第40話 夏休み、雅、京に行く 後編
「ICPO!?」
「という事はつまり、この写真の男は国際手配犯という事ですか?」
会長は冷静に書類の内容を分析する。老翁は感心していたが深耶はそのまま話を進める。
「そうね。この男の名は雨柳張。元ガーディアンよ。」
「ガーディアン?ガーディアンとは何ですか?」
会長はガーディアンという聞き慣れない言葉に首を傾げる。僕は端的に説明する。
「ガーディアンというのは守護者という意味で傭兵の事です。要人警護とかに借り出されます。中でもこいつは要人警護のスペシャリストで暗殺者が来た時は絶対にその暗殺者を生きては返さなかったそうです。」
「なるほど。まるでお前みたいだな。」
自分みたいと言われた僕は何となくその意味を察して恥ずかしくなり、目を背けた。僕は要人警護のスペシャリストではないが生きては返さないという所はこの男と同じだ。そういう意味では似ていると言われても不思議はない。だが一緒にはしてほしくないな。
僕はふと、もう一枚の写真を手に取った。桃色の宝石のような輝きを持つ石の写真だ。
「姉さん、この石は?」
「サクラダイナよ。柳張はこの石を狙っているわ。」
サクラダイナ・・・。だから石の色がピンク色なのか。実物はちゃんと桜色の石なのだろう。
「何故この石を奴は狙う?」
「この石が莫大なエネルギーを生み出す可能性を秘めているからよ。石が破壊されたりでもしたらこの辺一帯は瓦礫の山に早変わり。」
「確かアニメで『撃てるものなら撃ってみろ!この何とかダイナを!』って言ってたな。あのシーンのように心臓が止まるとセンサーが反応し、石に何らかの刺激を与え、爆発させることだってできるってことか。という事は・・・会長!」
「もしそんな石がミサイルにでも付けられたら・・・!」
「着弾点は瓦礫の山と火の海に。国家間の秩序が乱れて最悪世界は崩壊する。」
はい。皆々様何だかお約束的な展開ですね。それでもこういう事は起こりうるのです。
「で、僕達にこの石を何とかして守ってほしいと。」
「まあそうだけど。石は藤堂家がもう所有しているわ。あなたにはコンペに来るであろう者達を排除してほしいわ。」
「偽の情報を流しておびき寄せるってことか。分かった。」
「よろしく。さあ小難しい話はこれくらいにして二人とも京都を楽しんで来たら?」
姉さんの唐突な提案に思考が停止する会長。京都を楽しむのもいいが今日は屋敷でみんなとゲーム三昧して過ごす感じだから特に予定も決めてない。姉さんも仕事が多くて大変だろう。助けになれるなら助けたいが。
「いいの?他にやることがあるんだったら手伝うけど?」
「雅は優しいわね。でも心配ご無用!そういうのは玲ちゃんとやっとくから。」
すると玲は澄まし顔で頷いた。でも少し拗ねてるように思える顔だった事はあえて言わない。姉さんのクローゼットに会長に似合う夏の服があったとか言って、会長は引っ張られて行った。追い出す気満々である。
数分後、夏っぽい色の服にスカート、サンダルを履き、麦わら帽子を被ったいかにも夏という感じの会長が出てきた。僕は見惚れるのと同時に、いや、京都にそれはちょっとと思ってしまった。何だか自分が情けない。とりあえず僕らの荷物の中に水着を仕込んでくれた玲には後で土産をあげないとな。車はとりあえず京都随一の海である八丁浜へと向かった。
観光客がほとんど訪れないプライベート感溢れるこの海は遠浅で水温もある。海水浴には持ってこいの場所だ。パラソルやブルーシートを借りて場所を取るといっても人通りが全くない。それ故に大いに海を楽しめる。早速水着に着替えるために別れた僕らは更衣室に入っていく。男子であるため早く着替え終わった僕はパラソルを借りて場所を取り、会長を待っていた。すると会長はスポーティーな水着を着て現れた。それを見た僕が
(ああ。いつもの会長だ。)
と思った事は言うまでもない。別に魅力が半減したとかそういう風には微塵にも思っていない。ただやっぱり会長はこうでないとという風に思っただけだ。
「雅、どうだ?似合うか?」
「ええ。似合ってますよ。」
営業スマイルではない、笑顔で言うと会長は少々照れていた。
そこから僕らは気の向くままに海を楽しみ、土産屋通りを散策して玲や姉さん、キラ達の土産を購入して屋敷に戻った。姉さんは
「まあ。私のお土産なんかいいのに。」
と渋っていたが半ば強引に渡した。姉さんが食べたがっていた京都の和菓子だ。試食したためハズレではない。これならすぐに気に入るだろう。因みにキラには新しい髪留めを、渚とお揃いの物を、玲にはこれから使うであろう調理器具のセットをあげた。我ながらいい買い物だったと思う。
その日の夜は大いに盛り上がった。玲と家老が腕によりをかけて作った料理はどれも豪勢で美味しかった。会食後には姉さんの提案でゲーム大会、カラオケ大会、星空鑑賞等で大いに楽しんだ。皆が天体望遠鏡で星空を楽しんでいると姉さんが近づいてきた。
「姉さんどうしたの?」
「ねぇ雅、あなた明日香ちゃんの事どう思ってるの?」
「な!?なな何を言ってるんだ姉さんは!」
何の前置きも無しに聞いてきたため変な声が出てしまった。他の人には聞かれていないのは幸いだった。
「ふふ~ん。顔を赤くするなんてね。その反応をするって事は思う所があるのね?」
「ぐっ・・・。否定できない。」
不敵に笑う姉。その顔は完全に僕をからかっている様だった。自分でも身体から熱さを感じる程に身体から熱を放出していることに気づいた。
「ふふふ。まあ頑張りなさい。彼女にも想ってる人がいるみたいだし。」
「え?それ、どういう事だ?」
「自分で考えなさいな。彼女のこれまでの行動を見ていたあなたなら分かるわ。きっと。」
姉さんの言葉に僕は首を傾げる事しかできなかった。
「雅、何をしている?さそり座を見つけたから早く見に来い。」
今は何も考えない事にした。学園に戻ったら学園祭の準備だが今はひと夏の思い出を作りたいと思ったからだ。僕を待っている皆の元に僕は向かっていくのだった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。一応これで番外篇は終了です。明日ぐらいにはキャラクター紹介を投稿して、これから新篇に入って行きます。クリスマス篇を書きたいので現在急ピッチで執筆しております。冒頭はいつでも出せる状態なので新篇開始は明日とします。つまり、明日は2話連続投稿となりますのでよろしくお願いいたします。次回もお楽しみに。




