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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【2・魔法の流星群 編 (前編)】
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12・ミジュウル・バイ・シュリープ①

 

「うわー……雰囲気ある……」


 口にしたのは優兎(ゆうと)だ。扉の向こうも向こうで、相当の(さび)れ具合だった。天井の壁が剥がれ落ち、パイプや管が剥き出しになっているし、床は植物の根が張り、枯れ葉が散っている。道なりに並ぶ窓はなぜか板張りがしてあるので、隙間や植物の侵入口となっているヒビ割れ以外、光が差し込んでこない。司祭壇の扉から離れると、明かりの代わりとなる光の魔法を発動する事を余儀なくされた。

 教室みたいに部屋が並んでる内の一つを確認すると、棚から落ちたガラスものが散乱していて、迂闊(うかつ)に足を踏み入れるのは危なげだ。


「何だか変な匂いがするよう。やだなあ」


「薬品の匂いみたいね。今が1888年だから、およそ二千年も前の時代の建物ってことになるわけだし、完全に籠ってる状態でもないから、かなり薄れてはいるんでしょうけど……それでも、あんまり長くいるもんじゃないわね」


 ミントはティムの袖を引っ張って、さっさと廊下に戻っていった。鼻の効く獣人(ジュール)は苦労しそうだ。


「文句言うなって。しょうがねえだろ。花の為だ!」


「『ご褒美の為』って素直に言ったら? アニキ」


「ああ。正直言うと、花なんかどうでもよくなってきた」


 面倒くさそうに言うと、「アッシュ!」と優兎とミントの口から批難の声が飛び交った。


「そもそも、オレが花探しだなんて、合わないんだよな、うん。やる気なくなんのも想像つくだろ?」


「リッテの花とアッシュねえ……まあ確かに、フレンドリーなエンリュウにバッタリ出会うくらい有り得ない事ではあるわね」


 有り得ないの度合いが分からない。けれども魔法界人(ムーヴィアス)であるアッシュは仰天して「そこまで言うかよ!?」と返した。


 次の部屋の扉を開ける時は、アッシュとジールの二人掛かりで。がたついた扉を力任せに引くと、これまで内部に閉じ込められていた薬品類の鼻を突く匂いなんかが後ろを通り過ぎていった。


「うえ! ゴホゴホゴホッ!」


 真正面から浴びた優兎は、扉を背にして咳き込んだ。


「なあ、オレ一気に探す気が失せたんだが……」


「アニキ、ご・ほ・う・び、だよ」


「よしお前ら、次行くぞ!」


 リッテの花の条件に刺さる水音がしないので、部屋については扉横の窓から光を当てて一見する程度に留めておく事にして、優兎達はまっすぐ進んでいった。が、確認する前とあまり変わらずで、正直ペースはよくない。それは段階を経るようにひどくなっていく内装が原因だ。ぶち切れたコードと電灯が頭にぶつかりそうな高さにまで垂れ下がっていたり、倒れた扉がはめ込みのガラスの破片を撒き散らして床に倒れていたり、べろんと天井が剥がれて、通り過ぎる間に落ちてこないか不安感を煽ってきたりと、怪しさの中に身の危うさも入り交じってきて、慎重にならざるを得ない。


 奥の方から、ゾッとするような音の重なりも聞こえてくる。体を強張らせて、誰かが誤摩化す言葉を差し込む間にもう一度響いた日には、一気に恐怖心が駆け巡り、その後一行が取った行動とは――


「やっぱり、明かりの魔法が使える人が前だよね、優兎!」


 ジールはそう言って、一番後ろに回った。


「いや、そういう意味ではアッシュだって使えるし!」


 優兎は早々(はやばや)と列の前から抜ける。


「いやいや、鼻のいい奴が先頭に立つべきだろ! な? ミント!」


「ティムちゃん! これは勇気を持ついい訓練になると思うの!」


「うわあああん! 怖いよ! やだよう!」


 そうしてジールが一番先頭に来る。優兎達はロケット鉛筆のように、押したり抜けたりを繰り返し、さっきから一向に前へ進めないでいた。ようはみんな怖いのだ。時間ばかりが刻々と過ぎていく。


「優兎! ホント頼むから!」


「ちょっ!」


 ジールがまた抜けた。優兎も本日何度目かの言い訳を残して、後方へ回り込もうとするが――


「おっと! 優兎、そうはさせないぜ!」


「うわっ!」


 ガッチリと両脇に腕を回されて、優兎は身動きが取れなくなってしまった。


「なっ、あ、アッシュ! 離してよ!」


「もうクルクル回んの、飽きたんだよ!」


「だったらアッシュが前に行ったらいいじゃないか!」


「お前、親分に逆らうつもりか!? 早く行けっての!」


 優兎はムッとした。


「ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美……」


「あああああッ! 聞こえねえ! 何も聞こえねえッ!!」


 アッシュは喚き散らして、首をブンブンと降った。


「わー優兎かっこいー! なーんて勇敢なんだろー」


「ジール! 棒演技なのバレバレだから!」


「優ちゃんファイト!」


「無理! 僕、こういう雰囲気苦手なんだよミント!」


「うええええん! 青目のお兄ちゃんさよならっ!」


「いや、まだ死んでないから!?」


 すると、ギャーギャー騒ぐ優兎達を見かねてか、ポケットに潜んでいたベリィがぴょんと出てきた。ポカンと目を丸くする彼らを尻目に、体を揺らしながら先へ行く。


 一メートル程進んだ所でベリィは振り返り、その場でぴょんぴょん跳ねた。「早くおいでよ!」と言っているようだった。


「……ベリィちゃんの方が、よっぽど肝が据わってるわね」


 ミントは列から抜けた。優兎はフッと笑う。


「いっその事、手を繋ぎながら行く?」



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