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外れスキル『英雄の鏡』で追放された荷物持ちは、本物の【覚悟】を写し取る~命の重さと業を背負い、少年は真の英雄へと成り上がる~  作者: cross-kei


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第16話:英雄は、相棒のために海を渡る

 潮風がべたつく港町『ポルト』。


 木製の桟橋には無数のカモメが群がり、漁師たちの威勢のいい声と魚の匂いが入り混じっている。


 僕たちは、旅の道中で刃こぼれが酷くなった剣を新調するため、この活気ある港町を訪れていた。


「さすが港町ね。海産物が安くて美味しそう! ミラル、武器屋に行く前に少し屋台を見ていきましょうよ」


「……セリア、さっきご飯食べたばかりじゃないですか。それに、ほら、海の方で何か騒ぎが……」


 僕が指差した先。


 沖合を悠然と進む巨大な黒い帆船に向かって、信じられない速度でオールを漕ぐ小さな小舟があった。


「まてぇぇぇっ! 俺の相棒を返せぇぇぇっ!!」

 乗っているのは、豊かな髭を蓄え、ずんぐりとした体格の男――ドワーフだ。


 だが、怒りに任せて無茶な操船をしたためか、波に煽られた小舟はあっさりと転覆し、男は海へと放り出されてしまった。


「う、浮ばねぇ……! 鉄が重くて、沈むぅ……ブクブクッ!」


「海にドワーフ!? あいつら、水に浮かない種族でしょ!?」


 セリアが悲鳴を上げるのと同時に、僕は桟橋を蹴って海へと飛び込んでいた。

 冷たい海水が全身を包み込む。暗い海中へと急速に沈んでいくドワーフの体は、まるで鉄塊のように重かった。


 ――だが、今の僕には『剣聖』から写し取った規格外の身体能力と、重心移動の極意がある。


 僕は男の分厚い革ベルトを掴むと、水中で踏ん張りを効かせ、全身のバネを使って強引に海面へと引き上げた。そのまま波の勢いを利用して、一気に浅瀬へと泳ぎ着く。


 波打ち際で大の字に倒れ込み、僕は全身から水を滴らせて息をついた。


   ◇ ◇ ◇


「……ゲホッ、オェッ……ゴホッ!」


 岸辺に引きずり上げられたドワーフは、激しく咳き込みながら大量の海水を吐き出した。ひどく落ち込んだ様子で、濡れた髭を震わせている。


「無茶ですよ。あんな小舟で、あんな巨大な船を追うなんて」


 僕が声をかけると、男は荒い息を吐きながら顔を上げ、僕を真っ直ぐに見つめ返してきた。


 視線が交差した瞬間。


「……ッ!?」


 男は弾かれたように息を呑み、大きく目を見開いた。溺れかけた苦しさからではない。何か途方もない引力に魂を掴まれたような、戸惑いの表情だ。


「……ゼェ……なんだ、お前の、その目は……。まるで、澄み渡った『鏡』じゃねぇか……俺の魂の底の底まで、見透かされてるみてぇな……」


 男は信じられないものを見るように僕を凝視したまま、ふらつく手で自分の胸元を強く掴んだ。


「……おい、あんちゃん……お前、武具作りに興味は……ハァ……ダメだ、なんで俺はこんな時に……いや、今はそれどころじゃねぇ!」


 男はハッとして我に返り、必死に頭を振って自身の内側に湧き上がった『本能』を振り払った。


「追わなきゃならねぇんだ。あいつらは極悪非道な海賊だ。俺たちドワーフの至宝『精霊の腕輪』を奪い上がった」


 男の言葉に、セリアが眉をひそめる。


「ドワーフの至宝を? でも、どうしてアンタ一人なのよ。村の仲間はどうしたの?」


「同族の連中は、『たかが道具一つ奪われただけだ、命をかける価値はねぇ』と笑いやがった。……だがな、俺たちドワーフは、水や火、土の精霊の声を聞き、力を借りて武具を鍛える。俺にとっては、単なる道具じゃねぇ。『相棒』なんだよ!」


 ドワーフは砂浜を強く叩き、悔しそうに顔を歪めた。


「あの外道どもは、腕輪に封じられた精霊の声を無視し、限界を超えて魔力を絞り出させてやがる。あの子たちは今この瞬間も、魂を削りながら泣いてるんだ! 俺一人でも、絶対に助け出さなきゃならねぇんだ!」


 その言葉を聞いた瞬間。


 風に乗って遠くから――チリッ、と耳の奥を焼くような、微かな『痛み』の波を感じた。


 言葉を持たない獣の感情を読み取る『テイマー』の力を持つ僕だから、辛うじて分かる。はっきりとした声じゃない。だがそれは間違いなく、遠ざかる海賊船から届いた、搾取され続ける精霊たちの血を吐くような悲痛な感情の残滓だった。


 僕の奥歯が、ギリッと鳴る。


 同族に嘲笑われようと、自らの身が危険に晒されようとも、言葉なき存在のために命を懸けようとする男。損得ではなく、ただ己の信じる相棒のために泥を被る不器用で真っ直ぐな覚悟。


 その姿は、僕がこの旅で見てきた『本物の英雄』たちが持つ、気高い魂の形そのものだった。


 そして何より、あの痛みの波を感じてしまった以上、放っておけるはずがない。


「……セリア」


「言わなくても分かってるわよ。……アンタ、今すごく怖い顔してるわよ。精霊を道具扱いするクズどもは、私が全部叩き斬ってやる。もちろん、アンタもそのつもりでしょ?」


 セリアが腰の剣の柄を叩き、僕に向かって不敵に笑う。


 僕はドワーフの目を真っ直ぐに見つめ返し、手を差し伸べた。


「僕たちも手伝います。その相棒、一緒に助けに行きましょう」


 ドワーフは驚いたように目を見開き、やがて力強く僕の手を握り返してきた。


「俺はバルド。恩に着るぜ! 奴らの船に風の精霊の目印を付けてある。今夜、奴らが隠れ家にしている島に乗り込むぞ!」

ここまでお読みいただきありがとうございます!

新たな仲間と、理不尽に対する怒り。

次話、海賊島での大立ち回りが始まります。どうか彼らの戦いを見守ってください!

ページ下部にある『ポイント評価(☆☆☆☆☆)』を【★★★★★】にして作者を応援していただけると泣いて喜びます!

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