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144◆ノー・ブラインド!◆



 北辺境領の貧しい村の中央広場で、30人ほどの子ども達が列に並んでいる。俺は子ども達の顔を改めて見る。何をくれるのだろうと期待している顔が5割、なんだかよくわかっていない顔が3割、残り2割は表情に乏しく、目の光が薄い、子どもなのに疲れた顔をしている。俺はこの目に覚えがある。


 前世で、おもちゃショーや店頭実演、アンケートなどで多くの子ども達と接してきた。子どもと一口で言っても本当に様々だ。そして、そんな中に、どこか冷めた…諦めたような目をしている子どもが時々いた。


 その子達の心の中がどうなっていたのかはわからない。でも、そういう子たちは「どうせ~〇〇でしょ」という、自分にも他人にも期待を一切しない想いが瞳に浮かんでいた。俺はそういう目の子どもと接するたびに、少なくとも今、目の前で俺とおもちゃを触っている間だけでも笑わせようとがんばった。


 ちょっとでも上手くできたら、いや上手くできなくても誉めた。大げさに驚いた。喜んだ。手を叩いた。握手したりハイタッチした。そうして諦めていた目にちょっぴり喜びの感情が浮かんで、鼻息を少しだけ粗くする様子が好きだった。





「はい、こんにちは!ここにコロコロと転がる2つのサイコロがあるよ!水色は男の子の、ピンク色は女の子のものがボビン男爵様からプレゼントされるから、どっちか好きな方を選んで振ってね!サイコロのでた所と同じ模様のところのものがもらえるよ!!」


 握りこぶしのほどのサイズのサイコロを2つ、先頭に並んだ男の子に見せる。それぞれのサイコロの色と同じシートが少し先に敷かれていて、子ども達に配るおもちゃが3種類ずつ並んでいる。


「お、君は水色のサイコロを選んだね」


「ふ、ふっていいの?」


「どうぞ。その辺にころがしてごらん」


「え、えい!」


 出た目には飛行機の絵が描かれている。俺はおもちゃの所から、1枚のシートを取り出して、その子に渡した。


「はい、君は、空飛ぶおもちゃだよ!この部分は手で普通に取れるから、3つの部品をとったら、このシートの端っこに描かれている絵の通りに組み立てるんだ。ほら、そしたらこんな形になるんだよ」


「うん……」


 何が起こるのかわからない子どもに、既に組み上げた飛行機を手に持って、すいと空中に飛ばす。


「と!飛んだ!」「わぁ!」「なに!飛んでる!?」「うわぁ!」「おぉーー!」


 前世の駄菓子屋で売っていたソフトグライダーにそっくりの飛行機がスイ~~~ッと空を飛んで落ちていく。飛行機を初めて見た子ども達と、ボビン男爵の部下達から歓声が上がる。なかなか良い反応を返してくれる。


「はい、じゃあ、自分の分を組んで飛ばしてごらん」


「うん!!!」


 このグライダーは、研究部門のモービィの開発した最新素材で、前世で言うならウレタン系の発泡系素材だ。おなじみのスライム粉に、国内の山間部に良く生えている木の白い樹液を混ぜて作ったものだ。この樹液は、スライム液に混ぜると、極小の気泡を出しながら素早く固まっていくという特性を持っていた。軽さ、加工のしやすさ、柔らかさが抜群で素晴らしい素材だった。


 ゴムもプロペラも射出機もついていないので、残念ながらグライダーの勢いはそこまでないが、相当軽いのでそれなりに飛ぶ。


「やったぁ!俺は剣だ!」


「あたしは、花の冠!」


「ボールだ!」


 グライダー以外にも、男の子は、剣と盾、ボールがある。女の子用は大きな花のついた冠、小箱、櫛にした。このうち、ボールと櫛以外はシートから自分で簡単に組み立てられるようにしてある。…のだが、相当簡単にしたつもりだったが、それでも分からない子どもが多かったので次回以降の課題にする。


 どのおもちゃも、グライダーと同じ新素材だが、櫛だけは硬さが必要だったのでスライム粉と土属性の魔石から出る砂…フィギュアとかと同じ材料にしている。


 櫛と小箱に関しては、レイレや女性陣の意見を参考にした。女児玩具は、女の子が憧れるものをコンセプトにすることが多いが、この辺境領では生きていくのに精一杯で、大人の女性は化粧や編み物などもあまりしていない。おめかしも年に一度のお祭りのときだけだ。そんな暮らしの中であっても、女性であれば櫛は使うし、自分だけのものを欲しがるだろうと。小箱は、自分だけの小さな宝物を入れる箱を小さい女の子なら欲しがるだろうということだった。



「えぐっ…えぐ…あ、あたし、櫛がほしかったのにっ!」


「剣が欲しかったよぉ―っ!」


「この冠、きれいじゃないーっ」


 お目当てのものをもらえなかった子ども達の哀しみの声が響く。そしてここで、俺はミスをしたことに気づいた。今までの経験から、何が当たるかわからないブラインド販売もエンターテイメント性の一部と思っており、今回もサイコロで導入したのだが、辺境領の貧しい子ども達は町や街の子達と違って、何かを手に入れる機会が圧倒的に少ない。だからこそ、欲しいものをあげるべきだった。


 「……これなら、いらない」


 ボールを手にした男の子。最初に見た諦めた目の子だ。並びながら、少しだけ光を浮かべ始めていたその子の瞳が、再び光を無くしていきそうになるのに俺は耐えきれなかった。すかさず残りの商品を数えて、俺は高らかに宣言する。 


「ごめんね!今までサイコロ振ってもらったけど、取りやめにしますー!なので、欲しいものを言ってくださいー!既にもらった子でも、1回だけ交換できますー!」


 わぁ!歓声を上げて押し寄せる子ども達に対応しながら、その子にも剣と盾を渡せた。俺の宣言を聞いた瞬間に、色を無くした諦めの目に期待の色がよぎり、剣と盾を手に入れた瞬間に喜びの煌めきが瞳に入る。口角もわずかに上がっているのを見て、俺は安心した。


 反省点は多々あったが、そして試験的にではあったが、辺境領の貧しい村の子ども達におもちゃを配ることができた。その後、改良点や注意点、進め方を北辺境伯と話し合い、北辺境領全域で、おもちゃの配布を進めることになった。生産拠点も領都バルクアクスに置いて、俺の手がなくてもできる体制をつくることにもなった。いずれ東と西でも進めていきたいと思っている。



 東へと帰る馬車の中で、俺は前世で誰かの言った「なんでもかんでもブラインド販売にすりゃいいもんじゃない」というセリフを思い出し、ため息をついた。






お読みいただきありがとうございます。

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

☆評価、ブックマーク、感想いただけましたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。



今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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