激動の月
やぁ。やぁやぁ。
大学に入ることが決まり、忙しさも抜けてきた中、だんだんとこちらへかける時間も増えそうです。頑張ルンバ(古い)
とうとう2舎との校争が始まる。
あくまでも真琴達の目的はこの校争に勝利し、優勝すること。
そして天下の異者と呼ばれた桃井蒼歌その人を自分たちの校舎へ迎え入れることである。
「…憂鬱だ。」
柄にもなく真琴は弱音を吐く。
今回の相手がβウィルスを服用している。
服用している。という可能性の問題だが、真琴達『イレギュラーズ』の面々からしてみればそのβウィルスは少なからずとも縁があるもの。
《解放軍》が関与している可能性もかなり高い。
(校争が終わるまではあまりことを荒立てないで欲しいものだが…
もしかしたらこの戦いで大きく動いてくるのかもな)
『イレギュラーズ』と接触したことのある《解放軍》は、4人。
神十夕霧
樋上禪
捉えることに成功した祠堂舞華
そして、消失した神十仁
祠堂舞華の実力からして、ほかの2人も実力者であることは間違いないのだろう。
《解放軍》の目的は未だ定かではない。
だがβウィルスを使用している時点で、罪に身を染めていることは確かである。
倒すべき敵。
「2舎との戦いが始まるわけだが、今回は少し暴挙に出ようと思う。」
真琴が切り出す。
「…まあ誰も真琴が言うなら疑いはしないさ。」
「まこちゃんの好きなようにしよう!」
「私もまことにしたがうぞ。」
3人はいつも通り。
「主様の仰せのままに。」と牡丹。
九火はというと、特に不思議に思うこともなく話の続きを待っている。
(…ここには信頼がある。それだけで十分。)
真琴が言うにはこうだ。
今回、相手には何もさせる隙を与えない。
今までも十分そうだったが、今回はわけが違う。
2舎の連中が何かをする前に、6人全員で前に出る。
一斉に、叩く。
ただそれだけ。
集団の戦闘において、あまり褒められた手ではない。
だが、真琴達は『イレギュラーズ』。個々の能力のみでも2舎を圧倒している。
絶対的な実力差がそこに存在する以上、迅速的にことを済ませるにはこの上ない方法ではあった。
そして、この方法は功を奏する。
戦いが始まり、βウィルスの力に頼るまもなく、2舎は蹂躙される。
しかし、決着がつくと同時に会場から炎が上がった。
ーーー《解放軍》。
真琴の読み通り、動き出した。
「…やっぱり彼らじゃ止められないんだね。」
一見爽やかそうな笑みを浮かべる青年。
名を、樋上禪。
「まぁ予想通りというか、予想以上の速さで決着をつけに行ったな。
少し早いが仕方ない。舞華の分も頼むぞ。禪。」
真面目という言葉が似合う、いかにも優等生な見た目の青年。
名を、神十夕霧。
会場に炎を放ったのは、禪だった。
「あのおてんば舞華を取り戻すのはいつにするの?」
「まだ構わないだろう。殺されるわけでもないだろうしな。
八雲の家が政府に明け渡してくれた以上、奪取の目処はかなり立てやすくなった。」
近いうちにそっちもやらないとな。とひとりごちる。
彼らの今回の目的は、βウィルスにおいて2舎の面々がどれだけ上に行けるか…。
勝ち上がれるかを見て、これからの実用性や改良を加えるべき点を見極めることだった。
しかし案の定『イレギュラーズ』がそれを許さない。
しかも存在を気づかれているとなっては、徹底的に分が悪い。
こうなっては本来の目的より遂行すべきことがある。
この混乱に乗じて、戦争に必要な駒を…
各国の主要陣を何人か攫うことである。
人質に使うもよし、校舎の後ろ盾、政府への内通者の作成などなど。
いくらでもやらなければいけないことはある。
24の国を滅ぼし、自分達の手に国を作るには、避けては通れない道であった。
禪の異能により炎が充満する。
その中を足早に駆け抜ける夕霧とその部下による部隊。
道中邪魔をする校舎の生徒達…。
すべて切り伏せた。
無駄な正義感は死を招くということを、身をもって教える。
この日、死者は30名を超えた。
だが、それだけで済んだと言えよう。
結局《解放軍》にいいようにしてやられた政府は、各国の主要な人物を何人か攫われ。
有耶無耶なまま校争は続行が不可能になってしまったのであった。
形だけの1位を決めなければいけないとなり、翌日に校舎の代表による一騎打ちで決勝戦が行われた。
『イレギュラーズ』からはもちろん真琴。
1舎からは3年生が代表として出てくる。
1舎の代表ということは、現時点で最も強いとされている異者である。
現に、ランカー戦でも大きく活躍している異者らしく、ランカーとまでは行かないがかなりの実力者だったらしい。
だが、そんな相手を腕の一振りだけで真琴は葬った。
この出来事は伝説となり、『イレギュラーズ』の地位を確固たるものへとする。
5舎との模擬戦争からの1ヶ月。
激動の校争はこうして幕を閉じ、桃井蒼歌はその日をもって最低校へと異動したのであった。
「ーーーということで、今日からこのクラスの副担任を務めることになった。
既に知っているものも多いと思うが、桃井蒼歌だ。
…まあ、これから3年間よろしく頼む。」
校争が終わって最初の授業。
まだ『イレギュラーズ』優勝の興奮も冷めやらぬ中、24舎での自己紹介を終えた蒼歌。
横には灯も居り、学生時代の二人を知る教職陣からは『地獄が帰ってきた』と笑いながら言われているらしい。
「…はい。ということで桃井蒼歌先生も今日から貴方達と3年間を共にすることになりました。
ご存知の通り戦闘のエキスパートのひとりです。まぁ、元1位のランカーですから当たり前ですかね。
さて、続けざまで悪いんですが本日は転入生も居まして…」
ガラガラと前の扉が勢いよく開かれる。
凛とした足取りで教壇まで歩を進めた金髪の転入生は、一同を見渡して爆弾を放った。
「私の名前は、ユーリカ・エーデルワイス!
ランカーにして、今回の24舎優勝の立役者。歌代真琴の、未来の妻ですわ!!!」
騒然とするクラスの中、やれやれと言ったふうにお手上げの灯と蒼歌。
気付いたら前の席に当たり前のように座っていた美紅から問いただされる真琴。
無表情で何を考えているのかあまりわからないが、少し不機嫌そうな九火。
静かに佇む牡丹。
そして、あたふたあたふたしている氷華に炎華。
『吸血種』の少年の物語に、騒がしい1ページが加わった。
さて。急ぎ足ではありますが校争は収束。
次回からもどんどんわちゃわちゃしていきますのでご期待あれ!(?)