モニカ・ディーオン
――神殺しから、五年後。
王都の、あるお墓。特別に王族と肩を並べて眠ることを許された、薬師のお墓。
五年前から色も質も変わっていない桃色の髪と、やはり変わっていない死んだ金色の目。
五年前と同じ髪型で、モニカは墓前で祈った。
師への報告である、ようやく世界の混乱が収まってきたのだ。この調子で、皆が慣れてくれるといい、と思う。
やがて満足がいくと、彼女は王城を出て、王都の、ある薬屋の裏を回る。相変わらず、趣味も仕事も薬づくりだった。
と、その日は無人のはずの裏に人がいた。
入り口を間違ったのだろう、心の準備をするように、胸に手を当て、深呼吸を繰り返す少女がいた。
「どうされましたか、こちらは裏ですけれど」
モニカが穏やかに、それでいて無表情に、少女に問うと、少女はびくりと肩を震わせた。
少女は、母の病気を治すため、アルカディアからはるばるやってきたのだ。どの医者からも治療不可能と匙を投げられた。アルカディアはもちろん、シュッツガイストや常夜にも足を運んだ。ところが、誰も駄目だという。
しかし、シュッツガイストにいたある人に聞いたのだ。スコトスには優しい一級薬師がいると。
真に受けたわけではない。まさか本当に甘い人間だとも思っていない。
ストルゲ・ディーオンの唯一の弟子にして、自身も最年少で一級薬師となり、神すら殺す毒薬を作った人であれば、あるいは、と思ったのだ。
死ななければ、臓器のいくらかは売り払っても構わない。すらすらと言えるように、少女は練習していた。
わたしのおかあさんをたすけてください、いくらでもお金はあります。
緊張のあまり、表ではなく裏の前に立っていることには、残念ながら気づいていなかったが。
そして、思っていたよりもずっとかわいらしい人に呼び止められ、さらには裏であることに気づき、かっと顔を赤くした。
「……えっと」
練習していた言葉が出てこない。その人は本当に静かに、落ち着いた声音で言った。
「御用ですか?」
しゃがみこんで目線を合わせてくれた。
「……あの、あのね。お母さんが、病気でね」
「……そうですか。貴方は、遠くから?」
「アルカディアから」
「それは遠いところから。大変でしたね」
その声に、少女は張り詰めていた心がふっと和らいで、泣いていた。
「お母さん、治る?」
「モニカ・ディーオンの名に懸けて、治す薬を差し上げます」
「……ほんと?」
「ええ。今すぐ向かいましょう。少々お待ちください」
そうして引っ込んだモニカは大急ぎで準備をして、少女の元へと戻った。
「よし、行きましょう」
かつてモニカの体を叩きつけた風は、緩やかに桃色の髪とスカートを揺らす、春風になっていた。
終わりました。今まで読んでくださっていた方、本当にありがとうございます。僕の文章が、少しでも誰かを楽しませるものであったなら幸いです。
気が向いたら、今作の拙かったところでも、好ましく感じたところでも、文字に起こしてやってください。さらにそれを僕に教えてくれたら、僕はとても嬉しいです。
改めまして、今までありがとうございました。皆さまがよりよい読書生活を過ごせるよう、心よりお祈り申し上げます。




