表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/90

狩る者は、すでに隣にいる

セラは、あえて追跡を始めなかった。


始める必要がなかったからだ。


彼女にとって「追跡」とは、足跡を辿ることではない。

対象の生活リズム、動線、癖、判断速度を頭に入れた時点で、ほぼ終わっている。


あとは、いつ刃を入れるか。

それだけだ。


---


王都の夜は騒がしい。


街灯が並び、酒場からは笑い声が漏れ、市場の残り香が風に混じる。

だがセラの世界は違う。


屋根の上。

煙突の影。

二階の窓と窓の間の死角。


人の視線が絶対に届かない位置から、彼を観察する。


(逃げない)


それが最初の違和感だった。


対象の男は、隠れない。


護衛を付けない。

変装もしない。

時間をずらすこともしない。


酒場に入る。

本屋に寄る。

市場で立ち止まる。


まるで「狙われていない」と分かっている人間のように振る舞う。


(愚かか?)


セラは感情を交えない。

だが評価はする。


暗殺対象としては最悪だ。


警戒が薄すぎる。


なのに――


死角がない。


それが二つ目の違和感だった。


---


初日の夜。


セラは三度、距離を詰めた。


一度目。

路地の交差点。背後三歩。


二度目。

宿屋の裏口。腕を伸ばせば届く位置。


三度目。

階段の踊り場。真上から落とせる角度。


どれも成功率は高い。


だが。


(やれない)


理由は単純だ。


彼は無防備ではない。


護衛はいない。

武器も見せない。


だが立ち方が自然すぎる。


背中を壁に預ける角度。

人混みで止まる位置。

扉を開けるときの足幅。


どれも訓練された動きではない。


兵士のそれでも、暗殺者のそれでもない。


なのに、間合いが崩れない。


(気味が悪い)


---


三日目。


セラは方法を変えた。


追うのではなく、並ぶ。


市場の人混みの中、彼の横をすれ違う。


肩がわずかに触れる。


その瞬間。


彼が足を止めた。


(気づいた)


セラは止まらない。

振り返らない。


そのまま歩く。


だが背後から声が届く。


「尾行、上手いですね」


心拍がわずかに跳ねる。


彼は振り返っていない。


前を向いたまま、歩き続けている。


「でも」


「距離、ちょっと近い」


セラは無表情のまま答える。


「失礼」


声色は一般人そのもの。


「いえ」


彼は軽く返す。


「気をつけてください。この辺、夜は物騒なので」


思考が一瞬止まる。


(私を、気遣った?)


殺意は、完全に消えていた。


---


その夜。


屋根の上で、セラは一人座っていた。


頭の中で言葉を並べる。


契約対象。

排除対象。

不安定要素。


理屈は変わらない。


彼は制度の外に立つ男。

前例を作った存在。

火種。


排除は合理的。


だが。


(合理的、だけでは足りない)


彼は自分が狙われていると理解している。


それでも逃げない。


守られようともしない。


死ぬ可能性を受け入れた上で、そこに立っている。


それがセラには理解できなかった。


合理性だけでは説明できない。


---


四日目。


セラは初めて正面から接触することを選んだ。


夜。

宿の前。


彼が扉を閉めかけた瞬間、影から姿を現す。


刃は抜かない。

距離は一歩。


彼は驚かない。


「セラさん」


名前を呼ばれる。


「なぜ知っている」


「ヴァレリアさんの部屋で聞きました」


事実だ。


「殺しに来た?」


「契約上は」


「正直ですね」


「嘘は非効率」


沈黙。


夜風が吹く。


「いつやるつもりですか」


彼が先に聞いた。


「状況次第」


「じゃあ」


彼は少し考えてから言う。


「それまで、一つお願いしてもいいですか」


セラの視線が細くなる。


「何だ」


「俺を“守る価値があるか”ちゃんと見てから殺してください」


その言葉に、ほんのわずかに刃の重心が揺れた。


(愚かだ)


普通は命乞いをする。

逃げる。

隠れる。


だが彼は、観測を求めた。


「契約に反する」


「ええ」


彼は頷く。


「だから、お願いです」


合理性はない。

損得もない。


だが。


「分かった」


気づけば、そう言っていた。


「観測を続ける」


彼は小さく笑った。


「ありがとうございます」


セラは背を向け、屋根へ跳ぶ。


夜風が強い。


(なぜだ)


私は排除者だ。


なのに。


追跡は終わっているはずなのに。


まだ、終わらせていない。


殺すためか。


それとも――


理由を探すためか。


答えはまだ出ない。


だが一つだけ確かなことがある。


この男は、自分から“消える側”に立った人間だ。


だからこそ。


刃は、簡単には振り下ろせない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ