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第六十五話 『後先なんて気にしたら負けだと思った』

 アーゼルシア家の屋敷付近まで来た俺は、すぐさま魔素化をし、できるだけ屋敷の広範囲へと広がってから気配察知を使用する。

 今は体が不安定で、以前に比べ、核から距離のある構成魔素の精密な操作はできないが、気配を探るくらいなら訳はない。


 そうして何度か位置を変え、なるべく地下中心でフィルスの気配を探っていると――――いた!!

 これは確かにフィルスの気配だ。良かった……まだ生きてる。

 周囲に人の気配は無し。少し離れたところに二人いるが、おそらくこれは出入り口の見張りだろう。


 居場所わかれば、後は助けるだけだ。

 本当なら、応援を待ってから潜入したほうが良いのだろうが、その間に万が一にでもフィルスが酷い目に遭ったりしたら悔やんでも悔やみきれない。

 ならば行くしかないだろう!!

 なあに、スニーキングミッションならお手の物だ。パパッと忍び込んで、さらっと助けて、できたらついでに悪事の証拠とやらも持ち帰ってやろう。





 さて、時刻は既に夕方。もう少し待てば日も沈んでやりやすくなるだろうが、今は一秒でも早くフィルスを助け出してあげたい。

 俺ははやる気持ちを抑え、屋敷の周囲や内部の構造などを念入りに探り、ルートを決める。

 流石に、何の計画も無しに突っ込んで達成できるほど、甘いミッションではない。

 仮にも悪事を働いている伯爵家。警備の数も尋常ではない。


 「警備の者たちには悪いが、俺は聖人君子ではないのでな。フィルスの為なら、己の仕える主の罪を知らぬ君たちをこの手にかけること、躊躇うつもりは毛頭無い」


 とはいえ、戦闘は最小限に留めたいところ。

 一応、警備と遭遇する可能性が最も低いルートを考えようか。

 まず、フィルスのいる牢の見張りの二人だが……彼らには死んでもらおう。

 まさかそのポジションで、事情を知らぬという事も無いだろうしな。

 牢の近くまでは、地下に続く換気口のようなものがあるようなので、そこを通っていけばいいか。

 普通なら子供でも通れないサイズだが、俺の核はそれより小さいからな。余裕で通れる。

 換気口は外へと続いているので、そこまでならどうとでもなるしな。

 問題は行きよりも帰りか……フィルスを連れて、どう逃げる?

 ……う~ん。敵と遭遇せずに脱出できる手段が思いつかん。

 まあ、最悪変身するところさえ見られなければ、龍騎士の姿で地上まで強行突破して、龍の姿で飛び去ればいいかな。

 龍化は今の俺には少々辛いが、逃げるだけなら何とかなるだろう。

 助けた後のことなど知らん! 今は助けられればそれでいい。


 んじゃ、行くとしますかね。待ってろよ、フィルス! 今助けてやるからな!!



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 「んっんん…………ここは……」


 目を覚ますと、目に映るのは真っ黒な闇。

 とりあえず動こうとしてみるが、手足を拘束されているようで、動くことができない。


 そうだ……私、襲撃犯に負けたんだ。

 ということは、ここは敵のアジトか何かなのだろうか。

 ……どうなっちゃうのかな、私。

 殺すつもりなら、こうして捕えたりしないだろうし……人質? でも私にそんな価値は……敵も亜人だとわかっているはずだし。

 だとしたら、慰み者かな……初めては、好きな人が良かったな……


 時間も場所もわからず、ただ暗闇から来る不安と恐怖だけが、私の心に渦巻く。

 そこでふと、レイジ様の顔が頭に浮かんだ。


 レイジ様、か……レイジ様と一緒に居られたこの一月と少しは、とても幸せだった。

 レイジ様は、半吸血鬼である私にも凄く優しくしてくれて……街で一緒にお買い物したり、一緒に仕事をこなしたり……こんなに幸せで良いのかと、何度思ったことだろう。


 ……もう、十分かな。

 私は本当は、あのエリシュの森で死ぬはずだった。

 それをレイジ様が救ってくださったおかげで、今日まで生き延びることができた。

 そして最後には、亜人の私相手でも、気にせず仲良くして下さる、侯爵家の御令嬢まで助けちゃって……

 そういえば、レティア様はちゃんと逃げ切れたのかな? 無事だといいなぁ……

 これ以上はわがままだよね。

 もう、十分幸せは貰ったから……もう、いいんだ。


 そうして全てを受け入れ、死を覚悟しようとしたその時、レイジ様の『もっと、我儘を言っていいんだぞ』という言葉が、私の頭をよぎる。

 その瞬間、私の中にある諦めが、期待に塗りつぶされていくのを感じた。


 なんで……なんで今それを思い出しちゃったんだろう……希望を、捨てきれなくなっちゃうじゃない。諦められなくなっちゃうじゃない!

 生きたいよ……本当は私だって、もっと生きていたい!!

 レイジ様の隣で、もっと……笑って、泣いて……ずっと……ずっと一緒にいたい!! レイジ様の力になりたい!!

 もう一度だけでもいい……抱きしめて、頭を撫でて欲しい……


 「レイジ様……ぐすっ……たすけて……」



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 さて、体のサイズを調節して、全長30センチメートルくらいの魔晶龍騎士になった俺は現在、クソ野郎の屋敷の庭を爆走中だ。

 流石にここまで小さくなると、飛ぶのは難しいようだが、その分見つかりにくい。

 さらには気配を消し、スニーキング慣れした俺が侵入するのだ。

 最早誰にも見つかりはしないさ! はははははは!!


 なんて調子に乗ったことを心の中で言いながらも、敵の動きを観察し、冷静に見つからないルートを選んで進んで行く。

 ――――正直、精神がキツイ。正気を維持するために、ふざけたことを言って誤魔化しているが、どこまでもつか……

 不安定な状態で龍系の姿になるのがここまで負担になるとはな……急がなければ。


 そうしてはやる気持ちを抑え進んでいくと、換気口が見えてくる。

 俺の視界に映るのは、口の部分が四角い網目状になっている穴。

 穴のサイズは、せいぜい5センチ程度だろうか。

 普通なら虫くらいしか入れないような小さな穴だが、これだけあれば問題ない。


 俺は魔核を体から抜き出し、穴に放り込むと、身体全体を魔素化させる。

 その瞬間、先ほどまで俺の精神を蝕んでいたナニかが消え、開放感に包まれる。


 ああ……ようやくか。辛かった……

 さて、もうひと頑張りだ。ミスは許されない。気合を入れていくとしよう。


 内部で何度か引っかかり、その都度魔素の一部を固定化しては、核を押し上げる。

 そうしてしばらく穴を下って行くと、急に浮遊感に包まれる。

 まあ、魔素の状態では常時地面から数センチ浮遊した状態なので、落ちて物音を立てるようなことにはならいが。

 無事、地下の通路に到着した俺は、早速ヒトの姿に戻る。

 ちなみに、服は持ってこれなかったので自作(魔素製)だ。

 魔導具も、持ってこれたのは騒滅と葬天、それから天乱走歩の三つだけ。

 今思えば、この世界に来て、服が無くて困っていた時も、こうすればよかった。

 まあ今更だし、あれのおかげでレティアに出会えたのだから、むしろ良かったのかもしれないが。


 さてっと……確かここから左に行くんだったか。


 俺は先ほど調べた部屋の配置や人のいる場所を思い出しながら、慎重にフィルスの元まで向かう。

 途中三人ほど出くわしたが、ここは安全だと思い込んでいるのか、完全に油断しており、さくっと眠ってもらった。

 まあ、眠ったと言っても、彼らがその眠りから覚めることはもうないのだが。

 無論、死体は隠している。

 とはいえ、人が減っているのだ。敵が異変に気付くのもそう遅くは無いだろう。急がなくては……



 「ジョージとブルータ遅いな……交代の時間はとっくに過ぎてるぞ?」


 「大でもひねり出してるんじゃねぇか? ギャハハハ!」


 「二人そろってそれは無いだろ。まあ、マジでそうだったら傑作だけどな! ぶふっ!」


 今いる通路を曲がった先から、下品な話し声が聞こえてくる。

 おそらく、牢の見張りをしている二人の声だろう。

 そしてこいつらの待っているジョージとブルータとやらがここに来ることは無い。

 さっき俺がったうちの二人が、ここに向かうような話をしていたからな。

 おそらくあれがそうだったのだろう。


 「あ~てか暇過ぎるだろ、この仕事。こんなとこで見張ってたって誰も来ねぇって。それより、捕らえた獣人の女。あれはかなりの上玉だったし、味見させてくれねぇかなぁ」


 「ダメだって言われただろうが。あれでも一応人質なんだから。交渉が終わったら好きにしていいって言ってたし、それまで我慢しとけ。ボスに殺されるぞ?」


 「わかってるよ、んなことは。言ってみただけじゃねえか」


 「ああでも、挿れなきゃ別に良いんじゃねえか? 胸とか口とかなら。それなら価値も下がらねぇし」


 「それだ! お前天才かよ! ちょっと奥行ってくるから、ここ頼むわ」


 「は? おいおい流石に交代来るまでくらい待っとけよ。てかおめぇだけズルいだろ」


 「いいじゃねえかよ! 俺はここんとこ仕事続きで全然ヌけてねぇんだからよ。それに――――」



 ……はい、死刑確定。

 奥にいるゴミ共のクズみたいな会話に、はらわたが煮えくり返り、一瞬心が古龍に呑まれそうになるが、俺はそれを必死に抑えながら、出て行くタイミングを計る。

 そうして一分ほど待っていると、どうやら一緒に中へと行くことになったらしく、クズ二人が扉の方を向いた。

 俺はその隙を突き、一気に角から飛び出る。

 音に気付いて振り返っってくるがもう遅い。

 俺は彼らの喉元に、手に持ったナイフを投げつけた。

 すると俺の投げたナイフは、吸い込まれるように彼らの首に突き刺さり、骨を砕き、後ろの木製の扉に突き刺さる。

 ナイフが通った後の彼らの首は千切れかかっており、なかなかにグロテスクな感じになってしまった。


 ……怒りのせいで、ちょっと力が入り過ぎてしまったようだ。思わず肉体を変化させ、筋力を強化させてしまうくらいには。

 まあ、とにかくこれで邪魔者は消えたし、いいだろう。


 俺は見張りの手に握られたままの鍵束を拾い上げ、突き刺さったままのナイフを引き抜くと、扉の奥へと入って行くのだった―――― 

先日、またもやご指摘をいただきまして、急いで修正をいたしました。

恥ずかしー(>_<)

そして、致命的なミスをしてるのはだいたい、後から考えて付け足したところばかり。

きちんと考えてから書くって大事ですねぇ……

でもきっと、今後も思い付きで色々書いちゃう(;^ω^)

今後、またやらかしたりしてしまうかもしれませんが、その時は優しく、間違ってるぞコラと言っていただければ幸いです。

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