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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【2・魔法の流星群 編 (前編)】
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11・〈ハルモニア大聖堂〉①


 くん。磯の香りが仄かに風に混じっている。だが熱っされたものではなく、本来の()として受け取れる辺り、気持ちが楽になった。密林から抜け出したおかげか、今はさほど暑さは気にならない。


 息を吸い込むたびに独特の匂いがするのは、海が近いという事なのだろうか……というところから思考回路を広げて、魔法界の海について想像し始めた優兎(ゆうと)。魚も魔法が使えるのだろうかとか、使えると仮定して、水属性ばかりでなく火や木属性の魔法を飛ばしてきたら面白いかもとか、溺れている最中に術を食らったらひとたまりもないな、とか。


 主に集中したのは人魚についてだ。ファンタジー好きな優兎の考えそうな事である。……果して人魚、あるいはそれに近しい生物は存在しているのだろうか? 安直に人間と魚が合体したものか、境目もなく統合しているタイプなのか、はたまた獣人(ジュール)同様に人間味のある魚を人魚と呼ぶか。いや、それならば魚人(ぎょじん)と呼ぶのが妥当といったところなのか? いやいや、頭だけが魚の場合は比率関係無しに魚人と呼ばれそうなものだから、一概には決めつけられない。というか言ったもん勝ちというのもあるわけで。因みに外見重視のウロコだけはっ付けたものはキラキラシール人間だ。そして先述したいくつかのパターンを掘り下げると、言葉を伝える手段も別個で異なりそうなもんだが……――


 割愛。ともかく、魔法界の海洋生物について想いを(無駄に)馳せながら優兎は歩いていた。横にはジールとティム。二人は植物の育て方について語り合っている。優兎自身も植物を育てるのは好きな方だ。けれど、魔法界のものとなるとさっぱりついていけない。あの種類の種は固いから、芽が出やすいようふやかしてやるんだとか、水はねっとりとしたジェル状のものを使うと成長が早いんだとか、固有の植物を把握している前提で話が弾んでいるし、育て方も常識はずれだ。よっぽど会話に参加したかったが、結局適当に相づちを返すぐらいしか出来なかった。


 そう言えば、アッシュとミントはどこまで行ったのだろう? 先に行ったっきり、二人は全然帰ってこない。


 〈置き去りの地〉から離れて十数分。石畳がまばらに残された道を進んで行くと、ようやくその建物が姿を現した。

 脳裏に浮かんできた言葉は、「神々しい」。一番手前に天を突き破かんばかりにそびえ立った建物があり、背後に中程度の高さを持つ建物が後方まで伸びているといった形で、そこまでハッとするような飾り気はない。だが今まで見てきたどの古代遺跡よりも、綺麗な形を保っていた。崩れている箇所はあるが、崩壊まではしていない。厚い雲の合間から零れた光がちょうど屋根に被さるようになっていて、神秘的な雰囲気を醸し出している。天からの祝福を得て手厚く守られているんだと言われれば、容易く受け入れてしまいそうだ。


 更にその聖堂は、周りの自然と半ば一体になっていた。壁が緑のツタで覆われているのだ。上半分が当時の面影を、下半分が現在の廃れた様を表していて、それもまた唯一無二の味わいとなっていた。同じ人工物でも、〈置き去りの地〉よりはよっぽどこの世界に溶け込んでいる。


 そして出入り口に繋がる階段を上がったところに、彼らはいた。


「あ、アニキ!」


「リボンのお姉ちゃんも一緒だ!」


 ジールとティムは二人の元へ駆け寄っていった。アッシュは手を振って応じる。優兎も少し遅れて走った。


 もしもこれがRPGのゲームなら、きっとこういう表示が出るのだろう。


 アッシュとミントが仲間に入った!





 聖堂は近くまで寄ると、迫力のあるものへと姿を変えた。流石後世に()聖堂と名を付けさせるだけあって、巨大だ。外見の美しさを取り上げてばかりだったが、ここにきて得体の知れないものという意識が高まった。


「本当に、こんなとこに花なんかあるのか?」


 アッシュは傷だらけの手でポリポリと頭を掻いた。浅いとはいえ、本当に切り刻まれたらしい。


「絶対どこかにあるはずよ! デタラメな情報じゃなかったって証明してやるんだから!」


 それに、なくちゃ困るのよ、とミントは呟く。


「そうだよ! それに金髪の(なま)の人間だって、言って……――」


 ティムはハッとして、口をつぐんだ。けれど時すでに遅し。みんなの表情は曇ってしまう。人が亡くなったのを、この目で見てしまったのだから。


『死にたくない死にたくない死にたくない……』


『もっと生きたい。生きたい生きたい生きたい……』


 優兎はくらりと軽い目眩(めまい)を起こした。すぐに頭に浮かんだものを振り払ったが、気持ちは沈んだままだった。


「だーーっ! 暗くなるのはやめだ、やめ!」


 突然アッシュが大声を上げた。


「ほら、行くぞ!」


 先頭を切って、扉の取っ手へと手を伸ばした。こういう時に暗雲をも吹っ飛ばすような彼の明るさは、とてもありがたかった。



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