表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元ネトゲ城主の戦略的学園生活!  作者: 蒼井まこ
三章『騙し騙され、脅し脅され』(改行増量版)
PR
53/68

三章その7

『ホスト部』の元部長、北大路ヒデキが山田リリコを庇うように立って続けた。


「それとも、痛い目に遭わねーと分からねータイプかぁ?」


 ――熊がモップを持ってるみたいだな……。


 茶色いファーのコートを着ていて、気の強さが顔にまで表れている山田リリコ。その前にいる北大路ヒデキは、細身で背が高く、明るい茶色の髪にはパーマがかかっている。


 ――クマとモップのカップルで、クマモップルだな、うん。


 そう胸の内で命名し、シンは地面に紙を放った。右足を後ろに引き、半身に構えて体を上下させる。


「痛い目に遭うのは勘弁なので、殺す気で反撃しますねー」

「こ、この人数に勝てると思ってんのか?」

「んじゃ、武器使いますねー」


 シンはブレザーのポケットに手を突っ込み、ボールペンを取り出して握り締めた。


「じょ、上等じゃねぇか!! おいお前ら、やるぞ!!」

「あー……。人数的に厳しいんで、ツイッター組は動かないでください。向かってきたら結構しんどい目に遭うと思ってください」

「こ、こんな奴の言うことなんざ、無視しろ! あいつのスマフォを奪っちまえば――」


 ヒデキの話を遮る形で、シンは間延びした声を発する。


「画像はネットのアドレスに送ってあるんで、スマフォを壊しても無駄ですよー」

「だ、騙されんな! あいつが言ってることは全部ハッタリだ!」

「つーか、何でみんな一緒じゃねーと駄目なんですか? もしかして先輩、喧嘩は初体験な感じですか?」


 そう問いかけて挑発すると、北大路ヒデキはあっさりと乗っかった。


「ご……、ごちゃごちゃごちゃごちゃうっせぇんだよテメェは!! そんなにしてぇなら、やってやろうじゃねぇか!!」

「あ、よろしくお願いします」


 体を揺らしながら軽く頭を下げ、北大路ヒデキを迎え撃つ態勢を整える。


 ――とりあえず、一発は我慢しねーとなー……。先に殴ったら停学確定だろーし……。つーか、何でピーカブースタイル?


 北大路ヒデキは、ひょろ長い体を丸めて両腕で顔をガードしていた。デンプシーロールでもするのかと思わせるような構え方である。


 ――身長的に考えて、俺の方が合ってる気がすんだけども……。


 そんな感想を抱いたところで、ドタドタという足音が聞こえてきた。首だけで振り返ると、建物の陰から飛び出してきたリキと目が合う。

 彼は露骨に嫌そうな顔をしていた。本気でやり合うつもりだと察したようだ。近づくのを拒否するように、丸太のように太い脚を止めている。


「何でお前がそんな顔をすんだよ……」


 シンが構えを解くことで、リキはようやく動いた。歩み寄って紙の束を渡す。


 その一方で、ヒデキも構えるをやめていた。青くした顔をリキに向けている。恐怖しているのは彼だけではなく、他の部員たちも同じだ。


「さ、さ、さ、沢下は卑怯だろうがッ!」

「ですよねー。まーでも、リキは手を出さないんで大丈夫ですー」


 A4用紙をぺらぺらとめくりながら、シンは興味なさげに言った。

 するとヒデキは、『ホスト部』の部員たちに目をやった。それから軽く頷き、恐れを振り払うように大声を放つ。


「テ……、テメェの言うことなんか信じられっかよ! ああもう、何か冷めちまったな。こんな奴を相手にしててもつまんねぇし、部室に戻ろうぜ」

「……あー、ちょっと良いですか?」

「な、何だよ。け、喧嘩ならやらねぇぜ?」


 背を向けていた北大路ヒデキが、向き直ってから続ける。


「沢下のせいで気分が削がれちまったしな」

「しなくて済むならそれに越したことはねーので、そっちはどうでも良いです」


 横に立つリキが「やる気満々やったやんけ」と呟いたのを無視し、シンはリリコを一瞥してからヒデキに問いかける。


「そういえば先輩、彼女さんとはどうなんですか?」

「……あ? 何でテメェにそんなこと言わなきゃならねぇんだ?」

「あーすみません、質問が悪かったですね」


 一呼吸置き、シンはヘラッと笑って二の句を継いだ。


「そこにいる山田先輩を含めた、四人の彼女さんとはどうなのかって聞いてるんです」


「な……、何の話をしてんだよテメェは」

「先輩の話をしてる感じです。『女テニ』と『吹奏楽部』、あとは『チェス部』ですよね?」

「……聞こえなかったのか? 俺は、何の話をしてんだって訊いてんだよ。質問する前にこっちの質問に答えろやクソガキッ!!」


 ヒデキは癇癪を起していた。その激怒ぶりに驚き、周囲にいた者たちが目を見張る。


 何かが始まる――。

 皆が皆、そんな風に思っているようだった。硬い表情でこちらを見ている。


 ヘラヘラと笑う、不気味なピエロ。

 そんな様を見せるシンが、楽しげな声でヒデキに問う。


「覚えはありませんか? 今の部活の並びに」

「あぁあぁ、まったくねぇな! つぅか、話にならねぇな!!」

「そうですか。んじゃ、山田先輩に訊きますねー」

「あ、あたし?」


 唐突に話を振られたからか、山田リリコは警戒するように身構えていた。


「はい。先輩はあれですか、浮気されてることを知った上で付き合ってるんですか?」


 質問の宛て先は、山田リリコにしていた。

 その返事が来るよりも先に、北大路ヒデキが地面を踏みつけて怒鳴る。


「勝手なこと言ってんじゃねぇよッッッッ!! リリコ、あんな奴の話なんざ――」

「テメーは黙ってろッ!!」


 北大路ヒデキに怒声を浴びせ、威圧するように一歩前に出る。それに合わせる格好で、彼は後ろに下がった。

 仕切り直すための間を挟み、シンは改めてリリコに問いかける。


「どうなんですか?」

「あんたは、ヒデキが浮気してるって言いたいわけ?」

「そうなりますね」


 シンが小さく頷くと、リリコは声高に笑いはじめた。


「あはははは! いきなり何の冗談よ。ヒデキが浮気? そんなことするわけないじゃん」

「知らないってことで良いんですね?」

「知らないも何もないっしょ。浮気してないんだからさ」


 山田リリコは明るい口調で言った。顔を強張らせている北大路ヒデキの方を見なかったのは、確認するまでもないと思っているからだろう。


 彼氏を信じる、無垢な彼女。

 その姿が痛々しく見え、思わず目を伏せる。


 ――根はいい人なのかもしれねーな……。やり口は俺と同じくらい酷いけど、そもそも先にやったのは俺なわけで……。


 罪悪感はあった。ただ、終わらせる気はなかった。


 復讐の連鎖を今すぐ断ち切るには、復讐できなくなるほどの復讐をするしかないからだ。


 ――鳴海ならこういう時、『復讐は復讐しか生まないからやめなさい』とか言うんだろーなー……。


 色白な彼女の顔を脳裏から追い出し、山田リリコを見据える。


「……そうですか。けど、浮気してないなら――」


 三十枚近い紙の中から一枚を抜き、シンは肩の横で振りつつ続けた。


「――この写真はおかしくないですか?」


 写真に写っているのは、北大路ヒデキと山田リリコ、ではない別の女子だ。二人は恋仲だと伝えるように、口づけを交わしている。


 画像の出どころは、北大路ヒデキのホームページ、ブログである。

 昨日の深夜、ツイッターで彼のブログが面白いと聞き、見たいと頼んでアドレスを手に入れ、そこにあった写真を印刷したのだ。

 口づけ以外には、首に腕を回し合ってピースサインをしていたり、頬をくっつけ合っていたりなど、どれもカップル然としたものばかりである。


 それらの中の一枚、浮気を決定付ける写真を見せたからか、山田リリコと北大路ヒデキは口を開いたまま固まっていた。二人の周りにいる部員たちも、唖然として言葉を失っているようだった。


 そうなっていないのは、『ホスト部』の現部長だけだ。

 ほくそ笑んでいた彼を見やり、シンは内心で頭を抱えた。


 ――俺もかー、俺もはめられてたのかー……。ブログの話をしたのは、わざとだったのかー……。立場的に手が出せねーから、俺にやらせた感じかー……。


 もうやだこの学校、と思って嘆息する。

 白い息が冷たい空気の中に溶けたところで、シンは気を取り直してリリコに訊く。


「これで分かってもらえましたか? 山田先輩は、騙されてたんですよ」

「い、い、い、いい加減にしとけよクソガキイイイイィィィィッ!!」


 ヒデキは怒鳴るのと同時に、こちらに向かって駆け出した。

 視線がずれていると気づき、狙いは写真だと思って横に放る。予想通り、彼は前傾姿勢になってそちらに足を進めた。


 ――一難去ってまた一難ってな。


 ヒデキが写真を手にして地面に倒れ込む一方で、シンは持っていたすべての写真を宙にぶちまけた。

 そのうちの一枚が風に流され、山田リリコの足元に落ちる。拾い上げた彼女に、北大路ヒデキが目を見開いて叫ぶ。


「ちがっ、違うからな、リリコッッッッ!! 合成だ、合成写真だッッッッ!!」


 ヒデキを無視し、リリコは悲しげな顔をシンに向けて問う。


「あんたはさ、ヒデキの浮気相手が誰かってのを知ってんのよね……?」

「はい、知ってます。教えることも可能です。それとは別に、あの人が『理女研』の情報を『新聞部』に流したことも知ってます」

「う……、そ……? し、『新聞部』の奴ら、あたしには何も……」

「誰が情報を漏らしたのかって訊いたからだと思います。名前の方で訊けば答えてくれると思いますよ」


 さらりと言ってのけたシンを、リリコは驚きを湛えた瞳で見つめる。


「な、何で、ヒデキが……、そんなこと……」

「俺を潰したいのに、『理女研』がうまくやれてなかった。だから『新聞部』に記事を書かせて『リア充を撲滅する会』に俺を襲わせた――。あくまで予想ですけど、こんな感じだと思います」


 予想は、当たっていたようだった。

 北大路ヒデキは、地面に膝を付けたままばつが悪そうに顔を歪めていた。山田リリコも同じように顔を歪ませていたが、彼女の頬には涙があった。


「そんなことしたらさ……、追い込まれるのはあたしらじゃん……? ヒデキはさ、それが分かっててやったわけ……?」

「俺を潰すことしか考えてなかったんじゃないですか? そこら辺は直接、本人に訊いてください。あーあと、へこんでるところ申し訳ないんですけど」

「まだあんの……?」

「はい。ここからはお願いっつーか、命令になります――」


 シンは酷く冷たい声音で続けた。


「――『理想連合』を解散させろ。それができねーなら、今持ってる情報すべてを学園中にばらまく」

「い、一週間前に解散とか、できるわけ……」


 驚愕と動揺。

 リリコの顔には、それらが色濃く反映されていた。目を剥いて口を開けっぱなしにしている。『理想連合』に属している他の者たちも似たような面持ちだ。

 そんな彼らの前で、シンはヘラッと笑った。


「それはあれか、ばらまけってことか?」

「ま、まだ決めたわけじゃ……。てかこれ、命令じゃなくて脅迫じゃん……」

「どう捉えるかはそっちの勝手だ。はっきりしてんのは、あんたらに今後はない。まともな学園生活は二度と送れねーってことだ。つーか、どっちにすんだ? あ、ばらまかれて学園中の笑い物になりたいなら、今すぐにでも――」


 シンは笑みを残したまま冷淡な声で続ける。



「――ご希望通りにしてやるよ」



 直後、地獄絵図が完成した。

 山田リリコの顔からは、感情の一切が抜け落ちていた。こちらにおぼろげな瞳を向けているが、何も映っていないように見えた。北大路ヒデキは戦意喪失といった様子で、地面にへたり込んだままうなだれている。


 助け舟は、どこからも出てこなかった。

 情報を握られている者も、握られていない者も、皆一様に凍りついてしまったかのように固まっている。顔を引きつらせたまま短い呼吸を繰り返すばかりである。


 恐怖と絶望が生んだ、暗黒の空間。

 それをぶち壊したのは、聞き覚えのある声だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ