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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第5章

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「負けるという責任」


敗北は、拍手の中で起きた。


怒号もなければ、机を叩く音もない。

議場は終始、整然としていた。

反対の声すら、声量を上げることはなかった。


だからこそ、逃げ場がなかった。


誰も感情的にならない場では、否決は「冷静な判断」という形を取る。

そこに、抗う余地はほとんど残らない。


---


王女アリシアは、議会の中央に立っていた。


高い天井。

弧を描くように並ぶ議席。

視線が、静かに彼女へ向けられている。


彼女の提案は、極端なものではなかった。


《男性保護制度の全面撤廃は行わない》

《制度外集積への直接介入はしない》

《民間管理への移行を黙認する》


制度を壊さない。

灰色地帯グレイゾーンも潰さない。

ただ、距離を取る。


それだけの案だった。


---


だが。


それでも、多すぎた。


制度にとっては。


---


「王女」


一人の議員が、穏やかな口調で言った。

声に棘はない。


「あなたは、制度を信じていないのですか」


議場が静まり返る。


その問いは怒りではない。

非難でもない。


疑念だった。


制度の頂点に立つ者が、制度を全面的に肯定していないのではないか、という疑い。


---


「信じています」


アリシアは即答した。

声は揺れない。


「だからこそ、全てを決めさせない」


その言い回しに、空気がわずかに動く。


制度に「決めさせない」。


それは、制度に限界があると認める発言だった。


---


「それは」


別の議員が口を挟む。


「責任の放棄ではありませんか」


「いいえ」


アリシアは首を振る。


「分散です」


権限を、一点に集中させない。

判断を、一人に背負わせない。


それが彼女の答えだった。


---


だが。


分散は、美しい言葉だが、政治の基本原理ではない。


政治は、責任の所在を明確にすることで機能する。


曖昧さは、不安を生む。


---


議長が、静かに言った。


「では、この提案は王女個人の思想ということでよろしいですね」


それは確認ではない。

線引きだった。


制度としての案ではなく、「個人の見解」として処理するという宣言。


---


採決は、行われなかった。


必要なかったからだ。


その場で、修正が入る。


《制度外集積への黙認》は、文言から削除された。

《民間管理》は、「監視対象」に変更された。

《保護制度の維持》は、「再検討」に格下げされた。


紙の上で、言葉が少しずつ削られていく。


結果。


彼女の意図は、ほとんど通らなかった。


---


会議後。


アリシアは執務室に戻った。


扉を閉める。

護衛も、記録官も、外に下がらせる。


椅子に腰を下ろし、しばらく動かなかった。


机の上には、修正後の文書が置かれている。


「負けたわ」


誰に向けるでもなく、呟く。


---


ノックもなく、ヴァレリアが入ってきた。

許可は取らない。必要がないからだ。


彼女は何も言わず、窓際に立つ。


王都の灯りが、遠くに見える。


「あなたは、やりすぎた」


静かな声だった。


「分かっているわ」


アリシアは、苦く笑う。


---


「制度は」


ヴァレリアが続ける。


「自分が揺らされることを許さない」


制度は、外敵には強い。

だが内部からの揺さぶりには、極端に敏感だ。


「ええ」


「だから」


ヴァレリアは、視線を王都に向けたまま言う。


「あなたが揺れた」


制度を守ろうとした結果、制度に警戒された。


---


アリシアは、小さく笑った。


「それでも」


「何もしなかったら、もっと嫌だった」


黙って流れに乗ることもできた。

だが、それでは何も残らない。


ヴァレリアは否定しない。


否定できないからだ。


---


「敗北の代償は?」


アリシアが尋ねる。


「権限の縮小」


即答だった。


王女の肩書きは残る。

だが、実質的な決定権は削られる。


次に何かを提案する時、支持は今より薄くなる。


---


それでも。


アリシアは立ち上がった。


「私は、記録を残した」


代替試験の経緯。

監督強化措置の議論。

灰色地帯グレイゾーンに関する内部評価。


消されずに、公開された。


ヴァレリアは静かに頷く。


「ええ」


「それが、一番厄介」


制度は敗北を忘れたがる。

だが記録は、忘れさせない。


---


その夜。


議会の外で、小さな噂が流れた。


「王女、負けたらしい」


「でも、変なことを残した」


何が正しいのか、はっきりしない。


だが、疑問だけは残った。


---


丘の向こう。


灰色地帯グレイゾーンの跡地。


女商人ミレイア・ロウゼンは、帳簿を閉じた。


収支は赤字に近い。

人の出入りも安定しない。


「最悪ね」


そう言いながら、口元はわずかに緩んでいる。


儲からない。

だが、消えてもいない。


---


セラは丘の上で空を見上げた。


雲がゆっくり流れている。


「負けましたね」


「ええ」


ミレイアは答える。


「でも、潰れてない」


制度も、灰色地帯グレイゾーンも。


---


名のない男は、遠くからその報告を受けていた。


直接は関わらない。

それが、彼の決めた距離だ。


丘にも、議会にも、顔を出さない。


ただ、聞くだけ。


---


彼は静かに思う。


(これで)


(世界は)


(一度、負け方を覚えた)


勝つことだけではなく、

通らないこと、削られること、

それでも何かが残るという経験。


それが、今回の敗北だった。


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