねー」
ベルセリールは寂しそうに笑いながら声をかけた。
「ええ、私はまだ学生だからね?クーとは違って十歳でアルベルム学園学習部に飛び級入学して、そのまま即卒業……なんてことにはならなかったわ」
「とか言いつつ……今年で飛び卒するんでしょ?ルーナだって?」
「入学して数ヶ月で卒業した経歴者にそんなこと言われても……私なんて何も凄くない気がしてしまうわ」
小さな笑顔を見せながらも、ルーナリアは目元を赤くしていた。ベルセリールはその様子に胸がぎゅっと締め付けられる。
「ルーナって本当にベールちゃんに懐いてるなぁ……」
クレセルイがぽつりと呟くと、ベルセリールは不思議そうに首を傾げた。
「なんで?クーちゃんにじゃなくて?」
「妹だから分かるんだよね……ルーナの気持ちも」
「?」
この一ヶ月、クレセルイとルーナリアは共に研究に没頭し、その間ベルセリールは二人を支えるように家事や手伝いをして過ごしていた。時には三人で街へ出かけ、時にはルーナリアに誘われてベルセリールと二人だけで服を選びに行ったりもした。いつの間にかベルセリールもルーナリアを本当の妹のように思い、大切に感じていた。
ルーナリアを見送った後、ベルセリールは一人で厨房に立ち、クレセルイと自分の分だけの夕食を作っていた。ふと、料理の量が二人分になったことに、不思議な寂しさが胸に広がる。
「ルーナちゃん、帰っちゃったんだな……」
魔石工作の際に、鉱石を壊すたびに「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたルーナリア。ベルセリールのファリアの特性についても、クレセルイと真剣に仮説を立てては検証を繰り返してくれた。答えは見つからなかったが、その時間はベルセリールにとってかけがえのない、家族のような時間になっていた。
「妹って、いいな……」
ベルセリールは笑みを浮かべ、リビングに料理を運んだ。そして研究室へ向かい、クレセルイを呼ぶ。
「クーちゃん、ご飯できてるよー!」
「うん、ありがとう!これを書き終えたら行くね!」
テーブルに戻ったベルセリールは、そこに置かれた自作の魔石に目を落とす。
「何度も試したけど、やっぱり私のファリアは魔法式を組むと魔石が砕けちゃうんだよね……光のランプにしかならない単純な構造しか作れないなんて……」
そこへクレセルイが資料を抱えてリビングに現れた。
「と思うでしょ?でも実は他にすごい使い方を思いつきそうなんだ!その資料もまとめているんだよ!」
「それと、スライム核の魔石も調べているけど、やっぱりなぜ魔法として成立していたのか分からない……」
「いろいろ試したけど、結局、魔法発動はできなかったみたいだもんね?」
「うん。だから今度、アルベルム学園に持ち込んで詳細に分析してもらうつもりなんだ。とりあえず今は、ご飯食べないとね!」
※※※
食事をしながらベルセリールにクレセルイはとある事を告げた。
「え?クーちゃん、アルベルム学園にしばらく泊まり込みで研究するの!?」
「うん。学園長でルジエール公国の実質的な代表でもあるドレリス公爵様にスライム核についての資料を提出したら、詳細な調査を命じられてね。ルーナが説明してくれてたみたいだ」
「そうなんだ……ってことは、クーちゃんしばらく帰ってこられないんだね?」
「うん……そういうことになる」
クレセルイは少し寂しそうに笑った後、真剣な表情になってベルセリールを見た。
「だから、その前に準備したいことがある。ある場所に行きたいんだけど、ベールちゃん、一緒に来てくれる?」
※※※
アルベルム学園へと続く中央ストリート、通称「アルケミーサイド」。研究施設や鉱石加工場、魔導機械店が軒を連ね、学問と錬金術に特化したこの通りには、学園生や研究者が行き交っている。今日はベルセリールも初めてこの学問の街に足を踏み入れた。
「お姉様!クー!」
人混みの中、鮮やかな青のドレスに身を包んだルーナリアが駆け寄ってきた。
「ルーナ、ごめんね?呼び出しちゃって!」
「別に構わないわ。クーの頼みだもの」
ルーナリアは優しく微笑むと、ベルセリールのドレスを見てぱっと表情を明るくした。
「お姉様!そのドレス、着てくれているのね!嬉しいわ!」
「うん、可愛いし気に入ってるんだ。流石に貴族関係者が多いこの区画に、平民用のワンピースで来るのはね……私が目立つだけならいいけど、クーちゃんのイメージまで悪くなるのは嫌だから」
「ふふ、流石お姉様ですわね。ちゃんと自分の立ち位置を考えてらっしゃる。ファッションは自分を飾るだけでなく、一緒にいる人を輝かせるもの。私はそう思っていますの」
「ルーナちゃんは本当にしっかりしてるよね……私より下だなんて、全然思えないよ」
「そんなことありませんわ。お姉様は、私が出会う前から憧れていた存在ですもの」
「え?出会う前?」
「ええ。兄ゲイルがクーデリア第四王女の話を楽しそうにしていて、私も気になって調べたの。そしたら肖像画や絵画がすぐに出てきて……あまりに綺麗で憧れてしまったの。それで、この髪型にしたのよ?」
「あー!だから再会したとき、髪型が変わったって思ったんだ!……それってベールちゃんリスペクトだったの!?」
「ええ!それが流行してしまって、今では『クーデリア第四王女ヘアー』として貴族令嬢たちの間で人気なのです」
ベルセリールは思わず顔を真っ赤にして俯いた。
「私、そんなすごい人じゃないのに……問題児だし……」
三人は一緒にアルケミーサイドを歩き、魔石加工所や鉱石屋を回っていった。
「クーちゃんとルーナちゃんは何を探しに来たの?」
「僕とルーナは、あの紫の魔石の崩壊侵食粒子、デスファリアを再現するための鉱石を探しに来たんだ」
「え?作り方がわかったの?」
「ううん、わからないからこそ、似た魔力配列の魔石を自作してどんな壊れ方をするか調べてみようって。配列自体は解析できているから、トライアンドエラーで近づけるしかないの」
「それに、途中で落ちていた爆発して粉々になった魔石も、実はスライム核だった可能性が高いってわかってきてね」
それは地下水路の途中に落ちていた爆発により砕けたと結論付けたあの魔石の事だった。
「他にも、最初にあった川近くの爆発地点からも同じような魔石片と思われる物が見つかっていた事がわかってね?」
二人の話を聞いたベルセリールは珍しく話の内容を理解できた。
「つまり……あのスライムは3匹いて、誰かが人工的に作った。デスファリアが魔法として成立するかの実験だった。結果、最初の2匹は暴走して核が砕け、最後の1匹だけがコアを保ったまま暴走寸前まで稼働していた……そういうこと?」
「!!凄いね!僕達が伝えたかったことを完全に理解してる!」
「ええ、お姉様の推測は完璧よ。多分、汚染そのものが目的ではなく、あの魔石を魔法として成立させられるかを試していたのだと思うの」
「ただ、魔石として成立しないものを成立させられる魔石職人がいるなんて……」
「お姉様と同じような体質者がいるとしたら?どうかしら?」
ベルセリールの頭にクエッションまーく
「内包型デスファリア……いや、デスファリアのエネルギーとしての性質を持つファリアを、最初から含んだ人間がいる可能性がある。ベールちゃんのランプ用魔石のように単純構造で強力な力を持つような……」
「……つまり私と同じような体質の人が?」
その時、クレセルイは懐から小さなメモを取り出してベルセリールに見せた。二十年前の戦争時に聖女が残した言葉が記されていた。
「これは聖女アステリア様が残した言葉なんだ」
——星が輝けば影が生まれる。光と闇は一体であり、暖かい場所があれば寒い場所がある。正義と悪のように、何事にも対となるものが存在する——
「つまり、お姉様が輝く星なら、その人物は輝けない星。光を作る者がいれば、闇を作る者もいる……そんな存在がいるかもしれないんだ」
「まだ僕たちの仮説に過ぎないけどね」
「……なるほど」
三人は話しながら、いくつもの宝石店や鉱石加工場を回り歩いた。やがて、ある店でルーナリアが珍しい鉱石を見つけて声を上げた。
「あ、クー!これは吸収石よ!」
「珍しいね……」
「吸収石?」ベルセリールは首を傾げながら、透明で美しい水晶に手を伸ばした。「綺麗だねー。まるでレンズみたいに透き通ってる……面白ーい」
「ベールちゃん!触っちゃダメ!」
クレセルイが慌てて声をかけたが、ベルセリールはすでに吸収石を手に取ってしまっていた。途端に吸収石が淡い水色に光を変えた。
「え?これどうなってるの?」
「全く……説明するね。その石は持った人のファリアを吸収して強度を増す性質があるんだ。ずっと持っているとファリアを吸い続けられてしまう。離せばすぐに吸い溜めたファリアを使い切り、無色透明に戻る不思議な鉱石なんだよ」
「っ!?クー!この吸収石を使えばお姉様のファリア量を測れるんじゃないかしら?どれだけの時間ファリアを吸わせ続けられるかで!」
「!?その発想はなかった!やってみよう!」
※※※
「あれー?必要なものを買いに来ただけのはずが、なんで私のファリア測定会になってるのー?」
「ごめんなさい、お姉様……私達、こういうの楽しくてつい……!」
「ベールちゃん、これを身に着けてみてくれる?このペンダントにはさっきの吸収石を削って嵌め込んであるんだ」
「わかるよ……って、これペンダントというより大きなビー玉を紐で吊るしただけじゃない!?」
ベルセリールの首に吸収石を装着した瞬間、石は夜空の星のように薄い水色に輝いた。その光は柔らかく、吸い込まれるような美しさを持っていた。
「!?綺麗……これがお姉様の融合型ファリアの輝き……」
クレセルイもルーナリアも、そしてベルセリール自身もその光に目を奪われていた。
「ベールちゃん、体調に異変を感じたらすぐ外して!それがファリアが少なくなった合図だから!」
「うん、わかった!」
※※※
そして翌朝、エプロン姿で朝食を作るベルセリールの姿があった。
「おはよう!クーちゃん!」
「お、おはよう……ベールちゃんって……まだ吸収石つけてるの?いつ外したの?」
「え?外してないよ?クーちゃんが体調悪くなったら外してって言ったけど……そんな感じにならないから外してないけど?」
「……え……?」
呆然とするクレセルイに、後ろからルーナリアも顔を出した。
「クーお姉様、おはよう……ってクー固まってるけどどうしたの?」
「ベールちゃん、あれから吸収石をつけっぱなしで、今も元気に料理してるんだ……」
「……嘘よね?私は三十分も持っていたら倒れかけたのに……」
「僕だって二十分が限界だった……」
「今、どれくらい時間経ってるの?」
「昨日の夕方からだから……十四時間以上経ってるよ……」
彼女の無邪気な笑顔は、何も異変が起きていないことを物語っていた。しかしその姿は、常識的にはありえない圧倒的なファリア量を示していた。
ベルセリールは首のペンダントをつまみ、夜明けの光にかざして眩しそうに微笑んだ。
「ねぇ、クーちゃん?このペンダント、結構可愛いかも!ずっとつけてていい?」
彼女の笑顔は、二人にとって何よりも眩しく、誇らしく思えた。




