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「着いたぞ、降りろ!」
声が響いて扉が引き開けられ、冷えた風が入り込んできた。
レダンを先頭に、シャルン、ガストと続く。
「採石場は?」
「初めてです」
シャルンはゆっくりと周囲を見回した。
緑は山の遥か彼方に侘しく残っている。山の斜面は切り開かれて崩され、幾つかの穴が口を開けている。そこからごろごろと重い音を立てて、薄紫の小石を山積みにした車が数人の男によって押し出されてくる。少し大きい穴からは、荷馬車を引いた馬がのろのろと出てくるところだ。誰もが薄白く髪も体も衣服も汚し、疲れた表情で歩き続けている。
ミディルン鉱石は温めて衝撃を与えると発火、しかもその火は木などを燃やすよりも強く長く燃え続ける。武器を作るのにも使われるし、日常生活に使われることもあるが、量が限られているため高価になる。
枯渇しかけていると聞いたミディルン鉱石は、途切れることなく穴から運び出されてくる。片隅には小屋が幾つも建てられており、厩さえあった。
その小屋の1つにシャルン達は連れて行かれた。
「ここに入れ。グラン監督官に従え」
兵士は面倒臭そうにシャルン達を小屋に押し込むと、中に座っていたがっしりした浅黒い顔の男に繋ぐと、さっさと馬車へ戻って行く。
「人数が多いな」
グランは訝しそうに眉を上げた、その瞬間、大きく目を見開いて固まった。
「あ、なたは」
「元気そうだな、グラン」
フードを落としたマイン伯に気がついたと同時に素早く目を走らせ、慌てたように椅子から立ち上がり逃げようとする。だが、軽やかに走り寄ったティルト伯、退路を塞いだユルク伯に諦めたように腰を落とした。
「そうか、もう終わりなのか」
「どこへ行ったのかと案じていたが、それほど心配しなくても良かったようだ」
話から察するとグランはマイン伯の配下だったらしい。
「道理でこちらの動きが筒抜けになったわけだ」
ティルト伯が肩を竦める。
「多少はいい目を見たのか」
「ちっ」
隙を見て飛び出そうとしたグランを、マイン伯は容赦なく打ち据えた。白目を剥いて昏倒するグランを残りの2人が捕縛する。
「監督官は1日交代、明日代わりの者が来るまでは出入りはないでしょう」
満足そうにティルト伯が頷く。
「巡視の兵士はお任せを」
ユルク伯が微笑む。
「あなたの領地をご覧ください」
マイン伯に促されて、シャルンはレダンとガストに付き添われて外に出た。
「あれは坑道と言うのです」
ガストが説明してくれる。
「元々は表層に出ていたミディルン鉱石を掘り進み、やがて奥深くへ入って行くため、あのような道ができるのです」
「ガストは元からミディルン鉱石に興味があるんだ」
レダンが続けた。
「どうしてできたのか、どんなものなのか、ずっと考えている」
「どうしてできたのか?」
シャルンの問いにガストが頷いた。
「想像ですが、昔々、何かの生物が死んで、その死体の上に土や石が積み重なって圧力がかかって、そうしてああいうものになったのかもしれないと考えています」
「生き物だった、と」
シャルンはすぐ側に積まれたごく小さな欠片を拾い上げた。見たことがある石よりうんと小さく、スプーンに載るほどの小ささ、市場では出回りにくいのかもしれない。
「これがですか」
「不思議でしょう?」
ガストは微笑んだ。初めて見る、子どものように無邪気な笑みだった。
「石のくせに、温めて打ち付けると火が出るなんて。ミディルン鉱石は地面の深くに層になっていて、しかもそれが一定ではなく、厚いところと薄いところがあり、分布にも差がある。確かに塊でないと長く激しく燃えないので、あまり価値はありませんが、このような屑石にもきっと何かの使い道があると思うんです」
そう言えば、とガストは瞬いた。
「ハイオルトにはミディルン鉱石に関わる、古い御伽噺がありましたね」
「御伽噺、ですか?」
シャルンは掌に転がした石を眺めた。
薄紫の素朴な手触り。握り締めているとほのかに温かい感じがする。
ふと、遠い昔、同じような温もりを感じる石に触れていたような気がした。
「はい、サリストア様もご存知でしたよ。昔、ミディルン鉱石は『花咲』と呼ばれていたと」
「…はな…さか…」
シャルンは首を傾げた。
冬の間、城に籠もる時間は長かった。城にあった多くの書物はほとんど読み終えたと思うが、そのような御伽噺を読んだ覚えがない。
「『花咲は人を温め、季節を戻し、草木を蘇らせましたが、石を溶かし、炎を生むこともあったので、人々は繭に閉じ込め、地中深くに埋めてしまいました』と言うようなお話です」




