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143◆ノブレス・オブリージュ◆



 冬のとある日、俺は北辺境伯の王都屋敷を訪れていた。俺の考えている計画に関して相談にのってもらうためだ。


 俺達の商品は、研究・開発期間、生産する上での工程数や数量、輸送費などで必要なコストがかかる。そのため、ある程度の高い値付けをせざる得なかった。また売場も領都や王都などの大きな街に限られている。今後販路を拡大していくつもりだが、それでも地方の大き目の街までが精一杯で、町や村ともなると俺達の商品はなかなか届けることができないし、貧しいので買ってもらえないと思う。


 前世日本と違って地域の格差はひどく、まともな流通もない。そんな世界ではあるが、少しでも多くの子どもに楽しんでもらえるようにおもちゃを届けたい…そう考えて相談をした。なぜ北辺境伯かというと、毎冬自らの館に一族の子どもを集めて暖房費の節約と共に、結束を強くするということをやっているので、相談する人の中で子どもに対しての理解が一番あると思えたからだ。


「ふむ、貴公の考えていることはわかった。単価の極めて低い商品を配る…つまりは領民の慰撫、特に子どもに対して、ということだな。試みはよいと思う。しかし、その費用はどこから出す?そして領民に対する全ての権限は、そこを治める領主貴族のものだ」


「費用ですが、生産にかかる分は『スタープレイヤーズ』商会持ちで考えていました。生産は王都のエヨン教会の孤児院の子ども達にしてもらい、そんなに出せませんが賃金も渡します。できあがった製品を、各貴族の方にお納めして領内に配ってもらう……と考えていました」


「それでは貴公が作るだけ損をするではないか」


「私の商会もいろいろと儲けています。特に貴族や富豪の方からです。私の財布も膨らんできていますが、私は自領を持っていませんし、普通の貴族の方とは違うので、あまり使うことがありません。ですので、少しでも子どもに還元したいと思っているのです」


「例え貴公が金を出すとしても、領地貴族に対しての内政干渉になる。さらに言えば他の貴族の人気ばかりが自領内で高まることになる。いや、貴公にそういう気がないのはわかるが、そう思われる、見られるということだ」


「名前を出すつもりはなかったのですが…たしかにそうですね。難しいものですね…」


「そうだ、例え良いと思うことでも、その貴族のプライドを刺激する可能性あるのなら、早々に踏み入ることはできぬ。貴公の想いもわかるがな……」


 俺は前世の記憶があり、この世界で精一杯の努力をしてきたし、している。人の縁と幸運に恵まれた結果、爵位を得て、それなりの額のお金も手に入ったし、今後も入ってくる。前世ではお金に恵まれた方ではなかったから、とても有難い話だし、本当に周囲や仲間に感謝している。


 でも、屋敷や妻、豊かな生活を手に入れて、もっと欲しくなるかと言われれば欲しくならない。前世のようにあらゆる物品と価値観が溢れている世界ではないし、もとよりそんなものに興味もなかったからだ。聖人君子ではないから、お金は大事だし、自分の分として必要なお金を手放すつもりはもちろんない。でも、それ以上に入ってくる状態になっているのだ。


 入ってくるお金をどうしたいか、どう使いたいかを考えたときに、自分の原点を見直した結果、考えたのが今回の計画だった。俺はおもちゃを作って儲けたいんじゃない、人を、中でも子どもを笑顔にしたいんだ。この考えはレイレにも相談をして、将来の、私達の子どもに残していく分をきちんと考えてくれるのであれば好きなように動いていいですよと言ってもらえている。


「……少し、やり方を考えてみます」


 俺は少し性急すぎたのかもしれないなと反省をした。ところが、続いた北辺境伯のセリフは違うものだった。


「まぁ待て。ここで終わっては、せっかく貴公が私に話をしてくれた意味がなくなる。子どもは宝だ。街よりも大変な地方の子ども達が、笑顔になるのであれば、私も一肌脱ごう」


「それは……」


「まず、試験的に私と縁の深い北辺境領の1つで行ってみよう。その際は、貴公の所は名前を出さず、生産にかかる費用も半分を出す。残りの半分は私が出す。配布にあたる人員とそこにかかる費用は、その領の貴族が出す」


「よろしいのですか?」


「うむ、そして、あくまで、その領の貴族が行う慰撫であるため、我々は表には一切出ない」


「それでは、バルクライ北辺境伯のメリットがないように思いますが?」


「メリットか、派閥の長としてない訳ではないのだがな。ふむ、貴公はこの試みを行ってメリットがあるのか?」


「子どもが笑顔になれたらと思います」


「フフッ…私もそれだ。まぁ、後はどうなるものか見てみたいというのもある」


「すみません、ご迷惑を持ちかけた形になります」


「構わん、迷惑でもない。それで?どんなものにするのか、貴公は既に考えているのだろう?試作があるなら見せてくれ、我が一族の子ども達にも与えたい。さぁ早く」


 目を輝かせた大きなクマさんに、俺は頭を下げた。





 王都での冬が開け、春になって、俺は北辺境のとある男爵領の村にいた。一緒にいるのはハイマンとクロナ、そして北辺境伯だ。テイカーとミュカは王都で商会の輸送関連の業務の統括作業をしている。


 男爵領は、辺境によくある貧しい領だった。時々襲ってくる魔物から人間の居住圏を守るので精一杯の土地だ。領地を開拓しようにも、適した土地も人も少ない。穀物の生産量も少ないため人々の暮らしも、なかなか楽にはならない。


 ならそんなところに人が住むのを止めてしまえば…とも思うのだが、その領がなくなり住む人がいなくなればすぐに自然と、そして魔物がそこを覆ってしまい、周辺の領が大変になる。人間全体の生存圏を維持する上でも必要な場所だということだ。


 北辺境伯の話では、そういう土地だからこそ、そこを治める各貴族に対してのケアは必要で、それは資金や食物もそうだが、ちょっとした娯楽も含まれるということだった。『マギクロニクル』が大ヒットをした理由の1つには、辺境伯達が、領内の貴族にちょっとしたお土産として贈ったりするのにも最適だという理由があったそうだ。


「ボビン男爵、すまぬな。私のわがままに付き合わせることになって」


「とんでもありません!バルクライ北辺境伯閣下が我が領を気にかけていただけているということに、大きな感謝と安心を覚えております。またドラゴンスレイヤー、巡遊伯爵にお越しいただけたことも光栄です!」


「いえいえ、こちらこそ機会をいただきありがとうございます、ボビン男爵。では早速、始めてきたいと思います」


「うむ。私達はここで見学させてもらう」


 俺達は北辺境伯達から離れて、村人の集まる村の広場に向かう。昨日の段階から告知をしており、村の子どもと大人が集まっている。


「はい、では皆さん!昨日告知しましたように、これよりボビン男爵から、村の子ども達にちょっとしたプレゼントが贈られます!普段から親の手伝いをがんばっている皆にだけ配られるものです!はい、じゃあ順番に並んでね!」


 緊張した村人たちを前に、努めて明るい声で俺は呼び掛けた。






お読みいただきありがとうございます。

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☆評価、ブックマーク、感想いただけましたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。



今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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