第3話 脱出 その7
熊気は翼を援護するために立ち上がる。
持っているM60を大まかに狙って向かいのマンショに撃ちまくる。
七・六二ミリの弾丸が向かいのマンションにいる傭兵達を釘付けにしていく。
「翼」
「助かったぜ熊気」
敵の射撃が止んで翼が戦闘態勢をとる。
翼はスコープをズームさせ、通路の角から顔を出している傭兵の頭を狙って撃つ。
弾丸は傭兵の左目を貫いた。
仲間を一人失った傭兵はわずかに隙を見せる。
「もらった」
それを見逃すヒョウではない。
AN94の引き金を三回引いた。
六発の内、四発が傭兵のボディアーマーを貫いた。
舞と美雨は非常階段で、三人の戦いを見守っていた。
「舞さん。みんなを手伝わなくてもいいんですか?」
「ん? 大丈夫。三人共これぐらいじゃ死なないよ。例え十倍の数で攻められても、三人が勝つ」
「信頼してるんですね」
「もちろん」
その時、舞の耳が銃声以外の音を捉える。足音が下から聞こえてきた。
舞は音のする下の階段を見る。
案の定、数人の傭兵が昇ってきていた。
「美雨。敵が来た。そこに隠れていて」
美雨は頷くと階段の踊り場に身をひそめる。
舞はそれを確認してから、下の階の敵に向かってセミオートで撃つ。
まず先頭で登っていた一人の頭頂部に、三発撃ち込んだ。
傭兵達が舞の方に銃口を向ける。
しかし見上げるよりも見下ろす方が有利。
数は向こうが多くても、舞は冷静に一人ずつ撃ち倒していく。
四人目を撃ち殺したところで、傭兵達が退がっていく。
舞はその隙に、弾薬が少なくなったマガジンを新しいマガジンと交換した。
熊気はM60を向かいのマンションに撃ち続けながら、ヒョウと合流して彼女を助け起こす。
「ヒョウ」
「無線がどっかに飛んでちゃった。熊気知らない?」
熊気は一度射撃を中断すると、しゃがみこんで、ヒョウに何かを差し出した。
「これ」
熊気の掌に無線のヘッドセットが置かれていた。
「そこに落ちてた」
ヒョウはそれを受け取ると耳に差し込む。
「ありがと」
『おい、二人とも手を緩めるな!』
ヘッドセットを差し込んだ途端、翼の怒号が飛び込んできた。
『俺は二箇所も抑えられないぞ。やばいまたRPGだ!』
ヒョウが柵の隙間から覗くと、確かに向かいにいる傭兵がRPGの発射準備をしている所だった。
「翼。RPGはアタシに任せて。他の奴を引きつけといてよ」
『分かった。さっさと頼むぞ』
そう言って翼はHK417のスコープに映る相手の頭を狙撃していく。
熊気はその場でしゃがんで、通路の角にいる敵を釘付けにしていた。
ヒョウはグレネードランチャーGB34のセイフティを解除すると、RPGを構えようとしている傭兵を狙って撃った。
放たれた四十ミリは傭兵の顔に直撃して爆発。
同時にRPGの弾頭に誘爆して辺りにいた傭兵達が爆風で吹き飛んだ。
「向かいのマンションは制圧」
ヒョウは無線で他の三人に報告するのだった。
熊気は五〇二号室の扉の前で通路の角に向けて撃っていた。
そのドアが内側からいきなり破られ、中から二体のゾンビが現れる。
「!」
ヘリの爆発や銃声を聞きつけて部屋の中にいたゾンビが飛び出してきたのだ。
一体は勢い余って柵を越えて落ちていき、もう一体は熊気に組み付いて噛みつこうとする。
熊気はM60で何とか噛みつかれるのを防ぐが、両手がふさがってしまう。
『熊気。動くなよ』
翼の無線が聞こえて、熊気は動かずに待つ。
熊気の目の前でゾンビの頭部が弾け飛ぶ。
翼が狙撃したのだ。
熊気はそのままゾンビを下に投げ落とす。
投げ落とした直後、銃声がして、腹部に激痛が走る。
通路の角から傭兵に撃たれたのだ。
熊気はM60を落とすと、そのまま突進する。
驚いた傭兵はVZ58の引き金を引きっぱなしにしてしまう。
弾はほとんど熊気に当たらなかったが、二発が顔を庇った両腕に当たる。
その痛みを無視して、肩から体当たりを当てて階段の踊り場から落とす。
そして胸のホルスターから、レイジングブルを抜いて、引き金を引いた。
傭兵の頭は44マグナム弾を食らって爆発したように吹き飛んだ。
舞はまだ下の階段にいる敵と銃撃戦を繰り広げていた。
階段には数人の傭兵の死体が倒れているが、敵は一行に諦める気配はない。
今度は四人が一気に攻めてきた。四つの銃口が舞を狙いフルオートで撃ってきた。
舞は階段に伏せてその銃撃を避ける。
敵の銃撃が止んだ。その隙を逃す舞ではない。
彼女はセレクターを連射にセットすると同時に、階段から飛び降りて傭兵達の間に降り立つ。
驚く敵を尻目に、舞は背中で左側の敵の動きを封じておいて、右側の傭兵の頭を撃ち抜く。
下にいた二人の傭兵が撃ってきた。
弾丸は全て動きを封じていた傭兵を盾にして防ぐ。
舞は階段を両足で蹴って、盾にした傭兵もろとも飛んだ。
踊り場にいた三人目が、舞と死体に潰されて戦闘不能になる。
隣にいた四人目が舞を撃とうとVZ58を構える。
舞は素早く起き上がり、右手から左手にスイッチングしたHK416でVZ58の銃口を逸らす。
お互い近すぎて撃てない。
なので持っているライフルを槍のようにして突き合う。
傭兵が突いてきたので、舞はそれをHK416で弾いて壁にぶつける。
その衝撃で弾丸が発射されて壁を削り、三人目の頭に穴が開いた。
舞はHK416で四人目の膝を突くと同時に発砲して、膝を撃ち抜く。
膝をついた傭兵にトドメを刺そうとした時、下の階の扉が開いて、ゾンビ達が溢れ出てきた。
舞はトドメを刺すのをやめて、小銃のストックで、相手のこめかみを殴打する。
傭兵はそのまま階段を落ち、その先に待ち構えていたゾンビ達の餌となった。
舞はそのまま踵を返して、敵に生き残りがいない事を確認して上に戻った。
「美雨」
美雨は階段の踊り場でうずくまっていた。
「舞さん」
舞の姿を見つけて駆け寄って抱きついた。
「おっと、ここは安全じゃない。早くみんなと合流しよう」
「はい」
その時、六階の扉からもゾンビ達が現れ、舞を狙って降りてくる。
「美雨。耳を塞いで!」
舞は上から降りてくるゾンビ達をフルオートで迎撃する。
数体のゾンビを倒したところで弾が切れた。
マガジンチェンジはせずにHK416を左脇に回しベルトのフックで固定。
そして素早くSIGP320をレッグホルスターから抜いて撃つ。
ある程度数を減らしたが、それでもゾンビの数の方が多い。
P320の弾丸も尽きて、スライドが後退したまま止まる。
「美雨、逃げるぞ!」
舞は銃をホルスターにしまって、美雨の手を引いて非常階段の扉を開ける。
五階の廊下には、ヒョウ達がいた。
舞達の背後からゾンビ達が追いかけてくる。
『伏せてください』
熊気の声が無線に入り、舞は美雨をかばいながら床に伏せた。
それを確認した熊気は、彼女達の背後から迫るゾンビ達を狙って、フルオートで撃ちまくる。
銃口から、ドドドドドッと、盛大な銃声。そしてマズルフラッシュが伸びて空気を焼く。
M60から発射された弾丸がゾンビ達を文字どおり血祭りにしていく。
だがまだまだゾンビ達が現れる。
舞の耳に、今度はヒョウからの無線が入ってきた。
『グレネードで吹き飛ばすわ』
舞は美雨の上に覆い被さった。
その上をヒョウの放ったグレネード弾が放物線を描いて飛んでいく。
弾頭はゾンビの群れの中心で爆発した。
ゾンビ達は爆風と衝撃で吹き飛び、バラバラになった肉片が辺りに飛び散る。
爆風が収まってから、舞は起き上がると、下にいる美雨に声をかける。
「大丈夫か?」
「は、はい……あっ舞さん。 額から血が!」
「ん? ああ、これは違うよ」
舞は自分の額についている血を拭う。
「これは私のじゃない。飛んできた血だ」
「そうですか……良かった。舞さんが無事で……」
美雨に言われて、舞は頰が少し熱くなるのを感じた。
「……ありがとう」
二人ともしばらく見つめ合っていた。
翼と熊気が周りを警戒し、ヒョウが駆け寄ってきた。
「二人共無事?」
舞は美雨から顔を上げる。
「ヒョウ助かったが、グレネードは無茶苦茶だ」
「ごめん。早く二人を助けたかったから」
ヒョウはペロリと舌を出して謝罪する。
「それで舞。これからどうするの? 」
「地下駐車場だ。車でここから脱出する」
「駐車場は非常階段からしか行けないはずでしょ?」
「ああ、だから一階までは階段を使いそこで非常階段から地下に降りる」
「オッケー。じゃあ早く行きましょう」
ヒョウはAN94を構える。その銃口の先には新たなゾンビ達が現れていた。
「あいつらに捕まりたくはないわ」
舞も頷いて同意する。
「ヒョウ、先行して。翼達には私たちの後ろに付くように言ってくれ」
ヒョウは「分かった」 と言って走る。すれ違いざまに翼と熊気に伝言を伝えていた。




