第二話
目的の場所に着いた雪華は、顔を隠すように立てた膝に頭を埋め、座り込む。
―指定されたこの場所は、雪華にとって唯一安らげる場所だ、暇さえあればいつもここにいる。
他の人達には気に止まらない場所のようだが、自然が美しいく、大切な場所だ。
いつも居るので、待ち合わせの相手は、拒否されるのを回避するためにここを指定したのだろう。
この場所を見つけた瞬間、なぜか「ここだ」と思った。
入学して、暇を持て余し、彷徨いているときに見つけた。
それから約一年間、放課後は忙しくても毎日通っている、休みの日に来られないのだけが残念だ。
―別れたときの麻子は、複雑な顔をしていた。
きっと、隠している内容は分からなくても、隠し事があることは察しているのだろう。
聞かれない事を良いことにここまできたが、いい加減伝えなければいけないのかもしれない。
・・・でも、ずるい自分は踏み切ることが出来ないでいる。
過去を思うと、どうしても切り出せない、嫌われるのが怖い。
やはり、どこかで麻子を信用していないのだろうか・・・・・いや、信用していないのでろう。
信用していれば、とっくに麻子は知っていたはずだ。
私は、あのときから少しも進歩していない・・・もしかしたら、するつもりが無いのかもしれない。
―――幸せだった記憶は、五歳をむかえるまでだった。
それまでは、両親に愛され、幸せに満ちた日々だった。
あの日を境にすべては一変した・・・
小さく、何故そんな事になったのか理解できないときは、失ってしまった両親を取り戻そうと泣いて縋ったが、時間が経ち、やがて成長とともに心も閉ざした。
――周りの人達の蔑んだ視線、それを避けるように遠巻きに見る両親。
両親の目は、自分も何かされるのかと怯え、まるで化け物を見ているようだった。
そんなことをする力なんてない・・・持っていたって他者を傷つけようなんて思わない。
自分たちが生んだ子供を、そんな目で見る両親に一番傷ついた。
守ってくれると、愛してくれていると信じていた両親に突然手を振り払われ、雪華は人を信じるのを止めた。
一番身近で、信頼し、頼りにできる筈の親たちは、世間の目を気にして生活は保障してくれたが、雪華の心はあっさり捨てた。
親でさえもあっさり捨てるのだから、赤の他人になんて心を開けない。
・・・本当は、そんな人達ばかりではない事も知っている。
でも、臆病な雪華は同じ場所に止まったまま動けないでいる。
つらつらと過去のことを考えている内に、時間がきたのか小石を踏みしめる音が聞こえてきた。
憂鬱になった気分を振り払うために、大きく息を吐きながら気持ちを切り換える。
空虚な日々、代わり映えのない灰色の世界・・・いつか、抜け出せる瞬間は、訪れるのだろうか。