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第4話 ファーストキスは血の味がした その6

深夜零時を回った頃。

グリュックモールの警備員である大崎健吾は、先輩と二人で店内を巡回していた。

まず、避難してきたひとの様子を確認し、次にバリケードを張った正面入り口を確認する。

バリケードの向こう側には、今もゾンビ達が蠢いている。

健吾は思う。

もし紅狼舞が現れなかったら、とっくに店内に侵入されて俺たち全員ゾンビの仲間入りを、していたのだろうか。

そう思うと寒気が止まらない。

あの少女二人は正体は不明だが、朝に会ったら改めてお礼を言おうと考えていた。

「何してるんだ? 早く行くぞ」

年上の先輩に呼ばれて健吾は我に帰る。

「すいません。今行きます」

健吾達は、バリケードに問題がない事を確認してから、他の場所を見回る。

ゾンビが侵入しそうな場所は、バリケードで塞いである。

全ての出入り口は、どこにも異常はなかった。

一通り見回りを終えた時に、先輩が健吾に声をかけてきた。

「ちょっと、トイレ行ってくる」

先輩はそう言っ小走りで向かっていく。

「分かりました」

健吾が先輩が入ったトイレを通り過ぎようとした時だった。

「ん?」

中から、言い争う声が聞こえてきた。

「何だ、喧嘩か?」

言い争う声は一瞬だったが、健吾は様子を見に行く。

彼の両手には、ホームセンターから持ってきたハンマーが握られている。

健吾は異変に気付く。

女性用トイレは電気が付いているのに、男性用トイレは先輩が出てきてないのに真っ暗だ。

懐中電灯を左手に持って、暗いトイレの中に入る。

スイッチをオンにして、中を照らす。

そこで床に倒れている先輩の姿を見つけた。

「先輩! どうしたんですか」

急いで近寄ってしゃがむと、先輩は赤い液体の中で倒れている。

それは血だった。

先輩は首を切られて、自分の血だまりの中で倒れていたのだ。

「うわあぁっ!」

健吾は先輩が死んでいる事に驚き、慌てて飛び退いた。

その時、背中に何かが当たった。

「え……!」

後ろを見ようとした時、いきなり口を掴まれ、無理やり立たされる。

そして首に、冷たくて鋭い物を押し当てられた。

「騒ぐな」

背後から男の声が聞こえてきた。

「もう一度言う。騒ぐな。分かったら頷け」

口を塞がれたままの健吾は、首を縦に動かす。

ナイフはそのままだが、とりあえず口を塞いでいた手が離れる。

「お前に聞きたい事がある」

「!」

先程と同じ声が、正面から聞こえてきて、健吾は驚く。

「ここに、二人の女が来た筈だ。一人は紅い髪で銃を持ち、もう一人は黒い髪にメガネをかけている二人組だ。

先に殺したあの男が、もう一人の警備員が知っていると喋った。

お前のことだろう? 何処にいるか答えろ」

(あの二人の事か)

健吾は直ぐに、舞と美雨の事だと気づいた。

「し、知らない」

彼は首を横に振った。

姿は見えないが、こんな危険な奴らを、彼女達の元に行かせたくはなかった。

例え、自分の命を失うことになっても。

「ほう。知らないか」

「ああ、知らないよ。そんな二人は」

「なら、嘘をついてないか確かめてみよう」

「何言って……!」

後ろから再び口を塞がれる。

そして首元の冷たい感触が離れた直後、左足に激痛が走る。

太ももにナイフが深々と突き刺さっていた。

「ゔー!ゔーーー!」

健吾は痛みで呻くが、口を塞がれて声が出ない。

ナイフが引き抜かれ、血が吹き出て足を真っ赤に染めていく。

「さて、もう一度聞こう。二人を知っているか?」

健吾は自由なった口で、こう言い切る。

「…!知らない!」

「そうか。じゃあ、本当に知らないかどうか、また試してやる」

「むぐっ」

健吾はまた口を塞がれ、左足に何度もナイフが突き刺さっていく。


「さて、最後に聞くぞ」

健吾の太ももは、何度もナイフで抉られてズボンが血で真っ赤に染まっている。

度重なる激痛と、大量の血を失い、健吾の顔は病的に青ざめ身体の痙攣が止まらない。

「二人は何処だ? 場所を言えば助けてやる。だが言わないなら、そこで倒れている男と同じ末路を辿るぞ」

健吾の唇がわずかに動く。

「……ない」

「ん? 何と言ったんだ?」

「知らない」

健吾の対面の男からため息が聞こえた。

「じゃあ死ね」

健吾の頭が持ち上げられて首が反り、重要な血管が浮き出る。

そこにナイフの冷たい感触が触れる。

ナイフが動く。

健吾は自分の首から生暖かい液体が噴き出すのを感じながら意識が途切れた。


死体が二つある真っ暗な男性用トイレから、四人の人間が出てくる。

四人は全員、同じ格好をしていた。

黒のタンクトップの上に、タクティカルベストを着込み、黒の手袋で手を保護している。

腰のベルトにはPP2000サブマシンガンと、接近戦用の武器を装備している。

下はカーゴパンツにハイキングシューズを履いていた。

頭は頭蓋骨を模したフルフェイスヘルメットをかぶっていて素顔は分からない。

彼らのむき出しの腕には、同じ髑髏のタトゥーが彫られている。

それは今まで殺してきた人間の数を表していた。

彼らは、東欧で活動する髑髏の処刑人と呼ばれる四つ子の殺し屋だった。

「弟達よ」

長男であるアジリェブが口を開いた。

三人が長男に注目する。

「ここから二手に分かれるぞ。トリェブ。俺について来い」

アジリェブに呼ばれた三男のトリェブが頷く。

「ドヴリェブ、チトリェブ。お前達は二人で行動しろ」

次男のドヴリェブと四男チトリェブも同時に頷いた。

「生存者を見つけたらどうすればいい?」

ドヴリェブはアジリェブと同じ声で喋る。

四人は声もそっくりだった。

アジリェブはこう言った。

「静かに殺せ」

その一言で、三人の目が喜びで輝いた。

四人はそれぞれの得物を手に持ち、二手に分かれた。

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