001バイバイ日常1
「どこだよ、ここは?」
確か……俺は、ベットで寝ながらスマホを弄っていたはずだ。
そして眠くなったから電気を消して───
「いつものように寝たよな……んん?」
寝間着姿で立っていた。
二年では色が変わるので、一年の時のジャージを寝間着にする人は結構多い。
日本人なので当然だが寝る時は靴を履かない。
ついでに靴下も履いていないので、ひんやりする足の裏。
「何か……生臭い所だな、嗅いだ事の無い臭いがする」
これが夢だという感覚を持て無かった。
現に五感は、こんなにもハッキリとしているのだから。
「寝てる間に俺は拉致でもされたのか?」
だが、何の為に拉致を?
拉致は立派な犯罪なんだぞ!
(じっとしていても始まらないか)
俺は、恐る恐るここを探索する決断をした。
まず、この部屋にはドアが無い。
そのまま廊下へ素通りである。床や壁の材質、これはコンクリートだろうか?
緊張しながらも、無心で歩き続ける。
「……電灯が見当たらないのに暗くないな。冷静に考えると、おっかない状況だ」
不自然で正直怖いが、今更引き返す気には成らない。
曲がり角をいくつか通って進んでいると、先の方から物音がしている。
(誰か居るのか?……いや、何かが居る?───)
こちらにまで伸びる薄っすらとした影は、蠢いていた。
心細さは恐怖心を育み、耳元にまで自分の心臓の鼓動が響いている。
悪夢より厄介な現実が俺に牙を向く。
生臭さは、この先から漂って来ていた。
恐怖と臭いに耐えながら、覗かない方がいいのに丁字路を覗き込んだ。
人間とは矛盾する生き物。
「っ‼」
小学生より小さな背丈の、緑色の生き物が居た。
そして物音の理由を理解する。
食事中だった。しゃがみ込んで床に倒れた死体を食べている。
限界を超えた恐怖心が、小声となって零れ出た。
「ひ、人が死んでる⁉ 化け物も居るし、俺は何に巻き込まれてしまったんだ?」
(これは、夢じゃない。どうれば?……人喰い、武器は無い───戦うなら今)
殺せる時に殺す!
今の敵は食事に夢中、チャンスは逃しちゃ駄目だ。
仕掛けるなら、隙だらけな今だ。
俺は、出来るだけ音を立てずに忍び寄って、無防備な背後から襲いかかった。
「おらあああああ!」
「グギャ⁉」
叫ぶのは大事だ。
驚かせて強張ったマヌケ面に、全体重を乗せた蹴りを放つ。
生存競争に卑怯もクソもない!
体重差で吹き飛んだ化け物は、うつ伏せの状態で運良く倒れていた。
のしかかり敵にマウントを取ると、必死に後頭部を殴りまくる。
「グガァ⁉ ギャギャ!───」
化け物も藻掻くが、こちらとの体重差が大きく抜け出せない。
必死に抵抗してくるが、俺は延々と殴り続けた。
現状は一対一、しかし別の個体が居る可能性もありえる。
急いで始末しないと……不利な状況に陥りかねない。
殴りながら損壊された年配の犠牲者をチラ見する。
(俺は、絶対こうはなりたくない。まだまだ生きていたいんだ)
「さっさとクタバレ! お前を、殴る、俺の拳だって痛いんだぞ!!!!!」
ゴキッと音を立て化け物の後頭部が陥没した。
殴り続けた自分の手を見ると酷く腫れている。
鈍い痛みは、慣れない暴力を非難でもするかのようだ。
「うう痛ぇチクショウ……でも倒せた。ハア……ハア……」
その時、不思議な感覚が俺の体に起こった。
「なんだ? ッ……軽い頭痛?───うおっ⁉」
急に頭の中へと様々な情報が流れ込んで来る。
知らない知識を無理やり頭の中に突っ込まれる不快感は拷問そのものだ。
(ぐあああ、一体なんだっていうんだッ⁉)
混乱すると同時に、俺は酷くなってきた頭痛で数十秒は床を転げ回った。
しばらくして痛みが嘘のように消える。
「…………ハア、ハア、やっぱこれ夢なのかも?」
今し方、自分が得たばかりの力を行使する。
(来いッ!)
俺の右手に一丁の拳銃が現れた。
この場所へ来てから驚くべき体験の連続だ。
「おお、何処からともなく手の中に銃が……これがグロック17」
グロック17とは、銃の名前である。
銃の種類で言えば自動拳銃に該当する。
初めて握る銃だが、ちゃんとデータは脳内に叩き込まれていた。
頭の中で浮かぶ銃の名前を自由に呼び出したり、逆に消せもする。
とても便利な能力だった。
「実に俺向きな力……」
幼少期はアメリカで暮らしていた。
だから、俺は銃を撃った経験は当然ある。
「そういや、かなり練習した覚えが……何で訓練しようと思ったんだっけ?」
(未だに向こうでの記憶は、酷く飛び飛びなんだよな~)
生活に困るような記憶の欠落が無かったのは、不幸中の幸いと言える。
それでも当時は結構落ち込んだし、引きずりもした。
数年たった今では、もう済んだ話……それでも───
(思い出さないといけない、そんな気がして妙に引っかかってるのも事実)
「───ギャギャ!」
「うおっ‼ やっぱ一匹じゃなかった。出たな別個体!」
曲がり角から現れた化け物が、こちらに敵意を向けてくる。
恐らく、こいつらはゴブリンなのだろう。
(確か、TRPGでこんな奴が居たよな。見るからにあのゴブリンって感じだ)
目の前のゴブリンに対して、俺は一方的に銃撃戦を仕掛けた。
卑怯もズルも言いっこなし、生きるか死ぬかの戦いで銃を使っちゃ駄目もない。
「手に入れたこの力で足掻いて───俺は、生き延びてやる!」
久々に銃を扱ったのあって最初は射撃を外しまくってしまう。
それでもマガジンの弾を撃ち尽くす前に、ゴブリンを倒す事は出来た。
「しかし下手になったね俺も。けど以外と体が覚えてるもんだな、鈍ってた感覚も直ぐに修正が出来た……いや、ジョブの恩恵だったりするのか?」
俺のジョブは、ずばり〈ガンナー〉である。
自由に銃を呼び出せる力も、このジョブの能力によるものだ。
現状はグロック17の第六世代モデルのみだが、いずれ増えていく予感がする。
それと、やっぱり銃火器を使用する際には命中精度の上昇効果はあるようだ。
「手ぶれ防止機能でも付いてるとか?……今の戦闘では実感しなかったけど」
他には、銃に魔石を押し当てると〈ガンナー〉のジョブ能力で出せる銃に限り、永続的に少しずつ性能を強化する事が出来るらしい。
(例えるなら、銃達が経験値を貯めてレベルアップして~みたいな?……だったら俺も、ゴブリンを倒してればレベルアップとか可能だったり?)
今から地道に強化してれば、まだ呼び出せない銃までパワーアップ済みとなる。
全ての銃が一律で強化されていくのは、何とも破格なサービスだ。
(少しずつの地道な強化具合だろうと、塵も積もれば山となるか)
「……そうだった、魔石だよ!」
周りを見ると、今まで倒したゴブリンの死体は消えていた。
それどころか犠牲者の遺体も───
代わりに透明感のある石ころが、ゴブリンの死体のあった床に落ちている。
「魔石ってコレか? 倒すと戦利品がドロップする。ゲームみたいな仕組みだな」
早速と拾った二つの魔石を、銃に押し当てた。
まるで沈み込むように、魔石は銃に吸収されていく。
不思議な光景だった。
熱した鉄板にバターの塊を押し当てるように、魔石は銃の中へ消えた。
なんとも気持ち良い感触。
気が緩んで浸っていたが、我に返って辺りを警戒する。
「どうやらここら辺を徘徊していたゴブリンは、俺が倒した二体だけか?」
あれだけ張り詰めていた緊張感も、落ち着た今はもうない。
ゴブリンの集団に囲まれていたら俺でも危なかったかも───
(あ、大事な事を忘れていた!)
「えーと、ここをこうやって……」
手に持ったままの銃から、弾倉であるマガジンを取り出す。
何と残弾は一発だけだった。
「あぶねー。戦闘中に弾切れしてたら絶対パニック状態になってた。これからは気を付けよう」
確認も済んだので再びマガジンを装着する。
そして、俺は再び銃からマガジンを取り出した。
そこにはマガジン一杯に装填された銃弾が!
「理解はしてるけどファンタジーだ……これも〈ガンナー〉の恩恵なんだよな?」
眺めていると、弾は何故か薄っすら光っていて、美しいが怪しい。
(これって普通の銃弾じゃないんだろうな~)
弾切れになろうとマガジンを銃から外して再装着するだけでリロードが可能。
このジョブは、兵站を気にせずに銃が撃てる素敵な戦闘スタイルで出来ている。
(今の安全な内に、自分のジョブについて頭の中を整理するか)
「銃を消して、再び出現させてもリローデッドは完了する。でも、その場合だと魔力をかなり多く消耗しちゃうと……そして〈ガンナー〉の銃は、俺から一定以上離れると消えるの?───あ、撃った銃弾は別で、ちょっと焦った……」
のんびりと〈ガンナー〉についての確認をしながら、これからの事を考える。
こんな危険な場所から抜け出して、お家に早く帰りたいんだ。
ゴブリンが生息する場所に拉致された俺は、武器を手に入れたので身を守れるどころか今では敵を狩れる。この場所は、俺のように自衛手段の獲得が出来なきゃ地獄の環境だから、他の生存者を見つけたら保護して助けたい。
その上で、俺と同じく戦える力を獲得してもらって、戦力を増やす。
(すると生存率が上がる!)
ポジティブな考えは希望を生む。
希望は、困難を乗り越えるエネルギーの源。
次第に生き生きとした良い表情となった。
(多分、一度でもゴブリンを倒すとジョブが得られるはず。俺がそうだったし)
「どれだけ広いか知らないけど駆け回るとするか。急いだ分だけ助けられる人は増えるんだし、行くぜ!」
こうして、俺は夢だか現実だか分からないダンジョンの攻略を始めた。
「へへ、この二丁拳銃で無双───あれ、同じ銃は重複して出せないの⁉」




