運鈍根②
「【巨大化】ァ!!」
唯一持っている保険を切り、影狼の口の中で大きくなった俺は膨らむ勢いで上空に射出される。
〈巨大化〉は保険であり、同時に切り札。おそらく影狼の体力は一割も削れていない、巨大化中にどれだけ削れるか、ここが勝負所!!
インベントリからポーションを取り出し、影狼の目めがけて投げる。同時に影狼は雄叫びをあげ、影狼の足下の影が何箇所か隆起する。
その影から槍を出すスキルは目で狙いつけてんだろ、目潰しだ。で、
「毒ポのお味はいかがかなあ?!」
投げたポーションは少しズレたが中身は影狼の左眼にかかった。直接飲ませた方が効力は高いらしいが、毒の状態異常することができた。そして、影から槍が複数、影狼に向かって落ちる俺目掛けて放たれるが、かなりのズレが生じていた。俺は致命傷になるものだけ避ける。一本は右の腱を貫き、一本は頬を掠る。
何故か上方向への移動が頻出する故、剣を両手で持ち、空中で前に3回転して斬る…この技をカッコよく
「盈月三輪!!」
と名付けた。
顔面に見事命中し、ズゴォンと音が響く。俺の体は攻撃の勢いに対応するように反発し、後ろに弾かれる。左手と右足と左膝で着地しながらズザーッと地面に跡を残しながら俺は後ろに吹っ飛ぶ。
左脚は使えない……いやこの距離なら右脚で十分。
剣を振り下ろせるように上にあげて、右脚の力だけで前方に跳ぶ。爪の攻撃はスレスレで交わし、うまく踏ん張れない状態で右から左に袈裟斬りを放つ。畳み掛けるように更に剣を振っていく。影狼の爪による攻撃、噛みつき、体当たりを躱し、剣による攻撃を重ねていく。
そろそろ影に潜れるようになってもおかしくない。俺の巨大化もそろそろ切れる、…一発良いのかますか。
右脚を軸として回転し、横に倒れながら回転による勢いと落下による勢いで右手に持った剣を振り下ろす。この攻撃は影に潜られ透かされてしまう。俺は行き場を失った攻撃の勢いによってびたーんと床に叩きつけられる。すぐさま立ち上がると体が元の大きさに戻る。
ボーナスタイムは終了か。…だが十分だ。残りは毒ダメで削り切ってやる。
回復ポーションを一息に飲み、バックステップで距離を取ろうとする。しかし、俺の影に波のようなものが見える。
コイツ俺の影に!?間に合わなかったか……跳躍はもう溜まってる。さりとてここを凌いだとしても次に俺の影に潜られたらどうする?さっきの消えて俺の影に出現した能力は?くそっ、流石に松明くらい持っておけば!
走り続け、常に移動することで強襲を防ぐ。
周りに光源……ない!あったらとっくに使ってる!!…………太陽!!剣身に光を反射させる!…いや反射量が足らない。せめて後もう一本!
そのとき探知が反応する。
走ってくる影……、あれは…さっきの犬?いつの間に探知の範囲外に、…探知は範囲内に入った時しか反応しないからな。…剣を…加えている!?OH! IT'S ザシ◯ン style! しかも俺と全く同じ剣!敵か味方か……いや、これは運命だ。
「居ぬ!!その剣を俺目掛けて投げろ!!」
呼び捨てごめん!と思いながら言うと、驚いたのか背中の毛を逆立てながら急に止まる。そして剣を首を振って器用に上へ投げた。居ぬが投げたのにあわせて跳び、剣に太陽光を反射させ、跳んだことによって薄くなった足下の影を照らす。その瞬間、二本の剣が同じ影を照らし、影狼が追い出されるように飛び出す。俺は宙に舞っている剣を掴んで地面に着地し、転回して影狼がいる方向に向き直る。
…………?怯んでいる?影がある程度薄くなったら潜れなって、出てくるだろうという感じだったが、これは……。なんにせよ好機!今の俺は双剣使い、攻撃量二倍で火力も二倍だ!元左利きの現両利きだから左で剣を扱っても問題なし。よし、いくぞー!!
いやー、なんでみんな二刀流とかしないのかをこの身で理解したわ。もたつくし、噛み合わない、剣同士が邪魔しあっている感じ。普通の剣士でいいや。今は…今はね!…うん。……そう!こっちの剣借り物だから!借りてるからね、持ち主にね、返さなきゃだからね。ウン。
誰に聞かれているわけでもないのに言い訳した俺は、剣を返すべく、居ぬがいた方向に見返るが姿は見えない。どこへ行ったか不思議に思い、俺は少し前の記憶を振り返る。
ええと、剣を持ってきてくれた。…ちょっと御都合過ぎるな。……え、もしかして本気でザ○アンスタイルで戦うの!?獲物が無くなったらそりゃ居なくなるわ、攻撃手段無いですもん。うわぁ…申し訳ないことをした。ええい、謝罪は後でするぞ俺!ひとまず、剣は地面に置いておいて、今は伐採だ。そろそろ敵の体力が半分を切って敵の行動が変わる、行動が変わると今よりもっと余裕が無くなる(はず)、そうなると木を切れなくて詰む!故に今!影狼が離れたところで影に潜ってる今が!現在伐採済四本!…敗色濃厚か?一旦効果終わりかけの付与魔法重ねがけしておこう。
あ、出て来た。
影から出て来た影狼を俺がよく目を凝らして見ていると、ふっと姿を消した。
やっぱりあれって…。
「【跳躍】。」
跳んだ直後、俺の影から影狼が跳び出る。俺は切っていた木を空中で蹴り、距離を取る。
うーん。不意打ちも仕掛けが分かった以上、俺に攻撃は当たらないんだよな。当たる可能性があるのは影から槍を放つやつ、あれ魔法っぽいよな?マジックディフェンスアップ使えばポーションでどうにでもなりそう。そして今あいつは毒、攻撃しなくてもいづれは体力半分になる。…あれ?毒ポぶん投げ悪手だった?……時間が無いな。攻撃を回避しながら最高効率で森林破壊をしていこう。
さあ、楽しい追いかけっこの始まりだ。




