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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【2・魔法の流星群 編 (後編)】
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9・おかしな四人②

 

「きゃーー! 速いはやーい! きゃあああああっ!」


 バラは甲高い声で叫びながら、両手を上に伸ばした。体が大きく揺れて、慌てて手をベリアの腰に戻す。


「ふざけてると、あんたが吹っ飛ぶわよ」


 ベリアは注意した。ベリアとバラは黒炭のような色の翼と毛並みを持つ犬顔の魔物に股がって、海の上を飛んでいる。魔物は空を蹴るようにして飛び、真っ直ぐ光の集まる場所を目指していた。


「あら? この魔物……ポチちゃんだっけ? こんなにサイズ小さかったかしら? 頭の数も減ってるし」


 バラは首を傾げた。


「ポチゼノロイデフには別の任務を任せているの。この子はあの子の()にいる子よ。だからこんなに小さいの。飛ぶのが少しヘタクソだけど、充分よ」


 ベリアが言ったそばから、魔物はバランスを崩した。前足が海面に突っ込んで水しぶきが二人にかかった。活きのいい魚が目の前に降ってきた時は、バラの心臓が口から飛び出るかと思った。ベリアは髪の毛にくっついた藻をひっぺがすと、しつけの為に魔物の広く空いたおでこを叩いた。


「ポチちゃんで思い出したけど、ベリア、この間の誘拐の件はどうなったの? うまくいった? ……あれ、これ聞いたっけ? あんたもあっちも失敗したんだっけ?」


「厄介な事になったものよ。わざわざ洞窟に入らないよう塞いだってのに、新たに入り口を作られるだなんて。強引にでも早々に接触すべきだった。他人事じゃないんだから、あんたも手伝いなさい」


「捕まえて来るって、男の子でしょう? やーよう。あたいにはそんなひん曲がった性癖はありませんのでぇ~♪」


「落・と・さ・れ・たいの? まったく……」


 ようやく魔法の光が下に落っこちて行く地点に辿り着いた時、バラはぐったりとしていた。軽い乗り物酔いだ。一方でベリアの方は平然としている。

 疲れた様子で頭上でピチピチ跳ねている小魚を海へ放り投げると、バラは空を仰いだ。すると、途端に気力が復活したようで、目をキラキラと輝かせた。


「やーん、やっぱり眺め最高ね! ロマンチック! 何だか良い詩が浮かんできそうだわ!」


 バラは流れ星のように落ちて行く輝きを目で追った。輝きは最終的に海の中へ飛び込むと、光を失って消滅してしまった。


「魔法がこんなにたっくさん! 鮮血の赤に、軽蔑(けいべつ)の水色に、この世に存在し得ない白に、人の心の中を覗き見たような汚れた黒……! うう~ん、六種類全部あるのね!」


「――で? お次はどうせ、もっと近くで見たいとか言い出すんでしょ」


「うふふ、正解!」


 二人を乗せた魔物は上昇した。すぐ目の前で魔法が通り過ぎて行く。バラは落ちて来た白い光に狙いを定めると、素早くキャッチした。


「あんた、まさか……」


「そのつもりよ」バラはニッコリした。


「一応忠告しておくわ。やめなさい。もうすでに持っているでしょう、自前と合わせて二つも。忘れてるわけじゃないわよね」


「ちゃんと分かってるわよ。きゃははは! 今もあたいの体の中で訴えているもの。窮屈で狭い、ここから出して、自分はこんなところにいるべきじゃないってね。分かる? 魔法が叫んでいるのよ。……でも出してなんかあげない。あたいが望んでいるから。一つ増えてこれなんだから、もっと増えたらどんな気分になっちゃうのかしら? うふふふふ」


 バラは胸の辺りを摩って微笑む。


「それに、この無数に落ちて来る魔法が誰かの体に取り込まれちゃったらどうするの? 普通の生活に戻れなくなるのよ。他の子を誤って傷付けちゃったりして、『この悪魔め!』って(ののし)られて、ひとりぼっちで人生を過ごす事になるかもしれない。それってすごく迷惑な話じゃない? 死人から貰ったものだなんて、気色悪いし。――だから、あたいが少しでも確立を減らしてあげるの。人生を狂わせてしまう人の確立を」


 だがしかし、ベリアは見抜いていた。ああ言ってはいるが、バラは人間が大嫌いだ。死者からの魔法を授かるのは迷惑云々は本心だろうけど――アタシもその意見には賛同する――、きっとただの綺麗事だ。


「ハァ、もう好きにすれば。――長い間生きてきたけど、あんたが初めてよ、バラ。魔法を一つ以上持とうなんて誰もやらないし、考えただけでおぞましくて、自らやりたがる輩もいないでしょうね。あんたが死んだ魔法使いの魔法を初めて取り込んだ時は、どうなるかと思ったけど……ふう、アタシはちゃんとやめなさいって言ったから」


「ふふ、ありがとうベリア。あんたの事は好きよ」


 バラはベリアの華奢(きゃしゃ)な体をぎゅっと抱き締めると、手の平に乗せていた輝きを、自身の胸に押し込めた。

 新たな力を受け入れて体が発光すると、バラはくっと眉にしわを寄せ、苦痛に身を縮ませた後、恍惚(こうこつ)を露わにした笑みを浮かべた。


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