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第九十話 『やっぱり女子はコイバナが好き?』

2017/06/19 日本語のミスを修正

 あのギルドでのバカ騒ぎの翌日、今日は闘争の27日。

 体も安定し、まとまった金も手に入った俺は――――部屋でダラダラしていた。

 別に、外に出たくないでござる! とか言うつもりはないのだが、こっちに来てから、ちょっと慌しい日々が続き過ぎなのだ。

 街について、冒険者になって、フィルスと出会って……のんびりランク上げと思ってたら、いきなりややこしい問題に巻き込まれて、ギルド一個潰して……その事後処理とかでスゲー忙しくて、ようやく落ち着いて来たと思ったらレティアに武闘大会に出て欲しいと頼まれレムサムへ。

 そうして武道大会に向けて、ひたすら魔導具開発や戦闘訓練。

 大会決勝では、邪神を信仰する狂人と、死にかける……というか、一度死ぬほどの激戦。

 そしてとどめに、古龍に呑まれんようにと、必死に戦いボコボコにされ続けた、ダンジョン最下層での特訓。

 正直……ちょっと疲れた。

 お金に困っている訳でもないのだし、少しくらい休んでも誰も文句は言うまい。


 そんなわけで、ちょっと買い物をしてから新しく宿をとった俺は、新しい魔導具の製作などを片手間に進めつつも、部屋でダラダラしているというわけだ。

 ちなみに、フィルスと白雪は現在、隣の部屋で仲良くおしゃべり中だ。

 白雪は剣とは言え、意思がある以上大切な新しい仲間だからな。できればフィルスとは仲良くして欲しいと思っている。

 女の子同士なら、異性の俺には話し辛いことも話せるだろうし、俺では対等な関係を築くのはもはや難しいだろうからな。仲の良い友達みたいになってくれると嬉しい。

 そんなわけなので、暇な俺も、そろそろ作りかけの魔導具を完成させてしまいましょうかね。



 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 「フィルス。あるじのこと……好き?」


 レイジ様の買い物の付き添いを終え、部屋へと帰ってきてしばらくゆっくりしていると、白雪が唐突にとんでもないことを聞いてくる。

 このこと会ったのは昨日が初めてだが、なんと言うか……表情が乏しいせいか、イマイチ何を考えているのかわからない。

 別に、悪い子ではないとは思うのだけど……


 「ふぇ!? な、何を……レイジ様は、私の仕えるべきお方です。そんなお方に、私ごときが恋愛感情を抱くなど、恐れ多いことです」

 「……別に、恋の話とは言ってないけど?」

 「へっ!? ……あっ! そ、それは……」

 「やっぱり、フィルスはあるじが好き」

 「あ……う……はい。正直に言えば、お慕いしております」


 追い詰められた私は、つい本音を漏らしてしまう。

 だって……無表情で迫ってくる白雪は、妙に迫力があるし……だから……


 「で、でも!! 別にだからどうなりたいとかではなくですね……ただ、隣でお力になれれば、それで良いのです」

 「……そう。でも、あるじもフィルス、好きかも?」

 「…………へっ? え、ええええ!!? そ、そんな訳! そんな訳ないです!! だ、だって、レイジ様は、その……うぅ……」


 自分の顔が熱くなるのを感じます。

 レイジ様が、私を……?

 もし……もしですよ? もし本当にレイジ様が、私を……なんと言うか……その、悪しからず想って下さっているのであれば、それは……とても嬉しいことです。

 で、でも、そんなことがあるはずは……


 「……あ、あの……白雪は何を根拠にそんなことを?」

 「ん……あるじは、前の持ち主に、俺にも好きな子くらいいるって言ってた。それが誰か気になって見てたら、そうかなって」


 ……そうですか。レイジ様には、すでにお好きな方がいらっしゃるのですね。

 それを聞いた途端、私の中にさっきまであった興奮が、一気に冷めていくのを感じた。

 レイジ様の精神の年齢は30歳ですし、親と子ほど年の離れた私を好きになるようなことなど無いでしょう。

 であれば、好きな方というのは、おそらく前にいた世界の誰かと考える方がしっくりきます。


 「……ないですよ、きっと。レイジ様はお優しい方ですから、そう見えただけだと思います」

 「……そう、かな?」


 私の言葉に、不満げな顔で首を捻る白雪。

 でも、そんなの本当にありえないんです。

 私は、レイジ様に迷惑を掛けてばかりですし、獣人で半吸血鬼ダムピールですし……こんな私をお側においてくださっているだけでもありがたいのに、そんな、好きだなんて……ありえません。

 変に期待して、舞い上がって、それから落とされる。

 そんなことになるくらいなら、最初から期待しない方が良い。

 だから……ありえないんですよ。それでいいんです。


 「…………あるじに聞いてくる。それで解決」

 「え!? いやいや、そんなこと――――」

 「それじゃ」


 私が止める間もなく、白雪はその身を崩して消えてしまいます。

 おそらく、本体である刀の中に戻ったのでしょう。

 そして、その刀は現在、レイジ様のお部屋に……

 今から止めに行っても……遅いでしょうね。

 ああ……私はどうしたら……



 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 


 (あるじ……質問、ある)


 俺が作業をしていると、いきなり白雪の念話が頭の中に響く。

 念話は刀の中に入ってないとできないらしいから、実体化を解いたってことだろうけど……何かあったのかな?


 「なんだ? というか、フィルスと話してたんじゃなかったのか?」

 (ん……ちょっと気になることあって……あるじ、前に好きな子がいるって言ってた)


 ん? あ、そういう話なの? 女子のコイバナってやつか。参ったな……


 「あー、まあ言ったっちゃ言ったが……」

 (それって、フィルス?)

 「ぶふっ!! ばっ! お、おま、何言って!?」

 (? 見てて、そう思っただけ。違った?)


 なん……だと……? 見ててわかっちゃうレベルなの? 俺……


 「……そんなに、わかりやすかったか?」


 ここで誤魔化しても、きっとすぐに確信を持たれると思った俺は、ちょと恥ずかしかったが言外にそれを認め、客観的に見た俺がどうであるのかを探る方向に切り替える。


 (そうでもない。でも、好きな子がいるってわかってたら、わかるかも。あるじ、交友関係狭いみたいだし)


 あーそういうことか。

 まあそうだよな。こっちの世界での異性のまともな知り合いなんて、ギルドの仲間とフィルス、それから香奈にリカちゃんくらいだし。

 しかも白雪は勇者二人のことは知らない……となると、そういう結論に至るのは、当然と言えば当然か。

 白雪は、昨日随分と俺のことを他の皆に聞いて回っていたみたいだし、俺の交友関係はその時把握したのだろう。

 あるいは、フィルスから聞いたのか。


 「ってことは、知らなきゃそこまでわかりやすくはないってことだよな?」

 (ん……でも、大事に思ってるのはわかる)

 「……そうか。ちなみに。これってフィルスには――――」

 (話した)


 ホワァァァアアアアアアアアアアイ!!!!

 なんてこった!!!!

 ってことは、フィルスは俺の気持ちを――――


 (――――でも、信じてもらえなかった)


 …………そうか。


 「フィルスはいまだに、そういう感じなのか。バレなかったのは助かったが……嬉しくはないな、正直」

 (ん……自己評価が低い。自分を蔑んでいるようにすら見える)

 「そうだな。まあ、彼女の社会的立場や、今までの生活を考えれば、当然と言えば当然なのだろうが……どうにかできんもんかね」

 (できる。あるじがフィルスに告白すればいい)

 「……ふぁっ!? いきなり何を言い出すのだね白雪氏。そんなの、無理に決まって――――」

 (大丈夫。フィルスも満更でもないと思う)

 「……え? マジ? てか、そんなこと言っていいの?」

 (わたしは、あるじが幸せになればそれでいい。後はどうでもいい)


 お、おう……なんか俺の刀の忠誠心がやけに高い。

 どこでそんなフラグ立ったんだ? 正直全く心当たりが無いのだが。

 俺に貰って欲しいとか言ってた時も、いきなりだったし。

 う~ん……謎だ。


 でも……告白、か。

 まあ確かに、仮に、仮にだぞ? フィルスが俺のことを好きでいてくれているとしてだ。

 それで俺から告白されて付き合う事になったら、多少は自信がつくのかもしれない。

 獣人差別の方は、国王にブン投げておいたから、徐々に改善はされてくれると思うし、それなら……いや~でもな~


 (あるじ、大丈夫。もし失敗したら、何でも言う事聞く)

 「……そんなに、俺に告白させたいか」

 (ん……フィルスはいい子。あるじも優しい。二人とも、幸せ。わたし、嬉しい)

 「…………はぁ。ま、前向きに考えてみるよ。タイミングとか心の準備とかもあるから、すぐにとはいかないだろうがな」

 (ん……期待してる)


 そう言うと、白雪は実体化しなおして、隣の部屋へと帰っていった。


 告白、か……

 三十歳まで初恋もせずにいた俺には、なかなかにハードルが高いぜ……

 でも、確かにいつまでもこのままではいられないよな。

 少しは、真剣に向き合ってみるか……この気持ちに。

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