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21話:後日談


 後日談。あるいは前日譚のオチ。

 快調したリコンフィグの性能は凄まじかった。

 ホテルで人の心を傷つけて暴れ回った呪いの王・アンバーオックスに対して、現代最強のスーパーダーリン・リコンフィグは、ヒーローショーとしてアンバーオックスを打倒した。

 アンバーオックスの行動をエンタメとして消化したことで、後腐れなくイベントは終了し、尾を引かない。


 アンバーオックスさんは気に入らない様子だったが、己の役目としてそれを受け入れた様子だった。


 リコンフィグとの今の関係は『友人』である。そこから『恋人』に至るかは不明だ。未来の可能性は無限にある。

 無限とは正と負を両立する。大喧嘩して絶縁するしかもしれないし、結婚するかもしれない。


 逆に意外かもしれないが、アンバーオックスさんとは関係が進みつつある。理由としては、リコンフィグに振り回された仲間意識だろうか?


 大衆娯楽系の漫画や小説から、哲学や専門知識など、知識を得ることに快感を覚えるタイプの人間だったのも大きい。それに加えて、観察者でありながら、熱がある努力家だ。


 知識と経験が大切だと理解する者同士ならば『一緒にやろう』『一緒に話そう』『貴方が知りたい』『貴方に伝えたい』というのもスムーズだ。


 私はスキルとしてコミュニケーション能力を使えるし、アンバーオックスさんも下手ではない。ならばこちらが『拾って』やれば、自然と交流は円滑化し、活性化する。


 最後は蚊帳の外だったバレンフラワーさんとの関係は、同じグループの友人止まりだろうか。彼女の強みも弱みも見えやすいが、そこに直接介入する意味も必要性もない。

 彼女が苦しみ、失敗し、自らを鍛えあげるタイミングで、セーフティネットを敷いていくくらいだろう。


 他には……互助ネットワークの中で働いてくれたハイパーフレアちゃんには、何かしらのリターンを返す用意をしておかなければならない。

 自己肯定感が低い人間が、明るい能天気キャラなハイテンションキャラを理想として演じるのは正しい……正しいが、ああいう物理的なスイッチが必要なタイプは、虫の一噛みで崩れる。


 音楽、深呼吸、一定のモーションで、精神を切り替える方法ならばともかく、コンタクトレンズはね……事故が起きるのが見える。


 失敗する可能性があるものは必ず失敗するbyマーフィーの法則。

 だから、備えるべし。


「今の私のエネルギー出力が4割、残量は6割くらいか。ステータスもバラつきがある。駄目だね、今日は。学校は休もう」


 私は引きこもり……つまり社会不適合者として離脱し、一定の教育を受けて帰還した者だ。

 ここで気をつけないければいけないのは『帰還したから大丈夫』が目的ということではなく、『帰還して、その社会生活を維持する』のが目的であることだ。


 社会復帰して離脱して、復帰するというループする者は多いが、多いからといって私がそうなっていいかは別の話。

 私は、このサイクルの外にあることを目指している。幸いにも私の状態は『国』と『学校』が認めている。

 休むのも、一般生徒と私とでは意味も重さも違う。後ろめたい気持ちもあるし、自分の身分を便利に扱っている感じではあるが、必要だと専門家が考えているなら、使うことに躊躇うことはないのだろう。


 焦りこそ精神を追い詰めて、全てを破壊する滅びそのものだ、と語る人もいた。


「どうしたの? 体調悪い?」


 お母さんが言う。私は首を振った。


「いいや、大丈夫。けど、そろそろ体調が悪くなるかもしれないから休む。少し忙しかったし。午後からカウンセリングもあるしね」

「そうねぇ、なら学校には連絡しておくわ。何日くらい?」

「三日くらい」

「わかったわ。あ、でも家事やってくれる?」

「うん、わかった。買い出しとかも、やっておいてほしいこと纏めてくれたらやっておくね」

「ありがとう、助かるわ」


 母の後ろから、妹のが顔を出す。


「おねーちゃんお休みか。なら私も休もうっと」

「許されるわけないわよーそんな理屈」

「いたたたたお母さん!? お母さん!? 強い、パワーが強い!! 可愛い娘の脳漿が撒き散らされちゃうよ!?」

「大丈夫、大丈夫。太陽以外なら再生するでしょ? お母さんね、知ってるから」

「お母さんの中で私の扱いって鬼の王!?

そんな認識!? なにゆえ!?」


 二人のコメディを見送って、私は部屋に戻ってゲームを始めた。

 午後になって、カウンセリングを受けるために病院へ向かい、手続きを終えて、いつものとおりに魔法の練習をしながら順番を待った。

 そして、時間が来た。


 質問:貴族高等教育課程となり、ある程度の時間が経ちました。最近の調子は?


 返答:クラスメイトとも関係は良好。特定のグループに深く所属するより、幅広く顔合わせしてます。


 質問:多くの人と関係値を高めることは、自分の逃げる先を作るうえでとても重要になります。しかし反面、関係値の維持にコストがかかると思いますが、どうですか?


 返答:そこはあまり気になりません。疲れこそありますが、人と関わるのは楽しいですよ。人を頼り、つなげる実利もあります。


 質問:そうですか。ならば深い関係なることへの欲求はどうでしょう? インフェクションさんは社交界でみんなと仲良くする姿を見て、努力されました。それについてはどう思いますか?


 返答:青春、してると思います。深い間柄もなることも楽しさや面倒臭さも体験して、夢見た瞬間を感じています。私は今、生きている、と。


 質問:それは素晴らしいですね。事前の情報によると、少し忙しかったようですが、心の変化や、動きを観察して、今はどうですか?


 返答:そうですね。私はたぶん、直情型かつ感受性が強めの人間だな、とは感じます。だからこそ知識と経験で管理しなければ、私は私を貶めることになると思うんです。


 質問:詳しく聞いても?


 返答:私は感情がそのまま現実だと思う癖があります。授業で矯正こそされましたが、思考の癖ですからね、残ります。だからこそ、私は私を認められない。


 質問:……なるほど。自己肯定できない。


 返答:はい。まずは私が私を否定する。そして周りも否定していて、世界が否定していると勘違いする。そして対人関係で軋轢となるのは、私なんか、私でも、私なんて、という相手が向けてくれた好意や善意を全否定する言葉です。


 質問:それは、高等教育課程になってからも続いてますか?


 返答:いいえ。人を天候と認識し、理不尽を隕石と固定し、自らを機械だと仮定しました。そうすると、コミュニケーションは上手くいくし、物事も回ります。他責と自責のバランスも良くて、現実の曖昧さも仕方がないと割り切れますからね。


 質問:その割に楽しそうではないですね。何か懸念点でも?


 返答:人ではない感覚に襲われます。私自身が現象や、機械のような。喜びや悲しみが消えていく。現実に対して最善手を打てる反面、そこに感動はありません。達観しすぎている、というべきでしょうか? どうするべきですか。


 質問:……そうですね。でもそうなると思いますよ。システムチックにしているのだから、その影響を大きく受ける自分自身もシステムとして組み込まれるのは当然な流れです。もし何か心を動かすなら、『無駄なこと』をしてみるとも一つの案ですね。最善ではない、無駄な過程。


 返答:システム的に最善をするから感動が消える。なら人間的な無駄をするなら感動が生まれる。確かにその通りです。やってみます。


 時間が来る。

 私はお礼を言って、部屋から出て、帰宅の道を歩いていく。


「んーっ。疲れた」


 赤い空を見て、私は宣言するように言う。


「明日と明後日は、無駄なことをしてみよう。せっかくの休みなんだし」


 太陽になりたい。

 誰かを照らす光になりたい。

 光。

 それは眩しく、手が届かない果ての夢。

 私一人では無理かもしれない。だけど、世界に回る星々を繋げる重力となり、それが銀河となって、遠い誰かの光になることはできるはずだ。


 間違えたままだって歩くのは慣れてた

 欠けたままだって、笑顔の形だけ作ってた

 暗くても足元くらいは見えていた

 見えていたって、転ばないわけじゃなかった


 足りなくて、補って、届かなくて、人とぶつかって、擦れて、傷ついて。


 結局誰もが少しずつ欠けていって生きづらさの理由は、もうだいたいわかってる

 泣いて、泣き止んで、顔を直して、相手の言葉が刺さって、飲み込んで、また歩いて 誰もがきっと、無難な表情を貼り付けてる。

 正しさや強さなんて、ただの我慢の勘違いだって知ってる


 孤独は、間違ってない ただ、ひとりで歩く道は少し冷たい。人と関われば必ず摩擦が起きる 関わらなければ、もっと静かにすり減る。


 心はまだ、動いてるだろうか。

 一息で全部終わらせようとしても、苦しいだけだ。誰かの期待に押し潰されそうになって、自分の弱さに苛立って。

 それでもまた、灰をかき集めて立ち上がる。


 許せ、一歩だけ、足を出すことを。

 擦り傷を増やしながらでも

 まだ歩いて行く。何千回でも、何万回でも、何億回でも間違えて、人とぶつかって、傷つけて、傷つけられて。

 それでも 歩いて、歩いて、歩いて、歩いてく。

 悲しんで、苦しんで、葛藤して、それでも彷徨う先に ほんの少しだけ、知らない景色が、あるかもしれない

 先人たちの背中を、遠くに見ながら 尊敬はする。でも、いつまでもそこに跪くつもりはない

彼らが残した灯を、ただ拝むだけじゃなく

 自分の手で、握り直して、持ち上げて。

 その先へ、越えていく努力を、静かに続ける


 足掻くこと。

 それは源を永遠に崇め奉ることじゃない

 自分の足で、泥を掻き分けて

 自分の意思で、希望も絶望も全部重ねた全てを、自分の力とする。

 輝く明日へ、飛翔する。それが、たとえ小さな羽ばたきにしかならなくても。

 光を目指すインフェクョンは今日も生きている。

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