第六十八話 『大会四日目・準決勝開始』
※本日二話目の投稿となります。
「ただいま戻りました。レティア様はまだお部屋に?」
俺は、帰還を出迎えてくれた家令のエドワルドさんに質問をする。
「ええ、お嬢様はお部屋にて待機していただいております。ご本人は不本意だと仰っておりますが、狙われた直後に外出を許すわけにもいかず……」
まあ、そりゃそうだわな。
レティアの気持ちもわかるが、彼女は戦える系の人じゃないし、エドワルドさんの方が正しいだろう。
「フィルス様救出の成功を伝えに行かれるだけでしたら、よろしければ私の方からお伝えしましょうか? お二人とも……特にフィルス殿はお疲れでしょう」
ふむ……確かにフィルスは今まで捕まっていたんだしな……
「どうだ、フィルス。俺はどちらでもいいと思うが」
本当は顔を見た方が安心できるだろうし、ちょっとでいいからレティアに会いに行ってやりたいとは思うが、フィルスが疲れてて休みたいと言うなら、無理はさせたくない。
「いえ、できれば直接お会いしたいと思います。私が言うのもなんなのですが、こういう時は、直接会えた方が安心できると思いますから」
「だ、そうです」
「畏まりました。では、何かあればお声がけください」
「ええ、ありがとうございます。んじゃ、フィルス。俺たちはさっそく――――」
レティア様のお部屋に、と言おうと思っていたのだが、俺にはそれ以上の言葉を発することができなかった。
突然、体中を走る激痛と肉体がブレるような感覚に襲われたからだ。
あまりの痛みに、俺は思わず右膝を床について、うずくまってしまう。
「がっ……ア゛あァ……」
「レ、レイジ様!? どうなさったのですか!?」
フィルスが心配してくれるが、それに返事をする余裕すら、今の俺には無かった。
そして俺は、増し続ける激痛に耐え切れず、そのまま意識を手放した――――
目を覚ますと、そこには知らない天井――――などではなく、もはや見慣れた借りてる客室の天井があった。
窓から差し込む光は、今がすでに朝だという事を激しく主張している。
角度からして、おそらくまだ朝早くだろう。大会には十分間に合う時間だ。
ならばひとまず急ごうかと、身を起こそうとした俺は、ベッド脇にいる人の気配に気が付く。
そちらに視線を向けると、そこにはベッドの脇に頭を預けて眠るフィルスの姿があった。
心配して、ずっとついていてくれたのだろうか……申し訳ないという気持ちもあるが、それ以上に、なんというか……嬉しいものだな。
俺はフィルスを起こさぬように、そっとベッドから抜け出すと、素早く服を着て、食堂へと向かう。
十分間に合う時間だとは言ったが、置いてきた服と魔導具を回収することも考えると、あまり時間がない。
レティアやフィルスには申し訳ないが、軽く何か腹に入れたら、言伝だけたのんで、さっさと出るとしよう。
まあ、いつもなら飯なんていらんというところなのだが、今は異様に腹が減っているので何か食べたい。
異世界に来てから、一番腹が減っているのではないだろうかと思えるほど、まともな空腹感がある。
そうして食堂へと入った俺は、使用人の方に、とにかく腹が減っているが、時間が無いのですぐに用意できる食事をと頼む。
すると数分も経たぬうちに、籠一杯のパンを持ってきてくれた。
俺はそのパンを籠が空になるまで掻っ食らうと、レティアとフィルスに大会に向かうとだけ伝言を頼み、急いでアーゼルシア家へと向かうのであった。
「ふぅ……なんとか間に合ったみたいだな」
その後、無事服と魔導具を回収した俺は、急いで大会の会場へと向かったが、到着はかなりギリギリで、控え室へと着いた時には、すでに俺の名を呼ぶ係員が、扉の前にいるタイミングであった。
もう数分遅かったら、不戦敗になっていたかもしれない。
まあでも、慌ててその係員に声をかけた俺は、現在こうして舞台に立てているのだから結果オーライだ。
「ようレイジ。ようやく戦えるな」
そして俺の前には、ずっと俺との戦いを待ち望んでいたであろうグライツさん。
正直体調はイマイチ良くなってはおらず、むしろ最悪と言ってもいいくらいだが、ここで引くわけにはいかない。
ちなみに、先ほど自己能力診断を数日ぶりに使ってみたのだが、名前とレベル以外の項目全てが、文字化けして読めない状態になっていた。
レベルが26まで上がっていたのは嬉しかったが、それ以上に、思っていたよりずっと悪そうな自分の状態が気になって仕方がない。
あの女神はまだ大丈夫っぽいことを言ってたが、あまり時間は残されていないのかもしれない。
急いでレベルを上げた方がよさそうだ。
まあだがそれも、この大会が終わってからになるだろうが……
「どうしたレイジ。お前、調子悪いのか? 顔色も良くない気がするし……」
「いや……大丈夫だ。確かに万全とは言えないかもしれないが、それも含めて実力だからな。それに、すぐにどうこうできる類のものでもない。そういう意味では、これが俺の今の実力で間違いはないさ」
前回話した時は、つい元の敬語を使ってしまったが、もっと砕けた話し方をしてくれと言われたことを思い出した俺は、敬語を抜いて普通に話す。
これはまあなんというか、せめてもの償いというか、期待に応えてやれなかった相手に対して、他の面ではせめて嫌な思いはさせないようにしようという配慮のようなものだ。
俺としては、完全に信用していない相手に対しては、敬語の方が話しやすいのだが。
まあ、彼は信用しても大丈夫そうだとは思うが。
「そうか。ま、いいさ。ただし、俺が勝ったら、万全の時にまた試合してくれよな」
「ふっ……安心しろ。不調でも、勝つのは俺だ」
「うははははっ! そうでなくちゃな!」
「え~っと、もうそろそろ始めてもよろしいでしょうか」
俺とグライツさんが盛り上がっていると、横から司会の女の子が声をかけてくる。
そういや完全に忘れてたけど、まだ選手紹介があるんだった。
このまま試合を始める気満々だったぜ。危ない危ない……
「では、コホン……さあ、ついにレムサム武闘大会も最終日! 泣いても笑っても、残るは後三試合のみとなってしまいましたが、なんといっても準決勝と決勝ですからね。頂点にふさわしい最高に熱いバトルを見せてくれることでしょう! では早速、選手の紹介に移りたいと思います! まずは、言わずも知れた期待のルーキー! 今大会一番のダークホース! ギルド『クリスタリア』のレイジ選手!! 彼の繰り出す魔法は、どれも強力で、見たことのないものばかり!! 噂では、スレブメリナ王国の偉い方も注目してるとかなんとか!! 今日はどんな魔法を見せてくれるのか、実に楽しみです!!」
え、なにそれ知らない。絶対面倒な奴じゃん。
大会が終わって、フィルスの誘拐事件も解決したら、さっさととんずらしよっと。
「そしてそれに相対するは――――昨年の大会では、決勝戦まで上り詰めた実力者! ギルド『クアルソドラッヘン』のグライツ選手だーー!! 昨年は一刻にもおよぶ激戦の末に敗れてしまいましたが、今年はどんな試合を見せてくれるのか!! 今までの試合ではあっさり勝利してしまっていることもあり、期待に胸が膨らみます!」
げっ! 強そうとは思ってたけど、そんなレベルなのかよ。
Aランク上がったばっかとか言ってたくせに、あんたも十分ランク詐欺だろ。
「それでは両選手とも、開始位置への移動をお願いします」
はてさて、どうなることやら。
今は魔素の細かいコントロールもできなそうだから、マジで手持ちの魔法と武器で戦うしかないのだが……詠唱をそう簡単にさせてくれるとも思えないんだよなぁ……
「それでは、試合――――開始!!」




