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外れスキル『英雄の鏡』で追放された荷物持ちは、本物の【覚悟】を写し取る~命の重さと業を背負い、少年は真の英雄へと成り上がる~  作者: cross-kei


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第23話:英雄は、罪と罰を抱えて生きる

 勇者ルクスの放つ聖なる剣閃は、かつて荒野で見た時よりもさらに鋭く、重かった。


「あの時とは違うぞ、小僧! 俺はこの日のために、屈辱の中で牙を研ぎ続けてきたんだ!」


 勇者ルクスが『聖剣カンデラ』を正眼に構える。その全身から溢れ出す光の魔力は、謁見の間全体を白銀の世界に変えるほどに膨れ上がった。


「魔王の盾を打ち破るための、対魔王用の必殺剣をお前に使う! 消し飛べ! 『極光断絶ルーメンブレイク』ッ!!」


 ルクスが踏み込んだ瞬間、大理石の床が粉々に爆ぜ、衝撃波が広間を揺らした。


 刀身から放たれたのは、巨大な光刃の濁流。あらゆる防御術式を無効化し、対象を分子レベルで消滅させる、人類最強たる規格外の暴力。


 だが、今の僕には『剣聖』の技術と、すべてを支配する『段取り』の眼がある。

(第一工程、衝撃の分散。第二工程、力の方向の誘導。第三工程――復讐の連鎖の、無力化)


『料理人』のスキルが導き出す、彼を救うための完璧な『段取り』。

 僕はあえて『魔王の盾』を展開せず、風と水の精霊の力をジェミルに宿した。


「あなたの復讐は、僕がここで終わらせる! ――水よ!」


 光の刃が僕の眉間を両断するコンマ一秒前。


 水の鞭へと変化させたジェミルを、巨大な光刃の側面に滑らせる。『剣聖』の神がかった重心移動で刃の軌道をわずかに逸らし、破壊のエネルギーを大理石の床へと完全に受け流す。


 耳をつんざく轟音と共に真横で凄まじい爆発が起き、広間の大理石が深く抉り取られた。


「なっ……俺の『対魔王用』の剣が、逸らされただと!?」


 驚愕に目を見開くルクス。


 だが、僕の『段取り』はまだ終わっていない。生じた一瞬の隙、その優先順位の最上位に食い込むように、もう一方の剣を振るう。


「風よ!」


 風の精霊がもたらす神速で、がら空きになったルクスの懐へと潜り込んだ。


「くそっ、舐めるな!」


 ルクスがデタラメに聖剣を振り回す。しかし、大振りの光の軌道はすべて僕の予測の範疇だ。刃を掻い潜り、相手の剣を折らず、傷つけず、ただ無力化するためだけの『救うための剣撃』を放つ。


「がはっ……! ば、馬鹿な。絶対なる『聖剣カンデラ』が、こんな手品みたいな……!」


 首筋に正確な峰打ちを受けた勇者ルクスは、信じられないものを見るように膝をつき、そのまま意識を刈り取られて床に伏した。


 激闘と呼ぶには、あまりにも短い交差。


 いや、それは僕の『段取り』によって最初から最後まで完全に支配された、たった一人の演舞だった。


「……信じられない。あの『人類最強』を、赤子扱いなんて……」


 背後でセリアが震える声で呟いた。


 広間を支配していた喧騒が、嘘のように消え失せた。居並ぶ兵士たちは息を呑み、英雄が敗北したという現実を前に、ただ静寂だけが重くのしかかる。


「見事だが、物足りぬな」


 パチ、パチ、と。玉座からゆっくりと立ち上がった女王ゼットナが、冷ややかな拍手を鳴らした。


「勇者を無傷で無力化するか。……ならば次は私だ。おい、あれを持て!」


 女王の一声に、屈強な近衛兵たちが数人がかりで運んできたのは、周囲の空気を凍てつかせるほどの冷気を纏った巨大な『氷の魔槍』。


 女王はそれを片手で軽々と掴み取ると、闘技場の無敗王者だった頃の、血に飢えた猛獣のような恐ろしい覇気を放った。


「お前のその理想で、私を止められるか見せてみろ!」


 轟音と共に床を蹴り、女王が魔槍の切っ先を僕の心臓へと突き出してくる。

 勇者とは全く質の違う、隙がなく、大局を見据えた軍略のような一撃。


(……動きが、ほんの少しだけ遅い。それに、このひどく嫌な気配は……)


 僕は瞬時に『死霊術師』の力と『薬師』の観察眼を極限まで引き上げた。

 視界に浮かび上がったのは、女王の心臓から全身の魔力経路へと深く根を下ろした、どろりとした黒い呪いだった。死者の怨念を核としたその闇は、彼女の生命力を燃料にして燃え上がり、内側から肉体を焼き焦がしている。


(……これほどの激痛を抱えながら、国を背負って立っていたのか……!)


「ミラルっ、避けて!」


 セリアの悲鳴が響く。


 しかし、彼女が抱える『罪と罰の重さ』を知った僕は、構えていた双剣ジェミルを――静かに鞘へと納めた。


「なっ……!?」


 僕が反撃の意思を捨てたことに驚愕した女王の槍が、僕の喉仏のわずか数ミリ手前でピタリと止まる。槍から放たれる凍気が、僕の肌を白く凍らせた。


「……なぜ剣を収めた? 魔王の盾とやらを使え小僧。死にたいのか」


 低くドスを効かせた女王の声。


 僕は身動き一つせず、真っ直ぐに彼女の隻眼を見つめ返した。鏡のような僕の瞳には、死の淵に立ちながらも覇道を貫こうとする彼女の壮絶な生き様が映り込んでいる。


「……陛下。あなたの身体は、死者の怨念による呪いで深く蝕まれている。不治の病ですね」


 静かな僕の指摘に、女王は目を見開き、やがて自嘲気味に笑って槍を引いた。


「見抜いたのか。……ああ、そうだ。私は平和な世を築くため、多くの国を滅ぼし、血を流しすぎた。この呪いは、その罪の報いだよ。だからこそ、私は生きている間に魔王との戦争を終わらせなければならないと焦っていた」


 己の命を削る呪いを抱えながらも、決して玉座を降りようとしないその姿。

 手を汚し、罪を背負ってでも、人類の未来を切り拓こうとする覚悟。


(……僕は、あなたを『英雄』とは認められない。どんな理由があろうと、無辜の血を流すことを肯定はできないから)


 だから、彼女の力は今の僕には同調しない。

 それでも、彼女のその『覚悟』の重さだけは、僕の魂の底に深く刻み込まれた。


「……呪いは治せません。でも、苦痛を和らげる薬膳なら作れます」

 僕は鞘に納めたままの手を離し、彼女に語りかけた。


「だから、もう少しだけ生きてください。陛下の願いは、僕が引き継ぎます。誰も死なせない方法で、魔王との無益な戦争を終わらせます」


 僕のその言葉に、女王の隻眼が見開かれた。

 その瞳に、真っ直ぐな意志を宿した僕の姿が、一条の光のように映り込む。


「……これが、キラドの手紙にあった『私の探していた答え』か」


 女王は槍を床に突き立て、広間に響き渡る声で宣言した。


「ミラル。お前の力を認めよう。人類の全権を、お前に委ねる。行け、魔王の元へ!」


   ◇ ◇ ◇


 人間界のすべてを背負い、僕は最後の決戦の地、魔王領へと歩みを進める。

 その先に待つ『鏡の真実』を、僕はまだ知らなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

人間界の全権を託され、いよいよ物語は第一部の最終局面、魔王領へ!

皆様の応援が完結への最大の原動力です。もしよろしければ、ページ下部にある『ポイント評価(☆☆☆☆☆)』を【★★★★★】にして作者を応援していただけると泣いて喜びます!

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