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元ネトゲ城主の戦略的学園生活!  作者: 蒼井まこ
三章『騙し騙され、脅し脅され』
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三章その10

 陸田ナツミは、部活を『帰宅部』に変えた。

 退部時に揉めるだろうと踏んでいたが、山田リリコはあっさりと許可を出したそうだ。彼氏の浮気が発覚して頭が冷えたのか、〝籠絡作戦〟に付き合わせたことを悔い、その場で謝罪するのと共に首を縦に振ったらしい。

 それに合わせる形で、陸田ナツミは『理想連合』からも抜けた。『撲滅連合』に移る気でいたようだが、脱退の方しか認められなかったそうだ。

 何はともあれ一件落着。

 鳴海ミナと楽しげに過ごす彼女を見て、ようやくそんな風に思えた。

 ただ、自分が抱えている問題の数は、一つたりとも減っていない。服部ハンナに増やされてしまったからだ。

 作戦の案を渡すために行くのか、陣中見舞いをするために行くのか。

 どちらにせよ、気が重いことに変わりはなかった。服部ハンナからの頼み事でなければ、すぐさま断っていただろう。

『冬の陣』の下準備に費やした三日間と、ゲームをやりにマンガ喫茶へ行った土曜日。

 そうして迎えた、日曜日の昼過ぎ。

 雨空の下、シンは苦しんでいた。

 ――いっ、い、行きたくねええええええええぇぇぇぇーーーー!!

 会わなければならない相手は今、眼前の第一校舎の中にいる。一年六組の教室で作戦を考えているらしい。数分前までは陸田ナツミと一緒にいたようだが、彼女の方は今、第三文化棟の『カフェ部』の部室にいるそうだ。

 ――つーか、陸田がいるのに何で決まらなかったんだ……? 『リリィ』にいた時は、作戦の案を出しまくって……。

 みんなに決めてもらう人だった、と思って肩を落とす。

 ――やだなー……。けど、行かなかったら、もっと嫌な目に遭うんだろーなー……。

 くるくると回していた傘を止め、シンは大きなため息をついた。それから、鈍い足取りで第一校舎の中に入る。

 廊下を進めば進むほどに、階段を上れば上るほどに、身も心も重たくなる一方だった。二階に着いた時には、軽い眩暈と吐き気に襲われていた。

 ――逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ……!!

 そう自分に言い聞かせ、一年六組の教室まで足を進めていく。引き戸の横に立ち、ドアのガラス越しに室内の様子を窺う。

 教室にいたのは、鳴海ミナただ一人。陸田ナツミの帰りを待っているのか、自分の席でノートを広げたまま暗い顔を窓の方に向けている。

 ――何だあのテンションは……。ウェルカムな雰囲気が微塵も感じられないっつーか、近寄ったら即死しそうなんだけども……。

 期日は今日にしたが、明日にしよう。

 そんな風に思って踵を返したところで、廊下の角から顔を出していた服部ハンナと目が合った。同時に、Uターンする羽目にもなる。

 ――行くしかねーっぽいな……。

 逃げて死ぬくらいなら戦って死のうと思い、教室という名の死地に足を踏み入れる。

 ――どんな顔をすれば良いのか分からない時は……、笑えば良いんだよな、うん。汎用人型決戦兵器のパイロットもそう言ってたしな。

 柔らかい笑みを作ってみたが、すぐに強張った。視線の先にいる鳴海ミナが、ブレザーの袖で目元を拭って鼻をすすったからだ。

 ――やっ……、やっぱり明日だな。明日から頑張ろう。

 シンが体の向きを変えた直後、室内に小石が投げ込まれた。

 やったのは、服部ハンナだ。

 ――鬼かお前はああああああああああああぁぁぁぁーーーー!!

 心の中で絶叫してから、恐る恐る鳴海ミナの方を見やる。動揺を孕ませた自分の視線と訝しむような彼女の視線が交わり、

「……何でアンタがここにいるのよ」

 と言われてしまい、苦い笑みを浮かべるほかなかった。

「たっ、たまたま通りがかった感じだな、うん」

 シンの言い分を聞いても、ミナは当然のように納得しなかった。疑いの目を向けたまま問いかける。

「通りかがるというか、中に入っているじゃない」

「……遊び相手の小石ちゃんがお邪魔しちゃったから、それを引き取りに来た感じだ」

「小石と遊ぶくらいなら、沢下と遊びなさいよ」

「人生には気晴らしも必要なんだよ」

「小石と遊んでいれば気が晴れる人生とか、どんな人生よ……」

 鳴海ミナは呆れた様子で短い吐息をついた。

 ごもっともだと思いながら歩み寄り、彼女の隣の席に腰掛けて尋ねる。

「つーか、こんな所で何してんだ?」

「見ての通り作戦を……、じゃないわね。見ないでほしいから、もう少し離れてほしいんだけど」

「あーうん。んじゃ、帰るなー」

 そう言って腰を上げると、背中に痛みが走った。小石が床に転がる音を耳にしたのは、そのすぐあとだ。

 ――あそこから当ててきただと……!?

 ビックリして後ろの出入り口に目をやるが、攻撃してきた者の姿は見当たらなかった。

 ――最低でも案だけは伝えろってことか……。

「か、帰れとは言っていないでしょ! 少し離れてほしいだけよ!」

「あーっと……。もしかして俺、警戒されてる感じか?」

 腰を下ろしたシンに、ミナはにべもなく言う。

「アンタを警戒しない日なんて一日もないわ」

「さっ、さいですかー……。あー、一応言っとくと、『冬の陣』の日は追試を受ける予定が入ってたりする」

「え……? 赤点があったってこと?」

「二つなー。だからあれだ、警戒されてもって感じだ。それより、作戦の方はどうなったんだ? まだ決まってないとか聞いたんだけども」

 追試の話はまずいと思い、話題を『冬の陣』に移した。

 彼女が顔を陰らせて答える。

「ア、アンタには……、関係ないでしょ」

「いや、普通に大アリだろ。その作戦で『理想連合』が負けてくれねーと、悔しくて眠れねー日々が続いちゃいそうだし」

「し、心配しなくても……」

 ミナは俯きながら声を窄ませ、灰色のスカートを握り締めた。

 ――なっ、泣くのは勘弁、マジほんと勘弁だ!

 一人であたふたした後、シンはコホンと咳払いをした。ミナの上目遣いをよけるように黒目を横にやって問いかける。

「さっ、作戦の話はちょっと置いておくことにして、特装申請はどういう感じにするんだ? 明日までに提出だろ?」

 正式名称は、特別装備申請。

 それを『支部争戦事務局』に提出すると、ゲーム開始前に特別装備が受け取れるようになる。第三文化棟の文化部は一つの部に一つ、帰宅部員は一人一つで、三種類の装備の中から一つを選ぶ形になっている。


 体の三分の二ほどを隠す透明な盾、ライオットシールド。

 アサルトライフルと呼ばれる種に属す、AK―47。

 サブマシンガンと呼ばれる種に属す、MP5。


 ライオットシールドは縦長長方形型で、四隅が丸くなっている。AK―47は装弾数を増やして小型化したタイプ、MP5は日本国内用にカスタマイズされたタイプで、どちらのエアソフトガンも電動である。

 使用者に決まりがないため、参加者全員に配られるグロック、電動のハンドガンと併用しても良いことになっている。

 前回の『夏の陣』では、ほぼすべての部がAK―47を使っていた。二百五十発という装弾数に惹かれ、そうしたようだった。

 シンが使ったのもAK―47だ。

 ――前回と同じ状況なら、AK―47一択なんだけども……。

 今回はそうじゃない、と思ったところで彼女が答える。

「特装申請はアサルトライフルにするつもりよ。アタシとナツミは使いやすさ重視でサブマシンガンにするつもりだけど」 

「あーっと……、変更しね?」

 唐突な提案だったからか、彼女は目をぱちくりとさせた。困惑顔で問い返す。

「ええっと……、何で?」

「銃だけだと、厳しいんじゃないかなーっと思ったり思わなかったりで……」

「そ、それはその……。か、勝てないってこと……?」

 不安の色で染まったミナの瞳を見て、シンは引きつった笑みを浮かべる。

「だっ、断言はできねーけどな」

「ど……、どうして勝てないのか、聞いても良い……?」

 ミナは訊きながら、すがるような眼差しをシンに当てた。

 ――当たり前のことだけども……。遠目に見るのと直接向けられるのとでは、雲泥の差があんなー……。

 光を失っている目に、強張っている頬。

 別の言い方をするなら、どうにかしたいと強く思わせる表情だった。

 そんな面持ちの彼女に、自分の考えを伝える。

「……前回は部と部の戦いで、何事も無ければ乱戦になってたと思う。そうなれば、AK―47はかなり使える。装弾した直後だったら乱射できるし、装弾数が多い分、ほかの銃よりも長く戦えるしな」

 そう前置きして、本題へと持っていく。

「今回の『冬の陣』でも、AK―47は使える。ただ、乱戦にはならない。二つの勢力による戦いだから、単純な攻防戦になると思う。んで、そうなった場合は、AK―47以外にも使えそうな装備が出てくる」

「銃だけじゃ厳しいって話からすると、シールドってことよね……?」

 ミナが察して尋ねると、シンは軽く頷いた。

「まーでも、数を揃えねーと駄目なんだけどな」

「ど、どのくらい揃えれば良いのか聞いても良い……?」

 頼ることに慣れていない、彼女らしい訊き方だった。

 弱い口調で発せられたその言葉を耳にして、内心で大きなため息をつく。口から出せば彼女がしょげてしまうと思ったからだ。

「……北側で四枚、南側で四枚って感じだな。ライオットシールドの横幅は約45センチで、それを四枚並べると、廊下と階段を封鎖できるようになる。どっちの横幅も約180センチらしいからな」

「そ、そうなの?」

「服部がそう言ってた。んで、そのライオットシールドで作った壁の後ろから攻撃する。そうすれば結構やれると思うぜ。イメージは……、織田信長が長篠の戦いで使った戦法、三段撃ちだな」

 説明を加えるべきかと迷うが、余計なお世話だったようだ。

「……ハンドガンだとすぐに弾切れを起こしちゃうから、交代交代で撃っていくってことよね?」

「そーっそ。グロックの装弾数は三十発だから、撃つ役と弾込め役とで分けた方がよさげだな。あーあと、MP5は扱いやすいけど、七十発しか撃てねーから微妙かもだ」

「壁を作って戦うなら、そうかもしれないわね……」

 ――このまま一気に作戦の話もするか。

 チャンスだと思い、服部ハンナからの頼み事をこなしに掛かる。

「あとはあれだ、攻められる前に攻めた方が良い気がする」

「か、数で負けているのに?」

「数で負けてるからこそって感じだな。『撲滅連合』が68人、陸田を入れると69人で、『理想連合』が292人だったよな?」

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