表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元ネトゲ城主の戦略的学園生活!  作者: 蒼井まこ
三章『騙し騙され、脅し脅され』
21/68

三章その9

「誠に言いにくいことなのでござるが――」

「んじゃ、そのまま黙っておこう」

「――小生の力不足により、ミナ嬢が大ピンチなのでござる!」

 制服姿のハンナが真剣な表情で訴えても、シンは机から体を起こさなかった。腕で枕を作り、静かに目を閉じる。

 図書館裏から逃げ帰ってきた、暗がりのパソコン室。

 その室内に、服部ハンナの大きな声が響き渡る。

「き、聞いてほしいのでござる!! 本当の本当に大ピンチなのでござる!!」

「ちゃんと聞く……。ちゃんと聞くから、続きは夢の中で頼む……」

「……主がそのような態度を取るのであれば、小生にも考えがあるのでござる」

「おー……、何だー……?」

 シンがあくび混じりに問うと、ハンナは刺々しい声を返した。

「主に恥ずかしい写真をいっぱい撮らされた――、とミナ嬢に告げ口するのでござる」

「聞こうじゃないか」

 くるりと椅子を回転させ、シンは真面目な顔付きで指を組んだ。

「さ、さすがはミナ嬢でござるな……。ものぐさ状態の主を、こうも簡単に動かすとは……。最早、嬢ではなく、姫の領域でござるな」

「そういうのいらねーから、とっとと話してくれ。んで、寝る」

「御意。ちなみに主は、『支部争規定』の内容を覚えているでござるか? 『支給額の増減』と『連合』についてのところなのでござるが……」

「ああ、問題ねーぜ」

 何度も読み返していたのもあり、すぐに思い出せた。

〝一、支給額の増減は順位によって決め、増加は二十四の部までとする〟

〝一、連合は八以上、四十以下の部が集まった場合のみ、認めるものとする〟

〝一、連合に参加した部は共同体とし、支援部費の増減幅は一律にするものとする〟

 頭の中に三つの文章を並べ、彼女が唇を動かすのを待つ。

「支給額が増えるのは二十四の部で、減るのもまた二十四の部。結果によって受け取る額は変わるものの、第三文化棟全体に支給される額は同じ。それを四十八万円とするなら、開戦前は、どの部も一万円を持っていることになるのでござる」

 ハンナは一呼吸置いて続けた。

「終戦後、一位が一万五千円を受け取れば、四十八位は五千円。二位が一万四千円なら、四十七位は六千円――。そんな形で支給額が決まるのでござるが……、今回は連合同士の戦いになっているのでござる」

「そうだな」

「仮に、『撲滅連合』が負けたことにすると、下から十一番目までを独占してしまい、そのマイナス分を、十一の部で平等に受け持つことになるのでござる」

 ――何で負けた方……?

 疑問に思ったが、口には出さなかった。話が続きそうだったからだ。

「その一方で、『理想連合』が負けた場合は、下から三十七番目までを独占することになるのでござるが、そこにはプラス分も含まれており、それで打ち消して残ったマイナス分は、『撲滅連合』が負けた時と同じになるのでござる」

「あー……、確かにそうだな」

 ルールを使って勝負し、ルールの外を狙う。

 そんなイメージでいたのもあって、各連合の勝敗後については一度たりとも考えたことがなかった。

「そのマイナス分を、『理想連合』は三十七等分して受け持つ故、被害が少なくて済むのでござる。逆に言えば、勝った時の取り分も少ないのでござるが、マイナスよりはプラスの方が良いに決まっているわけで……」

「まあ、そうだな」

「現状から考えて、『理想連合』が勝つのは目に見えており……、そのせいで……」

 電気を点けていないパソコン室と同じくらい顔を暗くし、ハンナは弱り切った声で結論へと繋げた。

「ミナ姫が大ピンチなのでござる……」

「んあ? 何で鳴海限定なんだ? ピンチなのは『撲滅連合』全体だろ」

「代表者になってしまったのでござる……」

「……へ? 『撲滅連合』の代表者って、『リア充を撲滅する会』の部長じゃなかったか?」

 シンが首を捻る一方で、ハンナは首を横に振った。

「あれは仮決定であり、本決まりではなかったのでござる……。それを決める会議が先週の金曜日に行われたのでござるが、皆が皆、負けた時の責任を取るのを嫌い、まったく手が上がらずで……。結局、その日には決まらず、土曜日までもつれ込み……」

「鳴海が気を遣って立候補した、って感じか……」

「その通りなのでござる……」

 左右の拳を握り締め、ハンナは悔しげな顔を伏せた。

「……鳴海らしいとしか言いようがねーな」

「そうなのでござる……、ミナ姫は優しい故……。い、一応その会議で『負けた時は全員の責任にする』という話になったのでござるが……」

 口をつぐんだハンナに代わり、

「表では〝みんなの責任〟にして、裏では〝鳴海のせい〟にしそうだな」

 と話を継ぎ、シンはため息をついた。

「『探偵部』の先輩方も、主と同様の見解を示しており、それを防ぐための手を皆で考えているのでござるが……」

「そっちを考えるんじゃなくて、勝つための作戦を考え方が良いんじゃね?」

 ハッとして目を逸らしたハンナに、シンは続けざまに問う。

「ちなみになんだけど、作戦とかはどうなってんだ?」

「案自体は出ているのでござるが、作戦と呼べるものはないに等しくて……。結局それも、ミナ姫任せになっているのでござる……。そこで一つ、主にお願いが……」

「おやすみ世界」

 シンは言いながら机に突っ伏した。

「……主は、自分の世界をおやすみさせたいのでござるか?」

「なあ服部、俺のお願いも聞いてくれないか……?」

「こ、今回は小生の番である故、そんな悲しそうな顔をしても駄目なのでござる!」

「でも俺、このままだと廃人になっちゃうぜ……?」

「句を詠む前に、小生のお願いをきいてほしいのでござる!」

 大真面目な顔で訴えたハンナを見て、シンはゆっくりと体を起こした。怒気を孕ませた声でまくし立てる。

「そっちの俳人じゃねーよ、何でいきなり俳句が読みたくなっちゃうんだよ! あーでも、読みたい気分ではあるけどな! 『泣きたいよ、泣かせてくれよ、ホトトギス』ってな!! つーか、お願いって言うな! 脅しって言え!!」

「ぎょ、御意! そ、それでは、小生の脅しの内容を大発表するのでござる! 小生が主にやってほしいことは、ただ一つ!」

 大きく息を吸い込んでから、ハンナは続けて言った。

「ミナ姫を元気づけてほしいのでござる!!」

「あーっと……。元気な奴を元気づけるとか、普通に無理じゃね?」

「図書館裏での姿を見て言っているのであれば、あれは主の前だったからでござる。今日の昼休みの間は、ずっと暗かったのでござる……」

「俺の前でもそうなってほしいんだけども……」

「……冗談を言っている場合ではないのでござるッッッッ!!」

 ハンナに怒られ、シンは顔に引きつった笑みを貼る。

「じょっ、冗談とかじゃなく、本気で言ってたりするんだけども……」

「だとしたら、なお悪いのでござるッッッッ!!」

「はい……、すみませんでした……」

 素直に怒られておけばよかった、と悔やみながら彼女の話を聞く。

「土曜日に代表者となり、二日続けて行われた作戦会議中はいつも通りだったのでござるが……。今日は朝から暗くて……、昼はもっと暗くて……」

「作戦が思いつかなくてーって感じか」

「恐らくは。作戦会議の時に妙案が出てこなかった故、一人で考えている、と言うより、考えさせられているのでござる……。小生もいくつか案を出してみたものの、使えるかは別の話で……」

 ハンナは下唇を噛んで下を向いた。

 彼女が言った『力不足』は、この件に対しての言葉だったようだ。

「使える作戦、かー……」

 外からは淡い水色の横長長方形に見える、三階建ての第三文化棟。

 各階には、教室と同じ広さを持つ部屋が八つある。部室の数はその倍で、それらは南北の階段とトイレに挟まれている。

 そんな造りになっている第三文化棟を頭に浮かべ、シンは難しい顔で続けた。

「いろいろと考えてみたけど、何が使えて何が使えねーのかはさっぱりなんだよなー……」

「そ、それは、小生には話せない代物でござるか……?」

「いや、普通に話せる。つーか、明日くらいに話そうと思ってたし」

 シンは言いながらカバンに手をやった。筆記用具とノートを机の上に置き、第三文化棟の絵を書いて説明する。

 それを終えて一息ついたところで、彼女が瞳を輝かせて言う。

「さ、さすが……、さすがは我が主なのでござる!! この策であれば、『理想連合』の者たちをほふれると思うのでござる!」

「そうできれば良いんだけどなー……」

 野球やバスケットボールの作戦風に言うと、レイドアンドレイド。急襲もしくは奇襲を重ね、その間に敵を減らしていき、最後は数で上回って押し切る寸法だ。

 うまくいけば勝てるが、そうなる保証はどこにもない。

 ――なんつーか、ちょっと気持ちが分かっちゃった感じだなー……。自分が考えた作戦で負けたら、きついもんなー……。それに加えて代表者とか、勇者すぎんだろ……。

 彼女らしいと思う一方で、学習してほしいとも思った。

 そのあとで脳裏に浮かんだのは、『夏の陣』を前にした鳴海ミナの姿だ。

 友人と一緒にいれば明るく振る舞うが、一人になれば暗い雰囲気を漂わせる。図書館で一度目にした時は、握り締めていた本を見ずに虚空を見つめ、泣くのを我慢するかのように唇を引き結んでいた。

今の彼女はその時よりも酷い状態にあるのだろう。友人の服部ハンナが気づけたことがそれを証明している。

 ――まーでも、作戦さえ思いつけば立ち直れるわけだし、とりあえずは待ちって感じで良いよな。

 そう結論づけた後、不意に湧いた疑問を口にする。

「鳴海を元気づけろってのは、作戦の案を持っていくってことで良いんだよな?」

「それも含め、でござるな。主と話せばミナ姫は元気になる故、話すことが最も重要とも言えるのでござる」

「あーうん、そだなー。分かる分かる」

 平板な声を返すと、彼女は目を丸くしていた。

「わ、分かるのでござるか!?」

「分かるに決まってんだろ。鳴海の奴、俺を八つ裂きにすると元気になるもんなー」

「……主は一度、本当の意味で八つ裂きになった方がよい気がするのでござる。さすればいろいろと気づけるようになると思うのでござる」

 ハンナの突き放すような物言いに怯み、シンは顔に強張った笑みを貼る。

「あーっと、どうしてそうなっちゃったんだ……?」

「何にせよ、お願いの件、お頼み申したのでござる」

「おっ、おう……」

 深く訊いては駄目だと察し、話を本筋に戻す。

「つーか、鳴海が作戦を思いついて、元気を取り戻したらどうすんだ?」

「そうなった時は、陣中見舞いをしてほしいのでござる」

「結局、行かねーと駄目ってことな……。んじゃ、日曜くらいで良いか?」

「行くタイミングは、主にお任せなのでござる」

「……ちなみに、行かなかった場合は?」

 確認しておこうと思って問うと、彼女はニコリと笑った。ブレザーのポケットから携帯電話を取り出し、無言でそれを指差す。

 シンもニッコリと笑ってから、絶望の色に染まった目を床に落とした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ