表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒残響~死者は王女を守り続ける~  作者: キルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

プロローグ~死と恋と未練の始まり~

 静かな夜だった。

 月は薄い雲に覆われ、光は地上へ届く前にかき消される。

 王城の塔を吹き抜ける風の音だけが、世界の存在を証明していた。


 アイン・フェルシオンは、その闇の中に立っていた。

 生暖かい体温さえも暗闇に溶け込んでいる。

 影と同化するのは仕事柄慣れている。

 だが今夜だけは、胸の奥のざわめきを抑えられなかった。


 ――第二王女リフィールの命が危ない。


 王の密命部隊【アサシンスレイヤー】に所属する俺は、

 五年間ずっと彼女を暗殺者から守り続けてきた。

 彼女は俺の存在を知らない。

 声もかけられない。触れることも許されない。

 ただ、彼女が笑って生きてくれれば、それでよかった。


 今日も王女は塔の窓辺で本を読んでいた。

 ランタンの橙色の光が、彼女の横顔を柔らかく照らしている。


「……綺麗だな」


 思ってしまった瞬間、アインは自分を叱った。

 感情は隙になる。

 暗殺者狩りの身で、情に溺れるのは最悪の愚行だ。


 その刹那、気配が走った。


 闇の向こうから、黒衣の影が跳びかかる。

 アインは躊躇なく空気を裂き、短剣で受け止めた。


「お前が……王女の影かっ」


 暗殺者の目が血走る。

 その一瞬の怯みをつき、アインは喉元へ刃を滑らせた。

 勝敗は一瞬で決した………はずだった。


 だが、


「……っ!」


 腹に灼けるような痛みが走る。

 相手も“相打ち覚悟”の刺突を繰り出していたのだ。


 膝が落ち、視界が揺れる。

 王女の部屋の光が滲む。


(守れた……それでいい…)


 最後の力でポーチから小瓶を取り出す。

 “ワンアップ”――命の格を1つ上げる、不思議な薬。


 本来は王女を逃がすために使うつもりだった。

 だが今の俺では彼女を運ぶことすらできない。


 アインは迷わず口に含み、飲み下した。

 自己スキルで錬成した秘薬だ。

 その能力は格段に向上しているはず。

 回復力の一助になればと最後のあがき………いや、未練だった。


 瞬間、胸が裂けるような痛みと共に、

 自身の輪郭がほどけていく感覚に襲われた。


「……俺は……まだ……」


 王女の窓辺に、橙の光が揺れる。

 彼女が振り返った気がした。


(せめて……あなたが生きる未来を)


 その願いだけを抱き、アインは闇へ沈んだ――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ