第21話 悪夢、朝のひととき
ハァ、ハァ。
「いたぞ!捕らえて首をはねよ!」
彼女は逃げていた。王国騎士団から逃げていた。ドレスの裾を上げ一目散に走っている。街は炎につつまれている。もう戻ることはできないだろう。でも彼女は生きなければならなかった。国のため、自分のために。だが木の根に足を取られて転倒してしまった。騎士団は彼女に追いつき、腰にさしていた剣を抜いて、その切っ先を彼女に向けた。ああ。もうダメだ。と彼女が死を覚悟した次の瞬間、銃声音とともに騎士団が血を吹き出して次々と倒れていく。
「どうした!?」
地面に流れる血を見て騎士団長らしき男は狼狽した。死んでいる、何処からかの狙撃で殺されたのだ。そして剣を構えて辺りを警戒しようと体を動かそうとする。しかし彼は自分の体に起きている異変に気づいた。体の動きが鈍い、というか体が重い。いや体が重いんじゃない。これは……!
「う、動けん!ば、馬鹿な!?全く体が動かないだと!?」
嫌な脂汗が吹き出る。後ろからの気配に気づくが体が動かないために誰か確認できない。
「どうやら動ける時間はそこまでのようだな。」
そう話すのは紅の暗殺者という二つ名を持つ藤城零士だ。口元を隠し正体を分からなくしている。
「き、貴様!」
「“俺が時を止めた。”という訳ではないが貴様を拘束しているのは事実だ。」
彼の目は紅くなって銃を持っている。男は目の前に敵がいるのに何もできない事に苛立った。そこに零士はおそらく男が疑問を抱いているであろう事の答えを言った。
「先程の騎士団の奴らは俺が葬った。もうお前には助ける仲間もいなければ助けてくれる者もいない。チェックメイトだ。さあ最期に言い残すことはあるか?」
と零士は銃を構え直す。彼が紅眼の拘束を解くと男は力無く膝をついた。
「フッ。例えこの私がやられても、私の意思を継ぐものは必ず現れる。後は彼らにすべてを託す。…言いたいことは言った。さあ殺すなら殺せ。」
絶望すると生きる意味を見失い、自らの価値を最低まで下げてしまう、人というのは残酷だなと思いながら零士、もとい雅は実弾を装填したリボルバーを構え直す。
「お前には俺と女王の慈悲で痛みを感じる事なく殺させてやる。目、閉じてろ。」
バァン!
たった一発の銃声音で彼は痛みを感じることなく死んでいった。血も全く流さず、断末魔のような叫びも許されずに。だが王である彼女にとっては自分の目の前で人が死ぬ様、それもかつて自分に仕えていた人間の死を間近で見たため、ショックで声をあげかけたが零士が口を押さえたので絶叫することはなかった。そんな彼女に零士はこう言った。
「いいか。もしもお前がここで叫んだら敵の生き残りに見つかって俺もお前も殺される。だけど、ここから逃げて生き残り、お前の手で騎士団に引導を渡す事ができれば全て終わる。それが今、王国を統べる女王であるお前にできる事だ。」
「でも、私にそのような事はできません!」
「大丈夫。お前ならできる。それでお前が世間から見放されても俺だけはお前の味方だ。俺も俺の部下達もそれは一緒だ。だから今は走れ!この国を統べる王として走り続けろ!」
彼女と共に走っていると目の前で爆発がして、近くにいた零士達は吹き飛ばされた。
* * * * *
ハッ!夢か。僕はゆっくりと体を起こす。息は荒くなり汗が吹き出ている。隣りの部屋を覗くと玲も煌も寝息を立てて寝ていた。頭が痛い。僕は頭を抱えた。
「夢か……。酷い夢だ。」
だが目覚めた時間がよかったようだ。時計を見ると朝の四時半。玲はこの一時間後には起きる。今日は玲に楽させてやるかな。雅は腕を捲りエプロンを付けた。あ、そうだ。やってみたい事があったんだ。
「皆さん、おはようございます。MO○O’sキッチンの時間です。…ってふざけてる場合じゃないか。」
僕は料理が好きで料理のイベントにたくさん参加してきた。あと、那月ちゃんに料理を教えてもらってたから料理は上手い。玲にも負けない程の手際の良さで朝食を作っていく。すると、匂いに敏感なキラが目覚めた。すると匂いとキラが動いた事で目が覚めた玲もリビングに出てきた。玲はいつもとは違う朝食を見て目を丸くした。その顔を待っていた!
「おはよう。今日の朝食はフレンチトースト、洋食だ。」
「えっ!これ全部マスターが作ったんですか!?」
「美味しそうだね。さすがお兄ちゃん!」
「まあな。さあ早く顔洗って来い。」
二人が洗面所に行ったと同時にインターホンが鳴る。はぁ。今日も来たな。
「ドア開いてますよ。」
「おはよう、雅。ほぉ。珍しいな。今日はお前が台所に立っているとは。」
現れたのは明日香先輩。最近僕の部屋に来ては一緒に朝食を食べるのだ。一人で暮らしているので寂しいのだろうか。なので最近の玲は先輩の分の朝食も作らないといけないので大変なのだ。まあみんなで食べた方が料理も美味い言うからな。それに先輩だ。ダメと言えん。僕はできた料理をテーブルに運び、先輩は一足早く席に座った。
「悪夢を見ましてね。目が覚めたのが早かったんですよ。」
「悪夢か。最近色々やってたもんな。」
「確かに。入学早々からゾーンとの戦いだし、学園内に侵攻した組織を潰したらそこでゾーンを造ってたとか、伏兵がうちの担任で逮捕されたりとか。大変でしたからね。」
「疲れてるんじゃないのか?というよりどんな夢だった?」
「俺の過去に関する夢て言ったら?」
先輩は黙ってしまった。僕は先輩に知られても何ともないんだが、先輩にとっては僕の過去を聞くのはタブーみたいだ。早く話題を変えなきゃ。
「そんな事より食べないんですか?」
「あっ!そ、そうだな。よ、よし食べるか。」
と言うと先輩はフレンチトーストにがっつくように食べ出した。ちょっとそんながっつかなくても食べ物は逃げないって。食べているとキラが僕達にこう問いかけた。
「ねぇねぇ。二人ってさ、付き合ったりとかしないの?」
キラの爆弾発言により、朝食の席は凍りついた。
「「するか!馬鹿!」」
少しの沈黙の後、僕と先輩の声がユニゾンで響いたのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。お待たせいたしました。第二篇スタートです。
雅は料理が得意でもあるんですね。プロローグのような形でこういうお話にしましたが、次回からは彼がうなされた悪夢、彼の過去が重要になっていきます。雅が隊長を務める独立武装大隊も登場していきますのでご期待ください。次回もお楽しみに。




