6.魔道家具
私は知らない部屋で目を覚ました。
さきほどの入団試験で氷の魔剣を手に取った時に体力を奪われて気絶してしまったようだ。
ベッドの上ということは誰かが運んでくれたのだろう。
「目を覚ましたかい」
サディックが顔を出した。
「あ、はい。すみません。倒れてしまって。ベッドまで運んでくれてありがとうございます」
「エマ一人運ぶくらいどうってことないさ。まずは入団試験合格おめでとう。氷の魔剣も使いこなせたし約束通り幹部として歓迎するよ」
「えっ、ありがとうございます。魔剣は倒れてしまったので使いこなせたのか分かりませんが」
「あれを持って凍らなかっただけで凄いってことよ。それにこの大陸で魔剣を自分の意思で制御できたのは現在確認されているのはエマ以外で一人しかいないから、それだけで凄いことなのさ」
「はぁ……」
寝起きで頭がぼんやりとしているのもあってたか凄いと言われても実感が湧かなかった。
「それで、本題なんだけどエマは転生者って奴なんだろ?」
「えっ……」
「そんな心配しなくていい。ここには今は僕とエマしかいない。それとこの世界で転生者は珍しくもないんだ。簡単に説明するから聞いてくれ」
「はい、お願いします」
「この大陸は三つの国で成り立っている。今、エマがいるのがゴルド王国、大陸の中央に位置している。東にフィルニア、西にブリダという国がある。ここまではいいかな」
国の名前はいまいち頭に入ってこないが位置関係は何となくわかった。
サディックの説明に頷く。
「それで、さらに東と西の奥にそれぞれの魔王が支配している地域がある。ただ、東はエマのような転生者によって魔王は討伐された。しかし、それによってフィルニアは人間同士で内紛が起きて魔王がいた頃より混乱している部分もある。西の魔王はまだ生きているがこちらは転生者によって話し合いの場が持たれ休戦状態になっている。そんな事情もあって転生者そのものを珍しく思う人間はほとんどいない」
「そうなんですね。それを聞いて少し安心しました。私は団長が言うように転生者です」
「それでエマはどうしてこの地に来たの? この地に何か起こるとか?」
「いや、あの、私は魔王討伐とかじゃなくてここに送ってくれた女神様からは商品の物流を整えて経済を安定させろ、みたいなことを言われてまして……戦うとかは全然ダメだと思うので商人のようなことをするようにと言われたんだと思います」
「なるほどね。確かに僕も団の情報網から色んな話が入ってくるけど、最近この世界に来る転生者は街の発展や文化の発展を使命に来る者もいるみたいだしエマの話も嘘じゃないと信じることにするよ」
「ありがとうございます」
「とりあえずこの都市の王女様には挨拶した方がいいと思うけどそれは明日にするとして、エマの家として使ってもらうこの家の説明をするよ」
「説明?」
「エマの元いた世界は魔法が無い代わりに文明がとても発展していると聞く。この世界もほとんどの人は魔法は使えないのに、文明はほとんど発展していない。しかし、魔法を使える者が魔道具を使うと便利な暮らしができる。そんな技術を詰め込んだ最新に近い家がこの家なのさ」
「そんな凄い家を私が使ってもいいんですか?」
「というかエマに使ってもらうしかないんだよ。この家の設備が使いこなせるのは団には僕とエマしかいないからね。魔法が使える人なんて王族、騎士団の幹部、それとごく稀にいる生まれながらに魔力を持った天才だけだから。あとは転生者」
「魔法を使える人って少ないんですね」
「それだけ貴重ってわけ。だからエマがうちに来てくれたのは歓迎だよ」
「そう言ってもらえると安心します。ありがとうございます」
サディックが立ち上がり私に家の中を案内した。
「この建物は一階は店ができるようになっている。今は使っていないからエマが好きに使ってくれて構わない」
一階は棚や机があるだけのただの広い空間だった。
ここで私は商売を始めるのだが、内容はまたサディックに相談しよう。
「二階は調理場と食堂、厠、それに湯浴びがある」
この世界はカタカナ言葉しかないもの以外は古い言い回しになるようだ。
「ここに魔道具がある。この火おこしをする魔道具はこの装置を回す時に魔力を込めて回すと火が起きる」
サディックが実際に使ってみせてくれた。
コンロなのだろう。
「洗い場の水も魔力を使って水を出す。風呂や厠も同じだ」
こちらも見本を見せてくれた。
「魔力が無い人はどうしてるんですか?」
「そんなもの水は井戸や川から汲むし、火は自分で起こすしかない。あとは魔法石とか魔力を持たない者でも使える道具を使ったりもする。エマは井戸から水汲みをしたいか?」
「いえいえ、ありがたく使わせていただきます」
元の世界の生活に慣れてきた高校卒業して間もない人間が水汲みをして生活するのはさすがに厳しいだろう。
「湯浴びは魔力でお湯の温度を調整する。初めは難しいかもしれないが魔力の使い方に慣れるための訓練だと思って使うといいよ」
「こんな凄い家、本当にいいんですか?」
「さっきも言ったけど使いこなせる人がいないからね。これは王都で使ってる生活用魔道具の試作品でね。うちの団、というか僕にも試供の協力要請があって使い具合を報告しないといけなかったんだけど、なかなかにめんどくさくて放っておいたんだ。今はこれより新しい物もあるみたいだけど、王女様達が使っているものと同等品だから貴重だと思うよ。むしろ王女様達しか使えないものをエマも使えるなんて羨ましい」
なんか上手いこと押し付けられた気もするが、これが無いと私は生活出来なさそうだし使わせてもらうことにする。
「ありがとうございます。使わせていただきます」
「今日はゆっくり休んで明日は王女様に挨拶に行こう。その後のことはまた話し合うとして。とりあえず明日また迎えに来るから。野菜とパンだけは調理場に置いてあるから適当に調理して食べて」
サディックはそう言って家から去っていった。
とりあえず私も食事をして明日に備えて休むことにしよう。




