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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第5章

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「回収という名の保護」


追手は静かだった。


数も多すぎず少なすぎない。

装備は整っているが過剰ではない。

足並みは揃い無駄な音を立てない。


だが――


殺しに来た部隊ではないと一目で分かる整い方だった。


---


森の外れ。

朝霧が地面を薄く覆い視界は白くにじんでいる。


その向こうから規則正しい足音が重なって近づいてくる。

隠そうとしていない。

威圧もしない。


ただ確実に距離を詰めてくる。


---


セラは一瞬で理解した。


殺気が薄い。

包囲の角度が処刑向きではない。


「これは」


彼女は低く呟く。


「粛清じゃない」


---


名のない男が答える。


「ええ」


視線を霧の奥に向けたまま。


「回収だ」


---


霧が少し晴れる。


見えたのは統一された外套。

剣は帯びているが抜き身ではない。

毒袋も暗器も見当たらない。


代わりに胸元で光るものがある。


徽章。

王都の紋章だ。


非公式ではない。

正規の部隊。


---


先頭の指揮官が一定の距離で立ち止まる。


「セラ」


よく通る声だ。

怒鳴らない。

威圧しない。


「あなたを」


「保護する」


---


その言葉にセラの肩がわずかに揺れた。


保護。


粛清でも逮捕でもない。


---


「保護?」


彼女は低く聞き返す。


---


「ええ」


指揮官は淡々と続ける。


「あなたは元・国家非公式資産」


「現在管理外状態」


言い方は冷静だが意味は明確だった。


管理下にない刃は放置できない。


---


名のない男が一歩前に出る。


わずかな動きだが明確な意思表示だった。


「彼女は」


「自分で」


「ここにいると判断している」


---


指揮官は彼を一瞥する。


感情はない。

敵意もない。


「それは」


「制度的には無効です」


---


その言葉は刃よりも冷たい。


個人の判断は制度の前では効力を持たない。


---


「あなたは」


指揮官が名のない男に向き直る。


「対象ではありません」


「だから退いてください」


声は丁寧だ。


それはある意味で親切だった。


巻き込まないという配慮。


---


セラが一歩前に出る。


霧の中で彼女の姿がはっきりと浮かび上がる。


「私は」


「戻りません」


---


指揮官は即答しない。


わずかな沈黙。

計算している時間だ。


「戻る戻らないではありません」


「あなたは回収対象です」


選択肢が最初から存在しないという宣告。


---


名のない男はセラを見る。


止めない。

指示もしない。


「君が」


「決めろ」


それだけ。


---


セラは深く息を吸った。


冷たい空気が肺を満たす。


「条件を」


「出します」


---


指揮官の眉がわずかに動く。


想定外の返答だった。


「聞きましょう」


---


「私は」


「裁かれます」


「逃げません」


はっきりと言い切る。


「ですが」


「この人を制度に触れさせないでください」


---


名のない男がわずかに息を呑む。


彼の名を出していない。

だが誰のことかは明白だ。


---


指揮官は沈黙する。


部下たちも動かない。


想定外の申し出だった。


「理由は」


---


セラは迷わず答える。


「彼は」


「象徴にならない人です」


---


空気がわずかに変わる。


象徴。


制度にとって最も扱いづらい存在。


---


指揮官は理解する。


「あなたは」


「彼を守ろうとしている」


---


「いいえ」


セラは首を振る。


「彼を」


「世界から守りたいだけです」


制度の中に引きずり込まれれば

再び象徴になる。


それを彼女は拒んでいる。


---


名のない男は何も言わない。


言えば彼女の選択を奪う。


---


長い沈黙。


森の中で霧だけが流れる。


---


やがて指揮官が結論を出す。


「了解しました」


部下に短く合図を送る。


「あなたは自主出頭扱い」


「審理は非公開」


「彼は関係者ではない」


---


セラはゆっくり頷く。


条件は通った。


---


彼女は振り返る。


霧の向こうに立つ男を見る。


「ありがとう」


---


名のない男は首を振る。


「俺は」


「何もしてない」


事実だった。


選んだのは彼女だ。


---


セラは部隊に合流する。


手錠はない。

拘束もない。


だが戻れない道だと分かっている。


---


霧がゆっくりと晴れていく。


森の輪郭がはっきりする。


名のない男は一人残された。


---


しばらくその場に立ちやがて小さく呟く。


「これで」


「また灰色地帯グレイゾーンができる」


誰かが制度に戻るたび

誰かが制度の外に残る。


その隙間が灰色地帯グレイゾーンだ。


---


遠くで鐘が鳴る。


王都の朝を告げる音。


制度は今日も正常に動いている。


何事もなかったかのように。


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