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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【2・魔法の流星群 編 (後編)】
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6・獄門②

 

 倒して行くうちに、シュリープの色数(いろかず)が特定されている事に優兎(ゆうと)は気付いた。赤、茶、黒、白、紫、水色、この六種類だ。しかもおかしな事に、色によってラクに倒せる者と、時間のかかる者がいる。赤、茶……と、色味のあるシュリープは容易く倒す事が出来るが、モノクロである白と黒は、攻撃を集中させても五、六回程当てないと倒れないのだった。おしいところまで回数を当てても、向こうの攻撃が邪魔をして、標的を見失う事もある。随分と厄介だ。


 しかし、シュリープ((かい))本体に対して気掛かりを感じていたのは、優兎ばかりではなかった。


「おかしいわね、魔法が通じないわ」


 ミントは肩を上下させて、息継ぎをした。優兎はミントの呟きを聞き逃さなかった。


「白と黒のシュリープでしょ? 倒せない事はないけど――はあっ! うまくいかなくて」


「ええ、いくらやっても倒れないわ。ハァー、ふうー。赤も全然。手応え無しよ」


 ミントはそう言って、ポケットから瓶を取り出して、ゼリィ玉を一つパクリと食べた。そこへ、ニーナもやってくる。


「ゼリィ玉、一つ私にもくださーい。ハァー、ちょっと休憩タイムです」


「はい、どうぞ」ミントは疲労具合を見受けて、ゼリィ玉を二つ渡した。


「ありがとうございますー」 ニーナはゼリィ玉を三、四回噛んだだけでゴクリと飲み込んだ。「ああ、甘くて美味しいです。私ったら、リュックに入れたままにしちゃいまして。後で二つ(ぶん)おかえししますね」


「それくらい別にいいわよ」ミントは困ったように笑いながら、襲いかかってくる触手をバラした。おおー! 優兎とニーナは感嘆の声を上げた。


「あ、触手の向こうにいた茶色のシュリープさんも、あんなにあっさり倒しちゃいました。もう、本当に分からないですねー。強かった水色のシュリープさんが急激に弱くなったり、赤色のシュリープさんが弱くて倒しやすいと思ったら、突然無敵になったり……頭がごっちゃっちゃですよ」


 ニーナは額の汗を拭い、ついでにずり下がっていたゴーグルの位置を正した。


「え? そうかな。黒と白以外はそうでもないと思ったんだけど……」


「アタシは白と黒、それから紫と赤が効かないわ。人によって得意、不得意があるのね。――そうね、これは一度、意見を照らし合わせる必要があるかもしれないわ」 ミントはくるりとアッシュの方を向いた。「あんたはどう?」


「オレか? いちいちそんな事考えちゃいねえよ」


「もう! アッシュったら!」


「うーむ、紫がダメだったような……茶色がダメだったような……んん? 全部そんなもんだったか?」


「あんたの頭がダメよ。ハァ。――ジールちゃんは?」


 キョロキョロとミントは首を動かした。


「あら? ジールちゃん?」


 近くにジールの姿がない。すばしっこく動き回る触手から身を守りながら探す。すると、壊した扉近くの壁を背に腰掛けているのを見つけた。


「どうしたのジールちゃん! 具合でも悪いの?」ミントは触手の相手をしつつ声を張り上げた。


「別に」当人は素っ気なく答えた。


「俺の事は気にしなくてもいいよ。俺なんかいなくても、ミント達なら倒せるさ」


 ジールの言葉に、ミントは何も言い返せなくなってしまった。何だろう。本人が言うように、具合は悪そうには見えないが、さっきからずっと様子がおかしい。

 シュリープ(改)の生前の姿が見えているから、あんなにも消極的なのだろうか……いや、だとしても扉の時は? 扉を壊す行為とシュリープは何も関係がない。優兎にはよく分からなかった。


「ちょいとシュリープさん」


 モヤモヤしていたところにニーナが割り込んで来て、優兎の腕を指でちょんちょんと叩いた。


「一つ聞いていいですか? ジールさんも魔法使いなんですか?」


「ああ、うん。木の魔法使いだけど」


 それが? と聞き返すと、ニーナはパァッと目を輝かせた。


「それじゃあひょっとして、ジールさんて()()()()()だったりします?」


「へえへへ?」


 突拍子もない質問をされて、思わず変な声が出た。


「な、何でそう思ったの?」


「いえ。魔法使いなのに、どうも見た感じ、ジールさん魔法を使いたくなさげに見えるんで」ニーナは続ける。


「それに、真っ黒濃げになっているお花の魔物さんを見ていた時のジールさんの目ったら! 哀れみに満ちていましたよ。植物に対する思いやりが強いんでしょうね」


 だからこそ、魔法を使いたくないのかもしれない。ニーナはそう推測したようだ。かといって、()()という結論に辿り着くのはおかしい気がするが……。

 しかし、シュリープ呼ばわりされているのをジールがからかっていた事を思い出した優兎は、ニーナの勘違いを訂正せず、そのままジール=植物の化身(けしん)で通しておく事にした。


(植物に対する思やりが強い、か……)


 確かに花の魔物との一件があるまでは、普通に魔法を使っていた気がする。木カゴなどの工作の最中なんかは楽しそうにすら感じた。

 よく考えてみれば、シュリープ達を救おうと奮闘しているのを分かっていながら、それでもジールが手を貸そうとしないのはおかしいのだ。ここまで傍観を決め込んでいるのは初めて見る姿であり、らしくない。つまりはシュリープの真実が見える見えないの問題ではなく、彼自身の問題ということ。例の件がきっかけで、彼の中で抑えていた何かが外れてしまったという事だろうか……?


「だああっ! まったく、手のかかる奴だな!」


 その時、アッシュが動いた。行く手を阻む触手を焼き払うと、アッシュはつかつかと早足で歩いて行って、ジールの目の前に立ち止まった。


 そして拳を振り上げ、一気に落とす。


 ゴンッ!


「いいいっ!」


 重く鈍い音がして、ジールは身を屈めた。


「お前、いい加減にしろよな! 今! この状況で腐ってる場合なのかよ!」


 ジールを一喝すると、アッシュはジールの胸ぐらを掴んで力任せに引っ張っていき、無理やり同じ前線上に立たせた。


()のないティムが泣きじゃくりながらここまで頑張ったんだぜ、お前もバシッとしろよな。面倒くさい事考えるのは全部終わった後だ。話は聞いてやるから」


 一通り言いたい事を吐いた後、アッシュはジールを離した。ジールは戸惑いを隠せない様子でアッシュを見上げると、自分の手を見つめた。

 それから、ふうと息を吐く。


「分かったよ、分かった。あー、もう。アニキには適わないよ」


 諦めたふうにまた溜息をついて、乱れた服を整える。


「まったく、みんなが見てる前で……恥ずかしいなあ」


「自分のせいだろうが」


 ジールは口をすぼめた。それからズボンについた砂埃を払って、魔法陣を浮かび上がらせた。アッシュもふっと笑みを零し、前方の敵に意識を集中させる。


「あっと! 攻撃を開始する前に、ちょっと聞いてくれない?」


 ジールが皆を呼び止めた。魔力の注入が遮断した事で、魔法陣が消え去る。


「何だよ! 全員揃って、さあ行くぞ! って雰囲気だったじゃねえか!」アッシュはじれったそうに言った。ジールは「ごめんごめん」と苦笑する。


 優兎に全員を囲むバリアを張るよう言って、ジールは話し始めた。


「優兎は黒と白、ミントは茶色、アニキは紫のシュリープだけを狙い撃ちして」


「んにゃ? 茶色()()?」


「そう。……俺だって、ただ見てたわけじゃないんだ。のっぽ達を観察してたらさ、みんな同じような色しか狙ってなかったんだ。しかも、アニキ達よりもサクサク倒してる」


 ジールはチラッとのっぽ達を見た。


「そこで思ったんだ。シュリープ(改)の色は、属性に比例しているんじゃないかって。光なら白、火なら赤、風なら紫って具合に。仮説を立ててのっぽ達を見ていたら、ビンゴだった。彼らはそれぞれ得意な属性を選んで攻撃してる」


「ええっと、例えば火属性なら、風に強くて、氷属性に弱いんだったよね。だから紫を狙うんだ? ――でも、黒と白って……どっちもそんな簡単には倒せなかったよ」


「ううん、優ちゃん。光は闇属性に対抗出来る、唯一の魔法なのよ。他の属性じゃ圧倒的に不利なの。光も同じ事よ。現にアタシの魔法、黒と白のシュリープには歯が立たなかったもの。シュリープ自体魔力が高いのだから当然だわ。それに、同じ属性同士が対立し合う場合――えっと、光対光で戦うってパターンね。それだと、魔法は効きにくいけど、アタシ達の中に闇の魔法使いがいない以上、優ちゃんが白を担当した方がいいのよ」


 ミントの言葉に、優兎は分かった、と頷いた。ニーナがハイ! ハイ! と元気よく手を挙げる。


「ジールさん、私は何色を担当した方がいいですかー?」


「うーん、ニーナの手持ちの魔法弾によるけど……。見たところ、いろんな属性の弾丸を持っているみたいだね?」


「はい! 焚き火用に火の弾、飲み水用に水の弾、それから障害物を壊す為に雷の弾……」


 高々火起こしの為に火の魔法弾を使うには、火力が強そうだし勿体無いだろうと優兎は思った。


「それじゃあ、地と氷はいっぱい持ってる?」


「〈ハルモニア大陸〉は雪国出身者からすれば、耐えられないくらいあっついですからね。水や氷はいっぱいありますよ。それに比べると地は少ないですけど」


「なら、赤と、水色を頼もうかな。もう一人水色担当が欲しいところだけど、明りも負担している優兎に二種類以上頼むのは荷が重いだろうし、不得意の属性を考えると……ミント、一色追加していい? 俺は中級属性だから、本体の動きを封じる事とサポート方面を考えてみる」


「ええ、了解よ」


「もう一つ。ティム達の方に攻撃が及んだ時が心配だ。バリアを張るとか、誰かが気を回してあげられるといいんだけど、この中で一番、小回りが効くのは――」


「やっぱし、オレ……」「ミントだね」「ミントさんでしょう」


「聞くまでもないか。ミント、いける?」


「大丈夫よ。任せてちょうだい」


 ミントは自信ありげに言った。その横では、アッシュがなぜ自分ではなくミントが選ばれたのか、さっぱり理解が出来ないといったふうに首を傾げていた。


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