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第六十九話 『大会四日目・準決勝決着』

 「いざなうは幽幻ゆうげんかなでまとうは混戒こんかい調しらべき、ぜんを問え。我は悠然ゆうぜんく者。我は静虚せいこに住まう者――――」


 開始の合図と共に、俺は詠唱を開始する。

 グライツさんも剣を抜き突っ込んでくるが、それは予想済み。

 俺はその剣をあえて急所を外して受け、絡みついて相手の体を拘束し、ついでに相手の背に、ナイフも突き立てておく。

 急所は外しているが、痛みの激しい箇所を狙ったので、少しは動きも鈍るだろう。

 これで詠唱を終えるくらいの時間は稼げるはず。


 「――――せいかいし、じゃかいせし劫槍ごうそうよ。らんいざな咎人とがびと穿うがて――――"禍忌螺かいら"」


 俺が呪文を詠唱し終えると同時に、上空に光の一切を感じられぬほどに黒々しい、巨大な槍が出現する。

 グライツさんも状況の不利を感じ取ったのか、武器を俺の腹に残したまま、その身だけでもと離脱を図る。

 しかしそれは、俺の期待通りの行動であり、俺があっさり解放したことで、グライツさんの顔に一瞬、後悔の色が浮かぶ。


 この禍忌螺という魔法。実はこれ単体ではあまり意味をなさない。

 上空に禍々しい気配を放つ巨大な槍が、地面を向いて出現すれば、きっと誰もがそれを攻撃魔法だと思うだろう。

 しかし、これはただの武器生成魔法。

 上空に浮かぶ10メートルは軽く超えるであろう巨槍も、ただの武器なのだ。

 アレイスパーダと同じで、使い手がいなければただのちょっと変わった槍でしかない。

 無論サイズがサイズだし、落とすだけでもそれなりの効果は期待できるが。


 「我が真なるは虚像。万象は虚構。万物は幻想。ことわりは虚空に満ち、秩序は混沌へとつ。真偽混じりて、全てはまことへ――――」


 自らの行動が過ちであったことに気が付いたグライツさんは、すぐさま腰に差していたもう一本の剣を抜き、攻撃を仕掛けてくるがもう遅い。


 「――――されば我が身も真とならん――――"幻霊怪駕げんれいかいが"」


 幻霊怪駕の効果は実にわかりやすく、簡単なものだ。

 大量の魔素を固め、物体に干渉できるほどの密度を持たせ、自らがそれをままとう。

 要は、巨大なゴーレムに搭乗するようなものだ。

 そのボディの硬度はそこまででもないが、破壊されたそばから周囲の魔素を吸収して再生するため、中にいる俺から魔導具を引っぺがさない限り、完全破壊は不可能。

 さらに言えば、そのサイズはそれを構成するために注いだ、術者の魔素の量で変わるのだが、今回の全長は、槍に合わせて10メートルほど。

 槍のサイズを考えたら、もう少し小さくても良かったのだが、今回は防御力と見た目のインパクトを重視してこのサイズにした。

 構成する魔素の属性は土なので、色は茶色。表面に装飾はなく、見た目は太くて関節のないマネキンと言ったところだろうか。


 俺は上空の槍をつかみ取ると、それを斜め下に振るう。

 すると、触れてもいない地面は抉れ、風が吹き荒れ、槍の軌跡を描くかのように空間が歪む。

 禍忌螺の最大の特徴は、空魔法により、その通ったあとに『空間のズレ』を発生させることだ。

 効果は一秒ほどで消えてしまうが、それでもこれの開発には苦労した。なにせ空魔法の見本が、例の袋しかなかったのだからな。

 だが、レティアの屋敷の結界装置の魔法陣をこっそり見ることによって、これは解決した。

 あの結界魔法も、空魔法を使っており、それをヒントにこの魔法を開発することに成功したのだ。

 もちろん、槍は常にこれをまとっているため、防御は全て無意味である。

 破壊不可能な重厚な鎧に、防御不可能な強力な槍。

 それを人間の五倍以上のサイズになって繰り出すのだから、相手をする方はたまったものではないだろう。

 さらに言えば、俺は中で魔法を詠唱し放題。

 巨体での攻撃が当たらずとも、牽制になればそれで十分。

 後は適当な魔法でちょちょいと倒してやればよい。

 

 グライツさんは、その雰囲気からしておそらくかなりの手練れだ。

 まともにやっても、剣での勝負では勝てないだろうし、魔法を使う暇などくれないだろう。

 ならばとるべき行動は二つ。

 一つ目は、どんな効果があるかわからない、主力武器である剣を彼の手から奪う事。

 二つ目は、彼の土俵外で戦える場を整えることだ。

 故に俺は、腹を刺されてでもそれを成した。

 密着状態で爆発でも起こされたらと心配もしたが、この大会は殺害禁止。

 相手を殺してしまうであろう至近距離での高火力の攻撃は躊躇うはず……とまあ、そう考えたわけだ。

 結果は御覧の通り。恐らく、もう彼に現状を打破する手は無いだろう。

 事実、彼は一撃を食らわせ、それが再生するのを見た後は、攻めあぐねているのか、こちらをじっと睨んで警戒はしているものの、攻撃を仕掛けてくる様子はない。


 しかし、慢心するつもりはない。

 ここで油断をして足元を掬われてしまっては、あまりに滑稽。

 俺は相手との距離をとり、魔法を詠唱する。

 使用するのは万壊。全ての自然災害を織り交ぜたような、凶悪なあの魔法だ。

 この巨体では、こちらも攻撃範囲内に入ってしまうが、再生速度を考えれば、せいぜい表面が崩れる程度の被害しかない。

 それに比べ、相手は自然の猛威が牙を剥く中、俺の槍も避けながら、こちらに効果的な一撃を浴びせなければならなくなる。

 確かにこれだけ大規模な魔法を同時に使えば、今の俺ではそれ以上の魔法を使えなくなるが、おそらく急に逆転されるという事は無いだろう。

 ダメならやり方を変えれば良いだけのこと。


 「――――ゆがみ崩れて永劫の虚無ゼロとなれ――――"万壊ばんかい"」


 俺が詠唱を終えると、地面が裂け、火柱が立ち、万壊の効果が現れ始める。


 「はぁ!? ちょ! 降参! 降参だ!! 俺の負け!! だからストップ!! ストーップ!!」


 それを見たグライツさんは、ぎょっとした表情になり、慌てて降参を宣言した。

 俺も魔法の維持がしんどかったので、すぐさま全ての魔法を解除し、地面に降り立つ。

 ちなみに前回は説明しそびれたが、万壊には自動修復機能があるので、地割れや濁流で荒れた地面は元に戻る。

 まあ、雷や火で燃えたり、風で飛ばされたものは戻っては来ないが。


 「グライツ選手、たまらず降参! よって勝者、レイジ選手!!」


 遮音結界が解かれ、司会や観客の声が聞こえてくる。

 その凄まじい歓声に包まれながら、グライツさんがこちらへと歩み寄ってくる。

 その両手には、俺のナイフが――――ああ、そういえば俺も、腹に刺さった剣を返さないとな。

 俺は刺さったままになっていた剣を腹から引き抜き、グライツさんへと歩み寄る。

 グライツさんは、それを表情も変えずに行う俺を見て、随分と驚いた顔をしていたが、今は痛みを感じないように調節しているので、俺の表情が動かんのは仕方のないことだ。

 試合中は流石に、今の体調でそこまで制御はできなかったから痛みはあったが。


 「ったく、とんでもねぇなお前さんは。いい勝負にしてやろうなんて意気込んでた俺がバカみたいじゃねえか」


 俺の目の前まで来たグライツさんは、そう言いながら俺にナイフを手渡してくる。


 「いえ、もう一度同じ条件で試合をすれば、負けるのは俺かもしれません。それに今回のやり方は、試合だからこそのものです。実戦なら、死んでいたのは俺の方だったでしょう」


 俺はナイフを受け取り、剣を返しながらそう言い返す。

 実際、俺に拘束されている時の彼の顔には、躊躇いの色が見て取れた。

 あの状況で、俺の命を奪わぬために、彼は一体いくつの選択肢を捨てたのか……


 「いや……それを言うなら、試合であの選択をした俺のミスだ。ま、勉強にはなったよ。次は同じヘマはしねぇから、また機会があればやろうや」


 「ええ。いずれまた」


 そう言って握手を交わす俺達。

 お互いの顔に憂いなどなく、その顔からはこの試合への満足感が読み取れた。


 「んじゃま、退場しますかね。決勝戦、頑張れよ」


 「ええ。それでは」


 そうして俺は決勝に備えるべく、舞台を後にするのであった――――

 

内容とは全く関係ないのですが、たまに小説を書いていると、なんだか自分の性癖とか趣味を全世界に発信してるような気がしてしまって、やけに恥ずかしくなることがあったりします(笑)

リアルでの付き合いがある人に見られたりすると、余計に恥ずかしいですね(;^ω^)

まあでも、楽しいから書くのはやめられないのですが(笑)


書き終えている話がまだ二話分あるので、明日明後日は投稿する予定です。

ではでは~(^^)/

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